2018年版開発協力白書 日本の国際協力

国際協力の現場から 05

日本式の運動会(UNDOKAI)開催で学校教育にプラスの変化を!
~アフリカ、マラウイでの青年海外協力隊員の取組~

2018年5月、マラウイの首都リロングウェの北部にあるカスング県の小学校で、日本式の運動会(UNDOKAI)が開催されました。これは、青年海外協力隊の隊員として、2017年に当地に赴任した栗田優(くりたゆう)隊員をはじめとする3人の隊員が企画し、実現させたものです。

マラウイでは、SPORT FOR TOMORROW※1の取組の下で、2015年に初の日本式UNDOKAIが開催され、国内で徐々に広がっていました。それ以前、マラウイでは、子どもたちはサッカーなどのスポーツを楽しんでいましたが、授業科目の中に体育が存在しませんでした。そのような中、なぜ日本式UNDOKAIを同小学校で実施するに至ったのか。栗田隊員はそのきっかけを次のように語ってくれました。

「私は算数の教員として赴任しましたが、一クラスが70~80名程度と規模が大きいこともあって、クラスにまとまりがなく、授業中も騒がしいなど、勉強に集中できていない子どもが多くいました。また、マラウイの学校では課外活動もなく、生徒は毎日授業を受けて帰宅するだけであり、日本でいえば、学習塾に通っているような状態です。そこで、子どもたちに、クラスメイト全員で何かに熱中して取り組めるような経験をさせてあげたいと思い、近い場所に赴任していた青年海外協力隊の仲間と相談し、UNDOKAIの実施を企画しました。」

日本では当たり前のように行われている運動会ですが、マラウイでの開催には様々な課題がありました。最初の課題は、運動会という未知のものを現地の先生に理解してもらい、協力を得ることでした。栗田隊員は、日本の運動会の様子や、子どもたちの熱中する姿を動画で見せながら協力を仰いだと言います。その結果、少しずつ現地の先生の協力を得るようになり、UNDOKAI開催に向けて子どもたちとの練習がスタートしました。

「練習を始めた当初は、整列することやルールを守ることなど、体育の基本から教える必要がありました。同時に、体育を教えた経験のない現地の先生にも学んでもらう必要がありました。しかし、練習を重ねるうち、子どもたち同士で協力する姿勢が生まれ、どうしたら上達できるのか、そうした話し合いまで持たれるようになりました」と栗田隊員は語ります。

UNDOKAIは、学校が休みとなる土曜日に行われました。3校から選抜された、各校50名ずつの子どもたちが、それぞれチームに分かれて競技を行いました。種目は「つなひき」「リレー」「相撲」「騎馬戦」など、ルールが分かりやすく、競技しやすいものを採用しました。当日の子どもたちの競技に対する集中力は大変なもので、同じチームのメンバーや、応援にかけつけた家族からの大声援のもと、勝って大喜び、負けて悔しがる光景が繰り広げられました。

歯を食いしばりながら綱を引く生徒たち(写真:安冨藍さん)

歯を食いしばりながら綱を引く生徒たち(写真:安冨藍さん)

真剣なまなざしで相撲にのぞむマラウイの子どもたち(写真:安冨藍さん)

真剣なまなざしで相撲にのぞむマラウイの子どもたち(写真:安冨藍さん)

栗田隊員は、「あんなにみんなで真剣に団結して物事に取り組む子どもたちを見たのは初めてだったので、それが何よりも嬉しかったです。この活動を通して、普段の授業にも大きな変化が起こりました。まず、子どもたちの中に、ルールを守ろうという意識が芽生え、クラスにまとまりができ、授業に対する集中力も高まりました。毎日の生活の中で、遊ぶ時間は遊ぶ、勉強する時間はしっかり勉強するというメリハリがついて、授業に取り組む姿勢が明らかに変わったのを実感しました」と話します。UNDOKAIが終わったあとには、「先生、次のUNDOKAIはいつ!?」と聞いてくる子どもたちがたくさんいたそうです。

栗田隊員は引き続き同校でUNDOKAIの開催を続けてもらうため、現地の先生向けにUNDOKAI実施のためのマニュアルを英語で作成しています。2019年のUNDOKAIの開催は、現地の教員主導で行ってもらう予定です。種目についても、日本の競技だけでなくマラウイ伝統の遊びも取り入れて、UNDOKAIをより現地に根付いた行事にしてもらおうと考えています。

「マラウイに赴任した当初は、文化の違いもあり、戸惑うことも多い毎日でしたが、子どもたちへの教育を通して、僕も彼らから、本当に多くのことを学ばせてもらいました。UNDOKAIの成功や、ひいては子どもたちの学習意欲を高められたことは、教師としても大きな自信になりました。日本に帰ってからも、この素晴らしい経験を活かして、教師の仕事に取り組んでいきたいと思っています」と栗田隊員は語ってくれました。


注1 東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開催される2020年までに、官民連携のもと、開発途上国を中心とした100カ国・1000万人以上を対象に推進されるスポーツ国際貢献事業のこと。

このページのトップへ戻る
開発協力白書・ODA白書等報告書へ戻る