開発協力トピックス 01
顔の見える開発協力

離島を訪問し、患者の様子を見る青年海外協力隊の滝沢光太郎さん(写真:滝沢光太郎)
日本は、開発途上国の国民に、日本による開発協力であることを認識してもらうための「顔の見える開発協力」を推進しています。その一環として、開発途上国に対して日本から技術や知識を有する人材を派遣し、現地の国民との草の根レベルでの交流を通じて、同国の社会経済開発に貢献する事業を実施しており、それらは、両国民間の相互理解の促進や友好関係の構築にも寄与しています。
その代表的なものとして、JICAボランティア事業があります。JICAボランティアは現地の人々と生活や労働を共にしつつ、開発途上国の経済社会開発に携わる国民参加型事業です。同事業は、現地の人たちの日本への親しみを深め、日本と開発途上国の間で友好協力関係を強化するのに重要な役割を果たしており、その活動内容から、隊員は“草の根外交官”とも呼ばれ、まさに「日本外交の宝」ともいうべき存在です。青年海外協力隊は、2016年にアジアのノーベル賞ともいわれるフィリピンの「ラモン・マグサイサイ賞」を受賞するなど、海外でも高く評価されています。

先天性内反足患者の手術後のギプス固定をする青年海外協力隊の滝沢光太郎さん(写真:滝沢光太郎)
一つの例として、青年海外協力隊としてパプアニューギニアに理学療法士の職種で配属された、滝沢光太郎さん(新潟県出身)の活動を紹介します。オセアニアに位置するパプアニューギニアは、南太平洋最後の楽園といわれるような美しい海や山々、600以上の島々を有しており、そこには約1,000の部族により800以上の異なる言語が存在している国です。滝沢さんは、首都のポートモレスビーから約1,000キロ離れた島にある、ブーゲンビル自治州のブカ総合病院に配属され、主な活動として、患者へのリハビリテーションサービスの提供や同僚への技術指導を行いました。リハビリテーションサービスを実施するに当たり、住民の暮らしの中にある海辺に着目し、通常の病院内での訓練に加えて、海水の浮力を利用した歩行訓練に新たに挑戦しました。また、同僚の業務改善への主体的な姿勢を促すため、直接指導を行うのではなく、滝沢さん自身が積極的に日々業務に打ち込む姿を見せることで、同僚を触発する努力を行いました。すぐには大きな変化は現れなかったものの、忍耐強く活動を続けた結果、徐々に同僚から治療へのアドバイスを求める声や、新たな提案を受けることが増え、滝沢さん自身も活動への不安や迷いを払拭することができました。滝沢さんは、活動中のある日、同僚の1人から「あなたがいることで私が何をすべきなのかがわかる」といわれたことが、自分の財産であると語ります。また、「私の活動のすべては、患者や同僚との一対一の人間関係そのものであり、明確に成果と呼べるものは少ないですが、任地の人々の記憶に残るようなかかわり方ができたのではないかと思っています」とも語っていました。
このように、異なる文化・習慣の中で、任地の人々の暮らしに入り込み、様々な苦労を乗り越えながら支援を進めることは、青年海外協力隊ならではの活動といえます。多くの場合、青年海外協力隊の任地の人々にとって、日本人と直接接する機会はとても貴重なものです。そして、任地の人々との強い結びつきを持つことができる活動だからこそ、「顔の見える開発協力」として特別な技術や知識を教えるだけではなく、日本人が有する勤勉さや礼儀正しさといった特徴や価値も伝えることができます。
これまでに約5万人に及ぶJICAボランティアが行ってきた活動は、開発途上国における社会や経済、そしてそこに暮らす人々の生活に根付き、様々な形で発展に貢献しています。JICAボランティアによる支援は、各国要人との会談の場でも直接、感謝の意とともに継続を要請されるなど、相手国側からも高く評価されています。また、各隊員がJICAボランティア事業で得た個々の経験は、その後の日本や海外での社会活動の場でも活用されています。近年のグローバル化の進展に伴い、JICAボランティアの活躍は、国内の民間企業、地方自治体、地域社会などからも多くの期待が寄せられています。