2016年版開発協力白書 日本の国際協力

巻頭言

昨年は、日本の外交にとり、大変重要で責任の重い一年であり、日本の開発協力の観点からも重要な一年でありました。

日本はG7議長国として、深刻化するグローバルな課題に真摯に向き合い、先頭に立って国際社会の平和と安定及び繁栄に一層貢献する姿勢を強く打ち出しました。特に、シリア情勢等に端を発する難民・移民の問題に、日本もしっかりと貢献すべく、人道支援と復興に向けた開発協力との連携を進めました。また、昨年8月には初のアフリカ開催となる第6回アフリカ開発会議(TICAD Ⅵ)がケニアで開かれました。冷戦終結後にアフリカへの関心が低下する中、日本が先頭に立ってアフリカ重視の姿勢を示したこの取組は、1993年の初会合から6回目を迎えましたが、今なお日本に対するアフリカの期待が強いことを改めて認識しました。そして、2015年に国連で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の実施元年でした。日本は、全閣僚がメンバーであるSDGs推進本部を立ち上げ、率先してこの目標達成に取り組んでいます。

日本は、国際社会にとって重要な課題に真摯に取り組んでこそ、世界の中で存在感を示すことができ、日本への信頼も強くなる。かねてより感じていた思いを、改めて確認する年となりました。ODAは、こうした国際的な貢献を実現していくための重要な外交手段です。

また、世界の平和と安定や途上国の経済成長は、日本にも直接影響します。国際協調主義に基づく積極的平和主義の立場から、ODAによって国際社会の課題の解決に貢献していくことは、日本の国益を守ることにもほかなりません。こうした考えの下、2015年に、新たな国際環境の変化に対応した開発協力方針である「開発協力大綱」が閣議決定されました。途上国から日本に対する信頼の基盤は、相手国との対等なパートナーとしての関係の下で、社会的弱者を含む一人ひとりに光を当て、相手のニーズにきめ細やかに対応してきた過去60年にわたる協力の積み重ねであり、新たな大綱の下でも、こうしたODAの基本的な考えは変わりません。同時に、日本の知見や技術を用いた「質の高いインフラ」整備などを通じて、途上国の「質の高い成長」とともに、日本経済の成長にもつなげていく。こうした双方が発展できる協力を進めていくことも重要です。民間や地方自治体、NGOといった多様な主体との連携も、これから一層必要となっていくでしょう。

そして、国際協力に従事する方々の安全を抜本的に見直した年でもありました。昨年7月にバングラデシュで発生した悲劇的な事件を受けて、私の下に「国際協力事業安全対策会議」を設置し、国際協力事業関係者の新たな安全対策を策定しました。関係者の安全なくして、ODAを進めていくことはできません。安全な環境から誰一人取り残されることのないよう、安全対策を着実に進めてまいります。

今回の白書では、こうした一年を振り返り、G7議長国としての日本の貢献や、開発協力大綱の下での歩みについて御紹介しています。ODAは、日本が国際社会において責任を果たすとともに、日本の国益を増進する上で重要な手段であり、これを進化させていかなければなりません。一方で、日本国内では様々な課題が山積している上、日本の財政状況も厳しい現実がある中、ODAに大変厳しい声もあります。外務省には、国民の皆様に対し、ODAの取組や意義を丁寧に説明し、皆様の御理解・御支援を頂きながら、ODAを一層戦略的・効果的に活用していく責任があります。こうした努力を不断に続け、国民の皆様と共にある外交を目指してまいります。本書がその一助となることを心から祈念いたします。

2017年3月

外務大臣 岸田文雄

このページのトップへ戻る
開発協力白書・ODA白書等報告書へ戻る