2016年版開発協力白書 日本の国際協力

国際協力の現場から 12

点字プリンターが教育現場を変える
~セルビアで視覚障害者の就学・就職をサポート~

セルビア盲人協会の視覚障害者と日本テレソフトの金子秀明さん(写真:藤本修三)

セルビア盲人協会の視覚障害者と日本テレソフトの金子秀明さん(写真:藤本修三)

東欧の旧ユーゴスラビア諸国の一つで、北海道と同じくらいの国土に埼玉県と同じくらいの人口、約716万人が暮らすセルビア共和国(以下、「セルビア」)は、海に面していない内陸国です。

セルビアには国内の視覚障害者の権利保護を目的とし、無償で点字図書館の運営、点字本や点字雑誌の発行、視覚障害の学生の教科書無料印刷、点字研修、視覚障害者の就労サポートなどを行うセルビア盲人協会があり、同協会に登録している会員約1万2,000人に対して支援を展開してきました。

同協会は1999年から点字プリンターを用いた支援を行ってきましたが、点字プリンターが20年以上も前のものと古く、故障で使えないものが多くなっていました。また、使えるものでも印刷スピードが遅く、頻繁に紙詰まりを起こすことが悩みの種となっていました。加えて、点字プリンターが設置されているのは本部だけのため、地方に暮らす視覚障害者は点字印刷物を必要なときにすぐに使うことができないという問題もありました。

こうした状況にあるセルビアの視覚障害者の社会生活向上のため、日本は草の根・人間の安全保障無償資金協力※1を活用して、セルビア盲人協会に高品質の点字プリンターおよび点字ディスプレイを購入するための資金を供与する支援を決定しました。

点字プリンターの操作を説明する日本テレソフトの社員とそれを確認するセルビア盲人協会のメンバー(写真:藤本修三)

点字プリンターの操作を説明する日本テレソフトの社員とそれを確認するセルビア盲人協会のメンバー(写真:藤本修三)

同協会はこの資金を活用し、点字プリンター(5台)、点字ディスプレイ(19台)等を導入しました。点字ディスプレイとは、パソコンやUSBメモリーのデータを点字で表示することができる電子機器です。印刷前にその内容を確認できる機能のほか、点字文書を点字データとして入力することもできます。これまでは、視覚障害者が情報を得ようとしたらすべて点字プリンターで印刷しなければならなかったのですが、点字ディスプレイを使えば迅速に情報を得ることができるほか、貴重な点字印刷用紙の節約にもつながります。

なお、この点字プリンター等を製造した日本テレソフト代表取締役社長の金子秀明(かねこひであき)さんは、「弊社の製品は点字と墨字が同時に印刷でき、点字を読めない人も書かれている内容が分かります。盲学校でもすべての先生が点字を理解できるわけではありません。印刷音がとても静かなことも含め、当社の点字プリンターは、特に教育現場で大きな力を発揮します。セルビアでは視覚障害者の教科書が圧倒的に不足していることもあり、高等教育への進学率は低く、就職も厳しいのが現状ですが、点字プリンターの導入が進めば、こうした教育環境を改善していけるはず」と話しています。

また、セルビア盲人協会が今回整備した点字プリンターですが、納品前の2016年4月には、製品を生産していた熊本工場が熊本地震で被災してしまうという事態に見舞われました。工場の復旧を待っていては納品予定日に間に合わないため、製品の組立を優先させ、完成後は、福岡の社員が自家用車で熊本から福岡へ製品を運び、なんとか間に合うようにセルビアに出荷されました。

「震災を乗り越え、セルビアに納品した製品は、弊社にとっても感慨深いものとなりました。セルビアでは熊本地震へのお見舞いの言葉をいただき、逆に感謝した次第です」と金子さんは振り返ります。

今回導入された5台の点字プリンターは、本部を含む5か所の盲人協会に配備されました。2016年5月16日にベオグラードで行われた引渡し式には日本テレソフトの技術者も同行し、盲人協会の職員に使い方を指導しています。

「セルビアの視覚障害者は、社会参加や就学への意欲が高いという印象を持っています。今回、導入される5か所以外にも、点字プリンターを必要としているところはまだたくさんあります。今後は盲人協会と連携しながら、さらなる普及につなげていきたい」と金子さんはいいます。

点字プリンターおよび点字ディスプレイという、なかなか目にする機会のない製品ですが、セルビアの視覚障害者の就学や就職の機会創出に貢献することで、セルビアにおける視覚障害者の社会生活向上に寄与しています。


※1 人間の安全保障の理念を踏まえ、開発途上国における経済社会開発を目的とし、草の根レベルの住民に直接貢献する、比較的小規模な事業のために必要な資金を供与する無償資金協力。

このページのトップへ戻る
開発協力白書・ODA白書等報告書へ戻る