2024年度外務省ODA評価結果
新型コロナウイルス感染症対策支援の評価
| 評価者 (評価チーム) |
評価主任:西野 桂子 関西学院大学国連・外交統轄センター教授 アドバイザー:山本 太郎 長崎大学名誉教授 浅間総合病院医師 コンサルタント:一般財団法人国際開発機構 |
| 評価対象期間 | 2019年度~2023年度 |
| 評価実施期間 | 2024年6月~2025年2月 |
| 現地調査国 | 全世界の協力実績のある国。ケース・スタディ国はベトナム及びマラウイ。 |
評価の背景・対象・目的
新型コロナウイルス感染症への対応では、「誰の健康も取り残さない」を理念に、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)達成を目指し、二国間協力や国際機関を通じた支援が行われた。2022年5月にはそれまでの協力の実績を踏まえたグローバルヘルス戦略が策定され、グローバルヘルス・アーキテクチャーの構築、公衆衛生危機に対する予防、備え、対応(PPR)の強化が重視されることとなった。本評価は、2019~2023年度の日本のODAによる新型コロナ対策への協力について包括的な評価を行い、感染症対策を含むグローバルヘルスへの協力に関する提言・教訓を得ることを目的として実施した。また、評価結果を公表し、国民への説明責任を果たすことも目的とした。
評価結果のまとめ
● 開発の視点からの評価
(1) 政策の妥当性
緊急支援としてニーズに応えるため、可能な限りの事業実施が政策策定に先行した形となったが、日本の新型コロナ対策事業は開発協力大綱という日本の上位政策と整合し、開発途上国の政策・ニーズとの整合性に問題はなく、国際的な優先課題とも一致していた。多様なモダリティの組み合わせと長年にわたる協力の成果や、日本製の医療機材が高い評価を得るなど日本の比較優位もいかされていた。以上より、政策の妥当性は高い。
(評価結果:高い)
(2) 結果の有効性
ワクチン供与、コールド・チェーン整備、検査・防疫体制強化、医療機材供与、緊急支援借款、国際機関への拠出金など多岐にわたり、全世界的な規模で展開された協力は、新型コロナのパンデミック下で開発途上国が直面する多面的な困難に対応しており、結果の有効性は高いと評価できる。マラウイでは、日本の協力事業により実施された医療・検査機材供与、予防接種情報管理システムの強化が新型コロナに続く他の感染症対応にも活用され、同国のパンデミック対応能力の強化に貢献したといえる。ベトナムでは長年にわたる協力により、強靭かつ包摂的な保健システムの土台が築かれており、新型コロナ対策支援の効果を高めることができた。このパンデミックを機として同国の感染症への対応能力は大きく進展を遂げ、今後の公衆衛生危機に対するPPRの強化につながった。以上より、結果の有効性は高い。
(評価結果:高い)
(3) プロセスの適切性
地域・国ごとに適切な予算を配分し、特にアジア地域では経済・外交上の重要性や協力実績を踏まえ、手厚い支援が行われ、感染者数が多かったアジアにおいて感染抑制に貢献できた。今後のパンデミックでは、二国間の投入量を決めるにあたり、経済・外交関係や協力実績だけでなく、ニーズの大きさや緊急性なども判断材料としてより重視することが重要である。協力実施では、現地政府や他ドナーと密な情報交換を行い、現場の課題に柔軟に対応できた点が評価される。一方、無償事業の機材供与では調達の遅れが課題になったが、非常時下のロジスティクスの乱れ、相手国政府の事務能力の不足や、国ごとに異なる規制対応などが原因であり、やむを得ない面もあった。「ラスト・ワン・マイル支援」では、国際機関との緊急無償資金協力が多く行われ、迅速な対応が実現したが、計画変更の際の手続の簡易化や案件の広報面での課題が指摘された。ベトナムでは事業間の補完的な連携が効果的に行われた一方で、現地の要員が不足し迅速性を優先したため連携が限定的な国もあった。今後、パンデミック下での支援のあり方を検討する上では、成功事例に学びつつ、日本側関係者間の情報共有や国際機関との手続改善を進める必要がある。以上より、プロセスの適切性は、一部課題がある。
(評価結果:一部課題がある)
(注)レーティング: 極めて高い/高い/一部課題がある/低い
● 外交の視点からの評価
(1) 外交的な重要性
日本は低中所得国全体に幅広く支援を行い、国際協調や二国間関係の維持に寄与した。多国間協力では衡平性を重視し、二国間協力では戦略性をいかしてアジアを中心に支援を実施した。特にアジア各国へのワクチン供与や、ベトナムのような日本企業進出国への支援は、経済活動の回復や日本国民の安全保障に貢献した。多国間の衡平性と二国間の戦略性を組み合わせた新型コロナ対策支援は、外交的にも評価できるものであった。
(2) 外交的な波及効果
新型コロナ対策支援では、日本がUHC実現に向けた取り組みやCOVAXにおいて主導的な役割を果たし、その国際的プレゼンスや信頼感の向上に寄与した。またベトナムでのワクチン供与が二国間の友好関係を深める象徴的事例となったように、世界各国で二国間関係の強化に寄与したと考えられる。感染症対策への協力を通じた日本国民の安全確保や経済復興の促進など多面的な外交効果がもたらされた。
評価結果に基づく提言
1. 保健医療分野における支援の方向性に関する提言
(1) 緊急時にも対応できる開発途上国側の保健医療人材の育成を優先課題とする。
(2) 非常時に備える平時の情報収集体制を整える。
(3) 保健医療分野における戦略的なパートナーシップを構築する。
(4) 地域機関(アフリカCDCやASEAN感染症対策センター)との協力を推進し、能力強化を図る。
2. パンデミック時の協力の具体的な方針に関する提言
(1) 量よりもタイミングに重きを置き、機を逸しない協力が可能となるよう制度改善する。
(2) 現地職員のさらなる活用を推進する。
(3) 国際機関との連携では非常時に柔軟な対応が取れるよう手続を簡略化する。
(4) 国際機関との連携では活動と成果をモニタリングし、日本の支援であることが明確となるよう広報を行う。
現地調査で訪問した、ベトナム ベンチェ省疾病予防センター
(評価チーム撮影)
マラウイの中央医薬品倉庫に供与されたコールドルーム
(評価チーム撮影)

