ODA評価年次報告書2025 | 外務省

ODA評価年次報告書2025

2024年度外務省ODA評価結果

ネパール国別評価

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評価者
(評価チーム)
評価主任:西野 桂子 関西学院大学国連・外交統括センター教授
アドバイザー:田中 雅子 上智大学総合グローバル学部教授
コンサルタント:アイ・シー・ネット株式会社
評価対象期間 2019年度~2023年度
評価実施期間 2024年4月~2025年2月
現地調査国 ネパール

評価の背景・対象・目的

ネパールは、インドと中国の間に位置し地政学的に重要な国である。同国の民主主義の定着、安定と繁栄は、日本にとって政治的・経済的に重要な南西アジア地域全体の安全を確保する上で重要である。

本評価は、過去5年間(2019~2023年度)の日本のネパールに対する援助政策とそれに基づく支援を評価し、2026年度に改定予定の対ネパール国別開発協力方針の立案や実施に資する提言と教訓を得ることを目的に実施した。また評価結果を公表し、国民の理解を促し支持を得られるよう国民への説明責任を果たす。

評価結果のまとめ

● 開発の視点からの評価

(1) 政策の妥当性

日本の対ネパール援助政策は、日本の上位政策や国際的な優先課題との整合性は極めて高い。ネパールの開発政策ニーズとの整合性も高いが、連邦制移行後のガバナンス強化のニーズや課題への対応は今後検討が必要である。他ドナーの援助政策との関係は、特に2015年の大地震以降の復興・再建や新型コロナ感染症の拡大防止・影響緩和といった優先課題への対応で相互補完的な役割を果たしており、整合性は高い。日本の比較優位性を生かして各援助事業を実施していることを確認した。
(評価結果:高い)

(2) 結果の有効性

日本の対ネパール援助のインプットは、インドと中国を除いた主要ドナー国の18.16%を占めており、ネパールの社会・経済開発に貢献している。ミクロレベルで分析すると、対ネパール国別開発協力方針と事業展開計画に沿って、重点分野の各事業に適切に投入され、期待されたアウトプットをもたらしたことが明らかである。連邦制移行に伴う組織改編や解体、人事異動、新型コロナの影響により、複数の事業において進捗に遅れが見られたが、プロジェクトデザインの一部変更や協力期間の延長を通じて所期の目標、アウトカムを達成し完了することができた。インパクトの発現の客観的な検証は指標設定がなく難しいが、事業終了後の持続性については各主要事業で一定程度確認することができた。
(評価結果:高い)

(3) プロセスの適切性

日本の対ネパール国別開発協力方針の策定は適切に行われ、情報公開・広報の各種取り組みが確認できた。また、ネパールの特徴・特性を踏まえ、様々な事業できめ細かなジェンダー配慮や包摂性への配慮がなされた結果、女性や社会的弱者の参加促進や便益をもたらしており、プロセスは適切だった。しかし援助政策の実施プロセスやネパール側の援助実施体制の適切性には、複合的な要素が絡み一部課題があった。多様な主体との効果的な連携・連帯は様々な分野で行われ成果が発現したが、一部プロセスに改善の余地が見られた。
(評価結果:一部課題がある)

(注)レーティング: 極めて高い/高い/一部課題がある/低い

● 外交の視点からの評価

(1) 外交的な重要性

中国とインドに挟まれているネパールに対する日本の援助は、地政学的にも重要性が高い。選挙を経て民主化を実現したネパールの民主主義の確立と持続的な発展は、南西アジア地域の安定確保の観点からも重要である。また、日本の対ネパール援助は二国間の良好な関係を維持・発展させる観点から意義がある。さらに中・長期的には、ネパールとインド北東部、バングラデシュとの連結性が向上し、関連地域の産業育成に向けた支援、法・制度整備支援が行われれば、在ネパールの日系企業だけでなく日本の産業界にも利益をもたらすと期待できる。

(2) 外交的な波及効果

日本の対ネパール援助は、国際社会での日本の地位に対するネパール政府による支持に一定の効果をもたらしたと推察できる。また長年の支援は、ネパール政府から一般の国民まで広く親日感情の醸成をもたらし、両国の友好や交流、人の移動に影響を及ぼしている。さらに、日本の対ネパール援助は、同国社会の平和と安定及び繁栄に大きく貢献し、南西アジア地域のみならずアジアの平和と安定にも寄与している。一方、両国の経済関係への波及効果は限定的で、効果の発現までには一層の支援が必要である。

評価結果に基づく提言・教訓

<提言>

(1) ネパールの第16次計画と同国のニーズに沿った援助政策の策定と重点3分野への支援継続

(2) プログラム内のODAスキーム間や多様な主体(パートナー)との連携強化及びナレッジマネジメントの強化

(3) 戦略的な人材育成・能力強化と知日派・親日派及び実施機関の積極的な参加促進

<教訓>

(1) 日本の比較優位性が高い分野での無償資金協力(ハード面)と技術協力(ソフト面)との連携は、相乗効果を創出する

(2) アドバイザー型個別専門家の実施機関への派遣は有効である

(3) ODAを活用した包括的な災害復旧・復興支援は、被災地の強靭(きょうじん)性だけでなく社会的包摂性と持続性を高め、外交的な効果をもたらす

(4) ODAの意義を高めていくためには、国別開発協力方針の重点分野でセクタープログラムの考えを強化し、各事業が当該セクターの開発課題解決や発展にどのように貢献するか、効果発現の道筋を明確にしていくことが重要かつ必要である

 

2015年の大地震後、道路斜面対策を行ったシンズリ道路震災復旧計画(評価チーム撮影)の写真。

2015年の大地震後、道路斜面対策を行ったシンズリ道路震災復旧計画 (評価チーム撮影)

カブレパランチョク農業グループ(評価チーム撮影)の写真。

カブレパランチョク農業グループ(評価チーム撮影)

日本の支援により再建された住宅(評価チーム撮影)の写真。

日本の支援により再建された住宅(評価チーム撮影)

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