2024年度外務省ODA評価結果
「平成30年度対ジブチ無償資金協力(経済社会開発計画)」の評価
| 評価者 (評価チーム) |
評価主任:稲田 十一 専修大学経済学部教授 コンサルタント:(株)グローバル・グループ21ジャパン |
| 評価実施期間 | 2024年4月~2025年1月 |
| 現地調査国 | ジブチ |
評価の背景・対象・目的
本評価は、外務省が実施した「平成30年度対ジブチ無償資金協力(経済社会開発計画)」(供与額:39億円)を対象にプロジェクトレベルの評価を行い、評価結果から今後のODAの立案や実施のための提言・教訓を導き出し、また、国民への説明責任を果たすことを主な目的として実施された。評価対象事業は、ジブチ-アディスアベバ間を結ぶ国際回廊上の大動脈である国道一号線のうち、特に損傷の進んでいる区間(約20km)の改修を実施することにより、交通の円滑化及び安全の向上を図り、もって同国の持続可能な発展のための経済社会開発に寄与することを目的に実施された。
評価結果のまとめ
(1) 計画の妥当性
回廊道路を始めとする国内道路網の整備は、計画時から現在に至るまで、ジブチにとっての重点分野の一つである。国道一号線の改修は、ジブチにとって、極めて緊急性の高い最重要課題であった。日本は、ジブチを戦略的パートナーとし、本事業は、日本の対ジブチ国別援助方針の重要分野に位置付けられていた。本事業の改質アスファルトの採用等は、アフリカで「質の高いインフラ」整備を実施するという日本の方針と合致していた。その実施体制は、無償資金協力(経済社会開発計画)の標準的実施体制に沿っており適切であった。本事業は、日本の開発協力大綱の適正性確保の原則にのっとって計画された。本事業は、要請から8か月後にJICA無償資金協力から外務省の無償資金協力(経済社会開発計画)に変更された。これは、少しでも早い事業実施を求めるジブチ側の強い要望に配慮した適切な対応であった。その後は、無償資金協力(経済社会開発計画)の標準的業務フローに沿って遂行された。以上により、本事業の計画の妥当性は高い。
(評価結果:高い)
(2) 結果の有効性
本事業はコロナ禍にもかかわらず18か月で完工した。施工品質への信頼は高く、日本工区の改質アスファルトはジブチ-アディス回廊のジブチ側全工区の統一品質基準となった。所期の貨物量に対応しており、事業の目的通り、交通の円滑化及び安全の向上に寄与している。本事業は、開発協力大綱の開発協力の適正性確保のための原則にのっとっており、無償資金協力(経済社会開発計画)の標準的な業務実施フローに沿って適切に実施された。事業完成後に事業の一部に豪雨被害を受けたが、その際、大使館はジブチ側に対策を申し入れていた。以上により、本事業の結果の有効性は高い。
(評価結果:高い)
(注)レーティング: 極めて高い/高い/一部課題がある/低い
評価結果に基づく提言
<提言>
(1) 本事業のフォローアップにおけるJICAとの協力・連携
本事業は、無償資金協力(経済社会開発計画)で道路改修を実施したが、事業の持続性のためにも、今後のフォローアップ(現場の状況の把握等)については、大使館はJICAとも協力しながら対応するべきである。本事業の効果が最大限発揮されるのは、南北全工区が完工したときである(2028年予定)。少なくともそれまでは、ADRによるジブチ-アディス回廊全体の整備状況と本事業の状況の把握に努めるべきである。それにより、具体的な支援の適否の検討や、ジブチ側への助言、提言を行うことが可能となる。よって、大使館とJICAは、既に他の案件で行っているような協力関係をいかし、必要に応じ本事業の現場を視察し、情報を共有していくことが望ましい。
(2) 事業効果の持続性確保のためのモニタリング(豪雨被害箇所への対策)
2022年8月の豪雨により本事業のカルバート等に被害が生じており、ジブチ側で対策を検討中である。本事業の事業効果の持続性を確保するために、日本側は対策の実施状況をADRに定期的に確認するなどにより、その進捗をモニタリングすることが重要である。今後の本事業の維持管理体制等についても引き続き注視していくことが求められる。
(3) 他ドナーとの密接な協議、連携の強化
本事業は、ジブチ-アディス回廊の一部を改修したものであり、同回廊は、世銀を含め複数のドナーの支援を受けている。本事業を端緒として、ジブチ側のジブチ-アディス回廊は、次々と資金調達のめどが立ち、2028年には全工区が改修される見通しである。このような展開を踏まえ、通常は外務省案件と密接に関連していない世界銀行、アフリカ開発銀行などの開発金融機関や、サウジアラビアや中国などの新興ドナーとも情報を共有し、必要に応じて連携することが、本事業の効果が持続的に発現するために重要である。また、そうすることにより、現地のドナーコミュニティにおいて、本事業を始めとする日本の協力への認識が一層高まり、その外交効果を高めることにもつながると考えられる。
(4) 案件形成にあたっての広域的な視点の重要性
本事業がその一部を成すジブチ-アディス回廊は、今後、ジブチ、エチオピアに加え南スーダン等との物流促進にも寄与する可能性がある。このような東アフリカ地域の連結性強化は、ジブチの重要課題でもある。この点からも、ジブチにおいては、特に交通案件や水供給、電力案件など、エチオピアをはじめとする広域的な案件の設計や評価が欠かせない。交通、交易関連案件に限っても、One Stop Border Post(OSBP)などは隣国との連携が不可欠である。「アフリカの角イニシアティブ」など、他の広域案件の動向を見極め、その中での位置づけを考慮して、新規案件を検討することが必要である。
(5) より効果的な広報の推進
本事業の近隣住民は、日本の協力について理解していたが、これは同地域で活動するADR職員の貢献によるところが大きいと考えられる。他方、ADRは「質の高いインフラ」については承知していなかった。本事業は、完工式等の現地紙報道はあったものの、エチオピアとの国境という僻地にあるため、ジブチの一般国民の目に触れることはほとんどない。ジブチにとって極めて重要であり、かつ「質の高いインフラ」事業に位置付けられていたことに鑑みれば、もう少し積極的な広報がなされてもよかった。例えば、日本によるODA事業の相手国への裨益効果などを、動画やYouTubeなどを使って、現地語でわかりやすくアピールする努力を強化するべきである。そのための予算の拡大も望まれる。なお、今後、外部評価者による評価業務の一環として、広報にもいかせる現地調査動画を制作させることも一案である。
<教訓>
(1) 緊急性を要する場合の外務省とJICAの緊密な連携の重要性
本事業は、当初、JICAによる無償資金協力を通じた道路改修案件として検討されたが、緊急性を要するとの事情で、外務省の経済社会開発計画で実施されたことは適切であった。E/Nに至るまでの手続きが短縮され、当初想定より約4か月早く完工したことにより、ジブチのみならずエチオピアに対しても、大きな外交的効果をもたらしたと考えられる。加えて、日本工区の品質基準(改質アスファルト)が、ジブチ側のジブチ-アディス回廊全体の品質基準として採用されることになった。これは、日本のインフラ支援の質の高さの認識を広めることに貢献したと言える。このように、緊急性を要する案件の場合、今般のような外務省とJICAの緊密な連携によって柔軟に対応することが、今後とも求められる。
国道一号線(評価チーム撮影)

