ODA評価年次報告書2024 | 外務省

ODA評価年次報告書2024

2023年度外務省ODA評価結果

「平成28年度対ヨルダン無償資金協力(経済社会開発計画)」の評価

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評価者
(評価チーム)
評価主任:桑名 恵 近畿大学国際学部教授
コンサルタント:株式会社アンジェロセック
評価対象期間 平成28(2016)年度
評価実施期間 2023年7月~2024年2月
現地調査国 ヨルダン

評価の背景・対象・目的

本評価は、外務省が実施した「平成28年度対ヨルダン無償資金協力(経済社会開発計画)」(以下、「平成28年度経済社会開発計画」という)(供与額:10億円)を対象にプロジェクトレベルの評価を行い、評価結果から今後の類似案件にも活用できる提言を得ること、また、国民への説明責任を果たすことを目的として実施された。

平成28年度経済社会開発計画は、日本で製造された治安対策機材を供与することにより、治安対策分野における能力向上を図り、もってヨルダンの安定化のための支援を通じた同国の経済社会開発及び日本企業の海外展開の支援に寄与することを目的に実施された。

評価結果のまとめ

(1) 計画の妥当性

本案件が実施された2016年は、ヨルダン国内におけるテロ事件発生件数が過去最多の年であり、同国内における治安対策への緊張が著しく高まった時期であった。シリアやイラクなどの周辺国における紛争やテロの脅威がヨルダンにも波及する中、同国政府は、憲法に基づく国家の安全保障を開発目標における重点分野の一つとし、国境治安対策の向上のための取組を強化した。かかる状況の下で計画された本案件は、治安対策に関するヨルダン政府の開発計画やニーズに整合している。

また、原油の8割以上を中東地域からの輸入に依存する日本は、同地域との経済面における協力に加え、安全保障を含む多層的な関係の構築を目指しており、中東和平に向けてヨルダンが穏健派として安定を維持していくよう支援することとしている。同国の平和と安定に資する支援として実施された本案件は、日本の中東外交及び対ヨルダン開発協力政策にも合致している。さらに、治安対策の強化が急務である当時の状況下において、機動性や迅速性を特徴とする経済社会開発計画を採択したことは妥当であったと言える。
(評価結果:高い)

(2) 結果の有効性

本案件の実施・モニタリング段階においては、標準的業務フローに沿って問題なく業務が遂行され、資金供与は金額・時期ともに計画どおり実施された。政府間協議会で要請機材が確定された後、競争入札によってシステム開発のための要件定義(R/D)策定業者が選定され、実施機関/エンドユーザーとの協議を経てシステム開発が行われた。その後、システム及び機材の納入業者との契約が締結され、対象サイトへの治安対策機材の納入が円滑に実施された。

本案件では、無償資金協力の標準的な業務フローに基づき1年間の保証期間が設定されたが、予算確保の問題から保証期間満了後の保守管理契約の更新は行われておらず、ハード面の機材の維持・保守管理は実施機関/エンドユーザーの技術チームが対応している。現在に至るまで大きな機材トラブルは発生しておらず、納入機材は対象の3サイトにおいて問題なく稼働している。これら機材の導入により、監視体制が強化されるとともに、担当官の業務効率が改善された。

治安対策の秘匿性に鑑み、本案件に関するいかなる情報も現地にて報道されなかったが、本案件の契約業者の治安対策機材は、ヨルダンにおいてその品質の高さで広く認知されている。また、国境設備の一貫性を確保する観点から、本案件に続いて日本のODA事業を通じた国境検問所への治安対策機材の導入が継続的に実施されていることから、ヨルダンの治安対策分野における日本のプレゼンスは高く、重要な役割を果たしていると言える。
(評価結果:高い)

(注)レーティング: 極めて高い/高い/一部課題がある/低い

評価結果に基づく提言

(1) 維持・保守管理費の支援

本案件の納入機材は、年間に機材費の10~15%の維持・保守管理費用を要するところ、実施機関/エンドユーザーの予算の都合により、現地代理店との保守管理契約が更新されていない。機材そのものに関するハード面のトラブルには実施機関/エンドユーザーの技術チームによる対応が可能であるが、ソフト面の問題への対応には契約業者とのサポート契約が必要であると認識されている。

日本のODAは、相手国の自助努力の促進を重視する側面を有する一方で、本案件のように相手国の財政負担の軽減を目的とする場合、1年間の保証期間に限らず、一定程度の期間について維持・保守管理費用を無償資金協力の予算に含めることも検討の余地がある。

(2) 調達手続実施要領(ガイドライン)の見直し

経済社会開発計画における調達は、「ノン・プロジェクト無償資金協力に係る調達手続実施要領(ガイドライン)」(平成17年9月)に従って実施されるが、同ガイドラインが策定されてから既に20年近くが経過し、名称の変更なども生じていることから、ガイドラインを改訂の上、改めて関係者に周知する時期にあると考えられる。

(注)治安対策の秘匿性の観点から、本案件に関連する写真の公開は控える。

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