2023年度外務省ODA評価結果
「平成26年度対ヨルダン無償資金協力(地方産機材ノン・プロジェクト無償資金協力)」の評価
評価者 (評価チーム) |
評価主任:桑名 恵 近畿大学国際学部教授 コンサルタント:株式会社アンジェロセック |
評価対象期間 | 平成26(2014)年度 |
評価実施期間 | 2023年7月~2024年2月 |
現地調査国 | ヨルダン |
評価の背景・対象・目的
本評価は、外務省が実施した「平成26年度対ヨルダン無償資金協力(地方産機材ノン・プロジェクト無償資金協力)」(以下、「平成26年度地方産機材ノンプロ無償」という)(供与額:10億円)を対象にプロジェクトレベルの評価を行い、評価結果から今後の類似案件にも活用できる提言を得ること、また、国民への説明責任を果たすことを目的として実施された。
平成26年度地方産機材ノンプロ無償は、東日本大震災の被災地を含む地方で生産される医療機材を供与することにより、多数のシリア難民の受入れなどに伴い増加したヨルダン政府の財政負担を軽減するとともに、これら日本の地方産医療機材に対する認知度の向上を図り、継続的な需要を創出し、地域経済の活性化及び被災地の復興に貢献することを目的に実施された。
評価結果のまとめ
(1) 計画の妥当性
シリア危機の影響を受け、ヨルダン政府は国家開発目標やシリア難民対応計画などにおいて、保健医療分野を重点分野の一つとして位置付けており、本案件はそれら計画において示されるニーズと合致している。また、日本政府は、平和と安定の確保のための中東地域への支援の一環として、日本の高度な医療技術を生かした協力を推進しているほか、対ヨルダン援助方針においては、保健医療分野の支援を含む「貧困削減・社会的格差の是正」を重点分野に位置づけていることから、本案件は日本政府の外交政策及び開発協力政策とも整合している。
さらに、東日本大震災から3年が経過した本案件実施当時、日本政府は、海外の成長市場の活力を取り込んだ日本経済の基盤の強化や官民連携による日本企業の海外展開を推進しており、本案件が日本の地方で生産された機材を供与する地方産機材ノンプロ無償として採択されたことは妥当であったと言える。
本案件の計画段階においては、要請から交換公文(E/N)締結までの間に両国政府間で供与内容の変更が合意された。それら協議記録は残されておらず、具体的な変更経緯を確認することができなかったが、本案件の計画段階における業務は外務省の経済社会開発計画(旧ノン・プロジェクト無償資金協力(以下、「ノンプロ無償」という))の標準的実施体制に基づき、標準的業務フローに沿って遅延なく遂行された。
(評価結果:高い)
(2) 結果の有効性
本案件の実施・モニタリング段階においては、標準的業務フローに沿って問題なく業務が遂行され、資金供与は金額・時期ともに計画どおり実施された。政府間協議会において選定された要請機材は、日本の地方または東日本大震災の「特定被災区域」を主な製造地とする条件の下で、競争入札を経て調達された後、ヨルダン国内の4病院に納入された。そこでは、納入時の初期操作指導に加え、納入後も現地代理店による追加的なトレーニングが実施されるなど、機材の適切な使用と維持・保守管理のための主体的な取組が見られた。他方、現地報道はE/N署名に関する内容にとどまっており、引渡し式の未実施に伴い機材納入に係る報道はされなかったところ、現地における日本の地方産機材のプロモーションには一部課題があったと言える。
本案件では、高度な維持・保守管理を必要とする一部の機材について最長3年間の保証期間が設定されたが、保証期間満了後もヨルダン保健省(MOH)の予算によって現地代理店との保守管理契約が更新されている。納入機材はいずれも現在に至るまで正常に稼働しており、特に低中所得層の患者を受け入れる政府病院において日常的に使用されている。
(評価結果:高い)
(注)レーティング: 極めて高い/高い/一部課題がある/低い
評価結果に基づく提言・教訓
(1) 引渡し式の実施と効果的な広報活動
本案件では、E/N締結に関して英語・アラビア語の両言語による現地報道がされたが、機材の引渡し式は実施されておらず、実施段階においては現地報道が一度も為されなかった。機材納入の完了は2018年であり、新型コロナウイルス感染症の流行以前であったことからも、引渡し式の実施は可能であったと考えられる。
日本製機材のプロモーションや日本企業の海外展開を目的の一つとする経済社会開発計画(旧ノンプロ無償)においては、日本の支援に関する効果的な広報の実施が重要であり、その広報効果の発現を高めるためにも、引渡し式の確実な実施に向けた検討が為されることが望ましい。本案件のように複数回にわたって調達が行われる場合には、パッケージごとに引渡し式を実施することも考えられる。
(2) 文書記録の保存
本案件では、要請時点からE/N締結までの間に支援内容の大幅な変更があったが、通常、E/N締結以前の協議に関しては公文書の記録が必要とされておらず、電話やメールなどによる先方政府との日常的な意見交換の記録についても、一定期間を過ぎると破棄されることとなっている。そのため、本案件の内容に関する変更経緯や合意根拠についても、本評価調査を通じて確認できなかった。しかし、効果的な第三者評価を実施するためには、特に重大な決定や変更事項について、合意内容とその経緯を可能な限り文書として記録するとともに、その保存期間についても見直されることが望ましい。
加えて、PDCAサイクルに基づいてODAを実施するに当たり、案件を通じて得られた成功点や改善点、反省点などを教訓として記録し、案件実施から数年が経過した後もそれらの追跡を可能にすることにより、後の案件実施にいかすことが重要である。

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