ODA評価年次報告書2024 | 外務省

ODA評価年次報告書2024

2023年度外務省ODA評価結果

難民及び難民受入れ国支援の評価

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評価者
(評価チーム)
評価主任:大野 泉 政策研究大学院大学教授
アドバイザー:大橋 正明 恵泉女学園大学名誉教授
コンサルタント:株式会社国際開発センター
評価対象期間 2015年度~2022年度
評価実施期間 2023年6月~2024年2月
現地調査国 ウガンダ、バングラデシュ

評価の背景・対象・目的

評価対象期間における日本の難民支援は、2011年に策定された「我が国の人道支援方針」を基本として、同方針策定時には明記されなかった「人道と開発と平和の連携(HDPネクサス)」の視点や、各種国際会議において表明してきた日本の難民支援方針に基づき実施されてきた。本評価は、これらの難民支援(国内避難民、受入れ国支援含む)に関する日本の援助政策及びそれに基づく協力を評価し、今後の難民支援関連政策の立案・実施にいかせる提言を示すことを目的とした。

評価結果のまとめ

● 開発の視点からの評価

(1) 政策の妥当性

本政策は、日本の上位政策である旧開発協力大綱(2015年)や、現場のニーズ、持続可能な開発目標(SDGs)及び「難民に関するグローバル・コンパクト(GCR)」といった国際的な優先課題と整合している。難民受入れ国の政策において難民支援に制約がある場合、被援助国の政策との整合性に一部課題があるとも言えるが、その場合は被援助国政府に受け入れられる形で本政策の現実的な実施が図られている。また、本政策は国際機関、JICA、NGOを通じた多様な援助スキームの活用や人材育成・能力強化といった日本の優位性がいかされている。              
(評価結果:高い)

(2) 結果の有効性

日本の難民支援は、評価対象期間中、国際会議で表明した主なインプットを達成している。インプットの量及びタイミング共に国際的に一定のプレゼンスを示しつつ、個別事業においてもおおむねアウトプットを達成しており、総体として難民の生命、尊厳、安全の確保と自立、受入れ社会や帰還先の社会安定化に貢献してきた。一方、国際社会全体としてみれば、拡大を続ける難民危機への投入は不足しており、またHDPネクサスの「P(平和)」への支援として、難民発生要因である紛争の解決や帰還に向けた支援も求められている。このためには、政治外交的な介入も必要である。      
(評価結果:高い)

(3) プロセスの適切性

本政策の策定・実施プロセスは、おおむね適切であった。特に緊急支援において現地のニーズを的確に把握し、他ドナー間との調整メカニズムに基づき迅速に対応できる仕組みが構築されている。日本の多様な援助スキームは、HDPネクサスの促進要因であり、多様な機関との連携などの工夫が確認された。一方、外務省本省では、難民支援を担当する部署が複数に分かれ、被援助国の難民支援全体を見据えた協議を行う機会が十分とはいえず、また、JICAやNGOの案件形成と、国際機関を通じた人道支援案件形成が別個になされている。難民支援において活用が多い補正予算による国際機関を通じた支援は、実施期間が短く、単独案件でHDPネクサスを完結させることはできず、国際機関案件のモニタリング・情報公開が不十分であるなど、一部課題が確認された。 
(評価結果:一部課題がある)

(注)レーティング:極めて高い/高い/一部課題がある/低い

● 外交の視点からの評価

(1) 外交的な重要性

難民受入れ負担の分担が国際的に重視されている中、日本がこの責務を果たすことは外交的プレゼンスを高めるうえで重要である。加えて、難民支援は被援助国周辺地域の安定に資するものであり、アジア、中東、アフリカ等の地域の安定は、日本の外交政策である「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」推進に貢献し、日本のエネルギーの安定供給や日本企業による投資の保護にもつながる。

(2) 外交的な波及効果

本評価ではケーススタディ国における訪問先全てから日本の支援に対する感謝が聞かれ、在外公館アンケートにおいても21公館中15公館から、「日本のプレゼンスの向上、日本の立場への理解・支持」や「日本の好感度向上、日本の平和と安全・繁栄、経済発展への還元等の波及効果」について具体的な理由と波及効果事例が寄せられた。例えば、ウガンダの国会において2021年に難民支援を含む日本の長年の協力への謝意決議が採択され、エチオピアでは日本の難民支援の対象州関係者と大使館の人脈構築や、日系企業の進出に際する好意的支援につながった等の波及効果が確認された。

評価結果に基づく提言

新フェーズを迎えた難民支援、HDPネクサス、日本の特徴をいかした貢献を一層強化すべき

世界的な人道ニーズの増大や難民問題の長期化の中で、国際社会の責務が拡大する一方、難民対応地域における人道支援資金は減少傾向にあり、難民支援は新フェーズに来ている。日本の強みである多様なスキームや開発支援をいかし、HDPネクサスの強化に取り組むべき。

(1) 日本にとってのHDPネクサスの明確化と、より戦略性をもった支援の実施

HDPネクサスを実践するためには、目指すべき姿を明確化し、それを意識したスキームの選択や支援内容の策定が必要になる。将来的に人道支援方針を改定する際には、「切れ目のない支援」の更新・補足及びHDPネクサスの意味を明記し、各国ごとにより具体的で戦略性をもった支援とすべき。事業展開計画や国別開発協力方針への反映、HDPネクサスを意識した国際機関への補正予算拠出、より実施期間が長いスキームへの接続、難民出身地における「平和(P)」を意識した支援等が重要である。

(2) HDPネクサスの強化に向けた、多様なアクター間の連携、及びそのための体制整備

戦略性のあるHDPネクサスの推進のために、外務省/大使館とJICAが、難民支援の全体像を踏まえた支援戦略を共に検討し、情報交換を行うための体制が現地、本省の両レベルで必要である。特に現地では、そのための担当ポストの設置がマルチ・バイ連携、NGO連携促進のためにも望ましい。

(3) 迅速性、柔軟性ある制度運用

人道支援と開発支援の双方のスキームにおいて、基金化など早期拠出の工夫や、期間延長や支援内容の柔軟な変更、JICA既存案件を通じた難民支援のための追加予算措置などの検討が望ましい。

(4) 生計向上支援の重視

多くの難民対応地域において、人道支援額の減少、食料支援削減は差し迫った課題である。日本は、長年の農業分野や職業訓練等の開発支援の経験をいかし、難民の生計向上、自立化に資する貢献をすべき。その際、難民を一様に捉えず、特に脆弱な人たちへの配慮を十分に行うべき。

(5) 日本の難民支援の全体像、特に国際機関を通じた支援の「見える化」

ODAによる難民支援に対する国民の理解促進に加え、民間資金を呼び込むうえでも、国際機関を通じた支援や他の協力との関係を含む、日本の取組の全体像を分かりやすく広報すべき。

(6) 難民支援・HDPネクサスに関する人材育成と登用・配置

海外協力隊、国際機関、NGO等で経験を積んだ人材のキャリア形成を支援し、難民支援担当ポストなどに登用すべき。日本のODA事業を通じて育成された現地人材のキャリア・アップも奨励すべき。

(7) 日本国内の難民受入れの継続・強化

第三国定住や、好事例であるJICA留学生受入れの拡大など、現在の制度を通じて、引き続き難民受入れを継続・強化しつつ、国内の難民受入れの在り方について関係省庁と検討を続けるべき。

 

NGOを通じた支援による女性支援センターの理容・美容トレーニング。難民・ホストコミュニティの女性が共に研修を受けている写真。

NGOを通じた支援による女性支援センターの理容・美容トレーニング。難民・ホストコミュニティの女性が共に研修を受けている(ウガンダ)

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