2023年度外務省ODA評価結果
エジプト国別評価
評価者 (評価チーム) |
評価主任:稲田 十一 専修大学経済学部教授 アドバイザー:九門 康之 国際通貨研究所客員研究員 コンサルタント:学校法人早稲田大学 |
評価対象期間 | 2018年度~2022年度 |
評価実施期間 | 2023年6月~2024年2月 |
現地調査国 | エジプト |
評価の背景・対象・目的
エジプトは、国際海運で極めて重要な位置を占めるスエズ運河を有する。アジア、アフリカ、欧州の結節点として地政学的要衝に位置し、中東・アフリカ地域全体の平和と安全のため、政治・経済面で重要な役割を果たしている。よって、海外との貿易、エネルギー確保が重要な日本にとって極めて重要なパートナー国である。
本評価は、2018~2022年度の日本の対エジプト政府開発援助(ODA)政策及びそれに基づく支援を評価し、今後の日本の対エジプトODA政策の立案や実施のための提言や教訓を得るとともに、評価結果の公表を通じて、国民への説明責任を果たすことを主な目的とする。
評価結果のまとめ
● 開発の視点からの評価
(1) 政策の妥当性
検証項目1:日本の上位政策との整合性
日本の対エジプト支援政策は国別援助計画(2008)で掲げた重点支援分野(持続的成長と雇用創出の実現、貧困削減と生活水準の向上、地域安定化の促進)、国別開発協力方針(2020)で掲げた重点支援分野(持続的経済成長の促進、社会的包摂の促進、教育・人材育成と地域協力の促進)のいずれも、基本方針である持続的な国家開発の基盤づくりを支援してきたという点で整合している。
検証項目2:エジプトの開発政策・ニーズとの整合性
日本の対エジプト支援政策は、持続的開発戦略2030(SDS2030)で掲げられた中長期の目標・重点政策、すなわち、環境、経済、社会の3重点分野と整合している。一方、民間セクターや貿易分野ないしガバナンス分野への協力支援は相対的に低い。日本の支援の重点分野は持続的な国家開発の基盤づくりを支援するという大目標であり、エジプト側の経済成長を中心とする開発ニーズに沿っている。
検証項目3:国際的な優先課題との整合性・他ドナー支援との関連性
SDS2030は持続可能な開発目標(SDGs)と対応しており、国際開発目標との整合性も認められる。実施機関が計画・経済開発省と協力してSDS2030の策定やモニタリングを実施することにより政策ニーズの把握と対応がなされている。日本はエジプトで援助国会合ないし類似の会議体において在エジプト日本大使館経済班及びJICAエジプト事務所、JBICドバイ事務所から参加しており、経済協力開発機構(OECD)加盟国や一部の中東ドナー機関とも連携を図っている。
検証項目4:日本の比較優位性
日本の機材の比較優位性は新興国の進出によって競争力を失っている。日本が優位性を持つ技術を円借款を通じて供与するとの本邦技術活用条件(STEP)制度の円滑な実施を確保するため運用方法の改善が必要である。エジプト・日本教育パートナーシップ(EJEP)など日本独自の教育支援はエジプト側で高く評価されており、日本の比較優位性が発揮されているといえる。
(評価結果:高い)
(2) 結果の有効性
検証項目1:重点分野における日本の支援実績
(インプット)
日本の対エジプト支援は、支援金額の観点から大きな貢献をしている。
検証項目2:開発課題ごとの日本のODA実績
(アウトプット)
各開発課題は実現途上にありアウトプットが一部目に見える形で実現しつつある一方で、新型コロナウイルス感染症などの影響で遅延が生じ、効率性・持続性に一部課題が残る。
検証項目3:重点分野に対する効果
(アウトカム、インパクト)
一部効果が発現しているものの、大半の事業が継続中であるため、アウトカム・インパクトについては確認できない。
(評価結果:一部課題がある)
(3) プロセスの適切性
検証項目1:日本の対エジプト国別開発協力方針策定プロセスの適切性
日本の対エジプトODA政策は、おおむね適切なプロセスを経て策定された。
検証項目2:日本の対エジプトODA実施プロセスの適切性
日本の対エジプトODAの実施プロセスは、基本的な実施体制の整備・運営と、ニーズ把握、日本の対エジプト支援重点分野にもとづく個別案件の実施、モニタリング・評価、広報が適切に行われていた。
検証項目3:日本の対エジプトODAの実施における協調・連携
開発に関わる他アクターとの協調・連携が適切に行われていた。
(評価結果:高い)
(注)レーティング: 極めて高い/高い/一部課題がある/低い
● 外交の視点からの評価
(1) 外交的な重要性
エジプトの地政学的重要性は国際社会にとって顕著である。アフリカ大陸北東部に位置しつつ、アフリカ、中東、欧州諸国を結ぶ要衝にある。また、幾度の戦争を経て、エジプトはアラブ世界とイスラエルの間で最初に平和条約を結んだ国であり、中東和平にとって重要な役割を担っている。加えて、不安定な国・地域に囲まれている中で、エジプトの安定は地域の安定にとって極めて重要である。
(2) 外交的な波及効果
エジプト政府と日本政府の首脳レベルでの交流強化、日本のエジプトにおけるプレゼンスの強化、友好関係の促進には一定程度の効果をもたらした一方、両国の経済関係強化や民間企業の進出については一部課題が残る。
評価結果に基づく提言
(1) 日本の比較優位分野へ継続的支援を実施すること
(2) 情報公開のありかたへの工夫の必要性
(3) 債務持続性に関するリスク管理を引き続き行う必要性
(4) OOFを含めたオールジャパン支援による日本企業の進出環境を整えること
(5) STEP制度が日本企業やカウンターパートにとって使いやすいように、運用上の柔軟性を高めるべき

大エジプト博物館(GEM)入口