2021年度外務省ODA評価結果
教育協力政策の評価
評価主任 | 石田 洋子 広島大学教育開発国際協力研究センター長/教授 |
アドバイザー | 黒田 一雄 早稲田大学大学院アジア太平洋研究科長/教授 |
コンサルタント | 株式会社国際開発センター |
評価対象期間 | 2015年度~2020年度 |
評価実施期間 | 2021年9月~2022年3月 |
現地調査国 | エルサルバドル、マダガスカル(オンライン調査実施) |
評価の背景・対象・目的
教育協力は日本の開発協力の重点課題の一つとして位置付けられており、2015年に策定された「開発協力大綱」の教育分野の課題別政策として、「平和と成長のための学びの戦略」という現行の日本の教育協力の政策文書が定められた。同政策の実施開始から6年が経ち、その実施状況と達成度について評価し、教育協力政策の今後のより効果的・効率的な実施へ向けての有益な提言を取りまとめることを目的として、本評価を実施した。
評価結果のまとめ
● 開発の視点からの評価
(1) 政策の妥当性
本政策は、2015年2月に閣議決定された開発協力大綱に基づいて策定された教育分野の課題別政策として位置付けられている。同政策は、被援助国を含む各国が抱える教育課題への取り組みを打ち出した持続可能な開発目標(SDG)4を踏まえていること、日本の教育協力の比較優位性のある分野が盛り込まれていること、教育協力の実務者やNGOとも十分な協議の上に策定されていることから被援助国の開発ニーズとも合致している。
(評価結果:極めて高い)
(2) 結果の有効性
日本の教育協力の二国間援助額に関して、2015年から2019年までの5年間は31億ドル強で、その前の5年間の約75%である。しかし、協力の成果については、被援助国や国際社会の教育課題解決と教育目標達成に対する貢献度が高いことが確認された。2020年からは、新型コロナウイルスの影響を大きく受けたが、途切れない学びのために、教材のデジタル化、オンライン授業・研修の提供など、新たな取り組みが始められていることが確認できた。
(評価結果:高い)
(3) プロセスの適切性
外務省は、関連省庁、JICA、大学関係者、国際機関、NGO、民間企業など関係者に対して助言を求めながら本政策を策定した。実施段階では、日本大使館、JICA在外事務所などの関係者がメンバーとしてODAタスクフォースを構成し、被援助国に対して援助政策の立案、案件形成、案件の進捗に関する情報共有などを定期的に行った。また、多様な援助ニーズに応えるため、他の援助機関との連携や多様な援助モダリティも適用された。一方、実施期間、達成に関する目安・目標が設定されず、実施状況のモニタリングに向上の余地も見受けられた。
(評価結果:高い)
(注)レーティング:極めて高い/高い/一部課題がある/低い
● 外交の視点からの評価
(1)外交的な重要性
被援助国政府や他ドナー、さらに在外公館からの本政策に対する認知度は高くない。一方、個々の教育協力案件レベルにおいて、それらの教育協力が日本からの支援であることは被援助国政府によりよく認識され、評価されている。結果として、被援助国の教育課題へ資するだけではなく、より良い二国間関係の構築や日本のプレゼンス向上に寄与していると考えられる。
(2)外交的な波及効果
日本の教育協力は総じて被援助国の開発ニーズに応えつつ、現場に寄り添いながら顔の見える協力を実施している。そのため被援助国からの信頼性や期待は高く、二国間関係の強化に貢献していると言える。また、日本の名を冠した教育分野への支援をはじめとして、被援助国の元首自身が協力に対する謝辞を述べる例や、国際的・地域的な教育協力ネットワークを強化する形で行われている教育協力案件は、ASEANや中米、アフリカなどの域内協力、連携強化につながっており、外交的波及効果が発現していると考えられる。
評価結果に基づく提言
(1) 日本の教育協力政策内容への提言
> 国際潮流に沿って幅広い教育分野での協力に対応する可能性があり、次期政策では、重要分野の中でも優先順位を付けることを検討すべき。
> 国民への説明や関係者への情報共有のために、政策の実施期間、達成すべき目安、目標の設定を行い、同政策に盛り込むことが肝要。
> 同政策に次の5つの内容を盛り込む。①協力の目的、対象分野などを出来るだけ分けて表記。②当該事業と関連の深い他のアクター・事業との連携を維持・強化し、過去の協力の成果の蓄積、これまで研修を受けた人材、既存の制度の活用により、効果を高める。③相手国の実情に合わせたモニタリングの仕組みを構築。④援助効果を発現、確かなものにするため、長期的な信頼関係を被援助国と築く。⑤ネットワーク型アプローチ、多国間・二国間援助機関との連携強化や財政支援を含む多様な援助モダリティを維持し、現地のニーズに柔軟に応じた協力を実施。
(2) 日本の教育協力政策の策定・実施過程への提言
> 教育協力政策の策定について、関連省庁、JICA、大学関係者、国際機関、NGO、民間企業などの関係者が会し、開かれた透明なプロセスで議論する既存のフォーラムなどを有効活用する。
> 政策実施の点検については、教育協力関係者による「国際教育協力連絡協議会」などのプラットフォームをさらに活用し、同政策の実施状況を確認するべきである。また、適切なタイミングでの同政策の第三者評価を実施し、提言を導き出し、新しい政策に反映する。そのためにも、政策の実施期間、達成の目安、もしくは目標の設定を行う。
> 効果的、効率的な政策実施のためには、教育案件の検討・形成・実施などにおいて、文部科学省からの知見、協力が重要である。例えば、外務省、文部科学省、ODA実施機関であるJICAの三者が揃って定期会合を開催することを検討する。
> 政策の広報については、これまでと同様、機会を捉えて、日本のリーダーから国際社会に対して同政策の発信をするとともに、適切な政策実施のため、外務省内、在外公館、JICAの国内外の拠点を含むODA実施機関への継続的な周知を実施する。
> 教育協力政策の“外交的重要性と波及効果”に係る観点の評価を充実させるため、個別協力案件の事業実施期間中、モニタリング、各種調査時において、関連する情報を収集・確認し、その蓄積した情報を整理して、報告書などに記載する。

評価チームによるオンライン学校訪問(マダガスカル)