2021年度外務省ODA評価結果
平成29年度対スリランカ無償資金協力「経済社会開発計画」の評価
評価主任 | 稲田 十一 専修大学経済学部教授 |
コンサルタント | 有限責任あずさ監査法人 |
評価実施期間 | 2021年10月~2022年3月 |
現地調査国 | スリランカ(オンライン調査実施) |
評価の背景・対象・目的
本評価は、外務省が実施した対スリランカ無償資金協力「経済社会開発計画」(平成29年度交換公文(E/N)署名/供与額:10億円)を対象として、プロジェクトレベルの評価を行い、評価結果から今後のODAの立案や実施のための提言・教訓を導き出し、また、国民への説明責任を果たすことを主な目的として実施された。評価対象事業は、日本で製造された係船浮標他、港湾整備関連資機材を供与することによって、港湾機能の強化を図り、もってスリランカの経済社会開発及び日系企業活動の支援に寄与することを目的としたものであった。
評価結果のまとめ
(1) 計画の妥当性
対スリランカ国別開発協力方針、自由で開かれたインド太平洋戦略、質の高いインフラ輸出拡大イニシアティブなどの日本の主要政策と本プロジェクトとの間には強い関連性が認められた。また、本プロジェクトは、トリンコマリー県マスタープランや国家港湾マスタープランなどのスリランカの主要政策及び開発ニーズに整合していた。本プロジェクトでは、コミッティー(政府間協議会)が適時に開催され、サプライヤーが公正に選定されたことからも、実施体制は適切であった。スリランカ港湾局(SLPA)などのスリランカ側関係機関は、本プロジェクトを実施するために必要な能力を有していた。また、本プロジェクトの計画プロセスは適切であり、一般財団法人日本国際協力システム(JICS)などの日本側関係機関の働きを高く評価する声が、スリランカ側関係機関やサプライヤー企業からも聞かれた。
(評価結果:極めて高い)
(2) 結果の有効性
港湾設備は計画どおり適切に供与され、トリンコマリー港の夜間航行の安全性向上や24時間運営体制の確立と港湾機能の向上が実現した。港湾設備に対するスリランカ政府の満足度も高い。ただし、供与設備の内、船舶は事故による故障、発電機はSLPAによって実施されるべき工事が新型コロナウイルス感染症による外出制限を受け遅延していて未完了であったことから、2台のうち1台が本評価調査時点で使用されていない状況にあった。地域の社会経済開発や日系企業支援といったアウトカムレベルでの開発効果や外交的な効果は発現までに時間がかかるため、達成状況に関する明確なデータは、短期的には得られていない。各段階のプロセスは適切であり、関係機関は適切に役割を果たした。なお、2020年以降の新型コロナウイルス感染症の流行が、プロジェクトのモニタリングプロセスに影響を及ぼした。
(評価結果:一部課題がある)
(注)レーティング: 極めて高い/高い/一部課題がある/低い
評価結果に基づく提言
(1) プロジェクトへの提言
> 大使館員による現地モニタリングの早期実施
現地モニタリングをできるだけ早く実施することを提言する。新型コロナウイルス感染症の状況を十分に考慮し、スリランカ現地の規制にそった感染予防対策を遵守することを要件とする。
> トリンコマリー港周辺の開発支援に向けた戦略の検討
地域経済への開発効果を、港湾開発という単体のプロジェクトで発現することは困難であり、物流を活性化し、投資を誘致して地域の経済社会の開発に繋げていくためには、周辺のインフラ開発も組み合わせた総合的な取組が必要である。以上より、本プロジェクトの成果を将来にわたって活かすため、日本国政府としてトリンコマリー港周辺地域の経済開発支援に向けた戦略を検討することを提言する。戦略検討にあたっては、周辺諸国において日本が推進する「日ASEAN連結性イニシアティブ」などとの連携も考慮されることが望ましい。
(2) 外務省が実施する無償資金協力(経済社会開発計画)への提言・教訓
〈提言〉
> プロジェクトに関するより積極的な情報発信
ODAの透明性を確保し、国民の理解を促進していくためにも、より積極的にプロジェクトに関する情報を発信していくことを提言する。
> プロジェクトの目的や効果発現に向けたロジックの明確化
計画当時の目的や効果発現に向けたロジックが曖昧である場合、事後的に再定義した目的について関係者間で意見の相違が生じ、納得感のある評価結果の導出が困難となる懸念がある。特に、外交的な効果についてはその再定義が困難なケースが多く、さらに評価のタイミングが適切でない(効果発現にはより長期間を要する)といった点も議論となり得る。以上の課題を踏まえ「経済社会開発計画」スキームの計画に際しては、目的や効果発現に向けたロジックを明確化するよう努め、その検討経緯を記録して保存することを提言する。
〈教訓〉
> 海外展開支援ツールとしての外務省の無償資金協力(経済社会開発計画)
外務省が実施する無償資金協力(経済社会開発計画)は、入札図書作成から契約締結までを、一貫して調達代理機関による手続だけで進められるという特徴がプロジェクトの迅速化と簡便化に繋がっている。また、パフォーマンス・ボンドが不要であること、対象が日本製品中心であることなどが、日本企業から好意的に受け止められている。以上より、「経済社会開発計画」スキームは、日本企業の海外展開を支援する有用なツールとなり得る。そのためには、プロジェクトを通じてどのように日本企業の海外展開を支援するのか、物品の内容や供与の目的について戦略的に検討することが重要である。

トリンコマリー港に設置された浮標

供与した船舶