2021年度外務省ODA評価結果
マラウイ国別評価
評価主任 | 大門 毅 早稲田大学国際平和戦略研究所所長 |
アドバイザー | 川口 純 筑波大学人間系教育学域准教授 |
コンサルタント | 学校法人早稲田大学 |
評価対象期間 | 2016年度~2020年度 |
評価実施期間 | 2021年8月~2022年3月 |
現地調査国 | マラウイ(オンライン調査実施) |
評価の背景・対象・目的
日本は、1971年のJICA海外協力隊派遣以降、マラウイに対し、技術協力と無償資金協力を中心とした支援を実施してきた。マラウイはザンビアからモザンビークにつながるナカラ回廊の一部を形成するため、対マラウイ支援は、同国のみにならず南部アフリカ地域の成長や資源の安定供給にもつながり、貧困削減や人間の安全保障を推進することにもなる。本評価では、2016〜2020年度に実施された日本の対マラウイ援助政策や国別援助方針・開発協力方針の重点分野に基づく支援を対象とし、今後の日本の対マラウイ援助政策立案や実施のための提言や教訓を得ることを目的とする。評価結果を公表することで、国民への説明責任を果たし、関係国政府や他ドナーへのフィードバックも目的とする。
評価結果のまとめ
● 開発の視点からの評価
(1) 政策の妥当性
日本の上位政策との整合性は高いが、人間の安全保障や持続可能な開発目標(SDGs)など、一層の強化が期待される。他ドナーの援助政策との関連性では、整合性は確保できているが、マラウイ政府が制度化した対話への関与は消極的とみられているため、一部課題があるとの評価となった。しかし、日本の対マラウイ支援は、マラウイの開発ニーズとの整合性が極めて高く、日本の比較優位性も高かったため、総合的に勘案した場合、政策の妥当性は高い、と判断した。
(評価結果:高い)
(2) 結果の有効性
遅延した事業や当初の計画通りの成果が見込めない事業が、各重点分野で見られたものの、一定の貢献が認められるインプットがあり、総体としては、概ね当初の目標が達成され、中長期的な効果も認められた。よって、日本の対マラウイ支援の結果の有効性は高い、と判断した。
(評価結果:高い)
(3) プロセスの適切性
開発協力方針や援助政策は、適切な手順を踏んで策定されていた。援助実施体制の適切性は高く、マラウイ側の脆弱な財政状況を踏まえた配慮・工夫もなされていた。他ドナーとの調整や意見交換については、日本側の認識と一部の他ドナーの認識に乖離が認められた。マラウイ国民向けの広報努力は、認められるものの、一層の工夫が求められる。一部課題があるが、各検証項目は、総じて高い。
(評価結果:高い)
(注)レーティング: 極めて高い/高い/一部課題がある/低い
● 外交の視点からの評価
(1)外交的な重要性
後発開発途上国のマラウイは、経済指標が低い内陸国のため、近隣国から、治安や感染症などの影響を直接に受けやすい脆弱な国である。そのマラウイを支援することは、南部アフリカ地域の安定と繁栄、人間の安全保障の観点から重要である。日本の対マラウイ支援は、国際社会・アフリカ地域の平和・安定・繁栄に資するものであり、自由・民主主義、法の支配などの基本的価値、ルールに基づく国際秩序の構築にも有意義である。
(2)外交的な波及効果
対マラウイ支援の波及効果として、国際社会における日本の立場をマラウイは支持してきたことが挙げられる。マラウイは、TICADプロセスに対する支持を通じて、日本の南部アフリカ地域における外交プレゼンスの向上にも貢献している。JICA海外協力隊の継続的な活動は、日本とマラウイの二国間関係において重要な人脈の構築や相互理解の増進に役立っている。日本企業のマラウイ進出や民間投資の促進に関しては、「アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ(ABEイニシアティブ)」などを通じて日本の中小企業とマラウイの産業人材をつなぐ試みがなされてきたが、現在のところ、具体的な成果に結びついていない。
評価結果に基づく提言
(1) 日本の中小企業やNGOの進出や投資環境の整備に資する措置を強化すべき
マラウイの法体系の形成を支援してきた国・ドナーとも協調して、マラウイの会社法・租税法を精査し、海外からの企業・NGOの進出や投資の参入障壁を取り除くための改訂手続きを支援する。他ドナーと協調して、税関手続きの簡素化に向けた課題別研修や技術協力を実施する。旧来の開発区分の枠組みにとらわれず、起業・金融・投資など日本の中小企業のビジネス・チャンスを促進する分野を掘り起す。「ABEイニシアティブ」の選考基準を、民間企業幹部候補を含め、起業家精神旺盛な人材の発掘が可能なように修正し、日本の中小企業がマラウイ人起業家と共同事業を展開するために必要な支援体制を強化していく。
(2) 留学生・研修員の「人材バンク(仮称)」を設置し、彼らのネットワーク構築と活用を強化すべき
人材ネットワーク構築のための留学生・研修員「人材バンク(仮称)」を、登録者の個人情報保護に配慮しながら、JICA現地事務所の管轄でクラウド上に設置する。その運用には、元留学生・研修員同窓会の有効活用を図る。同窓会が主体的に運用することで、留学生・研修員間のネットワークに加え、一般市民との架け橋となり、日本の中小企業、投資家、NGOとの架け橋としても機能するように支援する。「人材バンク」を日本の中小企業や投資家にとって利用しやすいものとすることは、提言1にも寄与するため、創設時には、課題別研修や技術協力と組み合わせてもよい。
(3) JICA海外協力隊とマラウイ側中核人材の戦略的・継続的活用を図るべき
対マラウイ支援における日本の比較優位は、草の根レベルでの人材育成を通じた技術協力にある。この取組での、JICA海外協力隊の経験者の登用・活用を図る。これを促進するため、元隊員が専門知識・技術を得る機会を増やす。隊員が、任期後も継続的にマラウイにて活動することで、経験を積み、専門性を磨く機会を提供し、シニア海外協力隊員や専門家へとキャリア・アップできる道筋を用意する。日本の支援事業の担当者や元研修員を、マラウイ側の中核人材と位置付け、彼らの継続的な関与を促すため、彼らに対するフォローアップを充実させる。彼らが学んだ知識や技術をリフレッシャー研修によって定期的に更新するとともに、知識や技術を向上させるために、「ABEイニシアティブ」や「SDGsグローバルリーダーズ」などの長期研修に加え、新たにマラウイを「人材育成奨学計画(JDS)」対象国に加え、大学院留学の機会を増やす。
(4) マラウイの一般市民に向けた外交広報戦略の強化を図るべき
外交的な波及効果を高めるために、「顔の見える援助」を継続的に発展させ、「顔が見える」だけではなく、「日本国民からマラウイ国民へのメッセージ」が声となって伝わるように、戦略的にODA広報を位置付ける。日本国民の声が、マラウイ政府や援助関係者だけでなく、一般市民にまで伝わるように、SNSなどの参加型ソーシャル・メディアを活用した双方向外交を展開する。日本マラウイ協会が、日本国内向け広報に果たしてきたような機能を同窓会に付与する。発信力のある元研修員・留学生を活用して、SNSでの発信頻度を高めるとともに、マラウイ人のインフルエンサーやアーティストにSNSでの効果的な広報を依頼し、ODA広報の質を高める。