ODA評価年次報告書2022 | 外務省

ODA評価年次報告書2022

2021年度外務省ODA評価結果

ペルー国別評価

評価主任 清水 達也
日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所地域研究センターラテンアメリカ研究グループ長
アドバイザー 磯田 沙織
神田外語大学外国語学部イベロアメリカ言語学科スペイン語専攻専任講師
コンサルタント 日本テクノ株式会社
評価対象期間 2011年度~2020年度
評価実施期間 2021年8月~2022年3月
現地調査国 ペルー(オンライン調査実施)

評価の背景・対象・目的

ペルーは、日本が1873年に中南米で最初に外交関係を樹立した国である。1899年に日本人が南米大陸で初めて移住した国として約10万人の日系人を擁し、日本とは長い歴史に基づく友好関係が継続している。また、ペルーは累計ベースで中南米における日本のODAの最大の被供与国である。

今回の評価では、過去10年間のペルーへの支援政策を評価し、今後の日本の対ペルー支援政策立案や実施のための提言や教訓を得ることを目的とする。また、評価結果を公表し、国民への説明責任を果たすとともに、関係国政府や他ドナーに評価結果をフィードバックすることを目的とする。

評価結果のまとめ

● 開発の視点からの評価

(1) 政策の妥当性

日本の対ペルー協力の政策は、日本のODAの上位政策である政府開発援助大綱(2003)や開発協力大綱(2015)、ペルーの中長期及びセクター開発計画に合致している。また、国際的な優先課題としてMDGs、SDGs、ペルーで支援を行っている各ドナーの支援方向性との整合性も取れている。さらに、日本の比較優位性のある分野を中心に政策策定が行われている。
(評価結果:極めて高い)

(2) 結果の有効性

日本の対ペルー協力の実績において、高中所得国に分類されるためペルーへのODA金額は減少傾向にあるものの、山岳地域やアマゾン地域といった特殊な国土に多様な援助ニーズを有するペルーに対し、重点3分野(経済社会インフラの整備と格差是正、環境対策、防災対策)の中で案件を絞り、日本の優位性を活かした支援を行っている。経済社会インフラの整備と格差是正分野ではペルーの貧困状況の改善、環境対策分野では山岳地域の灌漑施設整備や農家の収量向上、防災分野では日本の知見や経験を有する災害に強いインフラや警戒・警報体制の強化、政府が防災訓練を積極的に実施するなど国民レベルまでの防災意識の定着といった成果を得ている。       
(評価結果:極めて高い)

(3) プロセスの適切性

開発協力方針は、日本側・ペルー側の関係者と適切な協議を行い策定されており、事業展開計画も毎年更新されている。実施プロセスにおいても、実施体制の整備、ニーズの把握、対ペルー支援重点分野に基づく個別案件の実施、モニタリング、広報が行われている。
(評価結果:極めて高い)

(注)レーティング: 極めて高い/高い/一部課題がある/低い

● 外交の視点からの評価

(1)外交的な重要性

外交関係上の重要性の観点から、日本はペルーに対し貿易促進や進出企業のビジネス環境整備に資する EPA、投資協定、租税条約などの法的枠組みの構築促進やこのような枠組みに基づく協議などを通じ、日本企業の進出の促進を始め、経済関係の強化を図っている。さらに、国際的共通課題として、両国に共通する地震・津波対策や環境・気候変動問題、核軍縮・不拡散、国連安保理改革、北朝鮮問題及び南シナ海・東シナ海問題といった多くの課題に対して連携・協力を行ってきている。なお、日本が掲げる外交理念を踏まえた相手国の重要性の観点では、2020年に外相会合において、両国が140年を超える外交関係を有し、普遍的価値を共有する戦略的パートナーであることを再確認するなど、両国間の関係性は高い。また、2011年以降、継続して両国間のハイレベル協議を含む要人の往来を実現しており、政治リーダー間の交流緊密化と理解促進は、在留邦人及び日系人社会の安全と繁栄に資するものと考える。このような観点から、対ペルーODAは外交的な重要性を有している。

(2)外交的な波及効果

二国間関係への効果(友好関係促進など)の観点では、日本とペルーは2011年以降、継続して両国間の交流実績を有していることが確認できた。さらに、日本の支援の成果が両国の友好関係促進に寄与した例も多数見られた。また、国際社会での日本の立場支持の観点では、ペルーは、国連安保理改革、貿易、環境、軍縮・不拡散などの分野を始めとして、国際社会での活躍が顕著であり、国際問題への対応について、日本とペルーが協力関係を構築するべく緊密な関係を深めることが期待できる。さらに、日系企業の進出など経済関係強化への効果の観点において、進出日系企業拠点数は増加している。このように、対ペルーODAにより日本とペルーのより良好な関係構築といった外交的な波及効果が確認できる。

評価結果に基づく提言

(1) 基本方針「持続的経済発展への貢献」の維持

2010年代後半の政治危機及び南米大陸で最悪規模のコロナ災禍に見舞われたペルー経済を元の成長軌道に回帰させるため、持続的経済発展への支援を行うことはペルー側のニーズに合致しており、外交上も二国間関係の強化、地球規模課題の解決に向けた協働を図っていく上で重要である。

(2) 「選択と集中」:3つの重点分野への各種ODAスキームによる支援の継続

「経済社会インフラの整備と格差是正」、「環境対策」、「防災対策」の課題・社会のニーズは変わらず存在し、ペルーの基本的な開発の方向性は変更されていない。これらは日本の技術の活用が大いに見込まれる分野であり、今後も支援を継続する必要がある。

(3) 多様な主体の資金・活動との連携強化

日本のODA予算の有効活用と将来的なペルーへの援助資金の減少を鑑みれば、開発に資する多様な主体の資金・活動との連携強化は一層重要である。その観点から民間セクターとの連携によるスキームを積極的に活用して優良案件を形成・実施していくべきであり、また事業間連携、国際機関連携についても引き続き注力することが重要である。

(4) 長期的な人材育成につながる技術協力の継続の必要性

ペルー側が望む技術支援を通じた新技術の導入というニーズに応えるには、民間企業技術に加え、大学でのスタートアップ支援、SATREPSなどをより活用し、大学・研究機関の連携をより深化させることが可能である。

(5)日系人社会との連携の維持

日本のODA事業の受け皿及び開発効果のペルー社会全体への橋渡し的役割を担う日系人社会がそのアイデンティティを維持し、文化・社会・経済的地位をより高めていくことに寄与する協力は、彼らを日本のODAの連携パートナーとして維持する有効な手段であり、今後も継続していくことが望まれる。

(6)ペルー国の自然環境及び気候変動の影響を踏まえたインフラニーズへの対応

インフラニーズに対する各種ODAスキームによる支援は継続的に検討する必要がある。その際には、対象地域の自然環境や気候変動の影響を十分に踏まえたものにするほか、ペルー国が推進する地方分権化を考慮しつつ、環境社会配慮の適切な実施、特に地元住民への対応や関係者間合意形成への支援に十分な配慮が必要である。

日本の無償資金協力により建設された国立障害者リハビリテーション・センターの写真。

日本の無償資金協力により建設された国立障害者リハビリテーション・センター

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