2020年度外務省ODA評価結果
平成27年度ヨルダンに対する経済社会開発計画の評価
評価主任 | 佐藤 寛 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所研究推進部 上席主任調査研究員 |
コンサルタント | 日本テクノ株式会社 |
評価実施期間 | 2020年9月~2021年3月 |
現地調査国 | ヨルダン(オンライン遠隔調査) |
評価の背景・対象・目的
外務省は、ヨルダンの経済社会開発に寄与すべく、シリア難民受入れコミュニティの廃棄物処理管理及び給水状況を改善するため、我が国で製造された機材・製品等を供与する無償資金協力(経済社会開発計画)を2016年に実施した。本評価は、外務省が実施する無償資金協力案件の成果を評価することにより、今後のODAの立案や実施のための提言や教訓を得ること、また国民への説明責任を果たすことを主な目的とする。
評価結果のまとめ
● 開発の視点からの評価
(1) 案件の妥当性
本案件は、シリア難民の大量流入による社会経済基盤の脆弱化の改善ならびにホストコミュニティにおける難民との緊張緩和の改善に貢献するものであり、日本の上位政策、ヨルダンの開発ニーズ、国際的な優先課題に整合したものであった。また、シリア難民問題に対応するためにドナー間コミュニティやシリア危機対応プラットフォームの枠組みに参加することにより、ドナーとの関係性は保たれている。日本の比較優位性は、供与された機材・製品の質の高さ等にあると判断できる。(評価結果:高い
)(2) 結果の有効性
供与機材・製品は、仕様、数量ともに計画通り調達・納入された。調達された機材・製品は、ヨルダン側の責任で最終利用者である全国の自治体、水供給事業体、ごみ処理事業体に計画通り引き渡され、本件調査で得られた調査データに基づけば、納入後の運用状況も良好であり、計画で想定したとおりの効果を得ている。なお、機材供与サイトは、ヨルダン側の問題意識を踏まえ、「難民受入れコミュニティ」を一部の地域に限定せず国全体と措定して選定され、全国12県に点在する60を超える地方自治体や事業体等に広く分配された。(評価結果:高い
)(3) プロセスの適切性
本案件はヨルダン政府の要請内容を最大限に具現化するように計画され、実施されている。関係機関の実施体制や支援実施の手順等も交換公文(E/N)や外務省ガイドラインに則したものであり、不備はなかった。 (評価結果:高い
)(注)レーティング: 極めて高い
/高い /一部課題がある /低い● 外交の視点からの評価
(1)外交的な重要性
エネルギー資源の多くを中東に依存する我が国にとって、中東の和平と安定は国益に直結する課題である。その要衝であるヨルダンの政治的・社会的な安定と経済的な発展に協力することは、中東地域の和平と安定を通じた我が国のエネルギー安全保障の確保や、良好な二国間関係の維持・発展を図る上で重要であり、開発協力を行う意義は大きい。シリア難民の流入により影響を受けたホストコミュニティを支援する本案件は、地域の安定化に資するもので、日本の対中東・ヨルダンの安定化に向けた協力の一端を担うものと評価できる。
(2)外交的な波及効果
本案件はヨルダン側の要請に適時に応え実施できた案件であり、二国間関係の強化に資するものであった。また、我が国は、「人間の安全保障」の提唱国として、難民問題に積極的に貢献している日本の姿を国際社会に強くアピールしているが、本案件の実施はその一例であり、他難民支援にかかる協力と同様に各国に日本の姿勢を印象づける一助となっていると考えられる。
評価結果に基づく提言
(1)丁寧な案件説明の必要性
本案件において、登録難民の流入が比較的少ない南部地域の各県に、他地域と比較して難民登録者人口相応以上の機材・製品が配分されていることについて、公表された情報を参照するだけではその根拠となる考え方を理解することは容易ではない。本案件は、計画で想定した効果を達成していると評価され、ターゲット・グループの設定に問題は認められなかった。しかし、外務省により公表された情報を参照するだけでは、本案件のターゲット・グループが、ヨルダン側の問題設定に基づきヨルダン国全土に設定されたという経緯を直ちに理解することは困難であり、意思決定プロセスの適切性について、より丁寧な説明が必要だったのではないか。今後の案件説明においては、この改善が必要である。
(2)目標体系図の導入による成果管理
アウトカム・インパクトの明瞭化、アウトプットからアウトカムにつながる効率と効果にかかる理論的な説明、また、指標の設定と測定による「成果の明確化」は、プロジェクトの実施において有効である。よって、先方政府からの支援要請内容の確認段階からロジカル・フレームワークを簡素化した目標体系図を作成・共有することにより、インプット→アウトプット→アウトカム・インパクトの理論性を明確にした実施管理と、指標の設定と測定による成果管理を導入することは検討に値する。
(3)効果的な広報の実施
本案件の広報は、中東外交での枠組み、難民支援や人道支援を含む人間の安全保障に関する取組み、ヨルダンとの二国間関係の歴史など、全体像と関連付けたストーリー性のある、効果的かつ魅力的な広報展開が望まれる。我が国にとって非常に重要な中東地域のシリア危機、難民問題、人道支援などにおいて、国際的な責任を担う姿とプレゼンスを適切な形で積極的に内外にアピールすることは、国民の理解を深める上で重要。
(4)機材・製品の運用と維持管理にかかるモニタリングと効果測定
実施機関の既存のモニタリング・システム上に、本件により供与された機材・製品の運用状況を把握できる方便を工夫することが求められる。例えば、実施機関は定期的に会計報告や事業報告を行う義務を負っているが、その一環で資産管理を行っていることが想定され、機材・製品の所有・運用状況を把握していると考えられ、これら既存の機材・製品管理を利用して、本案件により供与された機材・製品の運用状況をモニタリングする体制を整えることは、今後、同様の案件実施に際して有効であろう。また、在ヨルダン日本国大使館は、現地視察を通じた利用状況のモニタリングを行う予定とのことであり(本調査時、コロナウイルス蔓延の影響により中止されていた)、その実施は有意義である。

廃棄物分野の支援にかかる機材引渡し式

機材引渡し式における鍵の供与