ODA評価年次報告書2021 | 外務省

ODA評価年次報告書2021

2020年度外務省ODA評価結果

平成29年度モザンビークに対する経済社会開発計画の評価

評価主任 佐藤 寛
日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所研究推進部 上席主任調査研究員 
コンサルタント 日本テクノ株式会社
評価実施期間 2020年9月~2021年3月
現地調査国 モザンビーク(オンライン遠隔調査)

評価の背景・対象・目的

外務省は、モザンビークの経済社会開発に寄与すべく、発電用燃料等を供与することにより、同国の電力不足を解消し安定した電力供給を図るため、2017年に無償資金協力(経済社会開発計画)を実施した。本評価は、外務省が実施する無償資金協力案件「平成29年度モザンビークに対する経済社会開発計画(発電用燃料等)(供与額15億円)」の成果を評価することにより、今後のODAの立案や実施のための提言や教訓を得ること、また国民への説明責任を果たすことを主な目的とする。

評価結果のまとめ

● 開発の視点からの評価

(1) 案件の妥当性

本案件は、ナカラ回廊に位置するモザンビーク北部地域の電力供給の改善と、それを通した経済社会開発を発電用燃料油の調達を通して支援するものである。発電容量の増強・増設を行うものではないが、ナカラ回廊地域の電力供給の安定化につながるという意味で、インフラ整備、ナカラ回廊開発支援といった日本の上位政策や、工業化/産業化の推進に不可欠な電力アクセスの向上を優先分野の一つとするモザンビークの開発ニーズ、対象地域における電力供給の安定化のニーズ、持続可能な開発目標(SDGs)のエネルギーへのアクセスに関するターゲットとの整合性が認められる。ただし、発電に重油を用いることによる環境面及びモザンビーク電力公社(EDM)の財政面での持続性確保、対象地域内の電力アクセスにかかる格差改善の観点からも、要請検討時に妥当性を考慮することが望ましいと考えられる。 (評価結果:高いB) 

(2) 結果の有効性

北部地域の電力供給の改善のために長期的観点から必要とされる大規模な発電所建設の具現化を待つ間も、電力需要の増加による既存系統のひっ迫は続くため、電力供給の安定化と質の確保、大規模停電の防止を目的とする緊急的な対応として、発電船からの電力供給を維持するために発電用燃料油の調達を支援するという協力アプローチは妥当であった。本案件で調達された燃料は、発電船からの電力供給に約1年間にわたり使用され、EDMは発電船を運転する独立系発電事業者との契約で合意した通り、必要とする電力を100%確保することができた。アウトカム・インパクトの面では、電力の質の確保、電力供給の安定化による対象地域の生産活動の維持が挙げられる。 (評価結果:高いB) 

(3) プロセスの適切性

開発課題の把握と要請内容の検討・協力内容の決定、経済社会開発計画(調達代理方式)のスキームの手続に沿った案件の実施は、適切に進められた。一方、調達された燃料の引渡し後の使用状況と電力供給実績に関するモニタリングと記録が十分に行われていない状況が認められた。また、案件の内容と期待される開発効果をわかりやすく広報するという面で、情報の発信内容の具体性に欠ける点があった。 (評価結果:一部課題があるC) 

(注)レーティング: 極めて高い A/高い B/一部課題がある C/低い D

● 外交の視点からの評価

(1)外交的な重要性

モザンビークは、ザンビア、マラウイなどの内陸国にとっての外港を有しており、インド洋とアフリカ内陸をつなぐナカラ回廊地域の平和と安定は、同国の開発、アフリカ地域全体の開発、及び日本が推進する「自由で開かれたインド太平洋」の実現にとって重要な位置づけにある。また、同国は国際社会においても連携している親日国であり、2017年には二国間の外交関係樹立40周年を迎えた。さらに、同国は豊富な鉱物・エネルギー資源を有しており、約30社の日系企業が進出している。本計画はモザンビーク北部地域を中心とするナカラ回廊地域の社会・経済活動の促進に貢献することが期待され、協力実施の意義は大きかったと考えられる。

(2)外交的な波及効果

本案件はモザンビークの非開示債務問題による財政事情悪化の中、中・北部系統の電力供給の安定化に必要な電源の発電を継続するため、緊急的に要請されたものである。その要請に迅速に応え、電力供給が維持されたことは、二国間関係の信頼の強化に貢献したと考えられる。

評価結果に基づく提言

(1)開発ニーズの分析に基づく案件の成果設定と管理

今後の類似案件では、案件の進捗管理や国民への説明・情報公開に際して、案件の目的、協力内容、効果が案件関係者及び第三者に明確に理解されるよう、対象国の電力供給状況に即した、発電施設の運転維持によるアウトカム・インパクトを分析し、効果測定のための指標を設定することが望ましい。また、プレスリリースにおいても、期待される案件の効果について具体的に記載することが望まれる。

(2)供与品引渡し後のモニタリングの改善

本案件では、調達代理機関より提出された四半期報告書及び完了報告を基に、外務省本省及び大使館により事業実施状況のモニタリングが実施されたが、発電船の電力供給量や対象地域への電力供給の状況等、想定された効果の発現状況については案件の記録として残されていない。本案件は供与品が消耗品(燃料)のため、文書による記録がなければ、供与品引渡し後の使用状況や想定された効果の発現状況を事後に検証することが困難であった。したがって、あらかじめ設定したアウトカム・インパクトに照らし、燃料の引渡し後の使用状況とそれによる効果の発現状況について、燃料の使用状況に応じてEDMからモニタリング報告書を提出してもらうことも一案であったと考える。

(3)日本及びモザンビーク国内向けの広報活動の促進

本案件の交換公文(E/N)締結にかかる外務省の日本国内向けプレスリリースでは、具体的な対象地域や案件実施の背景、実施の具体的な意義・重要性といった点の説明が付されていない。また、モザンビーク外務協力省によるプレスリリースにおいても、経済社会開発計画の実施のために日本の無償資金協力にかかるE/Nが締結されたとの記載に留まっている。日本のODA事業の意義及び開発効果について十分な理解と支持が得られるよう、日本及びモザンビーク両国の国民に対する広報活動においては、案件の協力内容、対象地域、受益者、背景、実施の意義・重要性といった具体的な内容を伝えることが望まれる。発電用燃料油のように供与品の使用状況を目に見える形で一般に広報することが難しい場合もあるが、EDMの顧客向け広報資料や年次事業報告に日本の協力の内容及び効果を記載してもらうといった方法も考えられる。

日本、モザンビーク両国外務大臣臨席のもと行われたE/N署名式の写真。

両国外務大臣臨席のもと行われたE/N署名式

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