ODA評価年次報告書2018 | 外務省

ODA評価年次報告書2018

2017年度外務省ODA評価結果概要

「無償資金協力個別案件の評価」 概要

全文はこちらからご覧いただけます。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/files/000358922.pdf new window

評価者
(評価チーム)
評価主任 稲田十一
専修大学経済学部教授
アドバイザー 勝間 靖
早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授
コンサルタント (株)グローバル・グループ21 ジャパン
評価実施期間 2017年8月~2018年2月
現地調査国 ヨルダン、パレスチナ自治区

評価の背景・対象・目的

外務省が実施する無償資金協力案件で、10億円以上の供与額で事業が完了している案件のうち、(1)ヨルダンに対する2013年度「シリア・アラブ共和国から流出した難民等に対する緊急無償資金協力」、(2)パレスチナ自治区に対する2014年度「ノンプロジェクト無償資金協力」の2件の案件について評価を行ったものである。

これまで緊急無償資金協力やノンプロジェクト無償資金協力の個別案件については、実施主体がJICAではなく外務省であるため、評価を実施してきていなかったが、無償資金協力のPDCA サイクルを一層強化することを目的に、上記2案件の評価を実施することとしたものである。

(1) 2013 年度ヨルダンに対する「シリア・アラブ共和国から流出した難民等に対する緊急無償資金協力」 

案件の概要

2011 年3 月にシリアで起こった民主化運動がシリア危機に発展し、2013年9月には50万人を超える規模のシリア難民がヨルダンに流入したため、緊急人道支援を目的に供与総額10億円の支援をヨルダンに対して実施したもの。具体的には、シリア難民を受け入れるヨルダン国内の自治体に、ごみ収集車、ホイールローダー、給水車、汚泥運搬車を供与した。

評価結果のまとめ

1 開発の視点からの評価

(1)案件の妥当性( 評価結果: C 一部課題がある)

多くのシリア難民流入によりヨルダンの経済・社会状況が不安定化・脆弱化する中で実施された本案件の政策面での妥当性は極めて高い。一方、緊急人道支援という趣旨に合致した対象範囲であったかどうかも検討する必要がある。本案件の場合、シリア危機発生以前からの開発ニーズに応えた側面があることや、建設目的で使用される大型のホイールローダーを供与したこと、多くの機材の納入先を比較的シリア難民数が少ないヨルダン南部地域としたことは、緊急・人道目的に適切に応えたものとは言い難い面があり、案件の妥当性には一部課題があると言える。

(2)結果の有効性( 評価結果: C 一部課題がある)

現地調査で確認できた供与機材は概ね各自治体にとって必要とされるものであり、程度差はあるが稼働状況も特に問題ないことが確認できた。一方、建設目的で使用される大型ホイールローダーの供与や、シリア難民数が比較的少ないヨルダン南部地域に多くの機材供与がなされるなど、緊急人道支援という本案件の趣旨に必ずしも合致していない側面もあったことから、その有効性は十分高いとまでは認められず、一部課題があると言える。

(3)プロセスの適切性( 評価結果: C 一部課題がある)

本案件の趣旨に合致した形で、迅速に手続きが進められたと認められる。一方、案件の対象範囲の妥当性を検討・確認するプロセス、適切な広報と情報公開、案件の対象範囲の変更に関わる検討記録を残すこと等において改善すべき点があったと認められる。

2 外交の視点からの評価

日本政府は、これまでにヨルダンに対し総額1,000億円近いシリア難民支援関連の二国間援助(円借款含む)を継続的に行ってきた。これらの支援もあって、首脳同士の交流も含めた日本とヨルダンの関係は極めて良好であり、順調に強化、発展してきている。

また、エネルギー資源の多くを中東地域に依存する日本にとって、イスラエルと外交関係を有し、中東和平プロセス推進にも積極的なヨルダンへの支援は、ひいては中東地域の安定にも資するものであり、日本の国益にも合致する。また、日本は国連総会の場等でシリア難民支援を表明しており、日本の外交政策の認知度向上の観点からいっても、本案件は肯定的に評価できる。

ただし、これらの効果が本案件のみでもたらされていると断言することは困難であるため、上記のとおり、これまでの一連のヨルダン支援全般を外交の視点で捉えることで、本案件のありうべき外交的重要性等を評価することとした。

提言

1 緊急人道支援と開発支援のそれぞれの目的に照らした案件対象範囲の明確化

本案件は緊急人道支援がその目的であったが、人道的には緊急性のない開発志向の強い要素が含まれていた。人道的に緊急性のない開発ニーズについては、緊急人道支援の案件の対象範囲には入らないよう考え方を整理することが望ましい。

2 案件計画時にその対象範囲の妥当性を確認する機能の強化

相手国政府の要請内容を尊重するだけではなく、計画初期の段階で迅速に案件の対象範囲の妥当性を確認する作業(イニシャルアセスメント)の強化を図るべきである。

3 案件の対象範囲の変更に伴う検討記録の保存

案件の対象範囲に関わる重要な変更に関しては、その検討プロセスを明確にするとともに、記録を適切に保存しておくべきである。

4 適切な広報の実施

本案件に関わる情報公開は限定的であり、日本のシリア難民支援の全体像も十分な広報がされていない。日本にとって非常に重要な中東地域におけるシリア危機に関して、日本が然るべき責任を果たしていることを国際的に説明し、国民への説明責任を果たすためにも、より適切な広報が望まれる。

5 相手国政府による運用維持管理に関わる報告

本案件実施にあたって、機材供与後の運用維持管理状況をヨルダン側に報告させる義務は課していない。案件の有効性の確認のためにも、供与後3 年から5 年を目途に実施機関であるヨルダン自治省を通じてその状況を報告させることが望ましい。

(2) 2014 年度パレスチナ自治区に対する「ノンプロジェクト無償資金協力」の評価概要

案件の概要

パレスチナ自治区は、2000年以降の度重なる衝突により、社会・経済インフラの破壊や雇用機会の大幅な減少など厳しい経済状況に直面した。本案件は中東和平プロセス推進のためにも不可欠なパレスチナの市民生活の安定を図るべく、パレスチナ自治政府の経済社会開発努力の推進を支援するもの。

具体的には、パレスチナ自治区において必要とされるガソリン、ディーゼル油を購入するため10 億円の支援を行った。

評価結果のまとめ

1 開発の視点からの評価

(1)案件の妥当性( 評価結果: A 極めて高い)

2014 年当時、ガザ紛争後の財政状況の更なる悪化を受け、国際社会の対パレスチナ財政支援の機運が一層高まった。そのような状況下において、外貨支援としての性格も有するノンプロジェクト無償資金協力を実施したことの妥当性は極めて高いと言える。

(2)結果の有効性( 評価結果: B 高い)

本案件10 億円の対パレスチナ支援全体に占める割合及び本案件によって調達された石油製品がパレスチナの輸入総量に占める割合はともに小規模なものであり、本案件単体の影響は大きくはない。ただし、2007年から2014年まで毎年10億円規模で継続的に供与されたノンプロジェクト無償資金協力を一体として考えた場合、安定的な資金源としてパレスチナ自治政府側から非常に感謝されており、結果の有効性は高いものと評価できる。本案件評価を実施した時点においては見返り資金を活用した事業は未実施であったが、これまでの実績を勘案して、優先事業に効果的に活用されることが期待される。

(3)プロセスの適切性( 評価結果: A 極めて高い)

本案件の趣旨に合致した形で、迅速に手続きが進められている他、JICAの技術協力との連携が積極的に模索、実施されていること、 対パレスチナ日本政府代表事務所とパレスチナ自治政府との間で案件の実施状況が定期的に把握されていること等プロセスの適切性は極めて高いと評価できる。

2 外交の視点からの評価

日本の対パレスチナ支援は1993年以降、累計約17. 8億米ドル(2017年7月現在)となり、パレスチナはもとより他のアラブ諸国やイスラエルからも歓迎されている。日本はパレスチナ自治政府に対して2007年から2014年まで毎年ノンプロジェクト無償資金協力を実施してきており(10件102億円)、対パレスチナ支援全体と しても、安定的、継続的な支援を継続して実施してきた。これらの一貫した取組が、パレスチナ側の日本に対する好感度、高い評価の定着、日本とパレスチナの関係の強化につながっていると考えられる。

特に在外公館が、外交の手段として開発協力を積極的に活用することを強く意識し、JICAと連携しつつ見返り資金の活用を図り、また、SNS(含む動画)の活用も含め、効果的な広報も行うなど、開発と外交の双方の効果を高めるために重要な役割を果たしていると認められる。

ただし、これらの効果が本案件のみでもたらされていると断言することは困難であるため、上記のとおり、これまでの一連のパレスチナ支援全般を外交の視点で捉えることで、本案件のありうべき外交的な重要性・波及効果を評価することとした。

提言

1 外務本省と在外公館との一層の連携

見返り資金活用事業に係る「事業完成報告書」のパレスチナ側による提出が、後続の新規の見返り資金活用事業の検討の前提条件になっているとの現状に鑑み、「国民への説明責任を果たすこと」と「タイムリーで外交的効果を最大化し得るような事業実施」との両立を図るべく、パレスチナ側との窓口である在外公館と事業実施を統括する外務本省との連携を強化することが肝要である。

2 見返り資金の活用事例の執務参考資料化

在外公館が管理する見返り資金と、JICAの技術協力との組み合わせが現地では積極的に模索、実施されていた。このような複数のスキームの連携事例を今後広く他の案件実施の参考とすべく、他の在外公館等と共有することが望ましい。

3 積極的な国内広報の実施

本案件に関わる情報公開は限定的であり、見返り資金活用事業に関する日本国内での広報も十分ではない。現地で感謝されている優良案件であればこそ、外務本省側において、より積極的に情報を公開し広報に努めることが、本件のような援助スキームに対する日本国民の理解を広め、同時に現地での認知度を高め外交効果を高めることにつながると考える。

このページのトップへ戻る
ODA評価年次報告書へ戻る