重点政策・分野別政策 分野別開発政策

法制度整備支援に関する基本方針(改訂版)1

平成25年5月

  1. 基本的考え方

     世界各地の開発途上国に対し,立法支援や制度整備支援を行う法制度整備支援は,良い統治(グッド・ガバナンス)に基づく開発途上国の自助努力を支援するとともに,開発途上国が持続的成長を実現するために不可欠な基盤づくりを支援するものである。また,法制度整備支援は「法の支配」を重視し,その強化を国際社会に訴えてきた我が国として,将来に渡り,国際社会における名誉ある地位を保持していくための有効なツールであり,戦略的な支援を展開していく必要がある。そこで,我が国の対外援助の基本方針である政府開発援助(ODA)大綱,ODA中期政策等に基づき,1)自由,民主主義,基本的人権等の普遍的価値観の共有による開発途上国への法の支配の定着,2)持続的成長のための環境整備及びグローバルなルール遵守の確保,3)我が国の経験・制度の共有,我が国との経済連携強化,地域的連携・統合の基盤整備,4)日本企業の海外展開に有効な貿易・投資環境整備や環境・安全規制の導入支援,5)ガバナンス強化を通じた我が国が実施する経済協力の実効性の向上と国際開発目標達成への寄与といった観点から,基本法及び経済法の関連分野において積極的な法制度整備及び運用の支援を行うこととする。我が国の法制度整備支援は,現地に専門家を派遣して,相手国のカウンターパート機関と対話・調整を進めながら,我が国の経験・知見を踏まえつつも,相手国の文化や歴史,発展段階,オーナーシップを尊重し,国の実情・ニーズに見合った法制度整備を支援していることに特長がある。さらに,法の起草・改正にとどまらず,法制度が適切に運用・執行されるための基盤整備,法曹の人材育成や法学教育,運用に係る実務面での能力強化までを視野に入れ,相手国自身による法制度の運用までを見込んだ支援を行っているという特長もある。このような日本ならではの技術協力は,開発途上国側の能力向上に資するとともに開発途上国と我が国の間の関係強化にも資することが期待される。

  2. 法制度整備支援の実施体制

     今後も日本の法制度整備支援の特長を活かし,相手国のニーズ・案件に応じ,専門家の派遣,学者や法律実務家,制度運用機関を中心とする国内組織からのサポート,訪日研修,留学生受入,開発政策借款による相手国の制度・政策改善,国際機関を通じた支援等の多様な手法を組み合わせ,また有機的に連携させて,柔軟でバランスの良い,効果的な支援を実施する。

     支援の充実を図るには,派遣される専門家はもちろんのこと,法制度整備支援に取り組むことに適当な人材をより多く確保することが不可欠であることから,人材の活用と育成のための基盤整備を図る。さらに,具体的な支援の実施等においては,外務省,法務省等の関係省庁の連携はもとより,政府と日本弁護士連合会,経済団体等関係者及び大学等関係者との間の官民連携が不可欠であることから,引き続き,法務省・JICA主催の法整備支援連絡会などの既存の枠組みも活用しながら,具体的な官民連携による支援策についての検討を行い,オールジャパンによる支援体制を強化していく。なお,我が国の援助リソースを効果的かつ効率的に活用するためにも,他ドナーとの役割分担にも留意し,研究機関とも連携しつつ,選択と集中による支援を実施する。

     また,現地の我が方大使館・JICA事務所と現地に派遣された専門家が緊密に連絡することを通じて,法制度整備支援の過程で形成された人脈が断絶することなく,その後も現地の情報収集等に活かされるよう努める。

  3. その他(支援の効果的実施のために必要な事項)

     (1)法制度整備支援に投入可能なリソースが限られる中,援助効果を高め,戦略的に支援を行うため,今後も新規案件形成に際しては,優先順位付けをより積極的に行う。なお,投資環境整備に必要な法制度整備を行うにあたっては,技術協力による相手国の制度の構築や能力強化等に加えて,開発政策借款も有効に活用する。具体的には,開発政策借款を既往の技術協力から得られる経験を踏まえた政策目標の策定や法整備支援関係の調査,専門家派遣,研修等と組み合わせた形で行うことにより,その効果の拡充を図る。

     (2)法制度整備支援の性格上,定量的な指標で成果を計ることの困難さはある一方,事業成果についての説明責任が強く求められている。現地のニーズや事業に対する評価をきめ細かく聴取することで,より事前・事後の評価に意を用いる。

  4. 国別実施方針

     法制度整備支援の実施に当たっては,被援助国のニーズ,これまでの支援実績,我が国にとっての外交面及び経済面での重要性,等を総合的に勘案する。また,特に基本法分野への支援は,その国の発展に必要な基盤整備の根幹部分であり,相手国の歴史や文化,生活習慣に深く根ざしていることから,それらの諸点で我が国との共通性・親和性を有している国について,法体系の同質性なども考慮する。また,途上国のニーズに加え,我が国経済界のニーズも踏まえた支援国,対象分野等の選定に留意する。

     以上を踏まえた上で,当面の方針としては,インドネシア,ベトナム,ミャンマー,モンゴル,カンボジア,ラオス,ウズベキスタン,バングラデシュの8ヶ国を中心に進めていくものとする。その際,これら8ヶ国については,下記のとおり国別の実施方針を定めることとする。なお,中国については,日本企業の円滑な活動及び法の支配に基づいた健全なガバナンスの確立のために協力を行っていく。

     また,今後,民主化の促進,法の支配の定着,平和構築支援,投資環境整備,官民連携等の観点から,8ヶ国以外のネパール,東ティモールなどのアジア諸国や,アフリカ諸国等に対しても,相手国のニーズや必要に応じて,支援の需要を更にくみ取っていくこととする。

    1. インドネシア

       (1)インドネシアにおいては,貿易手続,税務,労働法,民事訴訟の簡易手続等,民間の事業活動に関わる様々な法制度整備とその透明かつ適正な運用が課題であるとの認識の下,我が国は,知的財産権法及び競争法に関し,適正かつ円滑な執行のための実施ガイドラインの策定支援,人材育成等の組織強化支援を行っている。また,司法に対する国民及び国際社会の信頼を得るとともに,投資環境改善の上でもガバナンス改革は極めて重要であることから,国家警察を民主的な組織としていくための国家警察支援や最高裁判所に対する調停制度に関する制度整備等の支援も行ってきた。

       (2)これまで実施してきた,経済法整備・運用関係では,知的財産権法や競争法に関し良好な成果を上げてきているほか,選挙支援や警察支援等のガバナンス支援でも,我が国の支援が十分効果を上げつつある。また,我が国は,開発政策借款も通じて,投資・事業環境整備に係る法制度の整備,運用の改善を促している。一方で,今後もインドネシアの経済発展の観点のみならず,我が国からの投資促進・日本企業保護の観点からも,関連法制度整備及び運用改善を行う必要性は依然として高い。ただし,インドネシアの法制度整備分野は他ドナーも多くの協力を実施しているため,我が国の援助リソースを効果的かつ効率的に活用するためにも,他ドナーとの役割分担にも留意しつつ,選択と集中の観点から真に必要な協力に注力して支援する必要がある。

       (3)我が国は今後,円滑な経済活動の基軸となる基本実体法令,手続法令の改正や,必要な立法措置やガイドラインの整備・拡充が望まれている経済法整備関連の支援,これらの法令の円滑な運用に向けた支援を重点的に検討する。その際,情報通信等の制度整備のニーズがある場合,これに対応することも検討する。ガバナンス支援では,これまでの国家警察民主化支援を中心とする協力の成果を踏まえ,市民警察活動の全国展開に向けた取組を行うとともに,健全なガバナンスの基礎となる司法分野について,インドネシア側独自の取組と協力ニーズを踏まえ,人材育成を中心とする更なる支援の実施に向けて,検討を行っていく。
    2. ベトナム

       (1)我が国はベトナムが経済成長促進・国際競争力強化,社会・生活面の向上と格差是正及び環境保全のそれぞれの開発課題に対応していく上での基盤として,健全なガバナンス体制の確立が必要であるとの認識の下,民法,民事訴訟法等,各種法律の制定への支援や,金融,中小企業,投資環境整備等に関する政策的な助言,競争法,消費者保護法,知的財産権,通関,基準認証等の法令の執行にあたる人材育成への支援等の経済法分野の支援を行っている。近年,基本法分野では,ベトナムの課題の変遷に合わせて,起草支援に加え,法の適正な運用の確保という観点から司法制度の整備及び地方も含めた法曹・法律職等の人材の育成への支援面を強化し,高い評価を得ている。

       (2)ベトナムでは法令の制定及び執行・運用における改善という課題がある。この面での改善は,同国における法の支配に基づいた健全なガバナンスの確立のために必要であり,また,我が国企業の活動の円滑化のためにも資することになる。

       (3)ベトナムへの法整備支援の特徴としては,技術協力を中心とした上記取組について,日越官民対話の枠組みである「日越共同イニシアティブ」を含む多様なスキームを活用し,法令の制定及び執行・運用面の改善を促進している点が挙げられる。

       (4)今後,ベトナム自身が定めている法制度整備戦略及び司法改革戦略との整合性に留意しつつ,法律の運用面での能力向上を図るため,人材育成等を通じた立法能力の強化及び法律の実施体制強化支援(裁判所,検察院,行政府(地方を含む)の能力強化,弁護士会の組織強化等)を継続する。経済法関連分野では,税関,税務,税制,競争法,金融,知的財産法,基準認証分野で,関係部局の職員の能力向上に関する支援を継続する。また,投資環境の改善,公共事業等の円滑な実施を図るため,投資促進政策・施策を担当する部局,公共調達部局への助言を行うとともに,近年市場経済化の進展に伴ってニーズが高まっている,消費者保護分野,PPP(官民連携),環境・省エネ関連の制度整備について支援の検討を進める。
    3. ミャンマー

       (1)ミャンマーでは,2011年の新政権発足後,民主化推進,市場経済化の促進を表明し,政治,経済,社会開発のそれぞれの分野において加速度的に改革を推進している。こうした動きを更に進める前提として,ミャンマーにおいては,法の支配の確立やガバナンスの向上,また市場経済に合致した法令の整備,法令の抵触・オーバーラップの解消及び法令の公布・公表によって,投資やビジネスを展開する上での透明性や予測可能性を向上していくことが喫緊の課題となっている。

       (2)我が国は,ミャンマーの民主化と社会・経済改革を後押しするため,その基盤づくりに資する法制度整備支援を一層強化していく。それに際しては,ミャンマーが直面する喫緊の課題であり,かつ我が国企業の経済活動基盤整備にも資する民商事法,金融,税関行政を含む経済法分野等を端緒としつつ,関係行政機関や司法機関における起草能力強化・人材育成をも視野に入れた支援を行うことを基本とする。更に,今後同国政府に優先度を確認していく必要があるが,基準認証,投資環境整備,知的財産権,公共事業等の円滑な実施に資する法整備などのニーズは高いものと考えられるため,これら支援の可能性も検討する。また,ミャンマー側のニーズや支援の実績から得られた教訓を踏まえつつ,ガバナンス強化を始めとする法・司法分野における包括的な支援を実施し,ミャンマーにおける「法の支配」の確立を目指すと共に,自由や民主主義の定着のため早急に必要とされる協力についても検討する。
    4. モンゴル

       (1)我が国はモンゴル政府の市場経済に関する制度整備・人材育成に対する支援として,調停制度の整備,税制の整備や徴税能力の強化,行財政管理能力,政策立案能力の向上に関する支援を実施し,高い評価を得ている。

       (2)同国では,市場経済化の進展や国際的な経済活動の活性化の一方で,外国企業に不利な法令解釈や判断が行われる等の問題も指摘されており,市民や企業の権利の保障や紛争解決手段の多様化に資する法・司法制度及び関連機関の機能強化や人材育成が課題となっている。

       (3)これまでの我が国の支援により,調停法が成立したことを受け,今後,法曹人材の育成や法制度が機能的に運用されるための継続的な支援を行い,調停制度の全国導入への協力の実施などを進めていく。
    5. カンボジア

       (1)我が国は,カンボジア政府が進める諸改革の成功に向けた支援として,税関,税制,税務等に関する協力の実施に加え,民法・民事訴訟法の起草・成立支援や,裁判官・検察官養成校における組織的な学校運営・法教育のノウハウ移転といった人材育成支援を行ってきた。また,弁護士の人材育成についても様々な研修プログラムの活用を通して協力してきた。

       (2)これまでの協力を通じて,民法,民事訴訟法及びその関連法令が成立するなど,重要な成果を上げているが,今後はその適切な運用の確保など,民事分野における支援のニーズは依然として存在することから,今後も継続的に支援を実施していく必要がある。また,各省庁が起草する法令間の整合性を保つための,政府内部での調整機能の強化が必要である。

       (3)我が国は,引き続き民事分野に焦点を当て,日本が支援したカンボジアの新しい民法・民事訴訟法の運用を支える法曹,司法職員,大学講師等の中核となる人材の育成,実務教育の更なる一層の充実や,司法関係機関の組織強化等への更なる支援を行っていく。また,法令執行の観点から,税務行政,税関行政における近代化へ向けた支援,ステークホルダーとの対話を継続していく。
    6. ラオス

       (1)我が国はラオスの健全な経済発展,ASEANが進める地域経済統合・連結性の強化,域内の格差是正を図っていく観点から,法制度整備のための基盤づくり・人材育成,司法制度の強化等,法制度の信頼向上に向け,民法典起草や人材育成支援などを行ってきた。

       (2)これまでの協力を通じて,民法典起草が進んでいるほか,ラオスの司法関係機関及び大学等の法教育・研究機関の人材が着実に育成されてきている。

       (3)今後,我が国は,司法関係機関及び大学等の法教育・研究機関の人材育成の更なる強化及び実務の改善を目指すとともに,ラオスへ進出している日系企業からのニーズが高いラオスの投資環境整備に関する法制度整備への支援を,ラオス政府の援助受入態勢を勘案しつつ検討する。また,法令執行に関しては税関行政についての協力を継続していく。
    7. ウズベキスタン

       (1)我が国は,ウズベキスタンが着実に経済・社会改革を実施し,長期的には民主化を達成するよう,経済構造改革に伴う困難を緩和する援助,持続的経済成長の基盤作りへの支援に努めており,国別援助方針においても,「市場経済化の促進と経済・産業振興のための人材育成・制度構築支援」を援助重点分野の一つとしている。

       (2)ウズベキスタンでは,各種法令間の不整合や法解釈の不統一等により法令の円滑な執行・運用が行われないという課題がある。民間セクターの発展や貿易,外国投資の円滑化などに必要なビジネス環境の整備を主な目的として,法制度,税務,人材育成等の支援を行っていく。

       (3)今後は,行政手続法令の改正,法令データベースの整備,倒産法注釈書の作成等に関するこれまでの我が国の協力の成果と教訓を踏まえ,我が国の協力が具体的な成果につながる分野を慎重に見極めつつ協力の実施を検討するとともに,引き続き法令の適切な運用のための人材育成についても支援の可能性を検討する。
    8. バングラデシュ

       (1)我が国は,バングラデシュについて,持続可能かつ包摂的な経済成長の加速化と貧困からの脱却という開発課題に取り組んでいく上での基盤として,健全なガバナンス体制の確立が必要であるとの認識の下,政府機能の強化や行政サービスの向上等のための支援を行ってきているほか,その他の様々な分野においても行政能力の向上に留意して支援を実施している。

       (2)バングラデシュは近年新たな生産拠点として,また巨大な市場として継続的な経済成長を遂げており,日本企業の進出も拡大しつつある。一方で,バングラデシュでは,投資にあたっての手続面,法制度面等が日系企業の投資拡大の阻害要因になっているという指摘もあり,この面での改善は,同国における法の支配に基づいた健全なガバナンスの確立のために必要であるとともに,我が国企業の活動の円滑化にも資することになる。

       (3)これまでバングラデシュに対して,法制度整備支援という観点からは,行政能力強化を中心に支援を実施してきているが,今後は経済法等の分野における支援についても検討を行っていく。


1 本基本方針改訂版は,法制度整備支援関係省庁(外務省,法務省,内閣府,警察庁,金融庁,総務省,財務省,文部科学省,農林水産省,経済産業省,国土交通省,環境省を含む)において協議の上,策定したもの。



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