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「モザイクの村」アシュクラフトを訪ねて
在バンクーバー総領事館
2019年春,カナダのブリティッシュ・コロンビア州内陸の山間部にあるアシュクラフト村に住むカナダ人アーティストから,日系カナダ人をテーマに製作したモザイク壁画の除幕式を行うので,総領事に是非ご出席いただきたいとのメールを受け取りました。
アシュクラフト村は,日本と姉妹都市提携にあるブリティッシュ・コロンビア州の33都市のひとつであり,北海道美深町と1994年から交流があります。姉妹都市間の交流の促進や日系人に関わるイベントに出席することは,総領事の重要な業務のひとつなので,招待をお受けしない理由はありません。

とは言え,山間部にある人口1,500人程の小さな村の,それも見ず知らずの地元アーティストからの招待に,最初は訝しく思いましたが,メールのやり取りを重ねるうちに,詳細が明らかになってきました。
メールの主は,2007年に村に移り住んだアーティスト,マリーナ・パパイスさんとダニエル・コレットさんで,誰でも参加できるモザイク製作を通じて,より良いコミュニティを作りたいと始めた取り組みが,今では村を挙げてのプロジェクトになり,今回招待を受けたイベントもプロジェクトの一環として,戦時中に強制収容された日系カナダ人の歴史を振り返り,和解をテーマに製作したものであることが分かってきました。
10月5日,羽鳥総領事夫妻が,日本の総領事として7年ぶりにアシュクラフト村を訪れると,バーバラ・ローデン村長とともに今回のイベントを調整された日系人のヒロコ・カナマルさんが出迎えてくれました。
除幕式の対象となったのは日系人に関連したモザイク壁画3点であり,それぞれのモザイクが設置されている場所を移動しながら除幕式を行います。早速最初の会場に到着すると,そこには村の殆どの人が集まっているのかと思うくらい大勢の人たちで溢れており,その中には,日本から駆けつけた美深町のアーティスト,長岐和彦さんもいらっしゃいました。作品は,長岐さんの作品と地元アーティストの作品をコラボさせ,村人が製作成したものです。

2箇所目は,鶴がモチーフになっており,今回のイベントの重要なテーマである日系人との和解を表す「寛恕」という漢字が添えられている作品です。先の大戦時,ブリティッシュ・コロンビア州に住んでいた日系カナダ人22,000人は敵性外国人として,強制収容所に送られました。移民国家であるカナダは,戦後,多文化主義を政策として進め,1988年にはカナダ政府が日系カナダ人に対し戦時中の差別的な政策を正式に謝罪しました。今日でも「和解」はカナダ社会における重要なテーマのひとつとなっているのです。
各会場の間は,村人たちに混じって村の中を歩いて移動しますが,大小20以上のモザイク壁画が建物の壁や公園など各所に設置されており,村全体がひとつの美術館のようです。今では,ヨーロッパからもわざわざモザイクを見にやってくる観光客がいるほど「モザイクの村」として有名になっていると誇らしげに語ったローデン村長の話を思い出し頷きました。

そして,最後の除幕式の作品は,ハーモニーベルと題された4枚のパネルからなる塔であり,3面はそれぞれヨーロッパからの移民,先住民,中国系カナダ人が,そしてもう1面は今回披露された,日系カナダ人たちが,桜の花の下で微笑んでいる姿とともに日本語で「世界がひとつになって」と添えられています。
山間部の小さな村ながら,モザイクの製作や展示に村を挙げて取り組んでおり,また,日系人の住民とも連携し日系人強制収容に係る和解に取り組むなど,モザイクを通じてコミュニティの活性化が図られている様に,カナダの多文化主義の奥深さを感じた訪問でした。