グローカル外交ネット
外務省での勤務を通じて
外交実務研修員 宇野 希美
(兵庫県より派遣)
1 はじめに
私は2018年4月より,兵庫県から外交実務研修員として出向させていただいており,中東アフリカ局中東第一課にて約2年間勤務させていただきました。まもなく本省勤務を終え,春には在外赴任を控えているところです。現在,地方連携推進室にて2か月間の短期研修をさせていただいておりますが,ここでは,中東第一課での経験を中心に振り返りたいと思います。
2 中東第一課での業務
中東第一課は,湾岸地域等を除く中東・北アフリカ地域を所管しており,私は,トルコ班の一員として日・トルコ関係の業務に携わらせていただきました。トルコは日本にとって歴史的な友好国であり,両国は様々な協力関係を築いています。その中で,私は主に,防災協力,大学設立構想,社会保障協定の3つの分野を担当させていただきました。その他にも,トルコ外相の訪日,G20におけるエルドアン大統領等の訪日,即位の礼といった各種行事における総理表敬,各種会談,天皇皇后両陛下との御会見等の調整業務にも携わらせていただきましたが,ここでは,担当案件のうち,在任中に特に大きな動きのあった防災協力と大学設立構想についてご紹介させていただきます。
(1)防災協力


トルコは日本同様,地震国であり,1999年のトルコ北西部地震や2011年の東日本大震災等,大規模地震が起こった際にはお互いに支援・救助活動を通じて助け合ってきました。また,兵庫県の「人と未来防災センター」をモデルとした「ブルサ県災害研修センター」の建設や,1999年の地震に対する兵庫県民からの義捐金の残余基金を活用した防災意識の啓発・向上のための研修が実施されるなど,トルコは防災意識が非常に高い国です。
そのような中,特に2017年秋以降,日・トルコ首脳間等で,防災分野における両国の関係をさらに深め,災害予防や災害応急対応の分野における課題に対し包括的な協力を推進することの重要性が繰り返し確認されるようになりました。そして,私が着任した2018年4月以降,いよいよ本格的に,実施可能な協力案件を具体化するべく,両国関係者との調整が始まりました。
防災分野は多くの関係者が関わっており,多数の関係省庁との調整,日本の立場・意見のとりまとめ,トルコ側への伝達,トルコ側の要望把握,官邸への報告等を進めてきました。同年9月には,現状の課題やゴールを明確にするため,関係省庁から成るミッションをトルコに派遣し,両国関係者による対面協議を行いました。そして同年12月に,二国間,さらには第三国や国際場裡において,包括的な防災協力を強化し,推進していくための覚書が両国間で署名されました。9月のミッション派遣においては,出張関係の調整はじめ,協議のアジェンダ検討,資料の準備,記録作成等といった一連のプロセスに携わることによって,当日の協議が円滑に執り行われることはもちろん,協議を今後にどう生かしていくかという成果までしっかりと見据えて準備を進めることの重要性を改めて学ばせていただきました。また,覚書については,自身で作成した一案が,非国際約束ではあるものの二国間文書として両国間の新たな協力という一つの形になったことは,非常に感慨深いものがありました。
その後,覚書に基づき,定期的に外交ルートを通じた両国間の意見交換を継続し,2019年12月には第1回年次協議を開催することができました。本協議の開催にあたっても,会場の手配,出席関係の調整,両国関係者との事前すりあわせ,アジェンダ作成,視察先の調整といった,準備から実施までの一連の作業に取り組みましたが,トルコ側のデリゲーションが気持ち良く本国に戻られ,無事に協議を終えられたときには,大きな達成感と安堵感がありました。
(2)大学設立構想

日・トルコ間の教育分野の協力の強化,科学技術協力の促進,学術交流の推進等に寄与することを目的として,2013年,トルコ・日本科学技術大学の設立が両国首脳間で合意されました。両国の象徴的な協力案件として,以降,二国間協定の締結等,大学設立に向けた準備が進められ,2019年初めに両国の理事が任命されたことを受けて同年8月にトルコで第1回理事会を開催しました。その後も,定期的な両国間の対話が可能となるよう関係者ミッションの派遣,テレビ会議,電話会議等を調整し,大学のコンセプト,学長選考プロセス,大学整備計画案等について何度も議論を重ねてきました。これらについて,両国で合意に至ったものもあれば,引き続き議論を継続することになったものもありましたが,本大学の早期開校に向けて着実に前に進んでいることを実感するとともに,重みのある仕事に携わらせていただいているという身の引き締まる思いが常にありました。特に,日本側の理事は,ノーベル賞受賞者,学長・副学長経験者,教育行政経験者,国際的業務経験者といった,教育科学分野の第一線で御活躍されている方々で構成されており,こういった方々と共に,どういった大学を目指すべきなのか,そのためにどういうプロセスが必要かいったことについて,日々議論し本構想を進めさせていただいたことは,とても稀有な経験だったと思います。大学の設立は,息の長い事業ではありますが,いつの日か両国の国益,ひいては世界の教育・研究にも貢献するような大学がスタートすることを,本構想に携わった一人として陰ながら祈っております。
3 おわりに
外務省では,常に予測できないことが起こる中,いかにスピード感をもって仕事を進めることが重要であるかということを,毎日身をもって感じました。一方で,省員の方々は,非常に多忙な業務においてもユーモアを忘れず,お互いの個性を尊重し合っておられます。そんな雰囲気の中で過ごした2年間は,私にとって刺激的であるとともにとても居心地が良く,毎日エネルギーをもらいながら,楽しく仕事に取り組ませていただきました。2年間でこれほどの密度の濃い,非常にやりがいのある経験をさせていただいたことに対して,外務省及び兵庫県に心から感謝申し上げます。これから控える在外勤務においても,見るもの経験するものをしっかりと逃さず「楽しんで」吸収していきたいと思っています。