グローカル外交ネット

令和3年8月20日

京都市総合企画局国際交流・共生推進室

1 プラハ市日本庭園について

 海外には500以上の日本庭園があると言われていますが、京都市の姉妹都市であるチェコのプラハ市にも日本庭園が存在します。この庭園は、1996年に京都市とプラハ市が姉妹都市提携を結んだ記念として、その翌年、現地の人々によって設置されました。プラハ市植物園はプラハ市動物園とともにプラハ・トロヤ地区に立地します。ブルタバ川流域の風景が見渡せる絶景のロケーションにあり、休日にはプラハ市民が家族や友人たちと訪れる憩いの場となっています。その一角に日本文化を象徴する日本庭園があるというのは、大変光栄なことです。
 ところが、現地に専門知識を持った職人が不在であることから、この日本庭園の維持管理が長く課題になっていました。日本的な風景の縮景は見られるものの、庭と池のバランスが崩れ、樹木も剪定時期が遅れ放置されたまま、日本庭園文化を正しく外国の人々に伝えるものとは言いがたい状態だったのです。

2 日本庭園改修に至るまで

 プラハ市が日本庭園の改修工事に踏み切ったのは、2016年の京都・プラハ姉妹都市提携20周年がきっかけでした。当時のプラハ市長が京都市を訪問された際、内閣府京都迎賓館や梅小路公園を視察され、日本庭園やビオトープに感銘を受けられたのです。
 2017年、プラハ市において、庭園改修のため数年間にわたるプロジェクトが正式に発足しました。そして、京都市はプラハ市から技術面での協力要請を受けました。日本庭園の修復及び将来にわたる維持管理には、日本の造園技術や文化の伝承が不可欠であることから、翌年、プラハ市植物園の副園長とプロジェクトマネージャーを招聘し、技術者を交えて日本庭園の修復について検討しました。国交省の「海外日本庭園再生プロジェクト」が立ち上がったのが同時期であり、良いタイミングであったことから、京都市は、プラハ市植物園の庭園改修のための技術者派遣にこの助成金を活用することにしました。

3 技術者派遣

 2018年、京都市が推薦した技術者がプラハ市を訪れ、プラハ市から委託された現地の造園業者に対し、維持管理技術の大切さを伝えました。クロマツやモミジ、ツツジ等の剪定技術の指導に加え、庭園設計に関し、枯山水や禅的なモダン山水の配置計画や植栽計画についても助言を行いました。
 チェコと日本では、気候や土壌に違いがあります。湿度が低く、冬も厳しいプラハでは、日本と同じ植栽計画では、たとえ改修されても維持が困難です。その地の四季、湿度、植物の育ち方に合った形での庭園設計、植栽計画、剪定こそが海外日本庭園の維持を可能にすることから、それを重視した派遣技術者の熱い思いも伝わってきました。

 

(写真1)モミジ剪定前(左)、モミジ剪定後(右)
プラハ市植物園 モミジの剪定 ビフォーアフター

4 二条城視察

 2019年には、プラハ市植物園の関係者が京都市を訪れ、二条城を視察されました。その際、二条城内の庭園の維持管理を受託している造園業者の剪定作業を御覧になり、実際に木々の剪定もされました。
 当室もこの視察に同行し、職人の方々のプロの仕事ぶりに感心させられました。プロの仕事というのは、ただ巧みな技術と見事な完成品を見せることではありません。長い年月をかけて培われてきた日本の職人の技術は素晴らしく、どの技術者にとっても誇りなのだと想像しますが、その腕を見せつけることは「ショー」であり、「伝授」にはなりません。どうすれば学ぶ人々が短い時間でコツを掴み、最低限の剪定の知識や技術を習得できるのか、その点を押さえた簡潔で分かりやすい、そして無理だと思わせない指導でした。プロの職人にとって技術の伝承は大切な仕事のひとつです。外国の人々に対しては、たとえ完璧でなくても、この先も継続可能な指導方法を選ぶことも大切であり、そうして受け継がれる技術にこそ価値があるものだと強く感じました。

 

(写真2)指導を受けるプラハ市植物園の関係者たち
二条城での剪定見学、実際の指導

5 庭園の完成に思いを馳せ

 日本庭園の借景には、日本の自然、文化、そして日本人の技術が集約されており、それは単なる「場所」であるだけでなく、日本人の自然を敬う心、人との関わり方や気遣いが垣間見える「生活文化」そのものです。日本庭園が海外の都市に造られることは、現地の人々の「日本」へのアクセスを可能にするもので、大変有効な「日本」の発信ツールにもなり得ます。
 新型コロナウイルスの影響で、国境を越えた物理的な移動がいまだ制限されている中、このような海外の日本庭園は、日本に思い出のある人々や、日本に関心を持つ人々、そして現地在住の日本人にとっても、心の拠り所になっているのではないかと思います。
 プラハ市の日本庭園改修プロジェクトはコロナ禍で一旦休止し、完成予定時期も延びましたが、茶室や枯山水など、京都の文化が詰まった新たな日本庭園に生まれ変わった時には、本物の日本文化に触れることのできる場所として、新しい憩いの場として、そして安らぎの空間として、多くの人々が訪れてくれることを願っています。プラハの人々に愛される日本庭園の再出発の日を心から待ち望んでいます。

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