地球環境

気候変動枠組条約第13回締約国会議(COP13)及び
京都議定書第3回締約国会合(COP/MOP3)
(12月3-15日)
-概要と評価-

平成19年12月15日
日本政府代表団

I.全体の概要と評価

  1. 気候変動枠組条約第13回締約国会議(COP13)・京都議定書第3回締約国会合(COP/MOP3)は、12月3日~15日の日程で、インドネシアのバリ島で開催された。我が国からは、鴨下一郎環境大臣、小野寺五典外務副大臣、西村六善内閣官房参与、小町恭士外務省地球環境問題担当大使、豊田正和経済産業審議官、小島敏郎環境省地球環境審議官、他が出席した。並行して開催された気候変動に関する貿易大臣非公式対話(8日、9日)には豊田正和経済産業審議官、小町恭士外務省地球環境問題担当大使、草賀純男同経済局審議官、他が、また、気候変動に関する財務大臣ハイレベル会議(11日)には遠藤乙彦財務副大臣、篠原尚之財務官、他がそれぞれ出席した。
  2. 2013年以降の枠組みについては、枠組条約の下に、新たにアドホック・ワーキング・グループ(AWG)を設置し(京都議定書下の既存のAWGと併行して2トラック)、2013年以降の枠組みを2009年までに合意を得て採択すること等に合意した。その際の議論において考慮される点として、1)排出削減に関するグローバルな長期目標の検討、2)すべての先進国による計測・報告・検証可能な緩和の約束又は行動(先進国間の取り組みを比較できるようにする)、3)途上国による計測・報告・検証可能な緩和の行動、4)森林、5)セクター別アプローチ、6)削減と適応における条約の媒介的役割の強化、7)小島嶼国などの脆弱な国への支援に関する国際協力、8)革新的技術開発の協力、9)資金協力等が明記された。

    (注)この交渉は会期終了の14日中に完結せず、日をまたいだ15日、COP全体会合にユドヨノ・インドネシア大統領、バン・ギムン国連事務総長が出席して、各国の歩み寄りを呼びかけ、議論を午後まで行った結果、採択に至った。

  3. 鴨下環境大臣は、閣僚級会合に出席し、次期枠組みに関し、1)2009年までに合意形成の必要があること、2)すべての主要排出国が参加する新たなAWGを条約の下に立ち上げ、京都議定書第3条9に基づくAWGとも連携を図りつつ交渉を行うべきこと、及び3)緩和、適応、技術、資金の4構成要素の他、長期目標、効率・エネルギー安全保障・コベネフィット、衡平な負担分担等も含むべき等の我が国の立場を説明した。また、バン・ギムン事務総長並びにインドネシア(議長国)、米、中、EU、英、ポーランドの計6か国との間で会談を実施し、上記我が国の基本的立場を説明するとともに各国との協力につき意見交換した。
  4. 小野寺外務副大臣は、フランス、アルゼンチン、モルディブ、ナイジェリア、チリ、ツバル、タンザニアの7か国の閣僚他との間で二国間会談を実施し、2013年以降の枠組みについての我が国の基本的立場を説明し、特に途上国各国に対して、気候変動の悪影響に脆弱な途上国のためにも、すべての主要排出国が参加する実効性ある枠組みの必要性につき理解を求め、その構築へ向けた協力を求めた。また、会談では我が国考え方に賛同する国に対して適応・緩和支援を検討していく旨説明した。
  5. インドネシア商業省が主催した気候変動に関する貿易大臣非公式対話には、30か国及び国際機関(世銀、WTO、UNCTAD、UNFCCC)等が参加(我が国からは、豊田経済産業審議官、小町外務省地球環境問題担当大使、草賀同経済局審議官、他が出席。)。貿易・開発・気候変動の相互関連性の検討のため、マルチの枠組での取組が重要であるが、次期枠組み交渉の終了までは、調査研究を進め、ハイレベルでの対話を継続すべき、との点で意見の一致を見た。当面は、WTOドーハ・ラウンド交渉の早期かつ成功裡の妥結を優先し、特に環境物品・サービスの貿易自由化を進めることとなった。
  6. インドネシア財務省が財務大臣間の非公式な対話として主催した気候変動に関する財務大臣ハイレベル会議には、36か国及び国際機関(世銀、IMF、UNFCCC等)が参加(我が国からは、遠藤財務副大臣、篠原財務省財務官、大江外務省国際協力局参事官、他が出席)。開発計画・経済政策に気候変動の観点を組み込む必要性、気候変動への対応での財務大臣の役割の重要性、さらに民間資金を誘引する政策手法の重要性について一致した。多くの国の参加者からクリーン開発メカニズム(CDM)の強化を含む炭素市場発展の必要性が指摘されたほか、途上国の気候変動対策を支援するための国際的資金メカニズムの拡充の必要性が指摘された。
  7. 次回COP14・COP/MOP4(2008年12月)については、ポーランドより開催の申し出があった。

II.主な成果と概要

1.2013年以降の枠組み

(1)条約の下のAWG(新AWG(バリ・ロードマップ))
 条約の下に、2013年以降の枠組み等を議論する新たな検討の場が立ち上げられ、2009年までに作業を終えることに合意した。

(2)先進国(附属書I国)の更なる約束に関する第4回AWG
 AWGにおける今後の作業計画が合意された。2009年には、検討作業の結果について結論を得ることとなった。

(3)京都議定書第9条に基づく議定書の見直し(9条レビュー)
 明年実施される第2回目の見直しにおける検討項目が課題であったが、対象項目を限定しない形で合意に達した。

2.途上国問題

(1)適応
 CDMのクレジットの2%を原資とする「適応基金」については、適応基金理事会を設置することが決定され、事務局としては地球環境ファシリティ(GEF)、被信託者としては世銀が暫定的に指名された。プロジェクトの実施については、一定の条件を満たせば途上国が直接行うことも認めることとなった。

(2)技術移転
 GEFが技術移転促進のための「ストラテジック・プログラム」を検討報告し、2008年6月の補助機関会合で検討することが合意された。また、技術移転に関する専門家グループ(EGTT)の2012年までの活動期間延長と検討作業の拡充が図られた。

(3)森林
 現在の枠組みで対応していない途上国の森林減少・劣化に由来する排出の削減を次期枠組みに組み込む方向での検討を開始すること、実証活動や能力開発に取り組むことが決定され、その実証活動のガイダンスが盛り込まれた。

1.2013年以降の枠組みについて

 主に以下4つの議題の下で議論が行われた。

(1)条約下の長期協力の行動に関するAWG(新AWG(バリ・ロードマップ))

 「気候変動に対応するための長期的協力の行動に関する対話」の終了に伴い、すべての締約国が参加して2013年以降の実効ある枠組みを検討するための新たな検討の場を条約の下に立ち上げるべく協議が行われ、枠組条約の下に、新たにAWGを設置し(2トラック)、2009年までに合意を得て採択すること等に合意した。その際の議論において考慮される点として、1)排出削減に関するグローバルな長期目標の検討、2)すべての先進国による計測・報告・検証可能な緩和の約束又は行動(先進国間の取り組みを比較できるようにする)、3)途上国による計測・報告・検証可能な手法での緩和の行動、4)森林、5)セクター別アプローチ、6)排出削減と様々な活動との統合、7)小島嶼国などの脆弱な国への支援に関する国際協力、8)革新的技術開発の協力、9)資金協力等が明記された。初回のAWGは、2008年3月又は4月に開催されることで合意した。

(2)先進国(附属書I国)の更なる約束に関する第4回AWG4

 AWGにおける今後の作業計画が合意された。作業の進捗においては、作業部会における検討と京都議定書におけるプロセスを調整し、作業の重複を避けることとなった。2008年には、事務局への情報提供、関連のワークショップ、テクニカル・ペーパーの作成などを通じて、削減に関する手法の検討を進めることとなった。2009年には検討作業の結果について結論を得ることとなった。また、ウィーン会合(AWGの前半会合との位置づけ)で認識したIPCCの第4次評価報告書の分析(世界全体での削減目標、先進国による削減幅等)についても言及された。

(3)京都議定書第9条に基づく議定書の見直し(9条レビュー)

 2008年のCOP/MOP4で行う第2回目の見直しにおける検討項目を特定することが課題であった。先進国の義務を中心とする議定書の実施状況の履行のみが見直しの対象であるとの途上国の主張と、幅広い事項を見直しの対象とすることにより、議定書の実効性を向上させることが見直しの目的であるべきとの先進国の主張が平行線をたどったが、結局、対象事項を限定しない形で合意に達した。

(4)ロシア提案(条約の下での自発的約束のあり方及び附属書の改正手続の簡素化)

 5月に行われたワークショップの報告が行われ、今後、条約の下における長期的協力に関するAWG及び議定書9条に基づく議定書の見直しにおいて、ロシアがこの件をとりあげることを招待するとの内容の結論が出された。(これまで、途上国側は本件を正式な議題とすることはできないと主張していたが、今回の議論により、正式な議論が行われる途が開かれた。)

2.適応

 CDMのクレジットの2%を原資とする「適応基金」についてはCOP/MOP2において管理原則等につき決議された。COP/MOP3においては、適応基金理事会を設置することが決定され、同理事会の下、事務局としてはGEF、被信託者としては世銀が暫定的に指名された(3年後にレビュー予定)。同理事会はCOP/MOPの定める原則の下でプロジェクト採否を決定する権限を持ち、COP/MOPに毎年業務報告を行う。プロジェクトの実施については、GEFと同様に国際機関等が行う場合のほか、一定の条件を満たせば途上国が直接行うことも認めることになった。

3.技術の開発及び移転

 会議冒頭、条約の下での実施状況を見直す必要があるとの決定に基づき交渉が行われ、実施に関する補助機関会合(SBI)の下でも技術移転の議論を行うこととなった。技術移転の実施の促進のために資金移転が必要であるとの途上国の要求に応え、GEFに技術移転促進のための「ストラテジック・プログラム」の検討を求め、第28回補助機関会合(2008年6月)までに報告を受け、検討することが合意された。また、科学上及び技術上の助言に関する補助機関会合(SBSTA)の下では、諮問機関として活動してきた技術移転に関する専門家グループ(EGTT)の2012年までの活動期限延長と検討作業の拡充(技術移転の実施状況のパフォーマンス指標の開発を含む)が図られた。

4.キャパシティ・ビルディング

 マラケシュ合意(COP7決定2)に基づいて実施されるキャパシティ・ビルディング活動に関して各国からの更なる情報提供を求め、またキャパシティ・ビルディング活動の国・世界レベルでのモニタリング・評価の方法について議論を行う必要性を確認した。更に、2008年6月に開催される包括的レビューを2009年12月までに終了することを確認した。

5.森林

 SBSTAでの2年間の検討を経て決議案が採択された。決議において、1)各締約国は途上国の森林減少・劣化に由来する排出の削減を目的とした実証活動や途上国のキャパシティ・ビルディング等に取り組むことが決定され、2)その実証活動のガイダンスが盛り込まれた。また、3)次回COP14に向けてSBSTAで方法論的課題に関する作業を行うことが決定された。さらに、次期枠組み検討において、4)関連する政策措置とインセンティブについて検討すること、5)森林に蓄積された炭素の保全・増加の役割についても検討することが決定された。なお、今次交渉の主要論点の一つであった新たな政策措置とインセンティブの対象となる活動について、我が国は森林減少のみならず森林減少に至らない森林劣化にも取り組む重要性を主張し、多くの途上国の強い支持を得て合意された。今日の決議の採択は、現行の枠組で対応していない排出源対策に取り組む方向で検討することに合意したものであり、全球的な排出削減に寄与することが期待される。今後の課題として、森林減少・劣化に由来する排出削減量の算定・観測手法の開発、インセンティブを与える具体的な仕組みの検討等が挙げられる。我が国は方法論的課題の解決に貢献するため、次回COP14の前にワークショップをホストする意志があることを表明し、歓迎された。

6.京都メカニズム(CDM等)

 CDMに関しては、CDM申請案件数が増加傾向にある中、制度運営の更なる透明性・効率性の向上に関する決定が行われた。また、二酸化炭素回収・貯留(CCS)技術のCDMとしての扱いについては、COP/MOP4でのガイダンスの採択に向けて検討が行われ、今後1年間の具体的な作業・検討スケジュールが決定した。小規模植林CDMの上限値を、これまでの2倍に当たる年間吸収量16キロCO2トンに引き上げることが決定した。

III.その他の個別議題概要

1.国際航空・海運からの排出

 本議題の議論を要求する一部先進国と、それを認めない一部途上国との対立のため、議題の取り扱いにつき合意が得られず次回会合で再び議論することとなった。

2.非附属書I国の国別報告書

 「非附属書I国の国別報告書に関する専門家諮問グループ」(CGE)のマンデート満了後の措置が議論された。CGEの主目的を国別報告書作成のための技術支援から、レビューなど内容の改善に移していこうとする先進国と、これに反対する途上国の対立状況となり合意に至らず、CGEは活動をいったん休止して本議題は第28回補助機関会合(2008年6月)で継続協議されることとなった。

3.研究及び組織的観測

 気候の全球観測システムを報告する際の改訂ガイドラインがCOP13で採択されるとともに、気候の陸域観測システムに関する標準、ガイダンス文書等の準備枠組みの基準などが合意された。また、地球観測衛星委員会(CEOS)によるGCOS実施計画の進捗が評価されるとともに、地球観測に関する政府間会合(GEO)第4回地球観測サミットにおいてUNFCCCに対する全球地球観測システム(GEOSS)の貢献に言及した宣言文が採択されたことが歓迎された。さらに、IPCC第4次評価報告書(AR4)の成果や気候変動の影響評価、適応等に向けた取組に対する科学的知見の提供において観測(特に先端的観測技術)が果たす役割の重要性等について確認された。

4.IPCC第4次評価報告書(AR4)

 第4次評価報告書を歓迎し、関連議題全て及び各国の政策の実施に活用すること、IPCCに対し情報提供を引き続き要望すること、また締約国特に附属書I国(先進国)に対し、IPCCの活動支援を引き続き要請することを決定した。また、情報交換のためのワークショップ開催、第29回補助機関会合(2008年12月)においてAR4に関する検討を終えることに合意した。

5.条約第6条(教育・訓練・普及啓発)

 教育・訓練・普及啓発に関するニュー・デリー行動計画を拡大する5か年計画が採択された。

IV.評価

(1)我が国は、「美しい星50」の三原則(1)主要排出国が全て参加し、京都議定書を超え、世界全体での排出削減につながること、2)各国の事情に配慮し、柔軟且つ多様性のある枠組みとすること、及び3)環境の保全と経済発展を両立すること)を踏まえた枠組みを検討する新たな場の立ち上げを最大の成果とすることを目指して、バリ会合に臨んだ。このため、米国が関与して、主要排出途上国の削減のあり方を議論する正式な交渉の場(新AWG)を、枠組条約の下に立ち上げ(2トラック)、そこで長期目標や削減対策等について検討し、2009年までに結論を得るものとの立場を明確に示した日本提案を作成した。10月のCOP13準備会合(於ボゴール)で初めて日本提案を紹介し、その後、内容を具体化した日本決定案を作成し、主要な先進国、途上国に対し、二国間会談や様々な機会をとらえて支持の働きかけを行ってきた。今回の決定は、日本提案に概ね沿ったものとなっており、日本が具体的な形でバリ・ロードマップの策定に貢献することができた。また、先進国、途上国のとるべき緩和行動につき、類似の表現を用いて、かつ、その内容についても選択の余地を残したことは、「美しい星50」三原則のうち、すべての国の参加に加えて、柔軟性・多様性の確保の観点から有効であった。

(2)主要排出国がすべて参加し、実効性のある枠組みの構築を目指しているとの我が国の基本的立場について、内外プレスやNGOに対しても積極的に発信し、我が国が気候変動に消極的であるとの一部の誤解を解消し、正確な理解の促進に努めたことは有用であった。

(3)北海道洞爺湖サミットにおいては、気候変動を最重要議題のひとつとして取り上げる考えであるが、G8プロセスや、米国主催の主要経済国への積極的参加を通じて、米国も参加し、正式な交渉が立ち上がった国連プロセスでの交渉の進展に貢献していきたい。

(4)今後我が国としては、「美しい星50」の三原則の具現化や、新たな資金メカニズムを通じた途上国支援等を通じて、引き続き議論を主導していく考えである。

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