
気候変動枠組条約第12回締約国会議(COP12)及び京都議定書第2回締約国会合(COP/MOP2)閣僚準備会合(概要と評価)
平成18年9月16日
日本政府代表団
要旨: 気候変動枠組条約第12回締約国会議(COP12)及び京都議定書第2回締約国会合(COP/MOP2)閣僚準備会合は、9月14日から15日にかけて、約40か国及び欧州共同体(EC)他が参加してチューリヒ(スイス)で開催された。今次準備会合は、本年11月6日から17日までナイロビで開催されるCOP12及びCOP/MOP2をいかに成功に導くかを念頭に、議長国ケニアとスイスの両国政府により、非公式な意見交換を目的として開催された。
我が国からは、小池百合子環境大臣他が出席し、今回の課題である1)アフリカの課題及び適応、2)技術移転及びCDM、3)将来枠組みについて、我が国の考えを主張した。
今回の準備会合では、これらのテーマが、ナイロビ会合での主要な議題である点について一定の共通理解が得られるなどの前進は見られたものの、意見の相違がみられる論点も多く残された。我が国としても、今回の会合で明らかとなった共通理解を意見の相違を踏まえて、COP12・COP/MOP2の成功に向けて、更に我が国としての対応を検討していくこととする。
I. 概要
1.本準備会合における議論の主要テーマは、以下のとおり。
1) アフリカ地域及び他の途上国のための優先事項、適応
2) 技術の移転、クリーン開発メカニズム(CDM)
3) 長期的協力の行動に関する対話及び附属書I国の更なる約束に関するアドホック・ワーキンググループの結果の共有と次のステップ
2.小池大臣からは、特に以下の点を主張した。
1)アフリカの課題及び適応
- 気候変動影響への適応は、持続可能な開発の一環として進められるべき。その際、気候変動枠組条約の役割は、これに必要な様々な情報を収集整理し、利用可能とすることにあり、この条約単独ですべてを解決することはできない。
- 適応を進めるには科学的な情報が必要であり、我が国は、地球シミュレーターやアジア太平洋地球変動研究ネットワーク(APN)などの技術や研究ネットワークを推進してきた。また、ODAを通じた途上国の持続可能な開発の援助、国際防災戦略(ISDR)、国際農業研究協議グループ(CGIAR)などによる具体的な支援の面でも貢献している。
2)技術移転及びCDM
- 技術の開発・普及・移転は気候変動対策に不可欠であり、我が国は、関連技術の研究開発に、世界有数の規模での投資を進めている。
- 技術の移転は既に商業ベースで相当程度進んでいる。
- CDMの地域的な偏りを懸念している。我が国は、アフリカ地域において、CDMプロジェクトの発掘を進めている。
3)将来枠組み
- 温室効果ガス濃度の安定化という条約の究極目的を実現するためには、早期に世界全体の排出量を現在の半分以下にまで削減する必要があり、そのための長期目標とその道筋に関する合意に向けた議論を行うべき。
- 主要排出国が参加した、実効ある枠組みの構築と、持続可能な開発を確保することが同時に必要。
- 将来の行動については、条約の下での長期対話や附属書I国の更なる約束に関するアドホック・ワーキンググループとともに、京都議定書第9条に基づく議定書のレビューを一体的に議論する必要がある。
3.上記1.の主要テーマについては、各国間で様々な意見の相違が見られ、今後議論を深めていくこととなった。議論の主な内容は以下のとおり。
1)アフリカの課題及び適応
- 気候変動影響が見られる中、適応については、早急に計画段階から具体的な行動を実行する段階に移行する必要がある。適応に関する5ヶ年作業計画や適応基金については、早急に実行に移せるような決定をナイロビ会合で合意すべきとの主張が多く見られた。
- 緩和(排出削減)と適応はいずれも気候変動対策の重要な要素。緩和を強化しなければ、適応は非常に困難となるか、適応することが不可能となることも予測されるとの指摘がなされた。
- 気候変動対策、特に適応は、社会的、経済的観点からの評価も踏まえる必要との指摘も多くなされたとともに、途上国におけるガバナンスの向上やキャパシティ・ビルディングが重要との指摘がなされた。
2)技術移転及びCDM
- 基本的にCDMは、技術移転に有効であるが、地域的に不均衡な形で広がっており、特にアフリカ地域の案件が少ない。今後は、この不均衡の解消を図っていくことが必要との指摘が多くの国からなされた。
- 技術移転は、既に商業ベースで相当程度進んでいる。こうした民間の活動に伴う技術移転を促進するために、投資環境の改善、制度などにおけるバリアの除去、商業ベースが進まない部分の補填、ファンドの設置など、官が支援を行うべきとの指摘があった。
- 技術の移転に関しては、市場が重要な役割を担うが、市場に委ねるだけでは不十分。ナイロビ会合では、技術移転に関する専門家グループ(EGTT)の役割の見直しや技術移転を促進するファンドの設置など、技術移転を促進させる措置についての決定が必要との声があった。
- 途上国にとっては、高価な先端技術は必ずしも必要ではなく、先進国で普及した安い技術を導入することで、現実的な排出削減をもたらすことが可能との主張があった。
3)将来枠組み
- 枠組みの骨子の議論に当たっては、手続論として交渉を行うのではなく、条約の究極目的の達成に向けた政策論の観点から、議論することが必要。
- 京都議定書第9条について、いかに進めていくかについて様々な意見が表明され、一方ではプロセスとして継続し、AWGや対話と一体として議論を行うべきとの意見と、むしろAWGと対話のプロセスを阻害するおそれがあるとの主張も見られた。
- 附属書I国と非附属書I国の二元的分類を乗り越えるべきとの主張があった一方、AWGは附属書I国の第2約束期間におけるコミットメント以外を議論する場ではないとの途上国側の従来の主張も見られた。
- 将来枠組みについて、一部の国から2009年までに決定を行うべきとの意見が表明された。
II. 二国間会談等
- 小池大臣は、今回の機会を利用して、英国及び気候変動枠組条約事務局とそれぞれ二者会談を行った。
- 英国ミリバンド環境・食料・農村地域大臣との会談では、ナイロビ会合の成功に向けて協力していくこと、特に、日英両国は共同研究の「低炭素社会の実現に向けた脱温暖化2050プロジェクト」等、科学的側面から貢献ができることを確認した。さらに、2005年の英国グレンイーグルズ・サミットで開始された「G8気候変動、クリーンエネルギー及び持続可能な開発に関する対話」については、日本が議長国を務める2008年のG8サミットにおいてその結果が報告されることとなっており、両国は、実りある成果を出せるよう、関係各国、各機関との連携を深めていくことで一致した。
- 今月就任した気候変動枠組条約のデ・ブア新事務局長との会談では、ナイロビ会合を成功に導けるよう協力していくことを伝えた。
III. 評価
(1) 今回の準備会合では、ナイロビ会合を如何に成功させるかを念頭に、主要各国の閣僚を含む代表が集まり、自由な意見交換を通じて、ナイロビでの課題設定については、大方の見解が一致した。
(2) しかし、各々の論点については、様々な意見の対立が見られた。特に、将来枠組みに向けた議論のうち、COP/MOP2で実施される議定書のレビュー(京都議定書第9条)については、本レビューの対象範囲や実施期間、他の条約・議定書上のプロセスとの連携の在り方等、その態様全般にわたって意見の相違が見られた。
(3) 我が国からは、小池大臣が出席し、我が国の積極的取組を紹介した。また、すべての国がその能力に応じ排出削減に取り組むことを可能とするとともに、主要排出国による最大限の削減努力を促す実効ある枠組み構築の重要性等、我が国の基本的立場を主張した。
(4) 今後はこの準備会合の結果を踏まえ、更に我が国としての立場を検討し、COP12及びCOP/MOP2の成功に向け、引き続き積極的に貢献していくこととする。