平成17年12月10日
日本政府代表団
1.気候変動枠組条約第11回締約国会議(COP11)・京都議定書第一回締約国会合(COP/MOP1)は、11月28日から12月9日まで、カナダのモントリオールで開催された。我が国からは、小池百合子環境大臣、外務大臣政務官、西村六善外務省地球環境大使、小島敏郎環境省地球環境審議官他が出席した。
2.今次COP11・COP/MOP1は、京都議定書発効後最初の締約国会合となった。締約国は、議長国カナダが提唱する3つの「I」("Implementation(実施)"、"Improvement(改善)"、"Innovation(創造)")を中心に交渉し、京都議定書の「実施」と「改善」、将来枠組み構築に向けての「創造」の全ての議題について成果を得ることができた。特に、COP決定された「長期的協力のための行動の対話」は、将来の課題につき米国や主要途上国を含む全ての条約締約国の参加による対話プロセスについて合意されたものである。これは我が国の基本方針である「全ての国が参加する実効ある将来枠組みの構築」に向けての道筋をつけるものとなった。
3.小池環境大臣は、1)閣僚級会合に参加し、全ての国が参加する実効ある枠組み構築のため世界各国の結束の呼びかけと、京都議定書目標達成計画の着実な実施を中心に、我が国の基本ポジションを訴えるステートメントを全体会合で行い、2)サイドイベントでプレゼンテーションを行い、我が国の積極的な取組、クールビズ、ウォームビズの成果を紹介した。3)また、カナダ、米、英、欧州委員会、独、ニュージーランド、豪、インド、サウジアラビア、エジプト等の大臣等の代表に対し、我が国の基本ラインを確保するよう交渉を行った。また、山中外務大臣政務官は、蘭、スペイン、デンマーク、フランス、シンガポール等の代表と別個会談を行い、情報収集を行った。
4.次回COP12・COP/MOP2(2006年11月)についてはケニアより開催の申し出があった。
(1)マラケシュ合意(COP7での合意内容)の採択により、議定書の運用ルールが確立。
(2)遵守ルールとして、議定書遵守に関する手続き及び措置が確立。
(3)各種委員会(遵守委員会・第6条監督委員会)の設置と委員の選出。
(※以上3点により京都議定書のルールが全て確立。)
(4)CDMのさらなる推進・改善に向けた具体的方策の合意。
(1)条約プロセスの下で、全ての国の参加による長期的協力のための行動に関する対話の開始について合意。
(2)議定書3条9に基づく、先進国の更なる約束に関する検討の開始と手順の合意。
(3)議定書9条に基づく、議定書レビューの準備手続きの合意。
適応に関する5カ年作業計画の策定。
(1)マラケシュ合意を採択
11月30日の京都議定書第1回締約国会合(COP/MOP1)で、京都議定書の実施に関する「マラケシュ合意」を含む21件の決定草案が決定された。これらの決定には森林等の吸収源に関する算定ルール、京都メカニズム(共同実施(JI)、クリーン開発メカニズム(CDM)、排出量取引(ET))に関するルール、京都議定書に基づく排出吸収量の推計、審査等に関するルールなどが含まれている。
(注)2001年にマラケシュ(モロッコ)で開催されたCOP7において合意された決定。京都議定書に定められた諸制度(排出量取引制度等)を実施するために必要な運用ルールを定めている。
(2)遵守ルールの採択
マラケシュ合意のうち、京都議定書の数値目標に関する不遵守の措置(注)に関する手続きや遵守委員会に関する事項等が法的拘束力を持たない形で、COP/MOP決定された。
((注)不遵守の措置:排出超過分の1.3倍の次期約束期間の割当量からの差引、次期約束期間における遵守確保のための行動計画の策定、排出量取引による移転の禁止)
(3)各種委員会(遵守委員会・第6条監督委員会)の設置と委員の選出
遵守委員会(促進部・執行部)が設立され、わが国から、浜中裕徳・慶応大学教授が促進部の常任委員として選出された。共同実施(JI)に関する第6条監督委員会が設立され、わが国から、工藤拓毅・日本エネルギー経済研究所環境グループマネージャーが委員代理として選出された。また、既存の技術移転に関する専門家グループ(EGTT)では、平石尹彦・IGES理事が委員として再選された。
(4)CDM改革
CDMの更なる推進・改善に向けて、1)省エネ促進に向けた我が国主導の「CDMの将来」イニシアチブの推進、小規模CDMの定義の見直し、炭素隔離・貯留のCDMなどの指針や手続きなどの重要な方策について合意されるとともに、2)審査の迅速化などをねらいとするCDM理事会・事務局の強化策が決定された。
(5)評価
以上により、京都議定書は遵守ルールを含め、全てのルールが確立し、完全に実施基盤が整備された。また、日本をはじめ関心国、関係者の関心の高いCDMの具体的改善策が採択され、CDM実施の加速化が図られることとなった。
(1)全ての国の参加による「気候変動に対応するための長期的協力のための行動に関する対話」の開始(COP決定)
議長国カナダのイニシアティブと各国の協力により、「長期的協力に関する対話」(モントリオール・アクションプラン)が成立した。具体的には、1)京都議定書未批准国の米国や削減義務のない途上国も含めた全ての国の参加の下、2)将来の対話を行う場が設定され、3)経験の交換、戦略的アプローチの開発及び分析のための対話を、4)COPの指揮の下で先進国1名、途上国1名の共同議長による最大4回のワークショップの開催を行うこと、5)対話の結果のCOP12(2006)、COP13(2007)への報告、6)2006年4月15日までに各国の考えを提出して対話を開始することなど具体的作業手順とプロセスが合意された。なお、この対話は将来の交渉、約束、プロセス、枠組み、マンデートなどの予断を持たずに開催されることとされている。
(2)京都議定書3条9に基づく検討の開始(COP/MOP決定)
京都議定書3条9に基づき、1)その規定に則して附属書 I 国(議定書先進国及び市場経済移行国)の更なる削減約束に関する検討の開始(2006年5月のSB(補助機関会合)と並行して開催される第一回の作業部会において議論を開始)、2)第一約束期間と第二約束期間の空白を生じないようなタイミングで出来るだけ速やかに結論を目指すことなどが合意された。
(3)議定書9条に基づく議定書レビューの準備手続き(COP/MOP議長とりまとめ)
気候変動枠組条約の見直しと連動した京都議定書の見直しをCOP/MOP2で行うことを定めた議定書第9条に基づく作業の準備を開始(各国は、関連の情報と意見を2006年9月1日までに提出)。
(4)評価
今次の京都議定書発効後最初の歴史的会合(COP11, COP/MOP1)において、以上の3つのプロセスが同時に決定されたことにより、(1)による条約プロセスと(2)、(3)による京都議定書プロセスが同時並行で開始される。特に、(1)の対話プロセスは、米国を含む全ての国の参加の下で、対話の具体的テーマ、手順が定められ、COPに2年間にわたり報告されることとなっている。これらの合意は、日本の基本方針である「全ての国が参加する実効ある枠組みの構築」につながる重要な第一歩となりうる。
(1)昨年のCOP10において採択された「適応策と対応措置に関するブエノスアイレス作業計画」に基づき、適応に関する5カ年作業計画が策定された。これにより、適応策に係る目的・作業範囲、作業方法などの具体的な取組が合意された。5ヵ年の各年に行う詳細な作業については、次回SBSTA24(第24回補助機関会合)前に非公式ワークショップを開催して議論を継続することになった。
(2)これにより、今後、途上国を中心に重要な課題となる適応策について作業計画の基本設計が確立された。
(注)適応策とは、気候変動の悪影響(例:洪水、干ばつ等)に対応するための措置のことをいう。
1.JI(共同実施)
JI(共同実施)に関して、第6条監督委員会が設置されると共に、先行するCDMの経験を活用しつつ、早期に詳細な実施規定を整備すること等が合意され、JI制度を立ち上げるための作業が進展した。
(注)CDMが先進国と途上国との間の仕組みであるのに対し、JIは先進国間の仕組み。
2.途上国支援
LDCF(後発途上国基金)に関し、GEF(世界銀行等が管理運営する「地球環境ファシリティ」)を通じてNAPAs(国別適応行動計画)実施に対する資金援助が可能となった。SCCF(特別気候変動基金)に関しては、緩和及び経済多様化に対する運用基準の検討を行ったが、合意に達せず、また、適応基金に関しても、特に資金の管理機関について意見が対立し、ともに継続議論となった。技術移転に関し、SB25(第25回補助機関会合)で技術開発・普及・移転についてのシニアレベル円卓協議の開催を決定した。
3.京都議定書の下の基金
適応基金の管理・運用に関して、GEFの(地球環境ファシリティ)の信託基金とすべきと主張するEUをはじめとする先進国に対し、途上国はGEF以外の機関の可能性を残すべきであると主張した。最終的には管理機関に関する言及を避け、今後議論を続けるために各国から意見提出を募ることになった。
4.研究及び組織的観測
全球気候変動観測システムに関する報告ガイドラインの改訂に合意し、GCOS(全球気候観測システム)実施計画の更なる推進と各国・地域・機関による活動の歓迎、包括的進捗報告書の作成、GEO(地球観測に関する政府間会合)とGCOSの実施計画の調整、海洋気候観測の強化、データ交換の改善、観測能力開発の必要性等を確認する結論が採択され、また、SBSTA22(第22回補助機関会合)で勧告された「条約に対応する研究ニーズ」に関する決定案がCOPで採択された。
5.吸収源関連
議定書関連では、吸収量目録の品質が著しく劣る場合に吸収量の目標達成への算入を差し止めるための基準について議論がなされ、排出源分野の基準の考え方に準拠し、かつ吸収源分野のこれまでの合意と整合した形で各国の意見を反映した基準が決定した。 条約関連では、吸収源分野の共通報告様式について、技術的な修正を加えた改訂版が合意され、2007年4月以降に提出する付属書 I 国の目録から適用されることが決定した。
伐採木材製品の取扱については2006年改訂IPCCガイドラインの策定を踏まえつつ、今後SBSTA24,25(第24回、25回補助機関会合)において、検討を継続することとなった。
また、パプアニューギニア他から提案されていた、開発途上国における森林減少による排出削減については、その重要性について認識が一致し、まずは2006年3月末までに各国等が条約事務局に意見を提出した上で、SBSTA24で検討を開始し、SBSTA25の前にワークショップを開催、SBSTA27(第27回補助機関会合)において検討結果を報告することとされた。
6.国際航空・海運からの排出に関する方法論
国際航空・海運からの排出量算定方法を改善するための今後の取り組みについて、技術的な情報交換を目的とするワークショップの開催等が検討されたが、一部途上国の強い反対により合意が得られず、SBSTA24(第24回補助機関会合)で引き続き検討することとなった。