地球環境

国連気候変動枠組条約交渉
バンコク会合:議論の概要

平成21年10月9日
日本政府代表団

 9月28日から10月9日の2週間、2013年以降の国際枠組みに関し、タイ・バンコクにおいて開催された国連交渉の主な論点と概要は以下のとおり。

I. 総論

 今次会合はコペンハーゲンでの気候変動枠組条約第15回締約国会議(COP15)まで、2ヶ月を残すのみの段階での交渉であった。先進国はこれまで以上に一致して1つの法的枠組みでより広範な国の排出削減等の行動を規律することを主張したのに対し、途上国側は「先進国は京都議定書をkillしようとしている」と批判し、京都議定書の附属書Bの改正と途上国に対する資金・技術支援を主張する等、先進国、途上国間の対立が表面化した。一方、緩和の議論では、米国等が全ての国の「共通の責任」を一体的に議論すべきと主張した結果、1つのグループで先進国と途上国の双方を対象とした議論をすることが出来るようになった。これを受けて11月2日から6日までのバルセロナでの交渉に向けて幾つかの分野で進展が見られた。
 鳩山総理が発表された我が国の新たな中期目標については、多数の国から意欲的なものとして歓迎する声が聞かれた。他方、途上国側からは、主要国の参加等の前提条件を外すべき等批判的なコメントが聞かれた。今次会合において主要途上国に対し、バイ会談を通じて緩和についてのコミットメントの働きかけを行ったが、未だ意見の隔たりは大きい。

II. 条約の下での長期的協力の行動のための特別作業部会(AWG-LCA)(1)

 6月の交渉以来、交渉テキストに基づいた議論が行われている。各国の提案を全て反映しようとしたため200ページ近くに増えたテキストを、類似提案の統合等により短くする議論は一定の進展を見た。論点によって進捗速度に違いがあり、統合が難航している部分もある。

1.緩和

(1)議論の最大の対立軸は、(イ)途上国の緩和行動の法的性格、(ロ)削減約束・行動の規定の仕方と(ハ)途上国の行動に対する資金・技術支援との関連等を巡る先進国・途上国間の対立にある。途上国にとっての削減行動は自発的なものであり、国際的にレビューされるべきは支援を受けた削減行動のみであるとの基本姿勢を貫く途上国と、一定の法的規律の下での行動を途上国に求めようとする先進国との対立は続いた。

(2)先進国・途上国の共通の責任に関して、今次会合で初めて議論を行う場が創設され、それ自体は1つの前進とは言えるものの、G77及び中国(多くの途上国が所属する交渉グループ)は気候変動枠組条約やバリ行動計画の原則に反するとして、共通の責任といったコンセプトでの議論を行うことに強硬に反対を続けている。

(3)(イ)途上国の森林減少・劣化に由来する排出の削減(REDD)のための仕組み、(ロ)国際航空・海運セクターでの緩和努力(数値目標を導入するか否か等を議論)、(ハ)費用効果的アプローチ(新たな市場メカニズムの創設等)等緩和に関わる制度的な論点の議論も行われたものの、議論の収斂は依然見られなかった。

2.資金他途上国支援関係

 緩和、適応、技術、キャパシティ・ビルディングのあらゆる議題の下で、途上諸国からは、支援を行うことは先進国の条約上の義務であるとの主張が繰り返され、ODAとは別枠による支援資金額の大幅な拡大、支援のための新たな制度・組織の設立を求める主張が続いている。これに対して、先進国からは、途上国支援のための資金規模の拡大の用意のあることを表明しつつも膨大な支援制度・組織の構築は受け入れられないと主張。なお、先進各国からも具体的な資金・技術の提案が出されつつある。

III. 京都議定書の下での附属書 I 国の更なる約束に関する特別作業部会(AWG-KP)(2)

 先進国(気候変動枠組条約附属書 I 国)の削減目標の数字のあり方、柔軟性メカニズム、森林等吸収源等を中心に議論が続けられた。

1.附属書 I 国の削減目標

 途上国は、附属書 I 国の削減目標(米国を除く附属書 I 国全体で、2020年時点で1990年比16~23% (3))は全体として不十分であり、1990年比で先進国全体で少なくとも真水で40~45%削減すべく、更に目標を高めるべきであると主張した。これに対し、先進国は、世界全体での排出削減のためには、京都議定書に参加していない米国を含むAWG-LCAとの一体的な議論により、非附属書 I 国の削減も含めた枠組みの構築を目指すべきと主張し、対立は続いている。基準年、約束期間の長さ及び数、柔軟性メカニズムや森林等吸収源のルール設定と目標値との関係、柔軟性メカニズムの使用上限、削減目標の表記方法等の個別論点についての議論も未だ収斂を見ていない。

2.柔軟性メカニズム

 次期約束期間におけるCDM制度の改革等について議論が続けられた。途上国は、附属書 I 国の削減目標達成は国内努力を中心にすべきで削減目標達成のために海外クレジットを使用することについては制限すべき旨主張している。

3.森林等吸収源

 森林吸収量の算定ルールに関し、先進国間では積極的に調整が図られつつあり、今後、途上国との間でも、議論されることとなった。

IV. 各種二国間会談

 2週間の会合期間中、米国、EU、豪州、ニュージーランド、カナダ、南アフリカ、中国、インド、メキシコ、インドネシアと二国間の会談を行った。

V. 国連気候変動枠組条約交渉の今後の予定

 11月2日~6日
  AWG-LCA及びAWG-KP(バルセロナ)
 12月7日~18日
  気候変動枠組条約第15回締約国会議(COP15)
  京都議定書第5回締約国会合(COP/MOP5)(コペンハーゲン)


  1. 気候変動枠組条約の下の作業部会(Ad hoc Working Group on Long-term Cooperative Action under the Convention)。共有のビジョン、緩和、適応、資金、技術、キャパシティ・ビルディングについて議論することになっている。
  2. 京都議定書の下の作業部会(Ad hoc Working Group on Further Commitments for Annex I Parties under the Kyoto Protocol)。京都議定書の附属書Bには温室効果ガス削減義務を負う先進国のリストと各国の削減目標値が掲載されており、AWG-KPはこの改訂について議論している。
  3. 各国の目標を積み上げ、事務局が試算。森林等吸収源を除く数値。
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