平成21年4月8日
日本政府代表団
条約の下での長期的協力の行動のための特別作業部会第5回会合(AWG-LCA5)及び京都議定書の下での附属書 I 国の更なる約束に関する特別作業部会第7回会合(AWG-KP7)は、3月29日~4月8日の日程で、ドイツ・ボンにて開催された。我が国からは、古屋昭彦外務省地球環境問題担当大使他、外務省、農林水産省、経済産業省、国土交通省及び環境省より関係者が参加した。
今次会合は、本年12月の気候変動枠組条約第15回締約国会議(COP15)での合意に向け、2013年以降の国際枠組みのあり方に係る議論を行う本年最初の会合であった。
作業部会議長が今次会合に向けて予め論点を整理し公表した文書に沿って、「共有のビジョン」、「緩和」、「適応」及び「技術・資金の調達」について各国の意見交換が行われた。
また、1)先進国及び途上国の約束/行動、2)対応措置の経済的・社会的影響、及び 3)農業部門の緩和の機会と課題についてワークショップが開催された。我が国からも 1)及び 3)において発表を行い、途上国の測定・報告・検証(MRV)可能な行動に係る基本的考え方等の説明、日本における農業部門の緩和の取組についての紹介を行った。
今回会合の議論の内容を反映して、6月の次回会合までに議長が交渉テキストを作成する予定。
(1)共有のビジョン
条約の目的や原則に立って、分かりやすい政治的メッセージとすべきという点で概ね一致。我が国は2050年までに世界全体の温室効果ガス排出量半減、今後10~20年後に排出量をピークアウトさせるとの長期目標の設定を主張した。長期目標については、定量的な目標とするか、中期目標又は気温等他の数値目標を含めるか等を巡って多様な見解が示された。目標達成のための行程、資金・技術支援のあり方等を含むべきという点で概ね一致。途上国、特に中国より歴史的排出責任が繰り返し主張された。我が国は、低炭素社会の構築、革新的技術の重要性に加え、歴史的及び将来の排出への寄与を主張した。
(2)緩和
先進国の行動に関しては、我が国は、目標の設定に当たって比較可能性を確保するよう主張。途上国は、先進国の歴史的排出責任を強調し大幅な削減を主張。我が国を始め先進国は、附属書 I 国の次期枠組みにおける削減のあり方について議論するAWG-KPと一貫性・整合性を確保する必要性を主張した。また米国は長期的削減に向け、各国の事情に応じて複数の道筋があり得ること、中期目標はそうした長期の道筋の文脈で検討されること等を主張した。
途上国の行動に関しては、緩和行動(NAMA)の登録制の提案があり、その内容、手続き、法的拘束力等については様々な意見が示された。途上国は先進国の支援を前提にした自主的なものとすべきと主張した。我が国からは、主要途上国については法的拘束力のある効率目標を設定すべきと主張し、主要経済国の責任ある形での参加が確保されない京都議定書の単純延長は受け入れられない旨を強調した。EUは、「低炭素開発戦略」に基づく発展状況に応じた行動の必要性を主張した。
なお、こうした緩和の議論においては会合直前に日・EC・ポーランドで共催した削減ポテンシャル・比較可能性・セクター別アプローチに関するワークショップの成果を適宜紹介した。
また、会期中に開催された削減量に関する技術的ブリーフィングにおいては、IPCCの削減シナリオ(先進国が2020年までに1990年比25~40%削減、途上国がBAUから15-30%削減)等について、当該シナリオは勧告ではなく、削減のシナリオは複数あり得ることが、IPCCの執筆者等より説明された。
REDD(途上国の森林減少・劣化)については、方法論の確立、資金供与の方策等に関し引き続き議論を深めていくことになった。
(3)適応
対応の緊急性・重要性、脆弱国に対し優先的に行われるべきことについて一致。途上国は、技術移転・資金・キャパシティビルディングの拡充の必要性を強調。我が国は適応の知識ネットワークの構築や他の国際機関との連携・活用を主張した。
(4)技術・資金の調達
我が国他先進国は、資金ニーズに応えるためのガバナンス・効率性、民間資金を含むあらゆる資金源活用の必要性を主張。我が国から技術の特定や資金支援とのマッチングのためのセクター別アドバイザリーグループ構想を提唱し、多くの国から関心が示された。途上国は、将来の適応のための資金・技術支援の増大は先進国の条約上の約束であると主張。知的財産権が技術移転の障害となっている、技術に関する補助機関を設立すべき等の主張もあった。我が国を含む先進国からは、民間資金の重要性や、知的所有権は技術開発のインセンティブのために保護されるべきとの主張を行った。
今次会合では、附属書 I 国全体の削減規模及び法的論点に関する議論が行われた。
(1)附属書 I 国全体の削減規模及び各国の削減量
附属書 I 国全体の削減規模については、我が国から、世界全体の排出削減のためには京都議定書非締約国たる附属書 I 国(米国)を含む先進国と途上国双方の取組が必要であるため、両者を一体として議論すべきであり、そのためにはAWG-LCAとの間で一貫性・整合性を確保する必要があることを主張。米国、EU等多くの先進国が、日本を支持し、又は同様の主張を行った。また、先進国の目標については排出総量で示されるべきであり、この目標をデータが入手可能な最新の年を含む複数の年からの削減率でも表すべきと主張した。
途上国は、歴史的排出責任に応じて削減目標を設定すべき、附属書 I 国が2020年までに少なくとも40%削減すべきと主張(島嶼国は45%を主張)し、これらを結論文書に反映させることを提案。これに対し、先進国は一致して、柔軟性メカニズム、LULUCF等のルールが決まらない限り削減規模は確定できない、各国の目標値が出揃うことが先決と主張。この結果、結論文書には具体的な数値は盛り込まれず、IPCCシナリオについても過去の決定をパラ番号で引用するにとどまった。次回会合では、本議題を中心に議論することとなり、附属書 I 国が国別総量目標に関する情報を提供することが引き続き奨励された。
また、今次会合に先立ち、本件に関するワークショップが開催され、我が国より世界全体での排出量の削減が必要であること、比較可能性はコストを考慮した削減ポテンシャル分析を用いて見るべきこと、及び日本の中期目標の検討状況を説明。また、国立環境研究所と地球環境産業技術研究機構から世界モデルによる削減ポテンシャル分析結果について発表があった。
(2)法的論点
京都議定書の改正につき、先進国の削減約束の目標値(附属書B)の改正のみに限定すべきと主張する国と、柔軟性メカニズムの改善や新規ガスの追加等を含めたより幅広い対象につき議論すべきとする国の間で意見の隔たりがあった。我が国からは、世界全体の排出削減のためには、先進国と途上国双方の排出削減を扱うAWG-LCAとの間で整合的に議論を進めるべきであり、新たな一つの議定書の採択を行うべきことを主張した。今後、4月24日までに各国から意見を提出することとなった。
(3)柔軟性メカニズム
CDM等の柔軟性メカニズムの改善に関しては、これまでの議論及び各国からのインプットを踏まえて議長が作成した項目リストに基づいて議論が行われた。各国の関心の度合いに基づき、項目及びそれぞれの項目に対する措置(オプション)の整理及び絞り込みが行われた。
(4)土地利用・土地利用変化及び林業部門(LULUCF)
農地管理、植生回復等森林以外の土地利用に関する事項、伐採木材製品の取り扱いも含め、各国から提案されたオプションについて詳細な検討が行われた。今次会合の議論に基づき、議長が文書を作成し、今後各国から行われる更なる意見提出と併せて次回会合で議論を行うことで一致した。また、各国には次回会合までにデータ及び関連情報を提出することが奨励された。
(5)その他
附属書 I 国の削減行動によって生じる潜在的影響、京都議定書で削減対象となっていないガスの追加、セクター別アプローチ、国際航空・海運からの排出等については、引き続き次回会合で議論されることとなった。
AWGの会合が開催される前の3月23日~25日、我が国はEC及びポーランドと共同で削減ポテンシャル、比較可能性、セクター別アプローチに関するワークショップを開催した。各国がモデル分析を発表し、比較可能性を見るための様々な指標について議論するとともに、セクター別アプローチをどのように2013年以降の枠組みに組み込むかについて議論された。議論の結果はAWG-KP及びAWG-LCAのワークショップ等で紹介された。
COP15までの会合の予定については、既に決定されている6月1日~12日(ドイツ・ボン)、9月28日~10日8日(タイ・バンコク)の会合に加え、8月10日~14日(ドイツ・ボン)に非公式な会合を、また11月2日~6日(開催地未定)に追加会合を開催することが決定された。