平成19年8月31日
日本代表団
8月27日~31日、「京都議定書の下での先進国(附属書I国)の更なる約束に関する第4回アドホック・ワーキング・グループ(AWG4)」及び「気候変動に対応するための長期的協力に関する第4回対話(長期対話)」が実施され、次期枠組みに関する議論が行われた。
我が方よりは、大江博外務省国際協力局参事官、本部和彦経済産業省審議官、谷津龍太郎環境省大臣官房審議官、他、外務、農林水産、経済産業、環境各省関係者が参加した。
(1)今回の議論の対象は、附属書I国の削減ポテンシャルの分析と、見込まれる削減幅の特定であった。削減ポテンシャルについては、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局が作成したテクニカル・ペーパー(TP)を基に議論が行われた。削減幅については、IPCC第4次報告書が示した削減シナリオに基づいて議論が進められた。
(2)我が方は、我が国の提出した直近の意見書に基づき、TPを評価しつつさらに十分な議論を継続することを求めた。特に、我が国として、客観的な指標設定に基づいて、産業別の削減ポテンシャルを衡平に評価することが重要と考えており、そのためには、現行のIPCCの評価に加え、今後更なる指標の精査とより精緻なボトムアップ・アプローチの分析作業が必要である点を指摘し、削減ポテンシャルの分析作業を今後も継続することを主張した。その上でTPの評価と更なる分析の継続及び国際エネルギー機関(IEA)との連携強化(例:IEAによるワークショップの開催及び右ワークショップへのUNFCCCの参加)等を主張した。(FCCC/KP/AWG/2007/MISC.5として登録、公表済)
(3)EUは、IPCCの成果をなるべく言及すべき等と主張した。島嶼国は、IPCCが想定している最も厳しい削減シナリオをとったとしても自らに危険が迫るとして、更なる研究を求めた。産油国は、自らの原油輸出に依存する経済に附属書I国の排出削減が与え得る悪影響も検証すべきと主張した。
(4)採択した結論文書において、削減ポテンシャルについては、テクニカル・ペーパーをベースとした分析の継続に加え、IEA などによる更なる分析作業が重要とされた。見込まれる削減幅としては、IPCC第4次評価報告書の複数のシナリオが言及された。その中で、最も削減幅が大きいシナリオが例示された。
今回は、IPCCやテクニカル・ペーパーなどの科学的なデータに基づいて、削減ポテンシャルと削減幅の議論が行われるべきとの我が国の主張が認められる形で議論が進んだ。また、ポテンシャル及び削減幅とも、今後の議論において必要に応じ再び議論されることとなっており、十分な議論をする必要があるとの我が方の立場も確保された。この後の作業としては、バリにおけるUNFCCC第13回締約国会合(COP13)におけるAWG4で作業計画の見直しが予定されており、また、削減のための手段の検討も行われることとなっているが、我が国としては、引き続き、IEAなどの関係機関の十分な専門的インプットを得つつ、作業の進展に貢献するとともに、AWGだけで個別に議論を進めていくのではなく、次期枠組み全体の検討の中で一体的に議論すべきであることを主張していく。
(1)持続可能な開発及び条約の究極の目標にかんがみて、気候変動問題への対処のための長期的協働へ向けての構成要素(Building Blocks)となるもの、についての議論では、我が方から「美しい星50」の核心を構成する長期目標及び2013年以降の枠組み構築に向けた安倍3原則を、今後のグローバルな気候変動対策の構成要素となり得るものとして紹介するとともに、技術(革新的技術開発及び技術移転)、資金、適応等に関しそれぞれ考えを説明した。ブラジル、インド等途上国からは、先進国の過去の責任、開発の緊急性、技術移転・資金支援の不足への対応の必要性等の意見が出された。
(2)気候変動に効果的に対処するための潜在的投資及び資金フローのテーマに関しては、気候変動対処のためのコストは調達可能(affordable)との意見(EU)や、緩和だけでなく適応が重要であるとの途上国からの強い主張、新たな資金の創設が必要(AOSIS)、等の主張がなされた。本件対話の共同ファシリテイターからは、(イ)気候変動対策に必要な資金は存在している、(ロ)資金配分の所在は明らかにされている(事務局文書によれば、86%が民間資金)、及び(ハ)早期の対応によりコスト低減が可能、との総括が成された。
(3)本件対話の成果を、効果的かつ適切な気候変動への国際的対処に向けてのCOPでの成果にいかにつなげることができるか、との点については、ほぼすべての発言者が対話の継続を主張、また、多数の国が対話の後継として公式プロセスの立ち上げが必要である旨指摘。我が方、加及びNZは、気候変動枠組条約の場で、すべての国が参加した形で、次期枠組みについて議論するため、この長期対話に続く新たなプロセスの立ち上げが不可欠であり、それは将来的には1つのトラックとして議論すべき、との主張を行った。EUは、バリにおいてロードマップを策定し、2009年までに次期枠組みの議論に結論を出すべきと主張。ブラジル等の途上国は、対話は公式な交渉の場とすべきであるが、適応や森林減少対策等途上国における取り組みの支援を協議する場とし、先進国の義務について議論するAWGとは別の2トラックとすべき、との主張を行った。米国は、主要経済国会合の紹介を行った上で、これまでに既に相当の作業(適応、技術移転、森林保全等)に貢献してきており、今後のプロセスについても議論したいと発言した。
(4)共同ファシリテイターより、これまでの対話により、長期的協力への構成要素(Building Blocks)についての理解が促進され、適応が緩和と並んで重要であること、その双方を実現するツールとしての技術及び資金フローの位置づけ、さらにこれらすべてにおいて持続可能な開発と国別事情への考慮が成されるべき、との原則が確認された。本件対話の成果は、次期枠組み構築に関する重要なインプットとして、共同ファシリテイターのレポートとしてバリでのCOP13に報告される。
先進国、途上国双方の相当数の国から、バリにおいて次期枠組みについての交渉のための正式な場を、長期対話の後継として立ち上げるべきとの意見が出され、これに対する明らかな反対はみられなかった。また、正式な場を立ち上げるべきとの意見を表明した国の中でも、京都議定書第3条9項に基づくAWG等を含め次期枠組み全体をひとつのトラックとすべき意見(我が方はじめいくつかの先進国)、他方、先進国の約束を議論するトラックと、途上国に関して自主的な取り組みを議論するトラックの2トラックとすべきとの意見(ブラジル等途上国)等の相違もあり、バリにおいては次期枠組みの議論が集中的に行われることが予想される。これに対する米国の対応は必ずしもはっきりしていないが、今後米国が主催する主要経済国会合等の動きを経て、米国がどのような態度をとるかが重要となる。
また、多くの国がそのプロセスは2009年までに終了すべきとの意見を表明した。バリにおいては、上記AWGでもその後のスケジュールを議論する予定となっていることとも重なって、米国の対応を始め、バリにおける議論は複雑かつ重要なものとなろう。
今回の議論を通じ、これまで結束の固かったG77+中国の中に主要排出国である中印、産油国、小島嶼国、南ア等の間に次期枠組みにおける途上国の責務を巡って差異が見られるようになったことが注目された。
我が国としては、「美しい星50」に基づき、米、中、印を含む主要排出国を含む実効的な枠組みの構築に向けて各国への二国間の働きかけを引き続き行うこと等を通じて、多国間の議論に積極的に参加するとともに、次期枠組みの検討を行う新たな場の立ち上げにおいて、関係各国の間でリーダーシップを発揮するなどして、バリにおける議論に貢献すべきであろう。