地球環境
地球環境ファシリティ
(Global Environment Facility:GEF)
1 目的
(1)開発途上国及び市場経済移行国が、地球規模の環境問題に対応した形でプロジェクトを実施する際に追加的に負担する費用(incremental cost(注1))につき、原則として無償資金を提供する。
(2)GEFは、6つの環境関連協定・条約(注2)の資金メカニズムとして世界銀行(世銀)に設置されている信託基金で、世銀、UNDP、UNEP等の国際機関がGEFの資金を活用してプロジェクトを実施する。
(注1)GEF資金はincremental costについてのみ拠出され、個々のプロジェクトの資金全体については国際機関、政府、民間企業等が共同で出資する(co-financing)ことが原則とされている。なお、各条約の国別報告書の策定等、資金メカニズムとして指定されている条約等の趣旨を実現するために必須の事業については、GEF資金から全額拠出される場合もある。
(注2)気候変動枠組条約、生物多様性条約、砂漠化対処条約、残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)、水銀に関する水俣条約及び国家管轄権外区域における海洋生物多様性(BBNJ)協定。
2 設立の経緯
(1)1989年9月の世銀・IMF合同開発委員会において、地球環境の保全または改善のための基金を仏・独が提案。その後、世銀理事会の決議に基づいて1991年5月に第1回参加国会合が開かれ、3年間の期限でGEFパイロットフェーズが発足した。
(2)パイロットフェーズの終了時、パイロットフェーズで蓄積した知見・ノウハウを踏まえて改組し、1994年に正式にGEFがスタート(「GEF1」と呼称)。その後、4年ごとに7回の増資を行い、現在GEF8期間中(2026年6月まで)。
(3)2023年8月の第7回GEF総会において、昆明・モントリオール生物多様性枠組の実施を支援するための新たな信託基金として、生物多様性枠組基金(GBFF)の設立が承認された。
3 対象分野
対象分野 | 投入事業資金比率(1991年~2022年) [単位:%] |
|
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1) | 気候変動 | 24.89 |
2) | 生物多様性 | 22.71 |
3) | 複数分野 | 29.3 |
4) | 国際水域汚染防止 | 10.09 |
5) | 残留性有機物質(POPs) | 3.94 |
6) | 化学物質・廃棄物 | 4.57 |
7) | 土地劣化 | 3.56 |
8) | オゾン層保護 | 0.93 |
(注)土地劣化(砂漠化・森林減少)及びPOPsは、第2回総会(2002年10月、北京)において、対象分野として追加された。
4 構造と参加国
(1)総会(Assembly)
- 全参加国代表で構成(186か国)
- 主にGEFの政策全般をレビューするほか、GEF設立規定(Instrument)の改正をコンセンサス方式で決定する。
- 原則3年に1回の開催だが、実際は増資期間に合わせ、4年ごとに開催されている(第1回:1998年 ニューデリー。第2回:2002年 北京。第3回:2006年 ケープタウン。第4回:2010年 プンタ・デル・エステ。第5回:2015年 カンクン。第6回:2018年 ダナン。第7回:2023年 バンクーバー)。
(2)評議会(Council)
- 日本を含む32の代表国メンバーで構成(先進国14、経済移行国2、途上国16)。
- 年2回または必要に応じ開催。
- 意思決定は原則コンセンサス方式による。ただし、ダブルマジョリティ方式の投票による意思決定方式(基礎票と拠出比例票それぞれの60%以上の獲得を要する)も用意されている。
- 日本からは、評議員(Council Member)として財務省国際局開発政策課、同代理(Alternate)として、外務省地球環境課から委員がそれぞれ登録されている。また、アドバイザーとして、環境省からも参加。
(3)GEF事務局
- ワシントンD.C.に設置。
- 評議会議長を兼ねる事務局長(CEO)の下、プロジェクト形成の調整、活動計画や政策の原案づくり等を行う。
- 歴代CEO
- 1994年7月~2003年6月 モハメド・エルアシュリ(エジプト。前職:世銀総裁チーフ環境アドバイザー兼世銀環境局長)
- 2003年7月~2006年7月 レン・グッド(カナダ。前職:カナダ国際開発庁長官)
- 2006年7月~2012年7月 モニク・バルビュー(フランス。前職はUNEP技術・産業・経済局長)
- 2012年8月~2020年8月 石井菜穂子(日本。前職は財務省副財務官。2015年10月、二期目(2016年8月~)に再任)
- 2020年9月~ カルロス・マニュエル・ロドリゲス(コスタリカ。前職はコスタリカ環境・エネルギー大臣)
(4)実施機関
- 18のGEFパートナー機関(AfDB、ADB、BOAD、CI、CAF、DBSA、EBRD、FECO、FAO、FUNBIO、IADB、IFAD、IUCN、UNDP、UNEP、UNIDO、世銀、WWF-US)が、GEFの資金を活用してプロジェクトを実施する。
(5)トラスティ
- 世銀がトラスティとしてGEFの資金管理を行う。
5 資金規模とわが国の資金協力
(1)GEFパイロットフェーズ(試験期間)[1991年7月~1994年6月]
(2)GEF1[1994年7月~1998年6月]
- 資金規模20.1億ドル
- 米国 4.30億ドル(21.3%)
- 日本 4.15億ドル(20.6%)
(3)GEF2[1998年7月~2002年6月]
- 資金規模26.7億ドル(新規拠出19.8億ドル)
- 米国 4.30億ドル(21.7%)
- 日本 4.13億ドル(20.8%)
(4)GEF3[2002年7月~2006年6月](プレッジベース)
- 資金規模29.3億ドル(新規拠出22.1億ドル)
- 米国 4.30億ドル(19.5%)
- 日本 4.23億ドル(19.1%)
(5)GEF4[2006年7月~2010年6月](プレッジベース)
- 資金規模31.4億ドル(新規拠出23.0億ドル)
- 米国 3.20億ドル(13.9%)
- 日本 3.05億ドル(13.3%)
(6)GEF5[2010年7月~2014年6月](プレッジベース)
- 資金規模43.4億ドル(新規拠出35.4億ドル)
- 米国 5.75億ドル(16.2%)
- 日本 5.05億ドル(14.3%)
(7)GEF6[2014年7月~2018年6月](プレッジベース)
- 資金規模44.3億ドル(新規拠出37.0億ドル)
- 日本 6.07億ドル(16.4%)
- 米国 5.46億ドル(14.8%)
(8)GEF7[2018年7月~2022年6月]
- 資金規模43.4億ドル(新規拠出36.2億ドル)
- 日本 6.37億ドル(17.6%)
- 米国 5.46億ドル(15.1%)
- ドイツ 5.02億ドル(13.8%)
(9)GEF8[2022年7月~2026年6月](プレッジベース)
- 資金規模53.3億ドル(新規拠出46.4億ドル)
- ドイツ 8.13億ドル(17.6%)
- 日本 6.38億ドル(13.8%)
- 米国 6.01億ドル(13.0%)
6 多数国間環境条約との関係
気候変動枠組条約、生物多様性条約、POPs条約、水銀に関する水俣条約及びBBNJ協定は、GEFが途上国等支援のための資金メカニズムとして機能することを明記しており、条約とGEFとの間のMOUにより、GEFが各条約の締約国会議(COP)のガイダンスに従うことを明記している。また、京都議定書及びカルタヘナ議定書は、それぞれ気候変動枠組条約、生物多様性条約を通じてGEFを資金メカニズムとしている。
オゾン層保護に関するモントリオール議定書は、多数国間基金を設けており、GEFに関する規定は持たないが、多数国間基金が対象としない国について、補完的な資金源となっている。また、砂漠化対処条約は、条約上はGEFを資金メカニズムとする明示的な規定はないが、COP決定に基づきGEFを条約上の資金メカニズムとして扱っている。