平成20年5月9日
4月28日より5月9日まで、ジュネーブの国連欧州本部において2010年NPT(核兵器不拡散条約)運用検討会議第二回準備委員会が開催された。議長は、ウクライナのイェルチェンコ・ウィーン代表部大使が務め、106カ国が参加した。我が国代表団としては、樽井軍縮代表部大使(代表団長)、天野ウィーン代表部大使他が出席した。
NPT体制が北朝鮮やイランの核問題等の深刻な挑戦に直面する中で、NPT体制を維持・強化するため、2010年NPT運用検討会議において、核軍縮・核不拡散及び原子力の平和的利用の3本柱に関する議論が行われその結果合意が形成されることが重要である。そのため、今次準備委は、上記3分野について実質的な議論を行い、明年の第3回準備委員会で行われる運用検討会議への勧告作成の議論につながることが期待された。
(1)一般討論演説
一般討論演説において、我が国を代表して樽井軍縮代表部大使が、核軍縮・核不拡散及び原子力の平和的利用に関する我が国の基本的立場を表明したほか、47カ国・グループの代表が演説を行った。また、NGOセッションも開かれた。
(2)実質的議論
各分野(核軍縮、核不拡散、地域問題、原子力の平和的利用、普遍性、脱退等)の議論の概要は、以下のとおり。
(イ)核軍縮
核兵器国は、自国の核軍縮努力につき説明を行った(中国からは核兵器削減の意向は示されなかった)。これに対して、非核兵器国は、更なる核軍縮努力を求めた。また、我が国を含む多くの国が、包括的核実験禁止条約の早期発効、兵器用核分裂性物質生産禁止条約の早期交渉開始、核軍備及び核軍縮における透明性向上を求め、非同盟諸国、新アジェンダ連合等は、運用状態の低下、核兵器条約の交渉等を求めた。また、非同盟諸国は新型核兵器の開発を批判した。
(ロ)核不拡散
特に西側諸国より、北朝鮮の核問題およびイランの核問題に対する深刻な懸念が表明された。北朝鮮によるシリアへの核協力疑惑についても、米国、我が国を含む数カ国が言及した。
核不拡散体制の基本柱である国際原子力機関(IAEA)の役割の重要性が強調されると共に、IAEA包括的保障措置及び追加議定書の普遍化を含むIAEA保障措置体制の強化の必要性が広く確認された。また、その他の不拡散措置として、輸出管理、核セキュリティ等の重要性についても多くの国が言及し、国連安保理決議1540委員会、原子力供給国グループ(NSG)、ザンガー委員会、G8グローバル・パートナーシップなどの国際的な不拡散イニシアティブに対する支持が表明された。
また、中東非核兵器地帯の設立を要請する1995年の中東決議の履行の重要性が指摘された。
(ハ)原子力の平和的利用
原子力の平和利用の重要性、原子力の平和利用の分野におけるIAEAの役割の重要性が改めて強調されると共に、増大する原子力エネルギー需要を踏まえ、IAEAを始めとする原子力の平和利用分野における国際協力の促進に対する期待が表明された。同時に、原子力の平和利用には核不拡散、原子力安全、核セキュリティが確保されなければならないとの考えが、我が国を始めとする多くの国から表明された。
核燃料供給保証構想については、不拡散及び経済性等の観点からこれを積極的に支持する立場が表明される一方で、こうした構想が原子力の平和利用の権利を阻害するものであってはならないとの立場も表明された。
(ニ)その他
多くの国が印、パキスタン、イスラエルが非核兵器国としてNPTに加入することで普遍化を達成することの重要性を指摘した。脱退問題については、西側諸国が条約違反後に脱退する国への対処方法について協議することの重要性を指摘したのに対し、非同盟諸国が脱退に対する罰則化につながるような条約再解釈は許されないとの立場を繰り返した。
(3)報告書の採択
議長が議論の内容を総括した議長サマリーについては、関係国との非公式協議の結果、議長による作業文書として今次準備委の報告書の中で言及されることとなり、9日午前、同報告書が採択され、閉会した。なお、報告書の採択に先立ち、核兵器国による共同ステートメントが行われた。
(4)手続事項
Chidyausikiジンバブエ国連常駐代表が第三回準備委員会の議長として選出され、同準備委を2009年5月4日~15日までNYにて、運用検討会議を2010年4月26日~5月21日までNYにて開催することが決定された。
(1)わが国代表団は、一般演説を含む各個別事項毎の演説の中で、2005年運用検討会議以降、北朝鮮の核実験やイランの濃縮活動の継続などにより一層深刻化している北朝鮮やイランの核問題や、全ての核兵器国による透明性を伴った一層の核削減などの具体的な核軍縮措置の実施、追加議定書の標準化、原子力の平和的利用に当たっての核不拡散、原子力安全及び核セキュリティーの確保の重要性等についてわが国の立場を積極的に主張、建設的に議論に参加した。また、わが国は、核軍縮、核不拡散、原子力の平和的利用、軍縮教育、及び脱退に関する計5本の作業文書並びに核軍縮及び中東決議の実施に係る報告を今次準備委に提出し、議論に貢献した。
(2)わが国は、軍縮・不拡散教育に関し、20か国を代表して共同ステートメントを行うとともに、我が国として、核兵器に関する知識と経験の共有を提案した。また、国連軍縮研究所(UNIDIR)と共催で、軍縮・不拡散教育ワークショップを開催し、被爆者代表より、被爆経験継承のための教育を如何に実現するかに関し話があった。
NPT体制が北朝鮮やイランの核問題等の深刻な挑戦に直面する中、第一回準備委で採択された議題案に基づき議事が進行し、実質的議論を十分に行うことができた。第三回準備委員会の議長、日程及び開催地、2010年運用検討会議の日程及び開催地が決定されたことにより、NPT運用検討プロセスの当面の円滑な進行は確保された。