1 全体概要
3月4~5日,ノルウェー・オスロにおいて核兵器の人道的影響に関する国際会議がノルウェー政府主催で開催された。本会議は核兵器の使用が短期・長期においてもたらす様々な影響について,各国の専門家が科学的見地に基づき議論するもので,127の国及び国連,赤十字国際委員会等関係機関より約550名が参加(5核兵器国(米・英・仏・中・露)は不参加)。我が国からは,朝長万左男日本赤十字社長崎原爆病院長,田中煕巳・日本原水爆被害者団体協議会事務局長及び吉田軍備管理軍縮課長が政府代表団として出席。(本会議に先立ち,2~3日には,ICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)主催の市民社会フォーラムが開催。)
2 会合の概要
(1)セッション1:核兵器の爆発による即時の人道的影響
本セッションでは,朝長院長より,長崎での自身の被爆経験に即した原爆投下後の影響,短期と長期の両面で核兵器使用の人体への影響を医学的観点からスピーカーとして説明するなど議論に貢献。また,参加国からの発言としては,一番目に我が国から発言を行い,田中事務局長の被爆体験を中心に核爆発の即時の人道的影響についての経験を各国と共有した(本会議の会場にて配布した核兵器使用の人道的側面に関する我が国の取組についてのファクトシート(日本語(PDF),英語(PDF)
))
(2)セッション2:広範なインパクト及び長期的影響
本セッションでは,核兵器使用に伴う環境,気候変動面での影響やそれに伴う食料安全保障への悪影響が主要な議論の焦点となった。核兵器がもたらす影響の幅広さと長期的に深刻な影響を与えうることについて認識が共有された。
(3)セッション3:人道的側面での備えと核兵器使用に対する反応
本セッションで,核兵器使用に対する対応を議論するにあたり,大規模な自然災害や原発事故,テロリストによる汚い爆弾(ダーティ・ボム)の使用といった緊急事態に対する各国や国連の関係機関の知見がスピーカーや参加各国から共有された。しかし,こうした事態への対応が仮に必要となった場合,事態が発生した地方の自治体や国が一義的な対応を担い,また国際的な協力も不可欠となるが,こうした取り組みを総動員しても,事態の深刻さと複雑さのため十分な対応を行うことはほぼ不可能であるとの認識が大多数の参加国から示された。こうした認識に基づき,一部の参加国より,核兵器使用への対応よりもその予防により焦点が当てられるべきとの意見が出された。
(4)総括セッション
アイデ・ノルウェー外相も参加して行われた本セッションでは,議長総括(日本語(PDF),英語(PDF)
)が席上配布された。また,メキシコより今回の会議をフォローする会合をホストしたい旨の提案があり,各国からも賛同が寄せられた。
3 評価
- (1) アイデ・ノルウェー外相は,当初予定されていた冒頭発言に加えて,初日夜に開かれたレセプションや2日目の総括セッションに飛び入りで参加するなど,本件に対するノルウェー政府の取組への熱意が感じられた。
- (2) 我が国からは朝長院長と田中事務局長の2名による発信を通じ,人道的側面というテーマにおける我が国の被爆体験に基づく認識を各国と改めて共有することが出来た。
- (3) メキシコでフォローアップ会合が開かれることとなった。本会合を踏まえて核兵器使用の人道的側面にどのような焦点を当てていくのか,我が国としても注視しつつ,唯一の戦争被爆国としていかなる貢献をするのか検討が必要。いずれにせよ,我が国は,引き続き核兵器使用による被害の実相を世界に知らせる取組を進めていく。
- (4) 今回の会議への参加を見送った5核兵器国にとっては,今後核兵器使用の人道的側面をめぐる議論にどのように関わっていくか課題が残った。