平成18年2月
1月16日~2月3日にかけて、ニューヨーク国連本部において開催された障害者権利条約アドホック委員会第7回会合の概要は以下のとおり。我が国よりは当省、内閣府、法務省、文部科学省、厚生労働省から出席した他、障害を持つ当事者としてまた専門的知見を有する東俊裕弁護士に政府代表団顧問を委嘱した。また、約20名の我が国障害者NGO関係者も参加した。
今次議論を踏まえて最終日に採択された議長修正案(Working Text at the end of the seventh session)はhttp://www.un.org/esa/socdev/enable/rights/ahc7documents.htm に掲載。
(1)今次会合では、第6回会合までの議論を踏まえて作成された議長案に基づき条約交渉が行われ、タイトル、前文から第34条(国際モニタリング)まで全ての条項につき議論が行われた。
(2)ドン・マッケイ議長(ニュージーランド)のすぐれた采配により一度の会合で議長案全てを読み終えたことは、条約の採択に向け大きな前進と言える。また、合意に至らない条項については、関心国の間で妥協案が検討され、採択に向けた気運が見られた。また我が方代表団は、障害者権利条約の締結を現実的に視野に入れ、ほぼ全ての条文につき発言や提案を行い、積極的に交渉に参加した。
(3)今次会合でも世界各国から障害者NGOが参加し会合を傍聴するとともに、各条の議論の最後には必ずNGOに発言の機会が与えられた。また、幾つかの条項においてはNGOが提出した条約案をベースに議論が行われ、これは障害当事者のための条約作りが進められていることの証左といえる。
(4)第8回会合は8月14日~25日に開催される予定。
短いタイトルを選好し、「International Convention on the Rights of Persons with Disabilities」とすることに合意があった。
各パラの文言の調整が行われた。また障害者の家族の重要性に言及する提案がなされ、挿入されることとなった。遺伝情報の保護についても前文で言及すべきとの提案がなされたが、前文で言及するにはきわめて特殊であるとして反対意見が多数を占めた。
「尊厳」という文言を入れることに概ね合意があった。
「障害」「障害者」の定義を置くべきとする国と、各国の定義に任せるべきとの意見に分かれた。今後定義の具体的案文をもって、引き続き検討が行われることとなった。「障害に基づく差別」の定義として、合理的配慮の否定を含むことに多くの支持があった。
男女平等、子どもの権利に対する尊重、アクセシビリティーが一般的原則として新たに認められた。
経済的・社会的・文化的権利(社会権的権利)の漸進的達成が締約国にどの程度まで求められるかにつき議論が行われた。また、救済措置の言及について、言及を支持する国と、救済措置は国際人権B規約にのみ規定されており、国際人権A規約には規定されていないことから反対する国に分かれた。
「合理的配慮」と自由権的権利である「平等と非差別」の関係を明確にする記述になった。
今次会合で初めて具体的な条文案が提示された。
独立条文をたてるべきとする意見と、独立条文をたてずに前文や一般的義務(第4条)の記述で足りるとの意見に分かれた。また独立条文のみならず、暴力や健康等関連条文でも規定すべきとの議論も行われた。
障害者のセクシャリティ、婚姻、家族関係にかかるすべての事項に関する否定的認識および社会的偏見を変更するとの文言については、否定的な書きぶりであるため、障害に対する「前向きな認識を促進する」との文言に変えること、および本条項に「セクシャリティ」を含むかにつき、イスラム圏諸国を含めて議論が行われた。
アクセシビリティと合理的配慮の概念を関係づけるべきとの提案がなされた。
アクセシビリティの公共の建物とは、一般公共の用に供される建物との認識で一致した。
議長案に対し概ね合意があった。
危機のある状況について独立条文をおくことにつき、概ね合意があった。また、武力紛争時、自然災害、難民等の場合の障害者の保護についても言及すべき旨提案があった。
「法的能力(legal capacity)」の概念については、依然として各国の意見が分かれたところであったが、既に発効している女子差別撤廃条約に「legal capacity」の文言があることをも踏まえ、今後更に議論が進められることとなった。また、人格代理人制度(personal representative)については、NGOを中心に廃止すべきとの観点からこれに関する条文を削除すべきとの意見と、制度の存続自体を是認した上で、セーフガードとしてこれに関する条項を盛り込むべきとの意見に分かれた。
「法の下の平等」とは別の独立した条文となることに合意があった。また本条項を詳細すぎない一般的な規定とすべきとの点については、概ね合意があり簡潔な表現を目指すこととなった。また、警察官や刑務官等を含む司法関係者に対する研修や子どもに対する配慮などに関する規定を盛り込むべきとの意見が提案された。
「他の人と同様の(対応)」との点を中心に議論が行われ、合理的配慮(reasonable accommodation)の概念を本条項に盛り込むべきとの意見や、他の条文との重複部分(アクセシビリティー等)を整理し簡潔な表現を目指すべきとの意見が出された。本条項では、障害者が障害のない人と同様の対応を受けるべきとの平等・非差別の理念を本質とするものであることが確認された。
本件につき独立条文で扱うことに概ね合意があった。市民的及び政治的権利に関する国際人権B規約第7条に即した書きぶりであるパラ1については維持すべきとの意見が多数を占めた。
支援の対象として障害者のみならず、家族及び介助者についても言及すべきかにつき、本条約は障害者本人に焦点を当てるものであり言及すべきでないとの意見に対し、多くの国が障害者の支援者として言及すべきとした。また、女性や子どもに対する暴力や虐待についても、本条で言及すべきとの提案がなされた。
強制治療、強制入院を規定した本条を第15条と統合すべきとの意見が出されたが、本条を15条とは独立して置くとの意見に多くの支持があった。
本条項は、国際人権B規約や児童の権利条約の文言を踏まえた記載となっており、この条文によって新たな権利を作り出したり、締約国に新たな義務を求めたりするのではなく、障害者が「他者と同等の」移動の自由を有するとする点が重要であるとの認識の下、本条項に盛り込まれている権利(国籍を取得する権利、国籍を剥奪されない権利、移動の自由等)について整理し、既存の人権条約の文言に合わせた形にする方向で調整が行われることとなった。
本条のタイトルにもなっている「自立」という言葉について、自立した生活ができない障害者に対してネガティブな印象を与えかねないため同文言を削除すべきとの意見と、従来障害者の多くは家族や施設の中で依存して暮らし、従属的な地位に置かれており、その中で人格の尊厳を保つために自立した生活を保障することが必要であるため同文言は残すべきとの意見が出された結果、「自立」という言葉をタイトルに残すことに多くの支持があった。
本条を独立した条文として置くことに概ね合意があった。
「移動の自由」を「個人のモビリティー」という文言に変えることに合意があった。
議長案に対し概ね支持があった。
「国家手話(national sign language)」という表現には多くの国から懸念が表明され、議長修正案では「national」という文言は削除された。
議長案に対して合意があった。
本条を独立した条文として扱うことに概ね合意があった。「セクシュアリティーの経験」という文言を支持する国と、イスラム圏のように文言の削除を求める国との間で意見が分かれた。
本条約における教育の条項の重要性が認識された。障害者への教育については、漸進的な達成目標として普通学校でのインクルーシブな教育を指向することに多くの支持があった。また、(イ)一般教育制度では障害者のニーズが満たされない場合には、学力及び社会参加のための能力を最大限に伸ばす環境において効果的な支援がなされるべきこと、(ロ)障害、特に感覚障害に応じた教育を実施できる環境を整備すること、(ハ)障害者の教育に当たっては、専門家の育成が重要であることが議論された。
保健サービスに「性と生殖に関する保健サービス」という文言を含めることにつき、イスラム諸国より削除を求める国と残すべき国とに意見が分かれ、引き続き検討が行われることとなった。
議長案に対し概ね支持があった。さらに、ジェンダーや年齢の視点を入れるべきとの提案がなされた。
議長案に対し概ね支持があった。また、代替的雇用から開かれた労働市場への移行を促進する措置をとることにつき提案がなされた。
議長案に対し概ね支持があった。タイトルの文言「social protection」を「social security」に変えるべきとの提案がなされ、引き続き検討が行われることとなった。
議長案に対して多くの支持があった。「秘密投票」については、各国に様々な投票方法があるため、同文言を削除するか否かにつき議論が行われたが、市民的及び政治的権利に関する国際規約(B規約)に秘密投票が規定されていることから、現段階では維持されることとなった。また、「一般に適用のある国内法に従い政治的及び公的活動に参加する」ことについては、連邦制をとる国においては、連邦法以外を排除することになるため、「国内法」の文言を維持するかにつき議論が行われ、表現振りについては検討が行われることとなった。
障害者に特有の文化的または言語的アイデンティティーにつき、その必要性は確認されたものの、例示として手話と聾文化だけでよいのかという点につき、引き続き議論が行われることとなった。また、「知的所有権(intellectual property right)」を「著作権(copy right)」にすべきとの提案がなされたが、議長修正案では「知的所有権(intellectual property right)」が維持された。
議長案に対し概ね合意があった。また、締約国が条約履行のために情報収集を行う過程につき、より意味を強める文言にすべきとの意見に支持があった。
今次会合中に提示された具体的な条文案に基づき議論が行われ、国際協力について条文を設けることに多くの支持があったものの、文言については引き続き検討が行われることとなった。
国内モニタリングは障害者権利条約の実施において重要なポイントであるとの総括が行われ、議長案に対し多くの支持があった。条約の実施に関連する事項を扱う中心的機関については、連邦制をとる国にも即した表現にして維持されることとなった。また、各国の事情に即したモニタリングとすることに支持があった。
独立条約体を設立すべき、既存のB規約委員会を利用すべきとする提案がなされた。追加的予算を伴う独立条約体の設置については、参加国の関心がきわめて高い論点であり、次回会合までに各国で十分検討を行うこととなった。