平成17年8月15日
8月1日より12日にかけて、NY国連本部において開催された障害者権利条約アドホック委員会第6回会合の概要は以下のとおり。我が国よりは当省(角国際社会協力部参事官)、内閣府、文部科学省、厚生労働省から出席した他、障害を持つ当事者として専門的知見を有する東俊裕弁護士に引き続き政府代表団顧問を委嘱した。また、約30名の我が国障害者NGO関係者が傍聴した。
(1)昨年1月に条約草案作業部会が作成した草案(以下WG案)に基づき、昨年以降開催されている第3回~第5回会合に続いて具体的な条約案文の交渉が行われた。今次会合では、主として教育や労働の権利等、いわゆる社会権に係わる第15条から第25条及び条文の構成について議論された。我が国代表団も各条文につき発言・提案を行いつつ積極的に議論に貢献した。
(2)条約作成作業の加速化のため、今回会合では前回会合までとは進め方が異なり、プレナリー会合(本会議)においては条文の文言交渉に関する詰めた議論は行われず、各条文に対し各国及び参加NGOが発言・修正提案を行った後、出された意見を議長が総括し、文言交渉は各条文について議長に委任されたファシリテーターが非公式会合で主に行う形式が取られた。今回会合で取りまとめられた条文はなかったが、次回の第7回会合においては、第3回会合から今回会合までの議論を踏まえ、6~8週間後に配布される議長テキストが議論のベースとなる予定。明年からは、条文のとりまとめ作業が加速するものと思われる。
(3)今回会合においては、各条文に関する政府間の議論が終了後、参加NGOからステートメント等の意見表明を行う機会が与えられる等、NGOの意見にも十分に配慮した議事運営が行われ、我が国のNGO(日本障害フォーラム(JDF))も発言を行った。
(4)今後の日程については今秋の国連総会にて決定されるが、アドホック委員会としては、次回の第7回会合は来年1月に2週間乃至3週間、第8回会合は来年8月に2週間乃至3週間の予定で開催することを提案することとなった。
本条の趣旨は、障害者が他者と同様に住む場所や様態を自由に選択することが出来、地域に包含されるようにすることであることにつき一般的な合意があったが、施設での暮らしをを強制されないとの要素を本条文に規定するか或いは第10条に統合するかについては合意には至っていない。
また、障害者が他者と同様に支援サービスを受けることについては、社会権の漸進的実施のために児童の権利条約第4条の文言(最大限可能な資源の範囲内で)を含むことにつき議論されたが右規定振りにつき更に検討が必要であるとされた。
女性全般については女子差別撤廃条約で網羅されているが、右条約は障害のある女性に関する独立した条文がなく、他の法的文書にもそのような表現はないことから、本条約で、障害のある女性について適切に言及し、男女間の平等原則について何らかの形で含めるべきとの点について一般的な合意があった。しかし、条約の中でどのような形で規定するのが最も適切かについては、1)第15条bisとして女性の障害者に限った独立した条文を置くべきとする国、2)前文、第4条の締約国の一般的義務及び第25条のモニタリング等で言及すべきとする国、3)障害のある女性の主流化のため、関係する各論の条文全体で言及すべきとする国、4)右1)と3)を組み合わせた両方にすべきとする国と、参加国の間で意見が分かれた。
本条約で障害のある子供について何らかの特別の言及をする必要があるが、児童の権利条約第23条に既に含まれている事項について、本条約で更に規定することは避けるべきとの点について一般的な合意があった。但し、条約中にどのように言及することが最も適切かについては、1)第16条bisとして独立条文を置くべきとする国、2)前文及びその他の条文(例えば、第2条の一般的原則、第4条の締約国の一般的義務、第25条のモニタリング)で言及し、条約全体に効力を及ぼすべきとする国、3)障害のある子供の主流化のため、本条約の中で関係する条文で言及すべきとする国と、参加国の間で意見が分かれた。
教育を受ける対象は障害児のみではないことから、本条文の範囲が障害者一般に拡大された。1)教育が障害者が生涯を通じて社会参加しながら生きていくための基礎となるため、統合教育が本条文の主なテーマであること、2)障害者のために、統合教育と障害者の教育の選択権のバランスを取る必要があることが指摘された。他方、この選択権の問題に関しては、先進国NGOが統合教育が原則であるとし、またEU案においてもかかる問題を避けたことから、深い議論は行われなかった。
また、機会平等の原則に則り、本条約の締約国は統合教育の実現を決意するが、一般教育が障害者のニーズに合わない例外的な場合には、代替形態の教育を提供するための必要な措置をとることとされた。
本条文の重要性につき一般的合意があるとともに、選挙権・被選挙権等を含む政治生活的権利、行政的・政治的団体を含む民間団体の活動への参加等の公的活動への参加に関する本条文の書きぶりを、自由権規約や女子差別撤廃条約の規定に倣い強化する必要があることについて一般的合意があった。また、永住権所得者等、市民(citizens)では無くても選挙権を有する制度を持つ国もあることから、範囲を市民から障害者一般(persons)に広げる書きぶりについて一般的合意があった。
1)本条文と第20条の内容の間にかなりの重複が見られること、2)第13条(表現及び意見表明の自由並びに情報へのアクセス)と第15条との間にも重複が見られることにつきかなりの議論が行われた。第19条と第20条は同じコインの表裏であるとの指摘があり、2つの条文を統合することについては概ね合意があった。
また、アクセシビリティーとは、建物のみならず情報等へのアクセスも含み障害者にとっての社会参加を促進するための重要事項であることにつき多くの国が指摘した。
本条文の個人のモビリティーには、1)第19条で扱われている最も広い意味でのアクセシビリティー、2)個人のレベルでのモビリティー、3)移動の自由の3つの重要な側面があることが指摘されるとともに、上記(6)のとおり、本条文を第19条と統合することに概ね合意が見られた。しかしながら、本条文の削除により、例えば上記3)の要素が失われることを懸念する国もあるため、更に議論が必要とされた。なお、我が国は、次回会合において本条文のファシリテーターとなる予定。
WG案を2条に分け、第21条を健康の権利とし、第21条bisはハビテーション及びリハビリテーションについて規定することにつき一般的な合意があったが、第21条でも医療関連又は健康関連のリハビリについて言及するかについては結論が出なかった。現在の第21条には、例えば、健常者と同等の家族計画に関する健康プログラム、地域において受けられる健康サービス、二次的障害の防止等が要素として含まれている。第21条bisの内容については、今後更に検討することとなった。
本条文は、1)権利に基づいたアプローチを取るべき、2)ILO条約等既存の国際条約を低下させないような規定ぶりにすべきとの点について、一般的合意があった。また、障害者のエンパワーメントや社会への完全参加のため、開かれた労働市場に障害者がアクセスできることの重要性について一般的支持があった。
クォータ制(雇用割当制度)を条文で規定すべきかとの問題については合意がなかったが、比較的多くの国が、クォータ制といった特別な文言を条文内で使用することよりも、アファーマティブ・アクションや特別措置といった文言を使用することを選好した。雇用分野における合理的配慮等については、その内容を明らかにすべきとの意見が出されるにとどまり、今回会合では突っ込んだ議論は行われなかった。今後引き続き検討が行われる予定。
現在のWG案は、公営住居の障害者への割当割合規定、減税措置・税金面での優遇、生命・健康保険加入等、細かく規定し過ぎていることから、本条文を簡潔化することに一般的な合意があった。
社会保障との文言を、社会的支援、社会的保護、社会的安全ネット等の文言に置き換えた方が適切か否か等に関する議論が行われた。また、1)「重度」障害者、「重複」障害者については、何が重度障害なのか等につき定義することは困難なため、障害者一般として単純に言及すべき、2)障害者自身の他に家族も支援の範囲に含めるべき点について一般的合意があった。更に、参加国の中には、イスラムの宗教上の理由により生命保険制度に好意的でない国もあるため、本条約で生命保険の権利等を新設すべきでない点につき指摘があるとともに、生命保険については第21条で扱う方が適当と考える旨の提案もなされた。
現在のWG案は詳細に規定し過ぎている上、本条約の他の条文との重複も見られることから、本条文を整理・簡潔化することに一般的な合意があった。また、本条文の範囲を拡大し、障害児の遊ぶ権利や障害者のツーリズム(観光)も盛り込むべきとの点については一般的な合意があった。宗教的生活への参加を本条文で盛り込むべきとの提案に対しては、少なくとも本条文には盛り込むべきではないとの意見が大勢を占めた。
国際協力は本条約に不可欠な事項であり、途上国が本条約を履行するのを助けるために重要な役割を果たす点に一般的合意があった。しかし、国際協力を独立した条文とすべきか、国際協力の中のどの要素を本条約の中で書き込むかについては、1)国際協力の条文を、本条約を履行しない正当化のために利用する国が出てくることへの懸念、2)国際人権分野の法律では先例のない権利義務を作り出すことへの懸念等、異なった見解が出された。右観点から、児童の権利条約第4条に倣い、第4条の締約国の一般的義務で規定し、条約全体に影響を及ぼした方が良いとの提案もなされた。
1)本条約に国内モニタリングと国際モニタリングの両方を含むべき、2)モニタリング・システムを効率的なものとすべきとの点について、一般的合意があった。
本条約のモニタリング条項は、既存の国際条約と同等かそれ以上のモニタリング、人権条約他の条約のモデルとなるような最新のモニタリングとすべきことにつき、一般的合意があった。また、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)において現在進行中である条約体改革に関する報告が次回のアドホック委員会のために準備中であるが、条約体改革の議論は数年かかることも予想されるため、本件条約のモニタリング条項は今後の改革を加味できるよう、柔軟な規定にすべきである旨指摘された。また、障害者自身及び障害者を代表する組織等の市民社会からの十分な参加を得つつ、モニタリングを行っていくことについて全般的な合意があった。
議長より、これまでの会合では、各参加国は自国のプレファレンスに基づき修正提案等を行ってきたが、次回の会合においては、更なる協調精神と柔軟性を持ち、議長テキストの各条文の書きぶりを受け入れられるか、どうしても受けれられないかとの観点で臨むよう期待する旨の発言があった。
(参考)障害者権利条約交渉に関する諸文書は以下の国連ホームページに掲載されている。
http://www.un.org/esa/socdev/enable/rights/adhoccom.htm
(別添)
(注:「bis」の各条文は、これまでの議論の過程で別途独立の条文を設けることにつき合意乃至提案があったもの。)