人権・人道

「NGOによる民主化支援セミナー」(概要)

平成20年2月

 2月2日(土曜日)、国際協力機構(JICA)国際協力総合研究所において、外務省主催の「NGOによる民主化支援セミナー」が開催された。同セミナーは、人権理事会の創設を始めとする国連における「人権の主流化」や「国連民主主義基金」(UNDEF)の設置に代表される、近年の人権・民主主義を巡る国際的潮流を念頭に、今後の官民を含めた我が国としての人権・民主主義政策の取組み、在り方を探るための機会として開催した。就中、人権保護や人権を保護・促進し得る最も適切な政治形態である民主主義の分野における国際社会の支援の在り方として、1990年代半ば以降、市民社会の重要性が高まっている国際的な潮流を踏まえ、従来より人道援助分野に力点を置く、我が国市民社会の民主化支援分野への積極的な関与の必要性を認識してもらうことを主たる狙いとした。かかる開催趣旨にかんがみ、ローランド・リッチUNDEF事務局長のほか、現地NGO(コソボ)、国際NGO(本部米国)、日本のNGO(カンボジア市民フォーラム)より、各代表を招いて、パネルディスカッションと分科会形式のワークショップを行った。

1.全体会合「国際的な民主化支援の価値」

(1)開会挨拶(木村人権人道課長)

 冒頭、主催者を代表して、木村人権人道課長より開会挨拶を行い、1990年代以降、開発と民主化はますます相互補完性を深めていること、民主化支援分野においては政府だけでない多様なアクター、メニューが必要であり、現地市民社会や国際NGOを含めた市民社会の役割と官民連携が一層重要である旨言及した。

(2)基調講演(リッチUNDEF事務局長)

●リッチ事務局長より基調講演が行われ、冷戦期においては人権保護や民主化支援の国際的議論はタブーであったが、冷戦終結後、国際的議論が広く議論されるようになったこと、UNDEFの創設は、長い年月を経て、人権保護と民主化支援が国際社会で重要かつ正当な課題として国際社会が認知したことを明確に示すものである旨の発言があった。

●また、民主化支援には国内外の市民社会の関与と現地市民社会の育成が重要な要素としつつ、日本はUNDEFの主要拠出国であり、バイやマルチのODAにおいて、民主化に資する支援を多く行っている一方で、日本には欧米諸国や韓国、台湾等にもある「民主化基金」が存在しないとの指摘があった。また、日本のNGOにはUNDEFの活動に積極的に関わってほしい旨の期待が表明された。その他、アジアには西洋と違う文化、歴史があり、国によって様々なアプローチがあるが、民主主義の概念自体には各国の歴史に存在するとの付言があった。

●(会場からの質問を受け)1)NGOの支援活動は理想や熱意だけではうまくいかないこと、2)国際政治、歴史・文化等を含めた当該国の社会情勢と今後の動向までも見通した分析力、2)達成可能な目標設定、3)他のNGOとの連携で効果をあげる視点の重要性を指摘した。

(3)パネルディスカッション

 現地NGO、国際NGO及び我が国NGOより、民主化支援の意義、課題、具体的支援の事例紹介等を中心とするプレゼンテーションがが行われた。

(イ)「国際NGOによる民主化支援」

Preeti Shoroff-Mehta氏(World Learning, 市民社会とガバナンスプログラム・ディレクター)より、民主化は時間を要する事業であり、一歩一歩着実に進めるための戦略構築の重要性と、セクター主義ではなく全体を見渡す視野が重要であること、現地・国際NGO間の情報共有を含めた主体間の調整が成否の鍵を握ることを強調した。また当該国の社会状況を検証・分析した上で、事業の継続性には長期目標と共に、実現可能な短期目標の設定が重要であること等を説明した。その他、選挙の実施は民主化の「入口」に過ぎないこと、選挙と選挙の間の時期こそガバナンスの真価が問われることを踏まえたプロジェクト形成・実施の重要性を強調した。

(ロ)「現地NGOによる民主化支援」

Igballe Rogova氏(Kosova Women's Networkエグゼキュティヴ・ディレクター)より、コソボにおける人権向上と民主化支援の実体験に基づき、国家の再建には女性を含めた教育、保健等のBHNが社会形成の根幹となること、現地市民の意見・リソースを可能な限り活用すること、国際NGOとの協力関係の構築が大きく寄与した旨の説明があった。

(ハ)「カンボジアでの民主化支援と日本のNGOの可能性」
(熊岡路矢氏、カンボジア市民フォーラム共同代表世話人)

●1990年代のカンボジア和平を中心とするこれまでの支援経験として、当該国の言語、文化、宗教、歴史、何よりも自尊心を理解し、当該国民の心情への配慮と根回しが民主化支援の成否を握ること、民主化という難題に立ち向かうには、各支援主体ごとの個別的アプローチではなく、その国を最も熟知している現地NGOを中心とする関係者間の協力・連携を通じた総合的・包括的なアプローチでしか解決しない旨説明した。また、人材は存在しておりその活用が課題であること、事業の継続性には資金確保が課題であること、民主化支援では農村開発・地域開発といった開発との融合戦略を採ることが有益との指摘があった。

2.分科会セッション

(1)「社会開発協力事業に民主主義支援の要素を取り入れるには」

●池田明子国連民主主義基金(UNDEF)諮問委員会事務局員より、UNDEFの目的として民主化支援のためのプロジェクトに資金を出していること、UNDEFとしては、市民団体の強化を重視しており、国連機関よりもNGO団体を中心に援助したいこと、さらに毎年秋にUNDEFのプロジェクトの公募がオンラインで行われることについて紹介があり、2008年秋の第3期公募に向けて、日本のNGOからの積極的なUNDEFへのプロジェクト申請への期待が表明された。

●さらに、これまでにUNDEFに採用されたプロジェクト(タジキスタンの「弁護士トレーニング」、アフガニスタンの「ラジオでのイスラム教及び女性の権利のメッセージ」)を紹介しつつ、実際の応募で高い評価に結びつく点として、国連の課題にリンクさせ(relevance)、世界・国際機関に貢献・解決できるようなプロジェクトであること、社会的弱者等を含む多くの人々にためになり(inclusive)、一般の開発ではなく民主化支援プロジェクト(選挙、国会、議会、平和対話、弁護、法律、人権など)であること、受益者等結果がはっきりしていて具体的であること、活動と結果が予算に見合っており人件費よりも活動にかかる費用に重点を置くこと、英語の間違いよりも内容を簡潔にシンプルにする方がいい評価を得られること等の諸点を指摘するなど、プロジェクトの作成・申請にあたっての実践的な助言があった。

(2)「市民社会強化プロジェクトの立案と実施」

●1)What is Democracy for you ? 2)Identify one activity that you would like to develop as a project for ・・・・・ ? という2つの質問が提起され、人権保護や民主化支援のキーワードは「参加」であるとの考えにより、参加者全員の意見が求められ多様な意見が表明された。その後、グループを3つに分け、1)アジアにおける民主主義の拡大イニシアティヴ、2)報道の自由が認められていない国での独立メディアの立ち上げ、3)紛争後の国家再建期における孤児・ストリートチルドレン支援、という3つの課題の下、これらを実現するためのツール、プロセス、戦略等を議論した上で、グループ毎にプレゼンテーションを行った。

(3)「女性のエンパワーメントと和解のためのプロジェクトの立案と実施」

●講師の所属団体が行った1)村落における女性のエンパワーメント、2)ユーゴ紛争後のコソボとセルビアの女性団体による和解の2つのプロジェクトについて紹介があり、参加者からの意見が表明された。現地の文化を尊重したプロジェクト立案の必要性、女性のエンパワーメントには男性の関与が重要であることにつき合意が得られた。その後、1)人権と基本的自由、2)民主的対話と憲法策定の過程が課題として設定され、2つのグループに分かれて、それぞれの課題についてUNDEFに申請するプロジェクトを企画・立案し、プレゼンテーションを行った。

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