
児童の権利条約第3回政府報告に関する市民と関係省庁との意見交換会について
平成18年7月13日 17時00分―19時00分
(於 外務省)
(注:以下の内容は、本件会合の要旨であり、すべての発言・質問を記載するものではありません。また、(1)特定の個人や団体等に対する批判、(2)本件条約に直接関係のない事項に対する発言は、本件会合の趣旨を踏まえ掲載しておりません。)
【参加者】
外務省ホームページでの公募に応募した一般参加者約60名
【概要】
1.政府側からの発言
(外務省)
前回(5月12日)の意見交換会及びその後提出された意見や質問を踏まえ、以下のとおりまとめて説明させていただきたい。
1.人権に対する考え方
(1)人権とは、すべての人々が生まれながらにしてもつ権利。文化・政治・経済体制・発展段階の如何に関わらず尊重されるべきものであり、その養護は世界各国の基本的な責務であると考えている。
(2)我が国においては、児童の権利条約は憲法をはじめとする現行国内法制度で既に保障されてきているが、人権の保障は先進国・途上国を問わず、法制度のみならず、意識面・実体面においても不断の努力によりさらに助長することが必要。
2.児童の権利条約の必要性
児童の権利条約は、児童は、人格の完全かつ調和のとれた発達が確保され、社会のなかで個人として生活するための十分な準備が整えられることが必要であるとの認識のもと、自由権規約・社会権規約について定められた権利を児童についても広範に規定しつつ児童の権利の保護に焦点を当てた人権条約。武力紛争や性的搾取の犠牲となりやすい児童の現代の状況をも踏まえたものであり、締約国数も192と多く、国際社会としてもこの条約の意義を高く評価している。
3.条約の解釈
外務省としては、関係省庁と協力して条約の内容・考え方を関係方面に幅広く広報することに努めていきたい。条約を具体的に実施する関係省庁とは条約の締結段階から協議しており、関係省庁の取組みには条約に関する政府の解釈が適切に反映されていると理解している。今後とも条約の普及については様々な方法で努力したい。
4.「家族」や「躾」との関係
児童が条約によって認められる権利を行使することがあることは事実であるが、条約は、父母が児童のその発達しつつある能力に適合する方法で適当な指示及び指導を与える責任・権利及び義務を尊重することも規定している。また、父母等は児童の養育及び発達についての第一義的な責任を有するとも規定されており、条約は、児童と成人を全く同様に扱うことを求めているものではない。
5.条約の廃棄等について
条約の締結のためには関係省庁との十分な協議及び国会における審議・承認を得ている。現時点において、我が国の条約締結時から事情の大きな変化があるとは考えられず、条約を廃棄する必要があるとは考えていない。また、条約はコンセンサスで採択されている。条約改正を提案するつもりはなく、締結時に付した留保を除いて新たな留保を付すことも検討していない。
6.条約批准の経緯
日本は1900年9月21日に条約に署名、1992年に締結のための承認を得るために通常国会に提出、94年3月に国会承認を得た。審議には長い時間がかけられており十分な審議が行われたと承知している。
7.政府報告と児童の権利委員会
政府報告制度は、国際社会において人権を擁護し促進していくためのメカニズムとして、政府間の人権フォーラムの活動と並んで重要な役割を果たしている。委員会は、条約第45条に基づき提案及び勧告を行うことができるが、これは締約国を法的に拘束するものではない。日本としては条約を誠実に遵守していく立場から、このような提案・勧告を十分検討の上適切に対処していきたい。また、委員会による事実誤認や理解が不十分であると思われるような点については、次回の政府報告のなかで可能な限り正確な情報を提供すべく配慮しながら、作成作業をとりまとめており、また、審査の際にも政府の立場・見解が正しく理解されるよう説明を行うこととしている。
8.NGOとの関係
国連の経済社会理事会は、一定の特性を満たすNGOに対し、その特性に応じた協議資格を付与している。協議資格を取得したNGOは、経社理やその下部委員会等へのオブザーバー出席等が認められる。NGOの資格取得にあたっては、経社理NGO委員会事務局に申請し(詳細は国連広報センターのホームページで参照可能)、経社理の下部組織であるNGO委員会で審議され、経社理において決定される。政府としては、国連の場で我が国のNGOのプレゼンスが高まることは望ましいと考えており、経社理等の場で適切に対応したい。
また、外務省の対NGO支援については、2003年のODA大綱等で、NGOとの連携を進めることを明記してNGOとの対話・協力に努めている。NGOへの協力は、NGO無償資金協力やNGO事業補助金という形で行われており、実績は外務省のホームページで公開している。
9.北朝鮮による拉致問題について
北朝鮮による日本人の拉致問題は深刻な人権侵害である。この解決のために政府は北朝鮮との間で随時に亘り協議を行うとともに、各多国間フォーラムの場を活用してきている。政府報告にも、条約の規定(例えば第35条:児童の誘拐、売買等からの保護)との関わりの範囲で記載する方向で検討している。
(内閣府)
男女共同参画社会基本法第6条の規定を第2回政府報告における子どもの保護育成推進の実績として記載するのが不適当ではないか、との指摘について。この記載は、条約第18条に定められる養育に関する父母の共同責任に対応するものとして回答したものである。
2.参加者からの主な発言
- 条約を盾にして、学校における国旗国歌に対し反駁しており遺憾な事例があるが、政府の見解はどうか。
- 人権擁護法の成立を目指しているとのことであるが、裁判官の令状なく立入検査をすることができることや、言論の自由を取り締まること、外国人でも人権擁護委員になれることなどに憲法違反の疑いがあり、国連に人権擁護法の成立を約束したり、促される結果になると読みとれるような政府報告は出さないで欲しい。
- 延長保育・休日保育は、児童虐待にあたる。政府の見解を聞きたい。
- 現在の性教育が適切であるかどうか政府の見解を聞きたい。
- 政府報告は外務省内のどこで最終決定されているのか。また、政府報告が未提出である締約国が多いと思うが、他の人権条約の政府報告提出状況やその理由を教えてほしい。政府報告を出していない国に対してどういう働きかけをするのか。
- ある自治体で作成している児童の権利条約に関するパンフレットは、発行の仕方、書かれている内容ともに誤解を招くものであり、特に子どもの自己決定の権利を助長している。条約の解釈権は政府にあると聞いているが、現状は自治体に任せたままである。条約を廃棄するのが理想的だが、それができないのであれば、この点をはっきりさせておくべき。
- ある自治体では、1歳でもおやつの選択の自由がある等としていたり、常軌を逸した保育や、混合騎馬戦等の不適切な事例が問題になっており、内閣府からも一定の判断がなされているところであるが、今後はどのように指導していくのか。
- 食育の必要性を認識しているのか。
- 母乳育児をより推進すべきであるが、どういう考えなのか。
- 母子健康手帳が親子健康手帳に名称を変更されたのはなぜか。
- 児童の最善の利益を考える場合、児童をカルトから守らなければならない。この問題についてどう考えているのか。
- 児童の権利委員会は、政府以外の情報源からの情報提供を歓迎するとしている。日本における人権とは何かを考え直し慎重に政府報告を出してもらいたい。
- 条約では、子どもは父母から分離されないと規定しているが、一方の親が子どもに会うことが裁判で認められたにもかかわらず裁判の結果が無視され、面接が確保されていない。かかる状況は離婚の増加、DV法の実施に伴って増えている。児童の権利条約上の政府の義務を果たしていないのではないか。
- 男女共同参画基本計画や学習指導要領等は、一般市民の意見を踏まえて見直しも行われてきている。したがって、児童の権利条約の運用についても、条約の精神や解釈からはずれた運用があるのではないかと、見直してもらいたい。政府報告についても、出さないという方向で決心してもらいたい。
- 児童の権利条約はいわゆる個別人権であり、民法や憲法には劣後する。政府は、条約が規定する権利は、憲法や国際人権規約で保障されているとして、実際には約束したことを守っていない。このような違法な条約をもとにして自治体が条例をつくっている。子どもに権利を持たせることにより、教室で騒ぐ等様々な問題の原因となっている条約を廃棄すべき。
- 子どもは社会が育てるという思想で、人間を冷血動物に近づけることはしたくない。途上国では必要であるかもしれないが、日本には児童憲章や青少年健全育成条例があり、十分である。
- 北朝鮮による拉致問題は、B規約や児童の権利条約違反である。この点を政府報告に書き込むべき。
- ドイツは、児童の権利条約にいう権利の用語をB規約24条の用語に従うとの解釈宣言を行っている。日本もそのような対応をすべき。
- ある自治体では、子どもがありのままの自分でいる権利や、自分で決める権利等を条例で定めているが、これは誤った傾向である。
- 児童の権利委員会は、日本の国内事情について細かくコメントしており、特定のイデオロギーに影響されたものとなっている。
- 憲法や国内法で保障されているとして、条約批准の際には新たな立法措置は必要ないとの国会答弁があるが、そうであるとすると、条約の批准は国家の体面のためであるとなる。体面のために国内に有害な影響をもたらすのであれば、条約は廃棄して欲しい。少なくとも政府報告を提出しないで欲しい。
- 男女共同参画社会基本法は問題が多く、男女が共同して養育にあたることは当然であり、父性・母性がそれぞれどのように出すのかという点が重要である。「家庭生活における活動」との表現がそもそもふさわしくなく、条約第18条に対応するものとして書くべきではない。
- 男女共同参画社会基本法と条約をすりあわせながら、家庭の絆というものをとらえ調整しながら考えてほしい。
- 児童の権利を主張するが故に、本当の児童の幸せを考える上で、親子の情愛・信頼関係が根底になければならない。男らしくせよ、と指導もできないのでは、社会で家族を守り生活を築くことができるのか危惧を感じる。政府報告を提出するのであれば、反対・賛成の意見を述べ、国連の反応を見たい。
- 子が親を殺す等の凶悪犯罪が増えているが、その背景には、薄れてきた親子関係があると思う。
- 男女共同参画基本計画では、男女混合騎馬戦に関し、極めて非常識な事例であると記載しているが、文部科学省の説明によると、各学校で個別に判断して、児童の発達段階を考慮して対応すればいいとのことである。なぜやめさせられないのか。
- 子どもが権利の全面的な主体であることとしていたり、乳幼児の意見表明権がある等としている自治体がある。条約の拡大解釈ではないのか。
- オンブズパーソンの判断の理由は公開されず問題である。
- 男らしくしなさい、女らしくしなさいというのが差別であるという認識なのか。
- これまで政府は特定の団体の意見のみを聴いてきた。過去の意見交換会の内容を公表してほしい。
- 外務省自身が児童の権利条約を守らないから拉致問題も解決しないのではないか。
- 児童の権利条約というのは、生きていいんだよと、子どもに訴えること。若い人たちに頑張ってほしい。
- 西ドイツやポーランドや、条約の批准に当たり国内で議論を重ねて解釈宣言を出している。子どもに権利を与えることによって全体主義、社会主義に導くことになる。最近ようやく「ゼロトレランス」ということが言われてきたが、文科省の考えはどうなのか。政府報告を出すのであれば、記載は曖昧な表現でよい。
- 政府と地方自治体の解釈が異なっていた場合に、指導通達等、具体的な指示を出すのか。
- アメリカは、児童の権利条約を批准していない。日本は、条約の見直しや留保に関しての材料を集め、幹部に報告するつもりはあるのか。
- そもそも日本では子どもが減っている。男女共同参画社会基本法では、少子化を食い止めるためには男女共同参画が大切とされ、膨大な予算が投じられている。コストとベネフィットの評価をきちんとしてもらいたい。
- 政府報告そのもの及び本件意見交換について大臣にまで報告しているのか。
- 引き続き意見交換会を開催してほしい。
3.上記2.を受けた政府側からの回答
(外務省)
- 政府報告の提出時期については、これまでに出されたいろいろな意見を踏まえつつ、最終的な報告書の内容を関係省庁と協議しながら進めていきたい。英語に訳す作業もあるが、可能な限り早く提出できるよう作業を進めたい。政府報告の内容についても、関係省庁と協議しながら、それぞれの省庁が然るべく内部の決定を経て最終的な案文が固まることになる。外務省は、本件意見交換会について然るべく当省幹部に報告しており、当然大臣の指揮下にあることを踏まえ、意思決定を行う。
- 条約の政府報告を、どれくらいの国が提出しているかについては、本年2月段階では、第1回目の報告について182か国が、2回目の報告については、97か国が、3回目の報告については21か国が提出している。一般に、政府報告の内容が多岐にわたり、各国の負担が大きく、報告の遅延の原因となっており、政府報告のあり方を含め、改革について議論されている。ちなみに、日本は、1回目は1996年5月、2回目は2001年11月に提出している。
- 児童の権利委員会は、政府からの報告のみではなく、様々なところから意見を聴くことになっており、多様なソースの情報を踏まえて委員会の勧告等が出されている。
- 政府として、解釈を行い、条約の広報・普及に最大限努力する。一方、民間・裁判所につき関与できることには限界があり、また地方自治制度の大きな枠組みの中で対応することになるが、関係省庁の間で問題意識を共有し今後対応していきたい。
(内閣府)
- 適切な性教育については、昨年末に策定した男女共同参画基本計画(第2次)に記述されているとおりであり、具体的には、「児童生徒の発達段階に応じて男女とも正確な知識を持ち、自ら健康管理を行うことができるようにする」ということであり、今後はこの計画に沿った形で、関係省庁などに対応してもらいたい。自治体に対しては、ブロック毎に研修会を開催し広報・啓発に努めていきたい。
- 食育については、平成17年6月に成立した食育基本法に基づき、子どもの朝食欠食の問題等を盛り込んだ食育推進基本計画が本年3月に決定されたところである。第3回政府報告においては、その点を記述していきたい。また、食育推進基本計画には、各省庁等が取り組むべき施策も盛り込まれており、今後基本計画に基づいた施策の推進を図っていきたい。
- 家族やひな祭り等の伝統文化を否定することは、国民が求める男女共同参画とは異なるという点を男女共同参画基本計画(第2次)において明記している。
(警察庁)
- カルトについては、政府報告に特出しする形では記載はないが、一般的にいえば、事件性のあるものについては捜査の観点から対応しており、また、被害を受けている少年の相談等の支援等を行うこととなる。
(法務省)
- 人権擁護法案については、本年4月に法務大臣直轄の検討チームを立ち上げ、検討している段階である。同法案が必要であるという認識や同法案の基本的な考え方について変更はないが、各方面からさまざまな意見が出ているので、これらについても検討を加えた上で、同法案を再提出すべく努めていきたいと考えている。国連から国内人権機構を設置するように勧告を受けていることは真摯に受け止めるが、勧告を受けていることを理由に同法案の提出を強行することは考えていない。
- 監護権を有しない親と未成年の子の間の面接交渉について他方の親との間で争いが生じたときは、家庭裁判所に面接交渉を求める家事調停を求めることができ、調停が成立しない場合には、手続が家事審判に移り、家庭裁判所が審判を行うことになる。審判などで面接交渉に関する取り決めがされたにもかかわらず、それにしたがった任意の履行がされない場合は、その実効性を担保するために家事審判法上、「履行勧告」の制度を利用できる。また、審判などで定められた面接交渉義務について、民事執行法上、強制執行することもできるため、民法改正の必要はないと考えている。
(文部科学省)
- 国旗・国歌については、現在、学習指導要領において、我が国の国旗・国歌の意義を理解させ、これを尊重する態度を育てるとともに、諸外国の国旗と国歌も同様に尊重する態度を育てるとしており、入学式や卒業式ではその意義を踏まえ、国旗を掲揚し国歌を斉唱するように指導するものとしている。各学校において適切に指導が行われるよう、文部科学省としても指導に努めていきたい。
- 性教育については、児童・生徒の発達段階に沿った内容で実施することが重要であり、保護者・地域の理解を得ながら進めること、個々の教員ではなく学校全体で判断し進めることが重要であると考えている。騎馬戦や組体操を体育授業でやるにあたっては、児童・生徒にどのような能力を身につけさせることを目的としているのか、等各学校現場で総合的に勘案・検討して行う必要があると考えている。学習指導要領については、それぞれの時代の要請、社会状況を踏まえて、適宜改訂をしてきている。
(厚生労働省)
- 厚生労働省としては、子育ての第一義的責任は家庭にあると考えているが、子育て家庭を国・地方公共団体・企業・地域など社会全体で支援することが重要と考えている。このため、例えば病院のように夜間・休日勤務が必要な保護者に切実なニーズがあること等を踏まえ、安心して子どもを預けられ、質の高い保育サービスを提供することが重要であると考えている。ただ、子育て期の家族が子どもと過ごす時間を確保できることも同じく重要であると考えており、働き方の見直しを抜本的に進めるといったことを推進したいと考えている。
- 母乳育児については、母乳育児が乳児にとっての免疫・栄養・母体の回復・母子の愛着形成等の観点から大変重要であると考えており「健やか親子21」という国民運動で推進している。病院については、WHO基準で認定はされないものの、病院独自で母乳育児に取り組んでいるとの報告もある。今後の普及方法について検討しているところ。
- 母子健康手帳について、名称の変更はしていない。