
児童の権利条約第3回政府報告に関するNGOと関係省庁との意見交換会について
平成18年5月12日 14時30分―16時30分
(於 衆議院第一議員会館)
(注:以下の内容は、本件会合の要旨であり、すべての発言・質問を記載するものではありません。また、(1)特定の個人や団体等に対する批判、(2)本件条約に直接関係のない事項に対する発言は、本件会合の趣旨を踏まえ掲載していません。)
【参加団体】
「第3回子どもの権利条約 市民・NGO報告書をつくる会」、「日本弁護士連合会」、「子どもの権利条約レポートNGO連絡会議」
【概要】
1.政府側からの発言(注:3月17日に行った会合の内容に基づく)
(外務省)
1.第3回政府報告のポイントとなる点は、以下の3点:
(1)我が国は、「武力紛争における児童の関与に関する児童の権利に関する条約の選択議定書」(2004年8月締結)及び「児童の売買、児童買春及び児童ポルノに関する児童の権利に関する条約の選択議定書」(2005年1月)をそれぞれ締結した。
(2)児童の商業的性的搾取について積極的な取組をすすめてきた。
- 第2回児童の商業的性的搾取に反対する世界会議(横浜会議)の開催(2001年12月)
- 人身取引対策(関係省庁連絡会議の立ち上げ、2004年12月の行動計画の策定
- 児童のトラフィッキング問題に対する国際シンポジウムの開催等
(3)世界の児童の権利の保護・福祉増進の観点から、従来からODA等を活用した積極的な国際協力を行っているが、近年は、特に、我が国の人道支援の基本方針である一人一人の保護と自立のための能力強化を目指す「人間の安全保障」の理念に基づき、紛争や自然災害等の影響を受けた児童の支援を強化してきている。
2.また、いただいている指摘に対応する点としては、以下のポイントが挙げられる:
(1) 統計的情報の報告については、第2回報告の際に使用したデータの更新は行っている。その他のデータについては必要に応じてさらに検討していきたい。
(2) 児童の権利委員会が発出する最終見解でなされている各勧告に対する対応状況については、随時見直しを行っており、今後も行っていく予定。
(内閣府)
内閣府においては、政府の青少年育成施策の総合調整を行う立場から、第3回政府報告の作成に関しても、外務省と協力して、引き続き取りまとめに当たっているところ。いただいた意見書及び意見交換会の内容も踏まえ、関係省庁と協力して、政府報告の内容がより適切なものとなるよう努力したい。
政府報告に盛り込むポイントとしては、1)2003年に青少年育成推進本部が設置され、同本部において青少年育成施策大綱を策定し、この中で本条約にも言及していること、2)本条約を踏まえ、子どもの権利条例の制定や子どもオンブズパーソンの設置を行う地方自治体が現れていること、3)条約の広報として、毎年青少年白書に条約の概要や児童の権利委員会の勧告全文を掲載していること等を予定。
(警察庁)
- 政府報告の作成については、外務省と連携しながら行っている。
- 平成14年に、青少年育成の観点を踏まえ、警察庁では、少年警察活動規則を策定し、児童の権利の擁護等については周知してきている。
- 市民社会との協調については、2002年から毎年、東南アジア各国の警察・司法機関及びNGOの代表者等を我が国に招へいして、児童の商業的・性的搾取問題に係るセミナー及び捜査官会議を開催している。
- 児童虐待は深刻な問題と受け止めており、児童虐待防止法及び児童福祉法の改正を踏まえつつ、警察庁としても対応を強化してきている。
(法務省)
人権擁護法案の現状について。平成13年5月及び12月にそれぞれ人権擁護推進審議会の答申を受けて、独立の行政委員会として「人権委員会」を設置する人権擁護法案を国会に提出したが、平成15年10月、衆議院が解散されたことに伴い廃案となった。法務省としては、同法案をできる限り早期に再提出できるよう努力している。
(文部科学省)
政府報告のポイントとしては、以下6点。
- 教員の研修:各都道府県において、新人教員に対し人権に関する研修を行っている他、独立行政法人教員研修センターにおいても、人権に関する内容の研修を実施している。学習指導要領においても、2003年に一部改訂し、人権諸条約や、基本的人権についての記載を盛り込んでいる。
- 学習指導要領に基づき、児童の権利条約に留意した人権に配慮した指導を行っている。
- 大学入学資格:従前より、国籍、人種、性別にかかわらず、すべての人に対して大学入学資格を獲得するための手段を認めている。かつての「大検」は、現在では、高等学校卒業程度認定試験と改正されている。また、2003年には、大学の個別審査により大学入学資格を認めることとする等の制度改正を行った。
- 障害のある児童:障害がある児童については、一人ひとりの障害の程度等に応じ、きめ細かな教育を行う必要があるため、盲学校、聾学校及び養護学校や小・中学校の特殊学級、あるいは通級による指導において、指導が行われている。
- いじめ:いじめは問題への対策として、心の教育の充実や、スクールカウンセラーの配置などの教育相談体制の充実等を推進しているところ。
- 体罰:我が国においては、学校教育法第11条で厳に禁止されており、今後も徹底していきたい。また、学校において児童生徒に対し、懲戒を行う際には、当該児童生徒等から事情や意見をよく機会を持つなど指導してきたところ。
(厚生労働省)
- 少子化社会対策基本法に基づき、子ども・子育て応援プランを実行中。
- 児童虐待防止に積極的に取り組んできている。
- 改正児童福祉法に基づき、地域や市町村の取組を支援。
- 児童相談所入所児童の権利擁護につき取組を徹底している。
2.参加者からの主な発言
- 3月17日の意見交換会の際にも、全国学力テストの実施につき意見を出した。文部科学省からは、「弊害がなくなるよう相談する」とコメントがあったが、その後どのような相談があったのか。また、学力テストの結果のよい学校、悪い学校の差異ができ、児童によっては、自分の成績が学級の平均点を下げているのでは、等の意識を持つ可能性がある。学力テストは延期してもらうか、もう少しきちんとした調査をして検討して欲しい。また、部分的な調査についても、選別の問題がある。
- 学力テストにつき、児童の権利委員会が出した勧告(教育制度の過度に競争的な性格)に対してどのような回答をするのか。
- 全国学力テストにつき、前のテストのときにトップだった学校の障害児学級の率がトップだったとの事例がある。この関連性をどうみているのか。
- 教育基本法は果たして児童のためになっているのか。
- 教育基本法の改正について、政府報告では触れるのか。今般の改正に際し、児童の権利条約との関係についての議論はなされたのか。
- 教育基本法は、児童の権利をより促進させるものとなっているのか。2005年秋、乳幼児期の重要性について児童の権利委員会は一般的意見を出している。乳幼児期からの意見表明権、乳幼児に関わる専門職の重要性が述べられている。今般の教育基本法の改正では、改正前の第2条や第10条が削除されている。
- 教育基本法改正案において、児童の権利条約のどの条項に違反しない、又は、どの条項を促進させるためにどのような規定をおいたのか。
- 障害のある児童のインクルージョン教育については、第1回、第2回の最終見解でいずれも勧告が出されている。障害のある児童の教育につき、教育基本法改正案で言及がなされているが、児童の権利委員会の見解を受け止めた結果なのか。
- 青少年育成の関連で、地方自治体で子どもに関する条例を制定する動きがあるが、単に「子ども条例」とされるなど、「権利」の観点が除外される動きもある。見解如何。
- 学校選択制が導入されることとなると、小学校5、6年生で中学校選びの不安に晒されることとなる。見解如何。
- 教育現場における体罰や処分の数、教員によるわいせつ行為、セクハラの統計等についても報告して欲しい。また、こうした事例に対して何らかの指針を設けているのか。
- 大学による入学資格の個別審査導入の結果、入学の可否については大学に丸投げされている格好となっている。児童の権利委員会による2004年1月の最終見解パラ49(d)でも指摘されている。最近も、ある私立大学で、朝鮮学校卒業生が受験をできない動きがあった、今後どのように対処する方針か。
- 児童の権利委員会が勧告した定時制高校の廃止について今後どのように対応するのか。現在の1部、2部制では、これまで定時制高校に通っていた人々が漏れているのが現状である。
- 自分の子どもが通う学校では、2年生でカリキュラムを終え、3年生で受験勉強に特化している。政府は、児童の権利委員会が指摘するように、現状の教育制度は、「過度に競争的な性格」であると認識しているのか。
- 児童虐待防止法、児童福祉法のそれぞれの改正につき、その後の評価はどのようなものか。
- 乳幼児をとりまく環境は改善されているのか。母の子に対する虐待が減ることなく、子育て支援も不十分。保育所の民営化については、労働条件の悪化によりやめる職員も出てきている。サービスの質の低下も見られる。
- 児童虐待につき、過去の政府報告においても詳細な記載がなされていることを評価。他方で、児童自身が、虐待を「虐待」と認識しないことが多く、この点に関する見解如何。さらに、「予防・介入・保護・治療」と、フェーズが分けられると思われるが、児童虐待に関する推移についても報告して欲しい。一時保護中の児童の教育保障は如何になされているのか。暴力といじめには共通性があり、文科省と厚労省の連携が重要。登校拒否等で学校を離れた児童の実態を報告してほしい。
- 5年間で虐待相談が2倍になっているが、職員数は2倍にもなっていない。自治体の相談体制の強化につき見解如何。
- 社会全体として保育をとらえているのか。乳幼児一人当たりの国の負担がどう増えているのか。
- 保育の民間委託につき、昨秋来日したクラップマン児童の権利委員会委員も、離職率の高さ、労働条件の悪化につき懸念を表明した。見解如何。
- 日本の男性の育児休暇取得率が1%以下。これは長時間労働が影響していると思われるが、この現状に対してどう取り組むのか。
- 児童相談所には、派遣職員や非常勤職員も多く、一定したサービスが得られないでいる。どのように専門職員を充実させるのか。
- ある自治体では、保健と教育部門を統合させた子ども相談窓口が設けられている。従前より、子ども局又は子ども担当省を設けるべき、との指摘があるが、こうした自治体の取組を参考にしつつ、検討をしてもらいたい。
- ソーシャルワーカーが燃え尽きている。人口10万人~13万人に一人が政令上の目安であるが、5万~8万人に一人を目指すべきではないか。
- 司法について触れられていない。家裁等においても、条約と司法に関して研修がなされているはずであり、報告に盛り込んで欲しい。
- 関係職員への研修というが、単に形だけでなく、こうした研修の結果どのように実態が変化したのかを報告してほしい。「児童の権利条約」に特化した研修を行っているのか。
- 婚外子に対する差別についても報告してほしい。
- 国内法制に児童の権利条約をどのようにビルトインするのかについて、政府報告にどう記載するのか。
- 「児童の権利の尊重・擁護」とは具体的にどのようなものと考えているのか。児童は、大人や社会の願望をもって「保護」されるものではなく、成長・発達のために人間関係をつくるというのが本質。
3.上記2.を受けた政府側から回答
(内閣府)
- データについて、政府報告には施策分野ごとのデータを記載し、これを総合的にどう評価するのかについては政策評価等により検討していくこととなる。
- 「子どもの権利」のとらえ方について、例えば青少年育成施策大綱においては、重点課題の一つとして「能動性を重視した青少年観への転換」を掲げ、国民運動として取り組んでいるところ。大人の側の認識を変えていくことが必要と考えている。
(法務省)
- 婚外子の差別については、人権擁護局は人権一般についての施策を記載することになるので、個々の差別事由による差別の問題をどこまで報告に記載できるかは検討しなければならない。戸籍の父母との続柄欄の記載方法については、嫡出でない子についても嫡出である子と同様に「長男(長女)」等と記載することとされた。なお、法定相続分の問題については、婚姻制度や家族のあり方と関連する重要な問題であり、国民各層や関係各方面で様々な議論があることから、これらの議論の状況を注視しているところである。
(文部科学省)
- 平成14年に改訂した学習指導要領では、児童に対し、基礎・基本を徹底しつつ、自ら学ぶ力を育むことを目的としており、受験のためだけではないように指針を立てている。各学級では、少人数教育等をも行っている。また、幅広く意見を採り入れるため、学習指導要領については、中教審での議論に加え、文部科学省では、スクールミーティング等を行ってきている(これまで380回以上開催)。学校選択制については、区に複数の学校がある場合、指定制又は選択制をとるかについては、各教育委員会に任せている。平成19年度より、全国的な学力調査を実施するが、学校の序列化や、「過度に競争的」なものにつながらないよう取り組んで参りたい。
- 大学入学資格につき、2003年に個別審査を導入しており、せっかくの制度であるので、趣旨に沿った運用を進める方針。
- 定時制高校の運営については、各地方公共団体が適切に判断していると理解。
- 「過度な競争」については、先述のとおり、学校教育は、受験をめざすものではない。この点、スクールミーティングなどでも説明してきている。
- 体罰や、教員のわいせつ行為に関する調査結果はある。報告に記載するかどうかは検討したい。
- 教育基本法の改正については、現在のところ政府報告に記載しない予定。教育基本法の改正には、児童の権利条約のみが関わるものではなく、いろいろな要素を勘案して行ってきている。どの項目が違反ないし、促進させるものかという問いにはしたがってお答えは困難。
今般改正については、教育改革国民会議において児童の権利条約についても議論が行われたと承知。改正前の第2条における「自他の敬愛」については、改正案第3号の定義に含まれている。改正案は、個人の価値を尊重する点につき、第2条において個性を伸ばすことを定めており、児童の権利条約の趣旨に沿うものと考えている。
- 現状の教育現場で、過度な競争的な性格がみられることにつき、全くないとはいわない。
- 障害のある児童については、最大限一人ひとりのニーズに合わせた手厚い教育を行っている。障害のある児童が、障害のない児童と一緒に学ぶことがそもそも当該児童にとってよいのか、まだ議論の余地がある。それでもなお、共生社会をめざし、障害者基本法の促進に努める所存。
(厚生労働省)
- 保育所民営化につき、待機児童の解消や延長保育など多様な保育サービス施策のために民間の活力を活用することは重要と認識。保育の質については、公立、民間問わず、児童福祉施設最低基準の遵守が義務づけられ、質を担保することとなっており、各市町村において適切に判断してもらいたいと考えている。
- 子ども一人当たりにかかる国の費用負担につき、数値で示せるものがあれば記載することも検討したい。
- 男性の育児休業取得促進に関し、長時間労働の是正を始めとする働き方の見直しが重要であると認識。今後とも取り組んで参りたい。
- 虐待による死亡事例については、児童虐待防止のための検討委員会でとりまとめている。
- 児童虐待・児童保護に関わる職員の研修については、例えば横浜にある子どもの虹情報研修センター等で専門的な研修を行っている。
- 虐待を受けた児童の受け皿として、里親制度をより活用すべきであると考えている。
- 虐待における「治療」には、親と子どもの両方に対する意味がある。「ファミリーカウンセリング」の導入を研究しているところ。
- 職員体制については、地方の裁量によるところも大きいが、国として最大限の努力を行う。
- 児童心理士については、先般4月末にあり方を再検討したところ(児童福祉士3に対し児童心理士2の割合、又は同数程度にすることが望ましいと考えている)。
- 一時保護中の児童の教育保障については、生活指導の一環として行っている。学校教員の派遣を行うケースもある。