
児童の権利条約第3回政府報告に関するNGOと関係省庁との意見交換会について
平成18年3月17日 13時30分―15時30分
(於 外務省)
(注:以下の内容は、本件会合の要旨であり、すべての発言・質問を記載するものではありません。また、(1)特定の個人や団体等に対する批判、(2)本件条約に直接関係のない事項に対する発言は、本件会合の趣旨を踏まえ掲載しておりません。)
【参加団体】
「第3回子どもの権利条約 市民・NGO報告書をつくる会」、「日本弁護士連合会」、「子どもの権利条約レポートNGO連絡会議」
【概要】
1.政府側からの発言(事前に提出された要請書・意見書を踏まえたもの)
(外務省)
- 政府報告は、できるだけ多くの要請に応えるものとしたく努力しているが、提出期限や頁数に制限もあることをご理解いただきたい。必要な統計データについては、関係省庁とともに可能な限り提出したい。また、幅広い声を聴くためのウェブの活用についても検討したい。
- 条約の第3回政府報告と並行して、2つの選択議定書(「児童の売買、児童買春及び児童ポルノに関する条約の選択議定書」及び「武力紛争における児童の関与に関する条約の選択議定書」)のそれぞれ初回政府報告も作成している。
- 条約の実施については、関係省庁との連携のもとに行っているが、本条約のための全国的な監視制度の設置については検討していない。
- 条約の周知徹底は重要であると考えており、リーフレットの配布を行っている。
- 留保・解釈宣言の撤回は考えていない。
- 権利基盤アプローチについては、最近国連等で謳われる考え方であり、必ずしもその定義が明確ではないが、我が国は、「人間の安全保障」の考え方を外交の指針としている。これは、一人一人の能力の強化に着目して支援を行う考え方であり、権利基盤アプローチと共通するところがあると思われる。
(内閣府)
- 内閣府は、政府の青少年育成施策の総合調整を行う立場から、平成15年に策定された青少年育成施策大綱に基づき、各種施策の推進を図っている。条約の政府報告作成については、外務省とともに関係省庁との調整に当たり、最終見解への政府の対応状況や考え方をきちんと盛り込むこと、必要なデータを出来る限り記載すること等に留意しつつ進めているところ。
- 上記大綱は、条約等に示されている青少年の人権の尊重及び擁護の促進の観点も踏まえて青少年施策を推進する旨を明記。策定5年後の平成20年を目途に見直し予定。
- 青少年から広く意見を聴くためインターネット上での「青少年電子モニター」の募集や、委嘱事業として「青少年タウンミーティング」等の取組を実施。
- 子どもの権利条例を制定する自治体や、子どもオンブズパーソンを条例で規定する自治体の数は増加していると認識。
- 与党の「青少年健全育成基本法案」については、一昨年の通常国会に提出されたが、審議未了により廃案となった。
(警察庁)
- 警察における児童に関連する活動は「少年警察活動」として実施。立ち直り支援等個々の少年にふさわしい措置を執るよう取り組んでいる。
- 市民社会との協調として、警察庁は毎年「東南アジアにおける児童の商業的・性的搾取に関するセミナー」を開催。
- 職員に対する研修の中でも、少年の扱いにつき、非行少年としてのみならず、被害を受けた少年としての視点に心がけるよう指導。
- 捜査における「学業優先」については、少年を授業中に呼び出したり、学校に直接呼び出しに行くなどを避け、少年の立場に配意した対応をおこなっている。
- 児童に対する虐待の問題は、最重要課題と認識して取り組んでいる。
(法務省)
- 平成12年の少年法の改正により刑事処分可能年齢を14歳としたことは、14歳、15歳の少年による凶悪事件が後を絶たず憂慮すべき状況にあったことにかんがみ、少年の規範意識や社会生活における責任を自覚させる必要があると考えられたことによるものであり、条約等の趣旨に反するものとは考えていない。観護措置の期間が最長4週間から8週間に延長されたが、これは、事実認定に時間を要する案件の必要性に応じたものである。
(文部科学省)
- 教育基本法の改正に関しては、中央教育審議会の答申を踏まえ、これまで、全国各地で「教育改革タウンミーティング」等を開催するとともに、意見募集や各種会議での説明をおこなうなど、国民的な理解を深める取組みを進めてきたところ。
- 薬物乱用については、平成12年に児童生徒の薬物等に関する意識調査及び学校における薬物乱用防止に関する指導状況を調査したところ。
- 障害児教育(特にLD/ADHD等)については、障害の状態に応じて、その可能性を最大限に伸ばし、自立し、社会参加するために必要な力を培うため、一人一人の教育的ニーズに応じた適切な指導や必要な支援を行うことが重要である。
- 問題行動(暴力行為)については、スクールカウンセラー配置や、個々の児童生徒に的確な対応をするための関係機関と連携した地域における支援システム作りのための事業などを実施しており、平成16年度においては、前年より暴力行為は減少している。
(厚生労働省)
- 児童虐待防止対策については、改正児童虐待防止法に基づき、幅広い関係団体との連携強化を図りつつ取り組んでいる。また、地域レベルでの虐待防止ネットワークの普及を促進。市町村職員を対象とした研修や家族療法事業の実施等を通じて、地域における児童相談体制のさらなる充実を図っている。
- 児童福祉司の配置基準を見直した(平成16年から17年にかけて176人増加)。
- 児童福祉施設については、引き続き職員研修の実施や指導監査の徹底等により、入所児童の苦情解決のための仕組みづくりや体罰等懲戒権の濫用防止に努力。
- 入所施設における苦情解決の仕組みとして、苦情受付窓口に加えて、第三者委員の設置を推進。
- 児童福祉施設におけるプライバシー確保対策として、個室や二人部屋の施設整備をする際に国庫補助基準で配慮。
- 認可保育所に関する規制緩和については最低基準の遵守を義務づけて、質の確保は担保している。
- 認可外保育施設(無認可保育所)については、乳幼児が6人以上の施設は児童福祉法に基づき都道府県等に設置届出や定期報告等が義務づけられている。また、各都道府県に対し、毎年の定期立入調査実施を依頼している。
2.参加者からの主な発言
- 「権利基盤アプローチ(rights-based approach)」の考え方が関係省庁に十分に理解されていないと考えるが、現在の施策で同考え方をどう捉えているのか。「少子化対策」は近年頻繁に叫ばれているが、これは、「子どもの権利」との視点に立ったものではないと考える。
- 児童の権利委員会の一般的意見を広く普及してほしい。
- 「子ども特別総会」において今後作成することが求められた国別行動計画を、日本はまだ作成していない。今後どうするのか。
- 児童の権利条約が、何を求めるための条約と理解しているのか、各省庁に説明してほしい。児童の権利委員会による勧告が生かされていない。ドゥック・児童の権利委員会委員長は、昨年10月に来日した際、子どもの成長・発達が条約の基本精神であり、「人間環境」を整えてもらうことが子どもにとって最も重要なことであると、確認している。これらをどのように捉え、施策に反映させているのか。
- 少年法について新たに改正案が提出されたが、14歳未満の少年の少年院送致を可能とすることで、真に「子どもの成長・発達」が保障されるものとなるのか。
- 少年法の改正(逆送)に関する説明のみならず、実態(刑事裁判の運用状況等)を報告してほしい。
- 逆送された少年の刑事裁判の審理等はどうなっているか。
- 最終見解パラ28の「意見表明権」の確保をどのように実施しているのか。
- 障害に応じた対応はどのように行っているのか。養護学校が足りない。
- インクルージョン社会へ向けての具体的な施策はどのようなものか。
- 朝鮮学校に通っている児童・生徒に対する日常的な尊厳を傷つける行為(暴言・暴行)につき、どのような対応を行っているか。朝鮮学校の授業料は家庭への大きな負担。
- 児童の権利委員会の一般的意見No7(乳幼児)に応える形で、子どもの発達の視点を入れた回答をしてほしい。
- 児童虐待問題に関する取組(ネットワークの充実等)を強化してほしい。
- 現在改正が検討されている教育基本法に対する中教審の報告は、条約を無視したものではないか。同法改正案の前文では、条約は重要であるとしているにもかかわらず、改正・政府与党の動きは逆行したもの、文部科学省には適当な対応を行ってほしい。
- 文部科学省によると、学力テストの悉皆テストを平成19年より「実施する」としているが、最高裁判決も認めているように、学力テストは、地方自治体の教育委員会が決定するものであるのであり、右言いぶりは越権ではないか。政府の考えは、「過度の競争」をより進める結果となり、権利委員会の勧告と逆行している。
- 悉皆方式の学力テストの実施は、児童・生徒の心身を阻む。フィンランドの学力は高いレベルにあり学力テストは実施されているが、悉皆方式ではない。
- 死産性比の格差が拡大している点につき、政府内で分析・対応してもらいたい。
- 児童の福祉施策に関し、里親制度や養護施設等各種施策に関する数値変化のみならず、これらが、子どもの成長・発達にどのように影響しているのか分析・評価してほしい。
- 障害をもつ児童の教育につき、特別支援教育の中で具体的にどのような施策を行っているのか。最終見解パラ44(b)にあるように教育においてより統合を進めてほしい。
- 学校等教育現場に条約の趣旨をより普及してほしい。
- 子どもの心身の健康(不定愁訴、体力低下、都市型生活による不調、虐待、不登校、思春期の心理等)についてのより包括的・戦略的な施策の回答がほしい。
- 命を大切にする教育の徹底を求める。
- 家庭の経済格差が拡大し、子どもの学習権・機会均等が奪われている。経済的な就学支援を受ける家庭が増加しており、現実を直視した施策を提示して欲しい。私立学校の費用がますます高くなっている。被害を被るのは児童であり、どの子どもでも教育が受けられるようにしてほしい。
- 教育基本法が児童の権利条約及び憲法の精神と十分に整合性を持つものとなるよう真剣に取り組んでほしい。教育基本法が、児童の権利条約に則るものであるとするならば、改正する必要はないのではないか。
- 第1回及び第2回の報告に対する最終見解で、インクルージョン教育の推進が求められている。学校教育法施行令における「心身の故障」との用語や、就学通知を出さなくてもよい、盲・聾・養学校に行かせるべき、との方針を改める必要があるのではないか。
- ADHD/LDの子どもに対する教育等の手当、養護学校の劣悪な教育条件の改善、障害者にも分かり易い性教育を行ってほしい。
- 国旗掲揚・国歌斉唱を行うよう、「通達」を発し、従わない場合に教職員を処分することとなっている。これは、障害をもつ場合には負担が大きく、行きすぎた介入である。
3.上記2.を受けた政府側からの回答
(法務省)
- 本年2月24日に国会に提出された少年法等改正法案は、警察官による調査手続の整備、14歳未満の少年につき、家裁が特に必要と認める場合に、少年院送致の保護処分を例外的に可能とすること、国選付添人制度の導入等を内容としている。これらは事案の真相を解明するとともに各少年の特性等に応じた処遇を可能とするためのものであり、少年(児童)の最善の利益にかなうと認識している。警察官による調査手続についても、事案の真相を明らかにし、少年の健全育成のための措置に資することを目的として、現在も行われているもの。児童福祉機関先議の原則は維持しており、警察官による調査の結果は児童福祉機関でも利用可能。
- 逆送後の年少少年の刑事裁判については、法廷において少年が年少であることに配慮する運用がされているものと承知している。
(文部科学省)
- 障害のある子どもへの対応については、NPO等に対し、一人一人のニーズに応じた支援の在り方についての研究を委嘱している。養護学校の管理運営については、設置者に適切に判断していただくべきものであるが、文部科学省としても、養護学校の施設や設備に対する国庫補助や教職員定数の措置等を通じ、養護学校の適切な整備のための支援を行っているところである。
- 外国人学校については、各種学校であり、各地方自治体の判断により、学校への経常費補助、家庭への助成金交付が実施されている。
- 学力テストの判例で言われているのは、実施を最終的に決めるのは市町村であるが、国は市町村に対し報告を求めることができるということである。この整理に基づき、平成19年度に全国的な学力調査を実施することとしている。
- 条約の広報については、最近では、昨年6月に開催した都道府県・指定都市生徒指導担当指導主事連絡会議において、外務省作成のリーフレットを配布している。また、平成6年には事務次官通知を発出し、条約の趣旨の徹底を図っている。
- 学校健康教育については、子どもの生活リズム向上プロジェクトを本年度より実施し、早寝早起きや朝食を摂るなど、子どもの望ましい基本的生活習慣を育成し、生活リズムを向上させるための国民運動を展開するため、全国的な普及啓発活動を行うとともに、地域ぐるみで子どもの望ましい基本的生活習慣を育成し、生活リズム向上のための先進的な実践的活動等の調査研究を実施する予定である。
- 教育の機会均等の理念を達成することは大変重要な課題であると認識しており、これまで、教育費の負担軽減に資するため施策の充実に努めてきている。
大学については、私立大学等経常費補助金等を通じ各大学における学費の軽減に努めるとともに、学ぶ意欲と能力のある学生が経済的理由により進学を断念することのないよう、奨学金事業の充実を図ってきている。また、経済的理由等により就学困難な学生に対する授業料等の減免を実施しており、国立大学に対しては運営費交付金により、私立大学には各大学の減免事業の実施状況に応じた私立大学等経常費補助により支援をおこなっている。
- 教育基本法の改正にはしっかりと取り組んでいきたい。児童の権利条約と不整合になるような改正はしない。教育基本法については、中央教育審議会の答申、与党教育基本法改正に関する協議会、教育改革タウンミーティング等の議論を踏まえながら、改正を目指しているところである。
- 養護学校の管理運営については、設置者に適切に判断していただくべきものであるが、文部科学省としても、養護学校の施設や設備に対する国庫補助や教職員定数の措置等を通じ、養護学校の適切な整備のための支援を行っているところである。
性教育については、学習指導要領に則り、児童生徒の発達段階に沿った時期と内容で実施すること、保護者や地域の理解を得ながら進めること、個々の教員がそれぞれの判断で進めるのではなく学校全体で共通理解を図って進めることを基本として実施している。
- 国旗・国歌については、児童生徒の内心に立ち入って強制しようとする趣旨のものではない。
(厚生労働省)
- 「要保護児童対策地域協議会」の設置につき努力規定が改正児童福祉法(平成17年4月施行)に盛り込まれた。今後未設置の地域について徹底していきたい。また、有識者による「今後の児童家庭相談体制のあり方に関する研究会」を開催、報告がまもなくとりまとめられる予定。その中に先進的な取組の紹介などが盛り込まれており、これらの活用によって設置を促進する。