平成20年4月1日
3月26日、銀座東武ホテルにおいて、外務省主催「知的財産権に関するシンポジウム」(日本経団連後援)が開催されたところ、概要と評価は以下のとおり。
日程:3月26日(水曜日)13時00分から
会場:コートヤード・マリオット銀座東武ホテル
行事次第:
開会挨拶 河野 雅治 外務審議官
パネル・ディスカッション第一部「コンテンツを通じた国際競争力強化」
(モデレータ)
浜野 保樹 東京大学新領域創成科学研究科教授
(パネリスト)
荒木 隆司 エイベックス・グループ・ホールディングス株式会社上級執行取締役、Avex Asia Holdings Ltd.取締役社長
石原 恒和 株式会社ポケモン代表取締役社長
角川 歴彦 株式会社角川グループホールディングス代表取締役会長兼CEO
里中 満智子 マンガ家
吉田 大輔 内閣官房知的財産戦略推進事務局次長
パネル・ディスカッション第二部「知的財産権の執行強化」
(モデレータ)
荒井 寿光 東京中小企業投資育成株式会社代表取締役社長
(パネリスト)
久保田 裕 社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会 専務理事・事務局長
小池 一夫 大阪芸術大学芸術学部キャラクター造形学科 学科長教授
日高 賢治 政策研究大学院大学教授
塚越 保佑 財務大臣官房参事官(関税局担当)
ラップアップ・セッション
(モデレータ)
田辺 靖雄 外務省経済局審議官
(ラポルチュール)
浜野 保樹 東京大学新領域創成科学研究科教授
荒井 寿光 東京中小企業投資育成株式会社代表取締役社長
(アドバイザー)
三尾 美枝子 シティーユーワ法律事務所弁護士
閉会挨拶 田辺 靖雄 外務省経済局審議官
(1)本シンポジウムは、グローバル化の進展を受けた、知的財産権の保護・創造に係る課題を、特に著作権の分野で国際的視点から捉え、パネル・ディスカッションを通じて、適切な解決の方途を見出すことを目指した。
(2)第一セッションでは、我が国のコンテンツの国際的な競争力について客観的な評価を行い、今後更なる国際展開を図っていく上での問題点を洗い出した。その上で、そうした問題点の解決には、我が国として、どのような取組が必要かにつき、議論を行ったところ、在外公館の日本の文化発信強化等が指摘された。
(3)第二セッションでは、また、我が国のコンテンツ産業が海賊版によりいかなる被害を受けているか明らかにし、海賊版による被害を効果的に防止するために、我が国として、どのような国際的な取組が望ましいのか、そのための国内外の体制は十分なのかにつき議論を行ったところ、知的財産担当官による海賊版対策、模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)に向けた取組の重要性等が指摘された。
(4)本シンポジウムは、100名以上の聴衆が参加した。活発な質疑応答を通じて、知的財産権に対する一般参加者の関心と理解を更に深める有意義な機会となった。
(1)開会挨拶
河野外務審議官は、本年サミットにおいては、知的財産の問題は重要なテーマになっており、自分が司るシェルパのレベルで議論して、是非とも強く良いメッセージを首脳のレベルで出したい旨、世界の模倣品、海賊版の取引は、約80兆円に上ると推計されており、官民挙げて協力かつ効果的な対策を講ずることが必要である旨述べた。
(2)パネル・ディスカッション第一部「コンテンツを通じた国際競争力強化」
荒木エイベックス・グループ・ホールディングス株式会社上級執行取締役は、中国における海賊版の被害の実情及び音楽ビジネスの展開の現状、日本人アーティストのアジア展開とパン・アジアで通用するローカル・アーティストの発掘、育成について述べた。また、政府として、民間でコストを負うことのできない文化の輸出について積極的に支援すべき旨述べた。
石原株式会社ポケモン代表取締役社長は、ゲーム・コンテンツはプラットフォームとなるハードウエアがないと遊べないので、日本のソフトウエアの海外展開には、ハードウエアの海外展開も必要である旨述べた。また、海賊版の摘発、差止において、地元の警察権力との連携が非常に重要になってきているが、民間が動かすには難しい部分があるので、協力的に取り組んでいける仕組みが必要である旨述べた。
角川株式会社角川グループホールディングス代表取締役会長兼CEOは、日本のマンガ、アニメ、ゲーム等のサブカルチャーが世界に浸透し、日本文化が世界に花開く時代になった中で、コンテンツ産業が日本の重要な産業の1つの柱として意識し、海賊版に的確に対処すべきである旨述べた。また、サーバーを日本に置けないという問題を早急に解決するためにも、著作権法の改正が必要である旨述べた。
マンガ家の里中満智子氏は、イギリスでのマンガの商標登録に反対活動した経験、中国で著作権の啓発経験、海賊版には商標ではなく著作権で争う方向でないと埒があかない印象を持っている旨述べた。また、著作権問題への在外公館の更なる取組の必要性を述べ、国際漫画賞等の取組が重要である旨述べた。
吉田内閣官房知的財産戦略推進事務局次長は、日本のコンテンツ産業の規模は14兆円であるが、GDP比率で世界平均よりも低く、海外売上の割合が、米国の約18%に比し約2%と極めて低い旨指摘し、コンテンツ日本ブランド専門調査会で設定された日本コンテンツ発信のための4つの基本戦略を紹介した。また、在外公館の日本の文化発信、知的財産担当官による海賊版対策、模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)に向けた取組の重要性を強調した。
(3)パネル・ディスカッション第二部「知的財産権の執行強化」
久保田社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会専務理事・事務局長は、スライドを用いながら、イタリアにおいて日本の海賊版が堂々と正規品と同じ価格で売っていること等侵害状況を説明した。模倣品対策には、権利者がきちんと必ず権利主張をすること、ライセンス契約の内容を明確にし、定期的な契約や履行状況の監視することが重要である旨述べた。また、イタリア、キューバの在外公館での海賊版対策の事例を紹介した。
小池大阪芸術大学芸術学部キャラクター造形学科 学科長・教授は、作品の権利保護のための経験を紹介しながら、キャラクター制作者が知的財産の侵害に遭った場合には、個人レベルの対応では限界があり、国がしっかりと対応していくことが必要であること、コンテンツは自然発生的に出てくるものではなく、知財の創造の最前線である現場をもっとよく理解するべきであること等を指摘した。
日高政策研究大学院大学教授は、海賊版は中国に約10億人いる低所得者にとって貴重な娯楽になっている状況が存在し、海賊版が製造・流通・販売される状況を改善するのは困難だろうと中国における海賊版撲滅の難しさを指摘し、権利者が知的財産法を勉強し、国家戦略として在外公館に人事配置することの必要を述べた。
塚越財務大臣官房参事官は、税関での昨年の輸入差し止め実績について、2万2千強の取締りを行ったが、著作権侵害の場合、誰が著作権保持者か分からない場合が多いので、権利者が積極的に動く必要性を指摘した。
(4)ラップアップ・セッション
三尾シティーユーワ法律事務所弁護士は、権利侵害を差し止める一辺倒ではなく、流通促進を図るという観点で関係者が色々な協力をしていくことが、ひいては全体として日本のコンテンツ産業を活性化させて、最終的には権利者側に利益が配分されるという方向になるのではないか、また、国が在外公館に様々な権限を集中させ、在外公館を使って情報の発信や収集をしていく必要があるのではないかと述べた。
浜野保樹東京大学新領域創成科学研究科教授は、ここ4年間で中国では1本も日本の正規の新作がテレビで放映されたことがないにもかかわらず、中国人は海賊版があるから何も困ってないという現状を認識すべきである旨、少子化の日本にあって日本のコンテンツが海外に出ていくことは極めて重要である旨、侵害には毅然とした態度で臨むことの重要性を述べた。
荒井東京中小企業投資育成株式会社代表取締役社長は、4月1日から外務省に「知的財産室」が設立され、本格的に知財保護に取り組むことの意義、世界海賊版撲滅の国際世論形成に積極的に取り組むことの重要性を強調した。
(5)閉会挨拶
田辺経済局審議官は、外務省としてこのようなテーマで、このようなメンバーの方々に集まっていただいてシンポジウムを行うというのは全く初めての取組であったが、外務省、政府全体、とりわけ在外公館の機能に対する期待が強いということを大変強く感じた、外務省は全体の定員もまだ5500人程度ということで、これは主要先進国の中では最低の部類なので、定員も増強したい旨述べた。