経済

EPAセミナー(平成23年)
伊集院秀樹 東レ株式会社 経営企画室担当部長(日本繊維産業連盟常任幹事) 講演概要

平成23年1月

 伊集院秀樹 東レ株式会社 経営企画室担当部長(日本繊維産業連盟常任幹事)の講演の概要は以下の通り。

 繊維産業は製糸から縫製まで、川のようにきれいに流れていく自己完結型の産業であり、サプライチェーンが組みやすく、EPA戦略との関係も非常に深い。

 日本の繊維貿易はプラザ合意の後の円高を受けて、輸入超過に振れ、その後の産業構造の変化にともない、輸入超過の構造が固まってしまっている。FTA・EPAは新しい交易条件を創出するものであり、特に輸出拡大に向けて活用できる重要なファクターの一つであると思われる。

 現在、繊維産業においては、数量ベースの輸入浸透率は既に90%を超えており、自給率10%未満という大変な輸入超過状態である。さらに極端に中国に依存している形になっているが、現在、人民元高や労務費の上昇のリスクに加え、欧米向けのクォーター制度の廃止により、小ロットの日本生産が追い出されるリスクが高まっている。日本のメーカーはもともとASEANに拠点を持っており、EPAも利用しつつ、これらの拠点を活用できると考えられる。

 EPAの特恵関税率を直接的に享受できるのは基本的には輸入側であり、輸出入両側あるいは輸入側に関与しなければ儲かりにくい。繊維産業はほぼ即時で関税が撤廃されるので、EPA利用によるインパクトが非常に大きい。また、ASEANとのEPAを活用すれば、国を跨ったサプライチェーンでの関税削減効果の享受も可能になる。原産地規則を活用し、日本と海外の拠点の生産の棲み分けによってコスト合理化を進められるようなサプライチェーンを構築することで、日本素材の競争力が復活するとも考えられる。

 原産地規則をはじめとするEPAのルールは、最後は政府間交渉で決めて頂くことだが、業界が要望を集め、関係者に伝えていくことも重要。繊維業界は輸入超過の状況にあったが、積極的にEPA・FTAを活用するため、関税を即時撤廃する一方、原産地規則についてはこだわって要望していこうという方針をもち、政府にお願いをし、また相手国の業界の説得にもあたってきた。

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