平成21年1月29日
1月26~27日、マドリードにおいて、スペイン政府・国連の主催により「食料安全保障に関するハイレベル会合」(High Level Meeting on Food Security for All)が開催されたところ、概要と評価以下のとおり(外務省より、御法川大臣政務官、岡井人道支援室長他、農水省より、江藤大臣政務官、強谷国際協力課長他出席)。
(1)本会合は、昨年6月にローマで開催されたFAO主催ハイレベル会合(我が方より福田総理(当時)出席)においてサパテロ西首相が、同会合のフォローアップ会合を後日スペインで開催する旨提案したことに基づき、国連ハイレベル・タスクフォース(HLTF)の全面的な協力の下、各国政府閣僚級、国際機関、民間セクター、市民社会の代表等を招いて開催されたもの。126カ国より1000人以上が参加し、昨年来の食料危機に対する国際社会の対応の評価・分析及び「農業・食料安全保障に関するグローバル・パートナーシップ」(GPAFS)の設立を含む今後の行動につき活発な議論を行った。
(2)初日(26日)には、ディウフFAO事務局長、モラティノス西外務・協力相、シュッター国連「食料の権利」特別報告者が基調演説を行った後、4つの分科会が開催された。分科会1「食料安全保障に関する措置の進展のモニターと分析」では、パネリストとしてFAO、WFP、IFAD、UNICEFの各事務局長、ジェフリー・サックス・コロンビア大学教授等が参加し、食料危機の現状と国際社会がとるべき対応につき議論した。続いて3つの分科会が並行して開催された。分科会2「飢餓撲滅に向けた国レベルの行動の強化と調整」には、江藤農水政務官が出席し、TICADIVや北海道洞爺湖サミットでのコミットメントの実施をはじめとする我が国の取組を紹介した。分科会3「農業・食料・栄養政策と研究開発との結びつき」、4「民間セクター及び市民社会の関与の増大」では、多数の研究者、NGO、民間セクター関係者の参加の下、活発な議論が行われた。
(3)二日目(27日)の全体会合では、ナバロHLTF調整官より前日の分科会の結果について報告、ロドリゲス西開発大臣よりGPAFSの立ち上げに向けた行動の提案があった後、各国の農業大臣や開発大臣等(AU、伊、ケニア(副大統領)、エジプト、仏、韓国、豪州、日本、トルコ、欧州委員会、チェコ、タンザニア、英、イラク、チュニジア、インドネシア:発言順)が発言を行った。我が国代表として御法川外務政務官より、北海道洞爺湖サミットでのコミットメントに基づき我が国議長期にG8専門家グループがまとめたGPAFSに関する提案を紹介しつつ、本会合を踏まえてGPAFSの立ち上げに向けた協議プロセスやコンタクト・グループの活動を開始すべきことを提案した上、我が国自身の取組として、昨年実施・表明した15億ドル超の食料・農業支援に加え、アフリカ及びアフガニスタンの食料危機に対応する経費として約3億6千万ドルを計上した補正予算が会議当日に承認されたことを紹介した。
(4)閉会式にはバン国連事務総長及びサパテロ首相が出席し、締めくくりのスピーチを行った。バン事務総長は、飢餓・栄養失調人口が増加し10億人に近づきつつあることは容認できず、全ての関係者が対応を強化すべきと述べた上、本会合の結論として、1)国際社会は飢餓の問題により高い政治的プライオリティーを付すべきこと、2)国連としてGPAFSの形成に向けた協議プロセスを支援すること、3)途上国における援助調整メカニズムを改善すべきことを提案した。サパテロ首相からは、スペインが、今後5年間毎年200万ユーロの支援や2010年EU議長期における活動等を通じて食料問題に優先的に取り組んでいく決意が表明された。会議終了後に議長サマリーが配布された。
(5)その他、注目された点としては、初日の基調講演の間に、ヒラリー・クリントン米国務長官によるビデオ・メッセージが流され、オバマ大統領就任演説に飢餓撲滅が言及されたことも引用しながら、米国として食料安全保障により積極的に取り組んでいく決意を表明したことが挙げられる。関係者によると国務長官就任2日目に、自らこの意向を示したとのこと。
(1)昨年夏から食料価格が下落に転じ、国際社会の関心が金融危機等の別の問題に向いたことにより、食料問題に対する国際社会の関心は低下してきているが、他方で世界の飢餓・栄養失調人口の増加は続き10億人の大台に迫りつつあり、途上国の窮状は緩和されていない。そのような中、本会合において政府閣僚級をはじめとする関係者が一同に会し、食料危機の現状、国際社会の対応の評価・分析、今後の行動について活発な議論を行ったことは、政治的モメンタムを維持する上で有用であった。特に、主催者のアレンジにより、従来の会合に比して市民社会のプレゼンスが格段に大きく、官民一体となって食料問題に対処する機運が醸成されたことは意義深い。
(2)具体的な成果としては、GPAFSの立ち上げに向けた広範な協議プロセスの開始が決定され、これを支え監督するコンタクト・グループが設置されることとなった。これは、我が国はじめG8が活発な取組を行ってきた成果であり、GPAFSの実現に向けた重要な一歩として評価できる。
(3)閣僚級かつ発言機会が限られた会議であったにも拘わらず、スペイン政府の配慮により、我が国から出席した外務及び農水政務官両名が発言機会を得て、北海道洞爺湖サミットでのコミットメントの実施をはじめとする我が国の取組につき強くアピールできたことは重要。特に御法川政務官からは、我が国が主導してきたGPAFSの件に加え、会議当日(発言の数時間前)に承認された補正予算による食料・農業関連支援について発言を行い、プロセスを後押しする明確なメッセージとして他の出席者の賞賛を受けた。