
英フィナンシャル・タイムズ紙への総理寄稿
「食料安全保障の永続的な解決(The lasting solution to food security)」
(骨子)
2009年7月6日
1.冒頭
- 食料安全保障は来週のG8ラクイラ・サミットにおける拡大会合のハイライト。ここで自分は、責任ある海外農業投資を促進するための新たな提案を行う考え。これは、いわゆる「農地争奪」(注)を受けた提案。
- 「農地争奪」に対し、グローバルな共同対応を形作るためのリーダーシップが必要。世界最大の食料純輸入国かつ農業援助の主要ドナーとして、日本には果たすべき役割あり。
2.食料を巡る新たな情勢
- これまで世界の食料安全保障は主に「分配」の問題であった。途上国では慢性的に食料不足が発生する一方、先進国への安定的な食料供給は当然視された。
- しかし最近の価格上昇により世界の食料需給に内在する不確実性が顕在化。農産物の輸出規制は輸入国の不安を煽り、「農地争奪」を誘発。10億人に達した世界の栄養不足人口の増大は人間の安全保障に対する深刻な脅威。
- 今回の食料危機は経済、人口、気候、環境を巡る新たな状況を受けた構造的な変化が根本。食料安全保障は、飢餓救済だけではなく、いかに世界の食料生産力を飛躍的に増大させるかが課題。日伯協力によるセラード開発は、誇るべき先例。
3.農地争奪に対する我が国の考え方
- 「農地争奪」の問題は、上記の大きな文脈を認識し、ゼロ・サムでなくウィン・ウィンで考えるべき。農業開発を進めるための包括的で非規制的な投資促進策により、途上国で生じうる負の影響の緩和を図るべき。
- この問題を考える上での3つの基本的視点を提示。
- 1) 農業投資を進めることが持続的な未来に向けた唯一の解決方法。ここでいう農業投資は、途上国の自助努力を支援し、農業を通じた経済発展を促進するもの。
- 2) 国際的農業投資には、透明性と説明責任が不可欠。日本政府は現在、海外農業投資促進のための官民連携戦略の一環として、日本としての行動規範を策定中。
- 3) 市場と貿易に対する信頼を取り戻す。相次ぐ輸出規制によって深まった食料輸入国の懸念を考慮に入れることが必要。
4.我が国の提案
- 日本は、投資家と被投資国の行動原則の策定を提案。その要素として、1)透明性と説明責任、2)地域住民の権利と恩恵の尊重、3)開発・環境影響評価、4)食料安全保障、5)市場原理を提案。
- 共通のビジョンを有した大連合が必要。日本と主要パートナーは、行動原則に合意し、関連情報と良き慣行を取りまとめるためのグローバルな協議体を立ち上げる。このため、9月の国連総会の機会に関係者が集うことを提案。
注)「農地争奪」=昨年の食料価格高騰を契機として、韓国、中国、湾岸諸国等の食料輸入国が、自国民への食料供給を主目的として、途上国で農地買収を含む農業投資を活発化。マダガスカルでは、政府と韓国企業が、同国の耕作可能面積の半分にあたる土地を99年間無料で貸借する契約を交わしたとの報道が一つの契機となって政争が激化し、政府が転覆。外資による農地取得の急増が途上国に与え得る深刻な影響にかんがみ、FAO等の国際機関は投資家及び投資受入国が従うべき行動原則を策定する可能性につき提起している。