軍縮・不拡散

生物・化学兵器を巡る状況と日本の取組(概観)

平成25年1月

生物兵器

1.生物兵器とは

 生物兵器とは,天然痘ウィルス,コレラ菌,炭疽菌,ボツリヌス毒素等の生物剤や,これらを保有・媒介する生物を使用して,人,動物,又は植物に害を加える兵器であり,大量破壊兵器の一つです。生物兵器は,使用された場合でも自然発生の疾病との区別が困難であり,また感染性のあるものについては,一旦使用されるとその効果が広範かつ長期的に持続するという特性を有します。また,消毒することにより証拠隠滅が可能なため,開発・生産の現場を検知することが困難であるとされます。

2.生物兵器禁止条約

 生物兵器禁止条約(BWC; Biological Weapons Convention)は,生物兵器の開発・生産・保有等を包括的に禁止する唯一の多国間の法的枠組みです。生物兵器を規制する条約としては,1925年のジュネーブ議定書がありますが,これは有毒ガス・細菌兵器の戦時使用を禁止する一方,開発・生産・保有は禁止していませんでした。

 国連事務総長の報告書等を受け,軍縮委員会における議論を経て,1971年に同委員会において生物兵器禁止条約(「細菌兵器(生物兵器)及び毒素兵器の開発,生産及び貯蔵の禁止並びに廃棄に関する条約」)が作成されました。この条約は同年の第26回国連総会決議の採択を経て,1972年4月に署名のために開放され,1975年3月に発効しました。我が国は1982年に同条約を締結し,2013年1月現在締約国数は167か国となっています。5年に一度,条約の履行状況を確認する運用検討会議が開催され,2003年以降,会期間活動として毎年,専門家会合・締約国会合が開催されています。

 BWCには条約遵守の検証手段に関する規定がありません。検証手段の導入については,生物剤や毒素への実効的な検証が極めて困難であるとの議論があり,条約をいかに強化するかが課題となっています。

3.我が国の取組

 我が国はBWCの実施強化のため,毎年の専門家会合や締約国会合において,専門家によるプレゼンテーションの実施や非EU西側諸国による非公式グループ(JACKSNNZ(日本,豪州,カナダ,韓国,スイス,ノルウェー,ニュージーランド))での共同作業文書提出など積極的に貢献してきています。また,我が国は,BWC第10条の下の国際協力として,アジア諸国の実験施設建設支援等,二国間又は国際機関等を通じて,生物剤・毒素の平和的利用やセイフティー・セキュリティーに関する協力を継続的に行ってきています。さらに近年の生命科学等の進展により,生物剤や技術が誤用・悪用され得るリスク(いわゆる「デュアルユース問題」)への関心が高まっています。

(写真)BWC会合
BWC会合の様子

化学兵器

1 化学兵器とは

 化学兵器は,化学剤を含む弾薬等を爆発等させることにより,一度に大量の人を殺傷するものであり,大量破壊兵器の一つです。

 化学兵器禁止条約(CWC)は,条約第2条1項及び「化学物質に関する附属議定書」において,CWCによる禁止の対象となる毒性化学物質等を定めています。これまでに化学兵器として開発された毒性化学物質には,大きく分けて「血液剤」(塩化シアンなど血液中の酸素摂取を阻害し身体機能を喪失させる),「窒息剤」(ホスゲンという気管支や肺に影響を与え窒息させる),「びらん剤」(マスタードなど皮膚や呼吸器系統に深刻な炎症を引き起こす),「神経剤」(サリンのように神経伝達を阻害し筋肉痙攣や呼吸障害を引き起こす)などの種類があります。

2 化学兵器禁止条約

 化学兵器禁止条約(CWC)は1992年に条約案が採択,翌93年に署名のために開放され,1997年4月に発効しました。CWCは,化学兵器の開発,生産,保有等を包括的に禁止し,同時に,締約国が保有する化学兵器を一定期間内(原則としてCWC発効から10年以内)に全廃することを規定しています。CWCは,一つの範疇の大量破壊兵器を完全に禁止し,廃棄させるのみならず,これらの義務の遵守を確保する手段として,詳細な検証制度を持つ初めての条約です。また,CWCは,化学兵器や化学兵器生産施設といった化学兵器に直接関連したものだけでなく,民生用の化学製品を生産するための化学物質であって化学兵器に転用可能なものを利用している一般の化学工場や研究所などについても化学兵器禁止機関(OPCW;CWCの実施機関)に申告し,査察を受け入れる義務を定めています。

3 我が国の取組

 日本は,CWCの実効性を高めるため,国際社会の取組に積極的に参画しているほか,日本独自の取組として,非締約国に対し参加への個別の働きかけを行うと共に,特にアジア地域を対象とした国内実施法制定等の支援を行っています(OPCWと協力した各種ワークショップの実施等)。また,2004年以降毎年,OPCWのアソシエート・プログラムの下で,日本の化学産業の事業所においてアジア地域の途上国から政府関係者を迎え,研修を行っています。更に日本はCWCの発効に伴い,中国遺棄化学兵器を処理する義務も負っており,遺棄化学兵器廃棄の処理を一日も早く完了することを目指して最大限努力しています。

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