第2節 日本の国際協力(開発協力と地球規模課題への取組)
2025年は、国際社会がロシアによるウクライナ侵略や中東情勢の悪化、地球規模課題などが相まった複合的危機に直面する中、こうした諸課題に対応するための開発協力の重要性が一層認識された。
1 開発協力
(1)開発協力大綱と日本のODA実績
ア 開発協力大綱に基づく効果的・戦略的なODA(1)の実施
開発協力は、近年、民間資金フローの増大や開発途上国のニーズの複雑化といった状況の変化に直面しており、加えて、日本の厳しい財政状況の中で、一層の効率化も必要となっている。こうした背景に鑑み、2023年6月に閣議決定した「開発協力大綱」(2)では、様々な主体がその強みを持ち寄り、対話と協働によって解決策を共に創り上げていく「共創」を基本方針の一つとして掲げつつ、外交の最も重要なツールの一つである開発協力を一層効果的・戦略的に活用する方針を打ち出した。
開発協力の戦略性強化の観点からは、日本の強みをいかした魅力的な協力メニューを開発途上国に積極的に提案するオファー型協力(外交政策上、戦略的に取り組むべき分野において、ODAとその他公的資金(OOF)(3)や民間資金も含む形で、日本の強みをいかした魅力的な協力メニューを開発途上国に積極的に提案するもの)を打ち出した。2023年9月、外交政策を踏まえて資源を集中的に投入し、戦略的に取り組む分野を選定し、その内容を戦略文書として公表した。2025年8月、同戦略文書を改定し、戦略分野として「防災」を追記し「気候変動への対応・GX・防災」とするとともに、新たな分野として「保健」を追加した。
また、ODAの一層の効率化や、官民を問わない様々な主体との連携強化に資する取組も進めている。2024年には「開発のための新しい資金動員に関する有識者会議」を立ち上げ、ODAのリスクテイク機能強化等を求める提言が提出された。そして、これらを踏まえ、2025年4月、民間資金動員の促進、国内外の課題解決力を有する主体との連携強化及び柔軟で効率的な独立行政法人国際協力機構(JICA)財務の実現の3点を主たる目的として、JICA法が改正された。
イ 日本のODA実績
2024年の日本のODA実績(4)については、「贈与相当額計上方式」(5)によると、対前年比15.9%減の約164億9,353万ドルとなった。これは経済開発協力機構・開発援助委員会(OECD/DAC)(6)メンバーの中では、米国、ドイツ、英国に次いで第4位である。この計上方式での対国民総所得(GNI)(7)比は0.39%となり、OECD/DACメンバー中第13位となっている(出典:OECDデータベース(OECD Data Explorer)(2025年12月))。
(2)2025年の開発協力
2025年、日本は以下アからエを中心に取り組んだ。
ア 対ウクライナ支援、対パレスチナ支援、対グローバル・サウス支援、及び人道危機への対応
日本はこれまで、ウクライナ及びその周辺国など影響を受けた関係国に対し、人道、財政、食料、復旧・復興の分野で支援を着実に実施してきている。例えば、ウクライナの厳しい財政状況に対処し、ウクライナの復興・開発を後押しするため、4月に、円借款「ウクライナのための特別収益前倒し融資」に関する書簡の署名及び交換を行った。これは、2024年のG7プーリア・サミットにおいてG7首脳が立ち上げについて一致した「ウクライナのための特別収益前倒し融資」の枠組みの下、日本として、4,719億円を限度とする円借款を供与するものである。加えて、日本は、10月に東京で「ウクライナ地雷対策会議」を開催した。日本は、同会議で、ウクライナに対する地雷対策支援として、(ア)人材育成と技術の強化、(イ)復旧・復興プロセスへの円滑な移行(ネクサス)、(ウ)第三国や国際機関等との間のパートナーシップの多角化・強化を3本柱とする「ウクライナ地雷対策支援イニシアティブ」を発表した。
パレスチナに関しては、2023年10月に発生したハマス等によるイスラエルに対するテロ攻撃を発端とするガザにおける情勢悪化を受けて、日本は、国際機関や日本の非政府組織(NGO)等を通じて、保健・医療、食料、水等の分野での人道支援や、がれき除去支援、廃棄物処理・保健医療体制の整備、上下水道の復旧に必要な資機材の供与等の早期復旧支援を実施してきている。
さらに、グローバル・サウスと呼ばれる開発途上国・新興国の国々との関係強化に向けて、2025年8月に開催された第9回アフリカ開発会議(TICAD(8) 9)や12月に開催された「中央アジア+日本」対話・首脳会合などの機会を活用して、それぞれの国や地域の特性に応じたオファー型協力を始めとする開発協力を行い、グローバル・サウス諸国との関係強化に努めた。
以上のような紛争起因による人道状況の悪化に加え、気候変動の影響もあり、世界的に自然災害が頻発・激甚化する中、特に経済・社会基盤が脆(ぜい)弱なグローバル・サウス諸国では被害が深刻化し、人道状況が悪化している。こうした状況を受け、日本は引き続き、二国間、国際機関及び日本のNGOを通じた人道支援も行った。
イ 「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現
世界の活力の中核であるインド太平洋地域及びビジョンを共有する幅広い国際社会のパートナーと共に「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を実現するため、引き続き、ODAを戦略的に活用しながら具体的な取組を進めている。
日本は従来、地域の連結性強化のための「質の高いインフラ」整備、法制度整備支援、債務管理・マクロ経済政策分野の能力強化、海上安全の確保のための海上法執行機関の能力強化(巡視船や沿岸監視レーダーなどの機材の配備、人材育成など)を実施しており、引き続きこれらを推進していく。
とりわけ、質の高いインフラの整備は、FOIP実現に向けた重要な基礎である。この点、2019年のG20大阪サミットで承認された「質の高いインフラ投資に関するG20原則」に含まれる、開放性、透明性、ライフサイクルコストを考慮した経済性、債務持続可能性などの諸要素を確保し、これらを国際スタンダードとして引き続き普及・実施していくことが重要である。2023年3月に発表されたFOIPの新たなプランでは、FOIPを実現するための取組を強化することとし、2030年までにインフラ面で官民合わせて750億ドル以上の資金をインド太平洋地域に動員し、各国と共に成長していくことを発表した。
また、2022年のG7エルマウ・サミットで立ち上げられた、質の高いインフラ投資を促進するためのイニシアティブである「グローバル・インフラ投資パートナーシップ(PGII)」(9)に関し、2025年10月、議長国カナダの下で開催されたG7開発大臣会合において、質の高いインフラに向けた官民投資をG7として連携して動員していく重要性について再確認するとともに、これまで、PGIIの下でG7が共同で4,100億ドル以上を同イニシアティブへ動員してきたことを歓迎した。
ウ 地球規模課題への取組
日本は、開発協力大綱において、新しい時代の人間の安全保障(10)の理念を指導理念として位置付け、2023年12月に改定された持続可能な開発目標(SDGs)実施指針(11)の下、SDGsの達成を含む地球規模課題の解決に向けた取組を進めている。引き続き、人道支援を含む、保健、食料、栄養、ジェンダー、教育、防災、水・衛生、気候変動・地球環境問題などの分野における「人間中心の国際協力」を積極的に進めていく。これに際しては、日本の国際協力NGOとの連携も活用しつつ、顔の見える開発協力を推進する。また、人道危機が長期化・多様化する中、人道と開発に加えて紛争の根本原因への対処を強化し、平和の持続のための支援を行う「人道・開発・平和の連携」の理念に基づいて、難民・避難民支援を含む人道支援、貧困削減・経済社会開発、平和構築・国造り支援を推進していく。
エ 日本経済を後押しする外交努力
日本は、開発途上国の発展を通じて日本経済の活性化を図り、共に成長していくための取組を推進している。
具体的には、引き続き、開発協力大綱で打ち出した、日本の強みをいかした魅力的なメニューを開発途上国に積極的に提案するオファー型協力や、民間資金の動員を図ったODAなどを通じて官民連携を促進していく。また、日本の優れた技術を開発途上国の社会課題解決に活用するため、日本製品を活用した資金協力や技術協力を通じ、質の高いインフラ投資やサプライチェーン強靱(じん)化を推進していく。加えて、日本企業の海外ビジネスによる開発途上国の課題解決を目指し、JICAの「中小企業・SDGsビジネス支援事業(JICA Biz)」を通じ、開発途上国におけるニーズ確認やビジネス化実証などの事前調査を支援する形で、中小企業・スタートアップを含む日本企業の海外展開を後押しする。
(3)主な地域への取組
ア 東・東南アジア
東・東南アジア地域の平和と安定及び繁栄は、日本の安全保障や経済発展に直結するものであり、日本にとって重要である。日本はこれまで、開発協力を通じ、同地域の経済成長や人間の安全保障を促進することで、貧困削減を含む様々な開発課題の解決を後押しし、地域の発展に貢献してきた。
その中でも、東南アジア諸国連合(ASEAN)はFOIP実現のための要であり、日本は、ASEANが抱える課題の克服や、ASEAN統合の一層の推進を支援している。2020年の日・ASEAN首脳会議で、「インド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP)」(12)がFOIPと本質的な原則を共有していることが確認されたことも踏まえ、日本は、AOIPの重点分野である海洋協力、連結性、SDGs、経済などに沿った日ASEAN協力を引き続き強化していく考えである。その主な取組として、2023年9月に発表した「日ASEAN包括的連結性イニシアティブ」は、ハード・ソフトの両面で連結性強化を一層推進している。例えば、マニラ首都圏の旅客鉄道(フィリピン)、ビエンチャン国際空港の拡張(ラオス)などの交通インフラ整備に加え、デジタル・コネクティビティ、海洋協力、サプライチェーン、電力、人・知の連結性といった様々な分野での連結性強化に資する支援を推進している。さらに、2025年の日ASEAN首脳会議において、高市総理大臣は新たに「日ASEAN・AI共創イニシアティブ」の立ち上げを提案し、ASEAN地域におけるAIエコシステムの構築に向けた協力を推進することを表明した。
また、2023年12月の日本ASEAN友好協力50周年特別首脳会議において採択された「日本ASEAN友好協力に関する共同ビジョン・ステートメント」及びその実施計画を踏まえ、幅広い具体的な協力を推進している。例えば、共創による課題解決のための官民連携の新たな取組として、2023年12月にカンボジアと合意した「オファー型協力」について、2024年3月、官民ラウンドテーブル会議を開催するなど、日本企業の参画も得つつ、デジタル技術を活用したカンボジアの社会課題解決を促進している。
さらに、自由で開かれた国際秩序を構築するため、日本のシーレーン上に位置するフィリピンやベトナムなどに対し、巡視船や沿岸監視レーダーを始めとする機材供与、専門家派遣や研修による人材育成などを通じて、海上法執行支援を積極的に実施している。そのほか、域内及び国内格差是正、防災、環境・気候変動、エネルギー分野など、持続可能な社会の構築のための支援も着実に実施している。2025年には、国際公法、刑事司法、イノベーション促進による新産業の創造・振興、スマートシティ、自治体能力強化等に関する研修を実施した。


(9月、フィリピン 写真提供:JICA)
メコン地域4か国(カンボジア、タイ、ベトナム、及びラオス)に対しても、日本は、伝統的な開発パートナーとして二国間・多国間での様々な協力を行っている。気候変動や流域開発等の影響により、洪水や干ばつの被害が拡大していることを受け、3月にメコン河委員会との連携による早期警報システム強化等の洪水・渇水対策への支援を決定した。
ミャンマーについては、2021年2月に発生したクーデター以降、2025年3月の同国中部を震源とする地震の影響もあり、人道状況は悪化の一途をたどっている。そのため、日本は国際機関やNGOなどを通じた、ミャンマー国民に直接裨(ひ)益する形での人道支援(食料、医療用品など)や国民生活の向上のための支援を積極的に実施している。特に、3月に発生した地震被害に対しては、国際緊急援助隊(JDR)医療チーム、及び医療資機材等を輸送するため自衛隊部隊を派遣し、現地で医療活動を行ったほか、国連やJICAを通じて衛生用品や水などの緊急援助物資供与を行った。さらに、国際機関を通じた保健・医療などの分野における600万ドルの緊急無償資金協力を実施した。
イ 南西アジア
南西アジアは、東アジア地域と中東地域を結ぶ海上交通の要衝に位置し、戦略的に重要な地域である。また、高い経済成長や大規模なインフラ需要が期待されるなど、大きな経済的潜在力を有しており、日本企業にとって重要な市場、生産拠点及び投資先として注目を集めている。一方、地域によっては深刻な貧困状況や、教育や保健・医療などの基礎的な社会インフラの未整備、頻繁に発生する自然災害への対策、産業インフラ整備の遅れなどの課題を抱えている。日本は、人間の安全保障、SDGsの目標達成、日本企業の投資環境整備を含め、ODAを通じ、課題解決に向けた取組を行っている。
近年目覚ましい経済成長を遂げるインドに対する開発協力は「日印特別戦略的グローバル・パートナーシップ」の重要な構成要素であり、日印双方の強みを持ち寄り、新たな価値を共創することを通じ社会的課題の解決を図ることで、日印双方の利益に資するような開発協力を推進している。加えて、地球規模課題への取組の観点からも、多くの人口を抱えるインドにおける経済社会開発の必要性は依然として非常に大きく、2025年には、民間投資の促進、森林行政官の能力強化、海水淡水化施設等の建設、地下鉄建設、水産関係者の生計向上に資する支援等の円借款に関する書簡を交換し、インドの包摂的かつ持続可能な成長の実現を後押しする支援を行っている。
8月、モディ首相が訪日して行われた日印首脳会談において、両首脳は「ムンバイ・アーメダバード間高速鉄道建設計画」を日印の旗艦事業として、その実現に向け、引き続き協力していくことを確認した。また、同会談で発表された「今後10年に向けた日印共同ビジョン」において、日印におけるイノベーション促進とAIに関する補完的な協力を推進する「日印AI協力イニシアティブ(JAI)」を新たに立ち上げるなど、協力の裾野を広げることで一致した。
日本は、2023年にバングラデシュとの間で引き上げられた「戦略的パートナーシップ」の下、同国の2026年の後発開発途上国(LDC)卒業に向け、2024年8月に発足した同国暫定政権に対しても、引き続き「ベンガル湾産業成長地帯(BIG-B)」及びFOIPの新たなプランに基づく「ベンガル湾からインド北東部をつなぐ産業バリューチェーン」の両構想を軸に、インフラ整備や地域連結性の向上等に係る支援を進めている。また、日本は、2017年の大量流入後もバングラデシュに滞在し、現在も増え続けている114万人を超えるミャンマーからの避難民への人道支援も続けている。そのほか、バングラデシュの次期総選挙に向けた有権者登録用機材の供与や、経済改革及び気候変動対策分野への財政支援等、日本はバングラデシュ暫定政権が注力する取組への協力も実施し、長年にわたる同国との良好な二国間関係の維持・強化に努めている。
スリランカでは、2022年4月の対外債務の一時的な支払停止以降の急速な外貨不足による輸入資材の欠乏などの経済危機により人道状況が悪化した。日本は、債権国会合の共同議長として、スリランカの債務再編プロセスを主導し、2024年7月には、債権国会合のメンバーとスリランカとの間で債務再編に関する覚書の署名が完了した。また日本は、2025年3月、債権国会合メンバー国とスリランカとの間の最初の二国間の債務再編合意を締結し、両国間の債務再編を正式に完了した。このほか、9月のディサナヤケ大統領訪日中に、日本はスリランカ北部・東部に多い小規模酪農家の生計向上に資する乳牛の遺伝的改良促進のための機材整備等に係る協力(4.63億円)を決定するなど、支援を継続している。また、11月下旬のサイクロンによる甚大な被害に対し、日本は国際緊急援助隊・医療チームを派遣したほか、緊急援助物資の供与を行った。また、食料・生活必需品等の人道支援を実施するため、国際機関を通じた250万ドルの緊急無償資金協力を決定した。

(12月6日、スリランカ・チラウ)
モルディブでは、首都マレ島の高波・高潮対策を強化するため、日本は、7月、護岸整備のための協力(15.55億円)を決定した。
パキスタンでは、5月、水道関連機材を供与(5.10億円)し、さらに12月、地域の安定に資する国境地域の地方行政強化(5.18億円)などに対し協力を決定した。
ネパールに対しては、2月、自然災害の被害を受けた地域を中心に、灌漑(かんがい)施設等のインフラ整備や地方自治体職員の災害対応能力向上等に資する協力(2.5億円)を決定した。
ブータンでは、道路整備や橋の架け替えといったインフラだけでなく、農業生産性向上や水力発電所といった幅広い分野で支援を行っているほか、技術協力も活用し人材育成支援も行っている。
ウ 太平洋島嶼(しょ)国
太平洋島嶼国は、日本にとって太平洋で結ばれた「隣人」であるばかりでなく、歴史的に深いつながりがある。また、これらの国は広大な排他的経済水域(EEZ)(13)を持ち、日本にとって海上輸送の要となる地域である。また、かつお・まぐろ遠洋漁業にとって必要不可欠な漁場を提供している。このため、太平洋島嶼国の安定と繁栄は、日本にとって非常に重要である。
太平洋島嶼国は、経済が小規模であること、領土が広い海域に点在していること、国際市場への参入が困難なこと、自然災害の被害を受けやすいことなど、小島嶼国特有の共通課題を抱えている。このような事情を踏まえ、日本は太平洋島嶼国の良きパートナーとして、自立的・持続的な開発を後押しするための協力を実施してきている。
2024年7月の第10回太平洋・島サミット(PALM10)では、太平洋諸島フォーラム(PIF)の「2050年戦略」における七つの重点分野((ア)政治的リーダーシップと地域主義、(イ)人を中心に据えた開発、(ウ)平和と安全保障、(エ)資源と経済開発、(オ)気候変動と災害、(カ)海洋と環境、(キ)技術と連結性)を重点協力分野と位置付けた「第10回太平洋・島サミット(PALM10)共同行動計画」を採択した。また、岸田総理大臣はPALM10において、太平洋島嶼国地域にとって「存続に関わる唯一最大の脅威」である気候変動に対して、(ア)防災能力の強靱化、(イ)脱炭素化の推進、(ウ)島嶼国自身の取組の支援の3本柱から成り、日本の技術・ノウハウ・資金を総動員したオールジャパンの取組である「太平洋気候強靱化イニシアティブ」を表明した。重点分野への支援としては、例えば、インフラ整備分野ではパラオのコロール州及びアイライ州における上水道改善やトンガのファアモツ国際空港整備、海洋分野ではパプアニューギニアにおける国立水産大学の施設及び訓練機材整備、さらに、防災分野ではフィジーにおける災害復旧スタンド・バイ借款、気候変動分野ではサモアにおける地下水源開発機材供与などへの支援を行っている。
また、日本は、日本の高等教育機関への留学を通じて若手行政官を育成する無償資金協力事業「人材育成奨学計画(JDS)」をソロモン、フィジー、パプアニューギニアでも実施している。さらに、米国などと連携して、海底ケーブルに関連する協力を進めるなど、経済安全保障に資するような新しい分野での協力も強化してきている。
エ 中南米
中南米は、日本と長年にわたる友好関係を有し、約310万人の日系人が在住するなど、歴史的なつながりが深い。また、資源・食料の一大供給地域であると同時に、域内総生産が7兆ドルを超える有望な新興市場である。一方、気候変動・環境や防災、保健・医療、治安等の分野において大きな開発ニーズを抱えており、日本は、各国の事情を踏まえ、様々な協力を行っている。
気候変動・環境分野では、日本は、3月の日・ブラジル首脳会談において、地球温暖化対策や食料安全保障の観点から、オファー型協力も活用しつつ、劣化牧野(不十分な土地管理や過放牧等により土壌が劣化した牧草地)の回復やアマゾン森林違法伐採対策を柱として協力を進めていくことを決定した。また、自然災害に際する緊急人道支援としては、洪水被害に見舞われたボリビアに対する緊急援助物資の供与や、カリブ3か国(ジャマイカ、キューバ、ハイチ)に対する緊急無償資金協力を実施した。
保健・医療分野では、がんによる死亡率が高いホンジュラスに対して、日本、ホンジュラス及び国際原子力機関(IAEA)の間で医療分野(放射線治療)での三者協力に関する意図表明書に署名し、同国国民が放射線治療を受けやすい環境を整備するため、がん治療関連機材を供与する6.4億円の無償資金協力の実施を決定した。
このほか、ハイチにおいて武装集団(ギャング)による暴力や人権侵害が頻発し、治安・人道状況が急激に悪化した事態を受けて、日本は、ハイチ情勢の安定化に貢献するため治安分野支援と人道支援を両輪とする取組を実施している。9月には、国連薬物・犯罪事務所(UNODC)を通じて、西県及び南東県において、法執行機関(国家警察、沿岸警備隊及び税関)に対する業務環境整備及び研修等を行うことにより、国境及び海上における違法取引取締り活動の強化を図る約4億円の無償資金協力の実施を決定した。
また、日本は、チリ、ブラジル、アルゼンチン、メキシコとパートナーシップ・プログラムを交わし、防災、貧困削減、警察制度などの分野において、三角協力(14)を通じて中南米諸国やアフリカなどにおいて人材育成を進めている。
オ 中央アジア・コーカサス
中央アジア・コーカサス地域は、ロシア、アジア、欧州に囲まれ地政学上の重要性を有するほか、東アジアと欧州を結ぶ輸送路であることから、この地域の発展と安定は、日本を含むユーラシア地域全体の発展と安定や連結性の要として重要である。高い成長と人口増を続けるこの地域との協力は、国際的な環境が急激に変化していく中で、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化する観点からも重要性を増している。
これを背景に、12月、首脳級では初となる「中央アジア+日本」対話(CA+JAD)・首脳会合が開催され、「グリーン・強靱化」、「コネクティビティ」及び「人づくり」を今後の協力の重点分野とすることが合意された。重点項目「グリーン・強靱化」において、経済・社会インフラの発展・省エネ化支援や防災能力強化に資する無償資金協力の供与が決定された。また、「コネクティビティ」分野においては、「カスピ海ルートの円滑化支援を含むコネクティビティ強化」を推進していくことで一致した。同協力の枠内において、税関分野での国際協力等に取り組む世界税関機構(WCO)(15)と連携して税関職員を対象とした通関の効率化・リスク管理能力の向上につながる協力が実施されるとともに、機材・インフラ整備により同ルートの円滑化を図る無償資金協力の供与が決定された。さらに重点項目「人づくり」においては、無償資金協力「人材育成奨学計画(JDS)」による将来政府中枢において政策立案にリーダーシップを発揮することが期待される政府職員の人材育成や、日本センター等を通じた高度人材の育成を支援した。このほか、医療・保健分野の無償資金協力を通じ国民の福祉の向上にも貢献してきている。
カ 中東・北アフリカ
欧州、サブサハラ・アフリカ及びアジアの結節点という地政学上の要衝に位置する中東・北アフリカ地域の平和と安定の確保は、日本のエネルギー安全保障のみならず世界の平和と安定のためにも重要である。こうした観点から日本は、同地域の平和と安定に向けた支援を行ってきている。
エジプトでは、人材育成やインフラ整備など幅広い分野での支援を行っている。例えば、エルシーシ大統領主導の下で進められているエジプト日本学校(EJS)やエジプト日本科学技術大学(E-JUST)における日本式教育の導入を後押しするなど、就学前教育から大学院にわたる教育・人材育成分野での協力に力を入れている。2025年9月には、エジプト日本高専(EJ-KOSEN)の開校式典を開催した。また、同年8月には、スエズ運河の維持管理を行うための潜水作業支援船を供与するため、無償資金協力「潜水作業支援船建造計画」に関する書簡の署名・交換を行った。また、同年9月には、カイロ地下鉄四号線の整備に向けて、円借款「カイロ地下鉄四号線第一期整備計画(IV)」に関する書簡の署名・交換を行った。ガザ情勢悪化などの国際情勢を受け、中東地域全体の平和と安定におけるエジプトの重要性は一層高まっており、日・エジプトの戦略的パートナーシップの下、二国間の一層の包括的な協力強化が期待される。

(エジプト・カイロ 写真提供:JICA)
ヨルダンは、周辺国・地域からの避難民の流入により社会・経済に負担が生じており、また、周辺国・地域の情勢悪化の影響により厳しい財政状況にある。こうした状況の改善に向けて、日本は、ヨルダンとの間で、2025年11月に円借款「経済成長のための強靭性向上及び人的資本開発プログラム・ローン」に関する書簡の署名・交換を行い、融資による財政支援を行うこととした。さらに、昨今の中東地域全体の不安定化及び周辺国の情勢悪化等に伴うテロの危険性の高まりや国境を越えた犯罪増加等の課題に対応するため、同年11月に無償資金協力「経済社会開発計画」に関する書簡の署名・交換を行い、治安対策機材及びサイバーセキュリティ関連機材の供与を行うこととした。
モロッコでは、漁業や農業などの分野において積極的な二国間協力を展開している。2025年1月には、無償資金協力「スイラケディマ新世代漁港整備計画」に関する書簡の署名・交換を行い、スイラケディマ漁港の整備を進めている。同年2月には、海洋環境及び水産資源に関する科学的な調査能力を強化するために円借款で建造された海洋・漁業調査船の引渡しを実施した。さらに、同年11月には、円借款「ガルブ平野南東地域農業用水整備計画」に関する書簡の署名・交換を行い、ガルブ地域の農業用幹線水路やポンプ場等の建設を行うこととした。
シリアに関しては、日本は困難に直面する全てのシリアの人々に人道支援を提供するとの支援方針の下、国際機関等と連携しつつ、シリア及び周辺国に対する人道支援を行ってきている。さらに、就学機会を奪われたシリア人の若年層に教育の機会を提供するため、2017年以降、シリア人留学生144人を日本に受け入れている。また、2025年12月には、2011年に発生したシリア危機を受けて停止していた対シリア二国間経済協力を再開した。
アフガニスタンでは、2021年8月のタリバーンによるカブール制圧以降の深刻な人道危機の状況を踏まえ、日本は、基本的人道ニーズへの支援を含む保健・教育・食料分野などに関する人道支援を国際機関などと連携しながら実施している。また、2025年9月のアフガニスタン東部及び11月の北部における地震被害に対しては、JICAを通じた毛布やスリーピングパッドなどの緊急援助物資の供与を行った。また、9月の地震被害に対しては、国際機関を通じた食料や保健・医療などの分野における100万ドルの緊急無償資金協力も実施した。
キ アフリカ
アフリカは、54か国に約14億人の人口を擁し、世界の成長の原動力となり得る高い潜在性と豊富な天然資源により、引き続き国際社会の注目と期待を集めている。一方、貧困、脆弱な保健システム、テロ・暴力的過激主義の台頭など、様々な課題にも直面している。こうした中、日本は、開発協力を活用しつつ、長年にわたりアフリカの発展に貢献してきた。
その上で、日本は、8月にTICAD 9を開催し、共催者やアフリカ諸国を始めとする参加者との間で、「革新的課題解決策の共創」をテーマに、民間センター主導の持続的な成長、若者・女性、地域統合及び域内外の連結性に焦点を当てつつ議論を行った。その中で、日本は様々な日本らしい取組を表明した。例えば、世界経済の成長の中心となる潜在性のあるインド洋・アフリカ経済圏において、インド、中東諸国といったインド洋を囲む国々と協働し、アフリカの域内統合や産業発展の貢献等を目指す「インド洋・アフリカ経済圏イニシアティブ」を立ち上げた。また、保健分野では、アフリカ各国におけるガバナンス向上、投資環境整備及び国内資源の投入を支援するため「アフリカ保健投資促進パッケージ」を立ち上げた。さらに、TICAD 9の機会に、モザンビーク、マラウイ、ザンビアに対する広域オファー型協力「ナカラ回廊開発によるグローバル・サプライチェーンの強靭化」及びナイジェリアに対するオファー型協力「スタートアップ支援による社会課題の解決と経済強靱化」の二つのオファー型協力を立ち上げた。

(4)適正かつ効果的なODA実施のための取組
ア 適正なODA実施のための取組
ODA事業の透明性確保及び事業計画の改善のため、実施の各段階で、外部有識者の意見を聴取し、その意見を踏まえた案件形成を行っている。案件候補の計画段階では、開発協力適正会議を一般公開形式で開催し、関係分野に知見を有する独立した委員と意見交換を行い、事業の妥当性を確認している。また、事業完了後には、JICAが実施した事業規模2億円以上の案件について、JICAが事後評価を実施して、結果を「ODA見える化サイト」で公表しており(2025年12月31日時点で5,507件掲載)、また、事業規模10億円以上の案件については、第三者による事後評価を行っている。さらに、外務省は、ODAの管理・改善と説明責任の確保を目的として、第三者による政策レベルの評価(国別評価、課題・スキーム別評価など)及び外務省が実施した案件の事後評価(事業規模2億円以上10億円未満の案件については内部評価、事業規模10億円以上の案件については第三者評価)を実施している。評価を通じて得られた提言や教訓は、今後のODAの政策立案や事業実施にいかし、事業の透明性を確保するため、評価の結果を外務省ホームページ上で公表している。
また、開発協力に携わる人員の安全を確保する観点から、外務省及びJICAでは、「国際協力事業安全対策会議」の最終報告(2016年8月発表)で策定された安全対策の実施に取り組み、国際協力事業関係者の安全対策の実効性を確保するための対応を継続・強化している。
イ 効果的なODA実施のための取組
高い事業効果を発現し得るODAの案件形成を推進するため、外務省は、日本の開発協力大綱の重点政策と開発途上にある当事国が考える課題の優先度や開発計画を総合的に検討しつつ、ODAの事業対象国ごとに重点分野や方針を定めた国別開発協力方針を策定している。また、国別開発協力方針の別紙として、実施決定から事業完了までの段階にある案件を一覧化した事業展開計画を策定し、各案件が方針のどこに位置付けられ、他案件とどう相関しているかを視覚化している。こうした取組により、限られたODA予算が、日本も被援助国も重視する事業に戦略的に投入され、複数案件が有機的に関連し合う形で実施されて効果を上げることを確保している。
ウ ODAの国際的議論に関する取組
日本はODAに関する国際的な議論に積極的に貢献している。OECD/DACでは、持続的な開発のための資金動員に向けた、ODAを触媒とする民間資金動員の促進や、新興ドナーを含む多様なパートナーとの連携などについて議論が行われている。また、新興ドナーが行う開発途上国支援が、国際ルールやスタンダードを遵守し、説明責任と透明性を持って行われるよう、OECD/DACとして相互学習の機会を設けるなどの働きかけを行っている。
エ ODAへの理解と支持の促進のための取組
開発協力の実施に当たっては国民の理解と支持が不可欠であることから、外務省は効果的な情報の発信を通じて国民の理解促進に努めている。外務省ホームページやODA広報XなどのSNS、YouTube動画、メールマガジンやコンテンツの制作などを通じて、幅広い層を対象に、分かりやすい政策広報に取り組んでおり、外務省のODA広報キャラクターである「ODAマン」がODAが開発途上国と日本にもたらすメリット等を解説する動画を制作した。外務省、JICA及び国際協力NGOセンター(JANIC)の共催で、34回目となる「グローバルフェスタJAPAN2025」(9月)を対面・オンライン配信を併用したハイブリッド形式で開催し、2日間で3万人の来場・視聴者を得た。外務省では、教育機関等で外務省員が講義を行うODA出前講座の実施など、若者等に向け積極的な開発協力への理解促進も図っている。海外に向けた広報としては、日本の開発協力に関する現地での報道展開を目指してODA現場での視察ツアーを実施するほか、英語や現地語などによるSNS発信や広報資料の作成も行っている。


―受け手と共に国際協力の質を高めてきた四半世紀―
外務省は、ODAの効果を高めるために「ODA評価」という取組を実施しています。ODA評価は、ODAがどう使われ、どのような効果が出たのかを客観的に評価することで、今後の支援のやり方を改善し、その質を高めていくとともに、その成果や教訓を国民に説明することを目的としています。外務省は、ODAを提供する国と開発途上国が「対等」な協力関係にあるパートナーであるという認識の下、途上国自身の評価能力を向上させることの重要性に着目し、2001年から「ODA評価ワークショップ」を開催してきました。このワークショップは、アジア太平洋地域の政府関係者が、ODA評価の手法や課題についての理解を深めてその能力を向上させることで、支援する側の効率を上げるだけでなく、途上国側がより主体的に取り組み、評価の透明性が高まることにも貢献しています。
各国で開催してきたODA評価ワークショップを重ねる中で、アジア太平洋地域の評価専門家が一堂に会し、各国の経験・課題について議論することが域内の更なる評価能力向上に繋(つな)がるといった声が実を結び、2012年にはアジア太平洋地域の評価専門家が参加する「アジア太平洋評価学会(Asia Pacific Evaluation Association:APEA)」が設立されました。域内外専門家の人的・知的交流を通じて、APEAはアジア太平洋地域全体における評価文化の醸成に大きく貢献し、また評価を通じて日本の国際協力の推進にも寄与してきたことが高く評価され、2025年に外務大臣賞を受賞しました。
11月13日、外務省はAPEAとの共催で、第5回APEA大会の主要なプログラムの一部として、第20回ODA評価ワークショップを東京で開催しました。このワークショップには、アジア太平洋諸国から、各国政府の評価業務やSDGs(持続可能な開発目標)の進捗を国連に報告する業務(自発的国家レビュー(VNR))に携わる31人の政府関係者がオンラインで参加しました。また、これまで政府関係者のみを対象に実施していたワークショップにおいて、今回初めて、APEA大会に出席していた実務や学術界の評価専門家24人も対面で参加し、双方の理解の促進に貢献しました。

(11月13日、東京)
APEA大会の開会式には英利アルフィヤ外務大臣政務官が登壇し、各国が共通の社会課題に直面する中で、日本が国際協力の枠組みにおいて重視してきた「共創」と「対等なパートナーシップ」の理念をより一層強化していく必要性を強調しました。また、APEAの外務大臣賞受賞をたたえ、課題解決にはモニタリングや評価能力の強化が不可欠であることに触れつつ、この分野における多様な主体との連携・パートナーシップを強化していく重要性を訴えました。

(11月12日、東京)
外務省はこれまで、ODA評価ワークショップを通じて開発途上国の評価能力向上に取り組んできましたが、今後は、その形式を発展的に変更し、APEAを含む国際評価ネットワークと連携して、参加者が相互に学び合う、新しい協力を進めていく考えです。
(1) ODA:Official Development Assistance(政府開発援助)
開発協力を進めるための公的資金のうち、開発途上国の経済開発や福祉の向上に役立つことを主目的としたもの
(参考)開発協力白書:
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/hakusyo.html

(2) 開発協力大綱については外務省ホームページ参照:
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/seisaku/taikou_202306.html

(3) OOF:Other Official Flow
(4) 日本のODAの主な形態としては、資金の性質の観点では、無償資金協力及び技術協力で構成される贈与と政府貸付等に二分され、資金の供与先の観点では、政府相手となる二国間援助と、国際機関等向けの多国間援助(主に拠出・出資)がある。
(5) 「贈与相当額計上方式」(Grant Equivalent System:GE方式)は、経済協力開発機構・開発援助委員会(OECD/DAC)が標準のODA計上方式として2018年の実績から導入したものであり、政府貸付等について、贈与に相当する額をODA実績に計上するもの。贈与相当額は、支出額、利率、償還期間などの供与条件を定式に当てはめて算出され、供与条件が緩やかであるほど額が大きくなる。以前のOECD/DACの標準であった純額方式(供与額を全額計上する一方、返済額はマイナス計上)に比べ、日本の政府貸付等がより正確に評価される計上方式と言える。
(https://warp.ndl.go.jp/web/20250802020731/https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/files/100053766.pdf)

(6) OECD/DAC:Organisation for Economic Co-operation and Development /Development Assistance Committee
(7) GNI:Gross National Income
(8) TICAD:Tokyo International Conference on African Development
(9) PGII:Partnership for Global Infrastructure and Investment
(10) 人間の安全保障:個人の保護と能力強化により、恐怖と欠乏からの自由、及び一人一人が幸福と尊厳を持って生存する権利を追求するという考え方
(11) 持続可能な開発目標(SDGs)実施指針(2023年12月19日SDGs推進本部決定)
https://warp.ndl.go.jp/web/20250902195422/https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/pdf/kaitei_2023_jp.pdf

(12) AOIP:ASEAN Outlook on the Indo-Pacific
(13) EEZ:Exclusive Economic Zone
(14) 三角協力:先進国やドナー、国際機関が、開発途上国間の協力を人材、技術、資金、知識などを活用して支援すること
(15) WCO:World Customs Organization
