外交青書・白書
第2章 地域別に見た外交

2 ロシア・ベラルーシ

(1)ロシア情勢

ア ロシア内政

ロシアによるウクライナ侵略(ロシア側は「特別軍事作戦」と呼称。以下「作戦」)が3年を超える中、引き続きプーチン大統領の支持率は高水準で推移するとともに、「作戦」に関連する施策が見られた。

ウクライナ侵略に従事する者を確保するための取組として契約兵の雇用が継続されるとともに、徴兵に関する事務を合理化するため、これまで春と秋の年2回実施されていた定期徴兵の通年化が決定された。また、平時において、国内施設の防衛のために一定の国民を特別召集できる法律が制定された。

9月に行われた統一地方選挙では、地方自治体レベルを中心に、「作戦」参加者が数多く擁立された。特に政権与党「統一ロシア」から擁立された「作戦」参加者が800人以上当選し、これは前年比の2倍以上となった。

また、政権による言論・報道の自由に対する規制が継続されている。9月には、「過激主義的なコンテンツ」の検索に罰金を科すこと等を内容とする連邦法が発効した。加えて、8月以降、ロシア国内で広く使用されてきた外国製メッセージング・アプリの一定の機能に制限が課される一方、国産メッセンジャー・サービス「MAX」の使用が推奨されている。

イ ロシア外政

ウクライナとの停戦の仲介に意欲を示していたトランプ米国大統領の就任後、5月には2022年以来となるロシアとウクライナの直接協議が、イスタンブール(トルコ)で実現した(その後、6月及び7月にもイスタンブールで二国間の協議が行われた。)。捕虜交換、遺体交換等が実現したものの、和平に関する立場の相違が埋まることはなかった。

ロシアによるウクライナ侵略開始以降、ハイレベルでの対話がほぼ途絶えていた米国との関係では、トランプ政権発足後、首脳、外相を含む様々なレベルでの対話が数多く実施された。8月には、アラスカ(米国)で米露首脳会談が実現したが、その後もロシア側は、ウクライナ情勢の解決には「根本原因」を除去すべきとの従来の立場を繰り返し、事態の終結に向けた具体的な打開は見られていない。10月、米国は、トランプ政権2期目初となるロシアへの直接的な制裁としてロシアの石油大手2社に対する追加の制裁を導入した。

また、9月、プーチン大統領は、米露間の新戦略兵器削減条約(新START)の数量制限を2026年2月の期限到来後から更に1年間遵守する用意があると発言したが、米国側から同条約の延長に向けた公式な反応は見られなかった。同条約は期限を満了し、失効した。また、10月には、ロシアは原子力巡航ミサイル「ブレヴェスニク」、原子力無人潜水兵器「ポセイドン」の実験成功や、11月には、新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)「サルマト」の26年の実戦配備を発表するなどの動きが見られた。

欧州諸国との関係では、EUは、石油プライス・キャップ制度(上限価格措置)(1)の上限価格引下げ、「影の船団」(2)への対応強化、2027年1月以降のロシア産液化天然ガス(LNG)の輸入禁止など、ロシアに対する制裁を強めている。2025年には複数の北大西洋条約機構(NATO)加盟国でロシア軍機による領空侵犯及びロシアの関与が疑われるドローンによる領空侵犯があったことを関係国が発表している。

ロシアは、中国、北朝鮮や、インドなどのグローバル・サウス諸国との連携強化を引き続き模索している。また、プーチン大統領は、BRICS(3)、上海協力機構(SCO)(4)等多国間枠組みの国際社会における重要性を繰り返し強調している。

ロシアは5月、対ドイツ戦勝利80周年を記念する軍事パレードを、アフリカや中南米を含む多くの外国首脳級の参加を得て実施した。習近平国家主席は主賓として出席した。中露首脳会談後に発表された首脳共同声明では、戦後80周年を機に両国の歴史的貢献を主張する記述が多く見られた。8月末から9月にかけては、プーチン大統領が中国を訪問し、中露首脳会談を行うとともに、「中国人民抗日戦争及び世界反ファシズム戦争勝利80周年記念大会」に出席し、プーチン大統領と習近平国家主席、金正恩(キムジョンウン)委員長の3人が並び立つ姿を示した。

軍事面では、中露海軍が8月1日から5日に日本海で共同演習「海上協力-2025」を実施し、その終了後に中露海軍艦艇が日本海及び太平洋で共同航行を実施した。12月9日には中露の爆撃機が東シナ海及び太平洋で共同飛行を実施した。中露の軍事的連携の強化については、日本の安全保障の観点から、引き続き重大な懸念を持って注視していく必要がある。

北朝鮮との関係については、4月末、露朝双方が、2024年8月からウクライナが進攻していたロシア・クルスク州における戦闘に北朝鮮兵士が参加したことを公表した。また、北朝鮮は、ロシアに弾道ミサイルや弾薬を提供しており、その見返りとして、ロシアの核・ミサイル関連技術が北朝鮮に移転するおそれも深く懸念される。ハイレベルの会談も引き続き行われ、首脳間では、8月の露朝首脳電話会談に続き、9月には北京(中国)で首脳会談が行われ、プーチン大統領が両「国」関係は同盟的な性格を持つに至ったと発言した。

インドとの関係については、12月、プーチン大統領が4年ぶりにインドを訪問した。

ウ ロシア経済

ウクライナ侵略開始以降、ロシアの国防費は国家予算の大きな割合を占めている。2026年の政府予算においては、3年にわたって見られた大幅な国防費の拡大はなく、ウクライナ侵略以降初めて国防費の額面が前年を下回ったものの、引き続き予算全体の約3割を占めており、国家予算を圧迫している。財政赤字も拡大しており、政府は国防・安全保障に充てるとして2026年には付加価値税の税率を20%から22%に引き上げるなどの増税を予定している。

国内の経済成長には鈍化も見られる。2024年には4%を超えていた実質GDP成長率について、ロシア経済発展省は9月、2025年の予測を前年比2.5%増から1%増と下方修正した。また、製油所に対するウクライナのドローン攻撃の頻発や季節的な需要増を背景に、ガソリン及びディーゼルの不足が懸念され、政府はガソリン輸出の全面的な禁輸措置や取引制限の延長などの対策を行った。

制裁により、欧州へのエネルギー輸出は大幅に減少したが、中国を始めとするロシアの友好国は引き続きロシア産エネルギーの輸入を継続している。トランプ米国大統領は8月、ロシアからの石油輸入を理由に、インドに対し、25%の追加関税(いわゆる「二次関税」)を課し、また10月にはロシアへの直接的な制裁としてはトランプ政権初となるロシアの石油大手2社に対する制裁を導入した。欧米諸国が輸出管理を強化する中、ロシアは輸入代替を進めつつ、友好国を通じた迂(う)回輸入を継続するなど引き続き制裁回避策を講じている。

国内の労働力不足や西側先端部品へのアクセス制限などは、中長期的にロシア経済の成長に影響を及ぼす可能性がある。

(2)日露関係

ア 総論

2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵略は、日露関係にも深刻な影響を及ぼし続けている。日本は、一日も早くウクライナの公正かつ永続的な平和を実現するため、G7を始めとする国際社会と連携しつつ、厳しい対露制裁措置を実施するなどの取組を進めてきている。同時に、日露が隣国として解決しなければならない懸案事項が山積しており、何が日本の国益に資するかという観点から適切に対応してきている。今後も引き続き、ロシア側と適切に意思疎通をしていく必要がある。

漁業分野では、日本政府は、ロシアによるウクライナ侵略以降も、日本の漁業活動に係る権益の維持・確保のためロシアとの協議を行ってきており、2025年も、日ソ地先沖合漁業協定や日ソ漁業協力協定(さけ・ます協定)に基づく操業が行われたほか、民間取決めである貝殻島昆布協定に基づく操業も行われた。一方、北方四島周辺水域操業枠組協定(5)については、日本側からの度重なる働きかけにもかかわらず、ロシア側が同協定に基づく政府間協議の実施に応じておらず、同協定の下での操業の再開には至っていない。

安全保障に係る問題では、2024年9月にロシア軍機が北海道礼文(れぶん)島北方の日本の領海の上空において3度にわたり領空侵犯したことを受け、日本政府は、ロシア政府に極めて厳重に抗議を行うとともに、原因究明と再発防止を求めてきている。また、中露両国の軍が日本周辺で共同行動を継続していることに対して、ロシア政府に重大な懸念を伝達してきている。

文化・人的交流の分野では、ロシアの市民社会、特に若い世代との接点を維持し、ロシアの市民に国際的な視点を持つ機会を提供することは重要であるとの考えから、日本政府は、国費留学生の受入れやロシアにおける日本語教育など、適切な範囲で事業を実施している。

日本センターは、設立から30年以上が経過し、ロシア国内や日露関係を取り巻く状況にも大きな変化が見られる中で、総合的な判断として、その歴史的な役割を十分に果たしたとの考えから、2025年8月、日本政府は事業の終了及び閉鎖を決定した。なお、閉鎖の決定を行うに際しては、同年1月のロシア政府による日本センターに係る日露政府間覚書の適用終了に関する一方的な決定も重要な考慮要素となった。

イ 北方領土問題と平和条約締結交渉

日露関係にとって最大の懸案は北方領土問題である。北方領土は日本が主権を有する島々であり、日本固有の領土であるが、現在ロシアに不法占拠されている。北方領土問題は戦後80年を経過した今も未解決のままとなっており、日本政府として、北方四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結するとの方針の下、これまで粘り強く交渉を進めてきた(6)。

しかしながら、2022年3月、ロシア政府は、ロシアによるウクライナ侵略に関連して日本が行った措置を踏まえ、平和条約交渉を継続しない、自由訪問及び四島交流を中止する、北方四島における共同経済活動に関する対話から離脱するなどの措置を発表した。また、同年9月、ロシア政府は、自由訪問及び四島交流に係る合意の効力を停止するとの政府令を発表した。

現下の事態は全てロシアによるウクライナ侵略に起因して発生しているものであり、それにもかかわらず日本側に責任を転嫁しようとするロシア側の対応は極めて不当であり、断じて受け入れられず、政府として、ロシア側に強く抗議してきている。

ロシアによるウクライナ侵略によって日露関係は厳しい状況にあるが、引き続き、北方四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結することが日本政府の方針である。

また、四島交流等事業(7)については、新型コロナウイルス感染症の影響やロシアによるウクライナ侵略を受けた日露関係の悪化により、2020年以降実施できていない。四島交流等事業の再開は、日露関係における最優先事項の一つである。御高齢となられた元島民の皆様の切実な思いを踏まえれば、北方墓参の再開はすぐれて人道的な問題であり、政府としては、今後も引き続き、ロシア側に対して、様々な機会を捉えて、北方墓参の再開を粘り強く求めていく。

北方四島及びその周辺海域でのロシアの軍事演習を含む軍備強化に向けた動きについては、これら諸島に関する日本の立場に反するものであり、受け入れられないとしてロシア側に抗議している。

ウ 日露経済関係

日本は、ロシアによるウクライナ侵略以降、ロシアとの経済分野における協力に関する政府事業については当面見合わせ、ロシアに対して厳しい対露制裁を課すとの方針をとっている。

こうした中、日露間の貿易は、侵略開始前と比べ大幅に縮小した。2025年1月から12月の日露間の貿易は約1兆1,951億円で、侵略開始前の2021年同期比で50.5%の減少となった(同期間の日露間の貿易額は、約2兆4,139億円)。このうち、ロシアから日本への輸入額は2021年同期比で46.6%減少し(特に石炭)、また、日本からロシアへの輸出額も2021年同期比で57.5%減少した(出典は全て財務省貿易統計)。

対露制裁に関しては、日本は、国際秩序の根幹を揺るがす暴挙には高い代償が伴うことを示すため、G7を始めとする国際社会と連携し、ロシアの政府関係者・軍関係者を含むロシア及び被占領地の個人・団体などに対する制裁、銀行の資産凍結などの金融分野での制裁、輸出入等禁止措置などの厳しい対露制裁を維持・強化してきている。また、日本を含むG7などの同志国は、ロシアのエネルギー収入を減少させつつ、国際的な石油価格の安定化を図ることを目的に、2022年12月からロシア産原油、2023年2月からはロシア産石油製品に係るプライス・キャップ制度を導入している。さらに、2023年12月からは、制裁の実効性を確保することが重要であるとの観点から、日本政府は、制裁の迂回・回避への関与が疑われる第三国の団体に対する制裁措置も導入してきている。

2025年においても、日本は対露制裁を継続するとの基本方針を維持し、1月及び9月に追加制裁を導入した。これらの措置には、制裁の迂回・回避への関与が疑われる第三国の団体や、ロシアのウクライナ侵略を支えるための露朝協力に関与した個人・団体などに対する追加制裁措置が含まれる。9月には、日本は同志国と足並みをそろえる形で、ロシア産原油に係るプライス・キャップ制度の上限価格の引下げを実施した。

エネルギー分野については、日本政府は、石炭・石油を含め、ロシアのエネルギーへの依存状態から段階的に脱却する方針であり、国民生活や事業活動への悪影響を最小化する方法でそのステップをとっていくこととしている。ただし、ロシアにおける石油・天然ガス開発事業「サハリン1」、「サハリン2」については、中長期的な安定供給を確保する観点から、日本のエネルギー安全保障上重要なプロジェクトであり、権益を維持する方針をとっている。

(3)ベラルーシ情勢

ベラルーシは、ロシアによるウクライナ侵略において参戦はしていないが、侵略当初に自国領域の使用を通じてロシアの軍事行動を支援したことを受け、欧米諸国は対ベラルーシ制裁を強化し、日本も制裁を導入している。

内政では、1月の大統領選挙でルカシェンコ大統領が7選目を果たした。選挙では反政権の候補者は立候補を認められず、欧州安全保障協力機構(OSCE)選挙監視団の派遣も実現せず、欧州諸国は民主的な手続の欠如などの問題点を指摘した。

外交では、ルカシェンコ大統領は、プーチン大統領と頻繁に会談し、ロシアとの緊密な関係を維持している。9月にロシアとの共同軍事演習「ザーパド2025」を実施、ロシアの戦術核兵器及び新型中距離弾道ミサイル「オレシュニク」の運用訓練を行ったと公表するなど、西側諸国を牽(けん)制する動きを見せている。

また、ルカシェンコ大統領による2025年の2回の中国訪問、崔善姫(チェソンヒ)北朝鮮外相のベラルーシ訪問など、ロシアと近い国や地域との関係を強化する動きも見られた。その一方、8月、ルカシェンコ大統領はトランプ米国大統領と初めて電話会談を実施した。米国との交渉等の結果、ベラルーシ政府による日本人を含む多くの外国人拘束者の解放が複数回実現し、米国が制裁を一部解除するなど、米国との関係に変化も見られた。

2021年に始まった中東・アフリカ諸国からの非正規移民によるベラルーシから周辺国への不法越境の試みは、規模は縮小したものの継続している。またベラルーシ側からの気球の飛来により複数回の空港閉鎖を余儀なくされたことを受け、リトアニアが10月にベラルーシとの国境を一時封鎖する事案もあった。

ロシア、中央アジア、コーカサスに関する主要な枠組み
ロシア、中央アジア、コーカサスに関する主要な枠組み

(1) 一定の価格を超えるロシア産原油等の海上輸送等に関連するサービスを禁止し、一定の価格以下のロシア産原油等の海上輸送等に関連するサービスは禁止の対象外とする措置

(2) 「影の船団」(Shadow Fleet)とは、制裁、安全・環境規制、保険費用の回避、その他の違法活動を目的として違法な運航に従事する船舶を指す(2023年12月IMO決議A.1192(33)para.1)。

(3) BRICS:ブラジル、ロシア、インド、中国及び南アフリカなどの国々から構成されるグループ。2006年にブラジル、ロシア、インド、中国で初の外相会合、2009年に初の首脳会合を開催。2011年に南アフリカが参加したことで、名称が現在のBRICSになった。2024年からエジプト、エチオピア、アラブ首長国連邦、イラン、2025年にはインドネシアが加盟。また、2024年10月の首脳会合では「BRICSパートナー国」という新たなカテゴリーが創設され、2025年1月にベラルーシ、ボリビア、カザフスタン、キューバ、マレーシア、タイ、ウガンダ、ウズベキスタン及びナイジェリア、同年6月にはベトナムのパートナー国入りを公表した。

(4) SCO:Shanghai Cooperation Organization

(5) 北方四島周辺水域における日本漁船の操業等に関する協定

(6) 北方領土問題に関する日本政府の立場については外務省ホームページ参照:
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/hoppo/hoppo.html

外務省ホームページQRコード

(7) 北方墓参、自由訪問、四島交流訪問・受入れ(患者受入れ、専門家交流含む。)を指す。

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