外交青書・白書
第3章 国益と世界全体の利益を増進する外交

3 国際会議における議論の主導

(1)G7

2月に発生したロシアによるウクライナ侵略により国際秩序の根幹が脅かされる中、2022年は、基本的価値や原則を共有するG7における政策協調がこれまで以上に緊密に行われた。

6月26日から28日まで開催されたG7エルマウ・サミットでは、議長のショルツ・ドイツ首相が掲げた「公正な世界に向けた前進」という全体テーマの下、ロシアによるウクライナ侵略への対応に加え、物価対策を含む世界経済、インド太平洋などの地域情勢、気候変動、食料安全保障といった課題について、G7首脳間で率直な議論が行われた。例年どおり会議の一部に招待国・機関が参加したほか、ウクライナ情勢に関するセッションにはゼレンスキー・ウクライナ大統領がオンラインで参加した。

G7エルマウ・サミット(6月28日、ドイツ・エルマウ 写真提供:内閣広報室)
G7エルマウ・サミット
(6月28日、ドイツ・エルマウ 写真提供:内閣広報室)

岸田総理大臣からは、ウクライナ情勢について、価値と原則を共有するG7として、引き続き国際社会の取組を主導していくことを呼びかけた。また、世界経済については、G7は各国の国民生活を物価高騰から守るための結束も強化していくべきであると述べた。地域情勢については、G7として、包摂的で法の支配に基づく「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を維持することの重要性を改めて表明した。岸田総理大臣からは、中国による尖(せん)閣諸島周辺の日本領海への侵入が継続していることを説明したほか、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調した。さらに、岸田総理大臣は、ロシアによる核兵器使用の威嚇や、北朝鮮の核・ミサイル開発の進展は、国際社会に核の脅威を改めて示しており、核兵器不拡散条約(NPT)の維持・強化の重要性が一層高まっていると述べ、「核兵器のない世界」を目指す上では、世界の核兵器数の減少傾向を反転させてはならないことを指摘した。気候・エネルギーについては、カーボンニュートラルの実現とエネルギー安全保障の強化に同時に取り組むことが肝要であると述べた。食料安全保障については、問題の根本的原因であるロシアによるウクライナ侵略を終わらせること及び現実に食料危機に直面している国々への具体的な支援を通じて連帯を示すことの重要性を強調した。

会議の締めくくりに当たり、岸田総理大臣は、次期G7議長国として、2023年5月に広島でサミットを開催することを表明した。岸田総理大臣は、世界が、ウクライナ侵略、大量破壊兵器の使用リスクの高まりという未曽有の危機に直面している中、2023年のG7サミットでは、武力侵略も核兵器による脅しも国際秩序の転覆の試みも断固として拒否するというG7の意思を、歴史に残る重みを持って示したいと述べた。

議論の結果、G7首脳は、ロシアによるウクライナ侵略に対し、G7が結束して国際社会の秩序を守り抜くことを確認し、議論の総括として、G7首脳コミュニケ及び五つの個別声明が発出された。

なお、2022年のG7ドイツ議長国下では、6月のエルマウ・サミットに加え、3月にはブリュッセル(ベルギー)において対面で、また2月、5月、10月、12月にはオンラインで臨時のG7首脳会議が開催され、ロシアによるウクライナ侵略へのG7としての対応などについて議論が行われた。

首脳間の会合に加え、閣僚間の会合も数多く行われ、このうちG7外務大臣会合は、2022年だけでもオンラインを含めて11回開催された。5月12日から14日までヴァイセンハウス(ドイツ)と11月3日から4日までミュンスター(ドイツ)の2度にわたり開催された独立した対面会合では、ウクライナ、中国、北朝鮮、インド太平洋、中東などについて突っ込んだ意見交換が行われた。また、5月の会合では、新型コロナやインフラ開発、気候変動についてG7としての連携を確認したほか、11月の会合の一部には、ガーナ及びケニアの外相並びにアフリカ連合(AU)副委員長も招待され、アフリカ地域情勢についても議論された。

G7貿易大臣会合については、第1回会合が3月23日にオンラインで、第2回会合が9月14日及び15日にノイハルデンベルク(ドイツ)で開催され、それぞれ、林外務大臣及び萩生田光一経済産業大臣、西村康稔経済産業大臣及び山田賢司外務副大臣が出席し、ロシアによるウクライナ侵略に関連した貿易上の対応や、WTO改革、公平な競争条件などについて率直な議論が行われた。

5月18日及び19日にはG7開発大臣会合及びG7開発大臣・保健大臣合同会合がベルリン(ドイツ)で開催され、日本からは鈴木貴子外務副大臣及び佐藤英道厚生労働副大臣が出席し、ロシアによるウクライナ侵略を受けたG7の支援の在り方や開発途上国におけるパンデミック対策の強化を含む、開発の諸課題について議論が行われた。

2023年に入ってからは、日本が議長国としてG7の取組を主導している。同年2月18日にミュンヘン(ドイツ)で開催された日本議長国下で初となる対面会合となったG7外相会合では、ウクライナ情勢を中心に議論が行われ、会合の後半にクレーバ・ウクライナ外相が参加した。G7として法の支配に基づく国際秩序を堅持するというコミットメントを強調するとともに、公正かつ永続的な平和へのウクライナのコミットメントを歓迎し、そのためにウクライナと積極的に協力していくことで一致した。ロシアによるウクライナ侵略の開始から1年となる同年2月24日には、岸田総理大臣がG7首脳テレビ会議を主催し、ロシアによるウクライナ侵略への対応などにおけるG7の揺るぎない結束を改めて確認した。

(2)G20

G20は、主要先進国・新興国が参画する国際経済協力のプレミア・フォーラムである。

11月15日及び16日に開催されたG20バリ・サミットでは、議長国インドネシアが掲げた「共に回復し、より強く回復する」のテーマの下、食料・エネルギー安全保障、国際保健など、現下の国際社会の重要課題について議論が行われた。岸田総理大臣は、ロシアによるウクライナ侵略を強く非難し、ロシアによる核の脅しは断じて受け入れられず、ましてやその使用もあってはならないことを訴えた。さらに、2023年のG7日本議長年を見据えつつ、これらの重要課題に関する日本の立場と取組を積極的に発信し、議論に貢献した。

G20バリ・サミット(11月15日、インドネシア・バリ 写真提供:内閣広報室)
G20バリ・サミット
(11月15日、インドネシア・バリ 写真提供:内閣広報室)

議論の総括として、G20バリ首脳宣言が発出され、ほとんどのG20メンバーがウクライナでの戦争を強く非難したことが記載され、G20として、核兵器の使用も、使用するとの脅しも受け入れられないとのメッセージが明確に盛り込まれた。

7月7日及び8日に行われたG20外相会合には林外務大臣が出席し、ロシアによるウクライナ侵略が継続する中、多国間主義の在り方、食料やエネルギーの問題など、現下の国際情勢における重要課題について議論が行われた。

(3)アジア太平洋経済協力(APEC)

APECは、アジア太平洋地域の21の国・地域が参加する経済協力の枠組みである。アジア太平洋地域は、世界人口の約4割、貿易量の約5割、GDPの約6割を占める「世界の成長センター」であり、APECはこの地域の貿易・投資の自由化・円滑化に向け、地域経済統合の推進、経済・技術協力などの活動を行っている。国際的なルールに則(のっと)り、貿易・投資の自由化・円滑化と連結性の強化によって繁栄するアジア太平洋地域は、日本が志向するFOIPの核である。日本がAPECに積極的に関与し、協力を推進することは、日本の経済成長や日本企業の海外展開を後押しする上で非常に大きな意義がある。

2022年はタイが議長を務め、「Open, Connect, Balance(全ての機会に開かれ、全ての次元で連結し、全ての側面で均衡をとる)」という全体テーマの下、年間を通じて様々な会合で議論が進められた。中でも、新型コロナ感染拡大後の回復及び包摂的・持続可能な経済成長のための協力、2020年首脳会議で採択されたAPECプトラジャヤビジョンで示された「開かれた、ダイナミックで、強靱(じん)かつ平和なアジア太平洋地域」の実現に向けた議論が進められた。

4年ぶりにバンコクで対面開催された11月18日及び19日の首脳会議では、首脳宣言に加え、新型コロナ感染拡大後のAPEC地域の持続可能な成長に関する取組を記した文書「バイオ・循環型・グリーン(BCG)経済に関するバンコク目標」が採択された。「BCG経済に関するバンコク目標」には、環境課題への取組、持続可能で包摂的な貿易・投資の推進、環境保全・資源マネジメントの分野で取り組むべき目標が記された。首脳宣言には、ロシアによるウクライナ侵略を受け「ほとんどのメンバーは、ウクライナにおける戦争を強く非難し、この戦争が計り知れない人的被害をもたらし、また、成長の抑制、インフレの増大、サプライチェーンの混乱、エネルギー及び食料不安の増大、金融安定性に対するリスクの上昇といった世界経済における既存の脆(ぜい)弱性を悪化させていることを強調した。」との文言が盛り込まれた。

APEC首脳会議(11月、タイ・バンコク 写真提供:内閣広報室)
APEC首脳会議(11月、タイ・バンコク 写真提供:内閣広報室)

首脳会議に出席した岸田総理大臣は、新しい資本主義の実現を目指すことで、日本経済を新たな成長軌道に乗せ、アジア太平洋の包摂的で持続可能な成長に貢献していく決意を表明した。その上で、アジア全体のゼロエミッション化を含むグリーン社会の実現、デジタル・トランスフォーメーションの推進、女性の経済活動への一層の参画といった包摂的な社会による経済成長、ルールに基づく自由で公正かつ開かれた貿易・投資の推進、不公正な貿易慣行や経済的威圧とは相容(い)れないCPTPPのハイスタンダードの維持、持続可能な発展のため「質の高いインフラ」投資や透明で公正な開発金融の推進などを訴えた。

2023年は、米国が議長を務めることとなっている。

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