3 カナダ
(1)カナダ情勢
2021年9月の連邦下院総選挙の結果、トルドー首相率いる与党自由党や最大野党の保守党を含むいずれの政党も解散前とおおむね同議席を獲得し、トルドー首相が少数政権(比較第一党)を維持した状況であったが、3月、与党自由党は新民主党(NDP)との間で2025年6月までの閣外協力協定を締結し、少数政権ながらも安定した政権基盤を確保することに成功した。一方、野党保守党では、9月、オトゥール前党首の不信任に伴う党首選が行われ、ハーパー前首相の系譜を継ぐポリエーヴ議員が決定的な勝利を収め、経済政策を中心に自由党政権を追及していく構えを見せている。
カナダ経済は、2021年10月から12月の力強いGDP成長率(6.7%)の勢いを維持しつつ、2022年も9月までの実質GDP成長率は年率プラス3%前後で推移し堅調である。11月のカナダ財務省の経済ステートメントによれば、2022年における実質GDP成長率はプラス3.2%、失業率は過去最低に近い5.4%、新型コロナ流行前よりも多い40万人の新規雇用を創出している。
一方、ウクライナ情勢に起因する世界的な原油及び食料価格の高騰やサプライチェーンの断絶による恒常的な超過需要が起こっており、2021年には1%から4%台後半で推移していた消費者物価指数(CPI)は、2022年に入り5%台から8%台にまで上昇した。この状況を踏まえて、カナダ中央銀行は7回政策金利を引上げた。引き続きインフレ動向が注目される。
外交面では、11月末、カナダ政府は同国にとって初の「インド太平洋戦略」を発表した。カナダ・米国関係、国連、NATO、G7、G20、米州機構など、カナダが従来重視していた分野に加え、カナダがインド太平洋地域への関与を強めていることを象徴する動きであった。同戦略は、同地域でのカナダ軍のプレゼンス強化などを含む安全保障、サプライチェーンの強靱化や「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)」のハイスタンダードの維持などを含む経済・貿易、人的交流、気候変動、外交強化の五つの戦略目標を掲げている。ウクライナ情勢への対応では、カナダは世界第2位のウクライナ系移民を抱え、ウクライナと緊密なつながりもあることから、対露制裁やウクライナ支援を積極的に実施した。
対外経済関係では、1月には台湾との投資協定に向けた予備協議の開始合意を、また3月には英国との包括的な二国間自由貿易協定(FTA)に向けた交渉開始合意を表明した。
(2)日・カナダ関係
2022年1月から2023年1月まで、日・カナダ間では首脳会談が4回(うち2回電話会談)、外相会談が4回実施された。

(2023年1月12日、カナダ・オタワ 写真提供:内閣広報室)
6月、G7エルマウ・サミットに出席するためドイツを訪問した岸田総理大臣はトルドー首相と会談し、両首脳はロシアによるウクライナ侵略への対応を始めとして、両国が緊密に連携してきていることを歓迎したほか、FOIPの実現に向け具体的で力強い連携を進めていくこと、またCPTPPについても緊密に連携していくことで一致した。また2023年のG7広島サミットの成功に向けて緊密に協力していくことでも一致した。
10月、林外務大臣は、外務省賓客として訪日したジョリー外相と、FOIPの実現に向け、「自由で開かれたインド太平洋に資する日加アクションプラン」を発表した。同アクションプランは、日本及びカナダが共有する優先協力6分野4における具体的な取組をまとめたもので、情報保護協定の正式交渉開始やエネルギー協力が盛り込まれている。上述のカナダの「インド太平洋戦略」でも、日本との優先6分野での協力の実施が明記され、一層の日加協力が謳(うた)われている。

2023年1月、日本の総理大臣として約4年ぶりにオタワを訪問した岸田総理大臣は、トルドー首相と会談を行った。岸田総理大臣から日本の新たな国家安全保障戦略、G7広島サミットに向けた連携について述べ全面的な支持を得たほか、「日加アクションプラン」の着実な実施を通じたFOIP実現に向けた連携を確認した。また、地域情勢、エネルギー・食料などの経済分野、CPTPPや経済安全保障分野において連携していくことで一致した。
両国間の貿易は、2020年には新型コロナの影響で減少したものの、2021年に続いて2022年も回復傾向が見られた。日・カナダ間で初の経済連携協定となるCPTPP協定の発効から4年を迎え、貿易投資関係の更なる深化が見られた。12月には第32回日・カナダ次官級経済協議(JEC)をオンライン形式にて開催し、CPTPPやWTOを含む最近の国際経済情勢やFOIPの実現を含む日加協力に関する意見交換に加えて、エネルギー、インフラなど六つの優先協力分野5につき議論を行った。
「国民の皆さん、沖縄は、本日祖国に復帰いたしました。」─1972年5月15日、沖縄復帰記念式典の壇上に立った佐藤栄作総理大臣は日本武道館に集まった人々を前に、沖縄の本土復帰を宣言しました。先の大戦において熾(し)烈な地上戦の舞台となった沖縄は、連合国による日本の占領が終了してもなお、戦後27年間にもわたり米国の施政下に置かれました。沖縄の本土復帰は、このような苦難の歴史を乗り越え、沖縄の人々のひたむきな努力と日米両国の友好と信頼に基づき、沖縄県民そして国民全体の悲願として成し遂げられました。
沖縄復帰50周年に当たる2022年は、政府を始め様々な団体が記念事業を行ったほか、国会においても本土復帰50周年に関する決議案が採択されるなど、沖縄のこれまでの歩みや現状、将来の可能性について、多くの人が改めて考える1年になりました。
本土復帰からちょうど50年の節目となった5月15日、沖縄復帰50周年記念式典が挙行されました。沖縄・東京の2会場での式典の同時開催は50年前と変わらないものの、新型コロナウイルス感染症の影響もあり、両会場がオンラインでつながれ、天皇皇后両陛下にもオンラインで御臨席を賜るという令和の時代を反映する形での開催となりました。また、式典にはバイデン米国大統領から、「日米関係は戦場での敵同士から共通の目的で結ばれた同盟国へと変貌を遂げ、今では最も緊密な同盟国となりました。沖縄の返還は、日米関係の1ページが終わりを告げ、新たな関係が始まったことを意味しました。」との、沖縄返還を礎に築き上げられた現在の強固な日米関係を賞賛するメッセージが寄せられました。
岸田総理大臣がこの沖縄復帰50周年記念式典における祝辞において、「沖縄の歩んだ歴史に改めて思いを致し、沖縄県民のひたむきな努力に深甚なる敬意を表したいと思います。」と述べたように、これまでの沖縄の発展は、沖縄県民のたゆまぬ努力の賜(たまもの)であることはいうまでもありません。加えて、沖縄は、東アジアの中心に位置する地理的特性と、豊かな自然環境や温暖な風土に恵まれて、国際色豊かな独自の文化が花開き、これまで発展してきた地域です。琉球王国の時代から続く歴史の中で育まれてきた文化や伝統は、世界中の観光客を虜(とりこ)にしてやまず、沖縄は今後も国際的な交流拠点として発展し続ける大きな可能性を秘めています。

(5月15日、沖縄 写真提供:内閣広報室)
外務省は、沖縄の国際化に貢献するため、様々な取組を行っています。沖縄の特産品の海外展開については、内閣府、内閣官房、国税庁、農林水産省、日本貿易振興機構(JETRO)などと共に実施している「琉球泡盛海外輸出プロジェクト」の中で、在外公館を通じて泡盛の魅力を海外に発信しています。また、沖縄の高校生・大学生を米国に派遣する「アメリカで沖縄の未来を考える」(TOFU:Think of Okinawa's Future in the U.S.)プログラムを実施してきています。このプログラムは、国際社会でも活躍する、沖縄の未来を担う人材育成を目的とし、日米関係の更なる発展につなげたいとの願いが込められています。さらに、2022年には、「日米交流の促進・相互理解の増進のためのプロジェクト」を沖縄県で初めて実施しました。これは、在日米軍施設・区域が所在する地域において、地元の日本人の中高生と在日米軍関係者の子女である米国人の中高生が、文化・教育交流を通じて相互理解を深める機会を提供するものです(189ページ コラム参照)。米国としても、沖縄復帰50周年記念式典でエマニュエル駐日米国大使が発表したように、沖縄の高校生を対象とした英語学習奨学金プログラムを設立するなど、沖縄と米国との絆(きずな)の強化に努めています。このような沖縄と米国との人的交流の促進を通じた人材育成は、沖縄を含む日本と米国との間の絆を一層揺るぎないものにするものと期待されます。
4 優先協力6分野:(1)法の支配、(2)平和維持活動、平和構築及び人道支援・災害救援、(3)健康安全保障及び新型コロナ感染症への対応、(4)エネルギー安全保障、(5)自由貿易の促進及び貿易協定の実施、(6)環境及び気候変動
5 優先協力分野:(1)エネルギー、(2)インフラ、(3)科学技術協力とイノベーション、(4)観光・青年交流、(5)ビジネス環境の改善・投資促進、(6)農業など