2 領事サービスと日本人の生活・活動支援
(1)領事サービスの向上
外務省は、在外公館が提供する領事サービスや窓口対応などについてのアンケート調査を毎年実施し、海外に在住する日本人の声を領事サービスの向上・改善に反映させている。在外公館が提供する領事サービス及び窓口対応などについてのアンケート調査を毎年実施している。2014年には150在外公館を対象に調査を行い、約2万人からの回答を得た。その結果、領事窓口対応などについては、概ね高い満足感が示された一方で、少数ながら否定的な回答も見受けられた。また、領事サービスの一環として行っている「領事出張サービス」などが、必ずしも利用者に便利と認識されていないとの回答もあった。外務省としては、引き続き利用者の声に耳を傾け、より一層利用者の視点に立った領事サービスとすべく、今後とも改善に努めていく考えである。

(2)旅券(パスポート)の発給と不正取得等の防止
2014年、日本国内では1年間に約321万冊の一般旅券が発行された。IC旅券(3)は、2014年12月末時点では、約2,903万冊が有効であり、全ての有効な日本旅券の約94%を占めている。

IC旅券の発行により偽変造など旅券の不正使用が困難となる中、他人になりすますなどの方法によって旅券を不正取得する事案(4)が引き続き発生している。日本人又は不法滞在外国人が不正取得した他人名義旅券を使って出入国する例が見られるほか、名義人の知らないところで金融機関に借金をしたり、他の犯罪をたくらむ者に売り渡す目的で銀行口座が開設されたり、携帯電話が契約されるなどの事例が報告されている。こうした二次・三次の犯罪を助長するおそれのある旅券の不正取得を未然に防止するため、各都道府県にある旅券窓口において、なりすましによる不正取得防止のための審査強化期間を設けるなど、旅券の発給時における本人確認審査の強化に一層の力を入れている。
また、旅券の名義人の氏名等に変更が生じた場合に、記載事項を訂正する従来の方式では、海外において訂正後の旅券情報が真正な身分事項とみなされない場合がある。これを踏まえ、2014年3月20日以降、記載事項の訂正を廃止し、新たに記載事項変更旅券の発給を開始した。
一方、諸外国では、国際民間航空機関(ICAO)の勧告に従い、世界中の殆どの国で機械読取式旅券(MRP)が発給されている。顔画像以外に指紋などの生体情報を追加するなど、セキュリティを向上させたIC旅券の普及が進む中、ICAO及び国際標準化機構(ISO)において、ICチップ機能のより効果的な利用が検討されている。
2006年以降、都道府県から市町村への申請の受理や交付などの旅券事務の再委託が可能となったが、2014年12月末現在、その数は、約750市町村に達している。これにより、全国の約4割の市町村で旅券事務を行っていることとなる。
(3)在外選挙
在外選挙制度は、海外に在住する有権者が国政選挙で投票するための制度である。2007年6月以降の選挙においては、衆議院と参議院それぞれの比例代表選挙に加え、衆議院小選挙区選挙及び参議院選挙区選挙(これらの補欠選挙及び再選挙を含む。)も対象となっている。2014年12月には、第47回衆議院議員総選挙が実施された。なお、憲法改正に関する国民投票についても在外選挙同様に投票できることになっている。
在外選挙制度により投票するためには、事前に市区町村選挙管理委員会が管理する在外選挙人名簿への登録を申請し、在外選挙人証を入手する必要がある。有効な在外選挙人証を持っていれば、在外公館投票、郵便投票又は日本国内における投票のいずれかを選択して投票することができる。在外公館では、管轄地域での在外選挙制度の広報や遠隔地での領事出張サービスなどを通じて、制度の普及と登録者数の増加に努めている。

(4)海外での日本人の生活・活動に対する支援
ア 日本人学校、補習授業校
海外で生活する日本人にとって、子女教育は大きな関心事項の1つである。外務省では、海外でも義務教育相当年齢の子女が日本と同程度の教育を受けられるよう、文部科学省と連携して日本人学校への支援(校舎借料、現地採用教員謝金、安全対策費などへの一部援助)を行っている。また、主に日本人学校が存在しない地域に設置されている補習授業校(国語などの学力維持のために設置されている教育施設)に対しても、支援(校舎借料や現地採用講師謝金などへの一部援助)を行っている。近年、海外在住の日本人の子女の数は増加傾向にあり、今後もこうした支援を継続・強化していく考えである。
イ 医療・保健対策
外務省は、医療事情の悪い国に滞在する日本人に対する健康相談を実施するため、国内医療機関の協力を得て巡回医師団を派遣(2014年度は5か国13都市)している。また、大気汚染が深刻となっている地域に専門医を派遣し、講演相談会を実施(2014年度には5か国13都市)している。
さらに、海外で流行している感染症などの情報を収集し、海外安全ホームページや在外公館ホームページなどを通じ、広く提供している。
ウ その他のニーズ
外務省は、海外に在住する日本人の滞在国での各種手続(運転免許証の切替、滞在・労働許可など)の煩雑さを解消し、より円滑に生活できるようにするため、滞在国の当局に対する働きかけを継続している。
運転免許証の切替については、日本は全ての外国運転免許証を持つ人に対し、日本の運転免許への切替に当たり、自動車等を運転することに支障がないことを確認した上で、日本の運転免許試験の一部(学科・技能)を免除している。
一方、例えば北米・南米諸国では運転免許証切替の際に取得試験を課している国もある。そのような国に対しては、運転免許切替に関して日本と同様に手続が簡素化されるよう働きかけている。
また、日本国外に居住する原子爆弾被害者が在外公館を経由して原爆症認定及び健康診断受診者証の交付を申請する際、手続の支援も行っている。
3 IC旅券は、旅券の偽変造や第三者による不正使用を防止するため、生体情報である顔画像を電磁的に記録したICチップを搭載した旅券。2006年から発行
4 2010年86冊、2011年43冊、2012年26冊、2013年13冊、2014年12冊の不正取得事案を把握