日本国政府は,国際原子力機関(IAEA)との共催により,2012年12月15日から17日までの日程で,福島県において,原子力安全に関する福島閣僚会議を開催している。この会議は,2011年6月の原子力安全に関するIAEA閣僚会議に続くものである。同会議は,2011年9月のIAEA総会による原子力安全に関するIAEA行動計画(行動計画)の全会一致による採択へとつながった。
この会議は,原子力安全の国際的な強化に貢献することを主な目的としている。この会議は,東京電力福島第一原子力発電所事故(福島第一事故)から得られた更なる知見及び教訓を閣僚及び専門家レベルで国際社会と共有し,更に透明性を高め,原子力安全の強化(行動計画の実施並びに人及び環境の電離放射線からの防護のための措置の実施による強化を含む。)を目的とした国際的な取組の進展について議論する新たな機会を提供することとなる。
この会議には,IAEA加盟国及び関連国際機関が参加しており,IAEA加盟国の多数が閣僚レベルで出席している。玄葉光一郎日本国外務大臣がこの会議を開会し,主催者演説を行い,続いて天野之弥IAEA事務局長がステートメントを行った。
この会議においては,東日本大震災(大規模な地震,津波及び福島第一事故)の被害を受けた日本国及び日本国民に対する国際的な連帯が改めて表明された。日本国政府は,この連帯に対して深い謝意を表した。事故以来のIAEAの役割及び活動並びにIAEAによる日本国との,特に福島県との継続的な協力が賞賛された。福島県を訪問し,福島の現状及び福島の人々の生活について知る貴重な機会が得られたことに対し,参加者から謝意が表された。
共同議長は,この会議の第一日目の終了時に,本会合における代表団の発言を考慮し,また,その内容及び趣旨を反映して,以下の声明を発出することを決定した。
[福島第一事故及び日本の対応]
- 東日本大震災(大規模な地震,津波及び福島第一事故)からの復旧及び復興のための福島県民及び福島県の多大な努力が大いに賞賛された。
- 福島第一事故の対応に関し日本国政府が報告した具体的な進展(原子力発電所の現在の安定的状態の達成及び事故サイトにおける事故時からの放射線量の大幅な低減を含む。)が歓迎された。
- オフサイトの除染及び廃棄物管理に関する進展(法的及び政策上の枠組みの策定並びにこの目的のための政府及び地方自治体における制度上の仕組みの強化を含む。)が認識された。
- 福島第一事故に関する客観的な情報及び福島第一事故からの教訓の継続的な共有及び周知は,透明性の更なる向上にも資するものであり,その重要性が強調された。この点に関し,
- 1) 事故の状況及び事故後の復旧努力について日本国並びにIAEAの国際的な事実調査ミッション及びピア・レビュー・ミッションが国際的に公表した報告書が,評価をもって留意された。日本国は,東京電力福島第一原発の廃炉の進展,オンサイト及びオフサイトの除染並びに廃棄物管理に関し,国際的な事実調査ミッション及びピア・レビュー・ミッションを受け入れ,福島第一原発の原子炉に係るデータ取得のための国際的な取組を主導すること等により,継続的に情報を共有するよう奨励された。これらの活動から得られる教訓は,その周知及び国際社会との関連する協力を通じて,世界における将来の廃炉及び除染の活動に係る安全及び実効性の強化に貢献することが期待される。
- 2) 2012年9月の原子力規制委員会の設立及び統合規制評価サービス(IRRS)ミッションの受入れに関する日本国の意図が歓迎された。
- これまでに開催された3度の国際専門家会合のテーマに関するIAEA事務局長による報告書が歓迎され,また,第56回IAEA総会において同事務局長から表明されたとおり,IAEAが2014年に福島第一事故に関する包括的な報告書を発出することへの期待が表明された。
[原子力安全の国際的な強化]
- 原子力安全が原子力の平和的利用の前提であること,原子力安全の強化は継続的なプロセスであること及び安全において自己満足はあってはならないことが強調された。
- 原子力安全を国際的に強化するため,国際協力を推進し,強化された国際的な努力を調整し,専門知識及び助言を提供し,可能な限り広範にかつ効果的に実施されるべきIAEA安全基準を策定し,並びに原子力安全文化を国際的に推進する上でのIAEAの中心的な役割を強化することの重要性が強調された。
- 2011年6月にウィーンで開催された原子力安全に関するIAEA閣僚会議において全会一致で採択された宣言及び2011年9月のIAEA理事会において全会一致で承認され,第55回IAEA総会において確認された行動計画の重要性が強調された。
- 行動計画の実施における進展が歓迎された。IAEA加盟国の効果的かつ積極的な協力及び参加(加盟国の計画,措置及びイニシアティブによるものを含む。)並びに他の関係者の関与を通じて行動計画を完全に実施するための努力を強化することの重要性が強調された。
- 効果的な独立性並びに適切な人的及び財政的資源を有する,権限ある国の規制当局を設立し及び維持することが極めて重要であることが強調された。この関連で,IAEA加盟国がそれぞれの規制当局を強化するためにとった措置が歓迎された。
- サイトに特有の極限の自然災害に対する原子力発電所の設計の国内評価並びにこれらの自然災害からの防護を強化する上で必要な是正措置(発電所の設計,手続及び手順の改善を含む。)を実施するために既にとられ又は実施中の措置が歓迎された。
- 過酷事故の予防及び緩和に関する措置の重要性が強調された。また,原子力発電所は,事故を予防し,並びに万一事故が発生した場合には事故の影響を緩和し及び特にオフサイトの汚染を回避することを目的として,設計され,建設され,運転されるべきであることが強調された。
- IAEA加盟国による国際的なピア・レビュー(特に,IRRS,運転安全レビューチーム,緊急時対応レビュー及びそれらのフォローアップのためのレビューなどのIAEAのピア・レビューを含む。)の活用の増加が歓迎された。IAEAのピア・レビュー(フォローアップのためのレビューを含む。)を自主的に,また,定期的に受け入れることを加盟国に強く奨励している行動計画に言及しつつ,加盟国は,その受入れに当たり,全ての主要な安全分野を包含する系統だったアプローチを用い,レビューの勧告を実施し,及びレビューの結果の時宜を得た公表に同意することが強く奨励されるとの見解が表明された。
- IAEA加盟国により可能な限り広範かつ効果的に実施されるべきIAEA安全基準を推進することの重要性が強調された。IAEA安全基準の見直しに関し,これまで行われた活動及び将来行われる活動が歓迎された。また,安全基準委員会及びIAEA事務局は,関連するIAEA安全基準の見直し及び必要に応じた改訂において一層の進展をもたらすよう奨励された。
- 緊急事態に係る準備及び対応の制度及び能力を事業者/免許取得者,地方,国,地域及び国際的なレベルで強化すること並びにこの点に関し協力することの重要性が強調された。この文脈で,原子力事故又は放射線緊急事態の場合における援助に関する条約の実施のための運用上の手段である緊急時対応援助ネットワーク(RANET)の強化に向けたIAEA事務局の努力(計画中の機能分野の拡大及び資機材リストの改善を含む。)が歓迎された。RANET未参加のIAEA加盟国に対しRANETへの参加及び能力の登録を奨励すること並びに国際的な緊急事態に係る準備及び対応の枠組みを支援する上でのIAEAの役割及び能力を強化することへの見解が表明された。
- 原子力又は放射線による緊急事態に際して,科学的で客観的な情報に基づいて適切かつ時宜を得た対応が行われるためには,公衆とのコミュニケーションの透明性及び実効性の強化並びに更なる発展及び強化が重要であることが強調された。事実に基づく正確かつ客観的な情報を透明性があり,容易に理解し得る方法で継続的に周知することも,個人,地方,国及び国際的な主体が情報及び科学に基づいた行動をとるために重要である。
- 原子力安全に関する国際的な文書,特に原子力安全条約の広範な遵守並びにそれらの実施の強化及び必要に応じた改正によってそれらの文書を強化することの重要性が強調された。この文脈で,第2回原子力安全条約締約国特別会合の結果(「原子力安全の強化に向けた行動志向の目的」文書並びにピア・レビュー・プロセスを強化するための行動の一覧表及び必要に応じて原子力安全条約を改正するための提案に関して次回の検討会合に報告を行う任務を有する「効率性及び透明性」作業部会の設置を含む。)が考慮された。それらの着実な実施が,国際的な原子力安全の推進にとって必要であることが強調された。
- 原子力損害賠償責任に関する一つの国際的な制度の構築に向けて,行動計画の枠組みにおいて国際原子力損害賠償専門家グループ(INLEX)が行っている作業が評価された。
- 原子力発電の導入を計画するIAEA加盟国の基盤及び人的資源の開発に対する支援(IAEA安全基準に基づく最高水準の安全を確立するための努力に対するものを含む。)の重要性が強調された。そのようなIAEA加盟国による原子力基盤統合レビュー(INIR)及び立地評価レビュー・サービス(SEED)等のIAEAピア・レビューの受入れが歓迎され,また,これらのレビューの広範な活用が奨励された。
- IAEA加盟国及び他の関連する関係者による,原子力安全及び関連分野(廃炉,除染並びに人及び環境の電離放射線からの防護を含む。)における研究開発及び教育訓練の重要性が強調された。
- 原子力事故による放射線放出の環境及び人への影響に関する評価のための国際的な協力の重要性が強調された。この点に関し,福島第一事故に係る予備的な放射線影響評価及び予備的な健康リスク評価に関する報告書を発出するための世界保健機関(WHO)の作業が評価をもって留意された。また,原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)による,福島第一事故に起因する可能性がある被ばく及び放射線のリスクの程度の評価に関して現在行われている作業への評価が表明された。
- 食料,飼料及び飲料水に含まれる放射性物質に係る一般的な基準の見直しに関してIAEA事務局がWHO及び国連食糧農業機関(FAO)(コーデックス委員会を含む。)並びに他の関連の国際機関と協力して行っている作業が,評価をもって留意された。この作業は,原子力又は放射線による緊急事態後のこれらの品目の汚染レベルに関する既存の手引書を明確にし,調和させ,また,適当な場合には改訂するための方法を特定するものであり,この作業に対する支持が表明された。
- 原子力安全の分野における規制当局,発電事業者及び技術支援機関の関連ネットワークとIAEAとの間の緊密な協力(IAEA安全基準の実施における協力を含む。)が奨励された。この点に関する進展,特に,IAEAと世界原子力発電事業者協会(WANO)との間の了解覚書の署名が歓迎された。事業者組織は,原子力安全に関する措置を実施し,原子力安全を強化するための国際的な努力を完全に支持し,積極的に貢献することを奨励された。