平成19年4月
(英文はこちら)
(1)武器貿易条約は、実効性のある条約とする必要がある。武器貿易条約の検討に当たっては、通常兵器の移譲に関する現状を十分に把握する必要がある。武器貿易条約においては、各国の正当な防衛上の必要性に基づく武器の貿易に影響を与えることなく、非合法的な武器貿易を排除するために、条約の対象(スコープ)、移譲に関する国際基準及びそれを担保する措置が体系的に規定されるべきである。
(2)武器貿易条約の実効性を確保するためには、武器の輸出国のみならず輸入国を含む多数の国により条約が締結される必要がある。また、武器貿易条約においては、製造国の輸出に関する第一義的責任のみならず、輸入国の責任についても、武器の移譲に際しての手続に関する責任、移譲された武器を管理する責任、再輸出に関する責任(これは輸出に関する責任と重複する。)等についても明確に規定されるべきである。
(3)今後開発される武器にも対応し、条約の実効性を将来にわたり確保するため、締約国で構成される委員会等の設置を規定し、定期的に同委員会等において条約の運用や、必要に応じ条約の対象となる武器の定義やリストの見直しを行うことが有益である。2008年の政府専門家会合(GGE)において、かかる委員会等の設置につき検討されるべきである。
(1)武器貿易条約の実現可能性を考慮する際、1992年に設置され、その後参加国を拡大してきている国連軍備登録制度が参考となる。「SIPRI(注:ストックホルム国際平和研究所)年鑑2005の統計を使った場合、2000年から2004年までの5年間の武器輸出統計は約844億9千万ドルとなるが、この中、トップ30か国の輸出合計は836億28百万ドル、合計の99%となる。このトップ30か国の中、28か国は登録制度の常連国である。・・・したがって理論的には、世界の武器輸出の97%が(国連軍備)登録制度により明らかになったことになる。」(2006年2月28日、NYにて行われた国連軍備登録制度政府専門家会合第一回会合において行われた堂之脇・日本政府顧問によるプレゼンテーション「国連軍備登録制度:そのレビュープロセスとこれまでの実績」からの抜粋。)
(2)すなわち、国連軍備登録制度に参加しているSIPRI年鑑上位28か国が武器貿易条約を締結すれば、相当程度の武器貿易をカバーできることとなる。国連軍備登録制度は信頼醸成措置であり参加が任意であること、同制度の下での報告は主として攻撃用大型武器の取引量であることなど、同制度と武器貿易条約には相違点もある。しかし、国連武器登録制度への参加国が、武器貿易の透明性及び管理の確保に関心を示し、自発的な行動をとってきていることは、実効性のある武器貿易条約の実現可能性が決して低くはないことを示している。同制度及びその成功を支えてきた各国専門家の知見は、武器貿易条約を検討していく上で参考となる。
武器貿易条約の対象となる「武器」の範囲(スコープ)は、条約の実効性に関わる重要な論点である。
(1)我が国は、武器貿易条約のスコープとして通常兵器全般(国連軍備登録制度でカテゴリー化されている通常兵器及び小型武器を含む)が含まれるべきと考える。
さらに、以下の通常兵器に関連するものについても、範囲に含めることについて検討していくべきである。
(a)武器専用の「部分品」又は「附属品」。
(b)武器専用の製造関連設備。
(c)武器の製造等に係る専用の技術。
(2)毎年50万人の生命が小型武器により失われている(2002年の小型武器に関する国連事務総長の安保理への報告)ことを考慮すれば、武器貿易条約の対象兵器に小型武器を含めるべきことは当然である。小型武器を対象としなければ、武器貿易条約はその目的を達成できない。
(3)汎用品については、武器貿易条約の対象に含むかどうかについて、慎重な検討が必要である。汎用品は、近代武器の技術革新において重要な位置を占める一方、武器以外の通常の取引並びに輸入国の工業技術基盤の成長及び技術力の向上とも密接に関係するためである。
(4)武器貿易条約の対象については、明確な定義又は詳細なリストを作成するべきである。仮にあいまいな定義しかおかれない場合には、運用上の混乱により関連業界に支障を与え、結果として条約の実効性が失われることとなる。
(5)なお、各々の武器の特性や技術的な理由から、個別の武器について管理及び規制の在り方が異なること及び輸出、輸入又は移譲ごとにそのスコープを含めた規制の在り方について異なることはあり得ると考える。
(1)NGOによる武器貿易条約の構成要素の試案は、過去数年間の議論を経て作成されたものであり、武器貿易条約の構成の検討に当たって良い出発点を提供すると考える。NGOによる試案では、国家が責任ある移譲を行うための原則として、以下を列挙している(抜粋)。
(イ)すべての国際的な武器(含む弾薬。以下同じ)の移譲がライセンスの発行によって認可されること。
(ロ)安保理決議を含む国連憲章、条約及び普遍的に認められた国際人道法上の義務に反する武器(無用の苦痛等を与える武器、戦闘員と文民とを区別することができない武器)の移譲を認可しないこと。
(ハ)国連憲章・慣習法違反、人権法の重大な侵害、国際人道法の重大な違反、ジェノサイド又は人道に対する罪等のために武器が使用される場合又はそのおそれがある場合には、当該武器の移譲を認可しないこと。
(ニ)国家は武器の移譲を許可する前に、受領国の不拡散・武器管理・軍縮における透明性、責任遵守等、過去の記録、武器使用の蓋然性等、他の要素を考慮する。
テロ攻撃又は暴力組織犯罪に使用される、若しくは地域の安全保障や安定又は持続可能な開発に悪影響を与えるおそれ、腐敗行為への関与のおそれ、不拡散・武器管理・軍縮につき国家が加わる他の国際・地域・サブ地域のコミット及び決議に反するおそれがある場合には、武器の移譲を認可しないこと。
(ホ)国際登録機関を設置し、各締約国が国際的な武器移譲に関する年次報告を提出するとともに、同機関が年次報告等を発行すること。
(ヘ)輸出入、ブローカー行為、武器生産能力の移転、中継・積替え等を管理するメカニズムについて共通基準を設け、条約の原則の実施をモニターすること。
(2)上記(1)(イ)~(ニ)は、移譲を行う際の判断基準である。これらの基準を考慮する際には、各国の正当な防衛上のニーズにも妥当な考慮が払われる必要がある。また、これらの基準については、上記1.(3)のとおり、条約発効後も、必要に応じ締約国により構成される委員会等において継続的な議論を行うことが有益である。
(3)上記(1)(ホ)及び(ヘ)は、条約の実効性を担保するための原則である。(ホ)の登録制度に関しては、既存のシステムを活用し予算の有効活用を可能とするとの観点から国連軍備登録制度を活用することも考えられるが、国連軍備登録制度は信頼醸成措置であり、武器貿易条約の目的を国連軍備登録制度の活用により達成できるかは慎重に検討される必要がある。特に、移譲に関する情報交換の迅速性が重要と考えるが、国連登録制度による登録は年1回のみであることに留意が必要である。新たに国際登録機関を設置することについても検討される必要があろう。
(4)検証、対象品目リスト、移譲管理等については、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)」を参考とすることも一案である。ワシントン条約では、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保護のため、輸出、輸入、再輸出等につき徹底した管理体制が整備されているほか、定期的に開催される締約国会議が設置されており、締約国会議において対象品目リストに関する検討や、条約の実効性改善のための検討等が行われている。
(5)この他、武器貿易条約において、ブローカー行為、ライセンス生産、中継・積替え等の管理について国際共通基準を設けることについても検討が必要である。「トレーシング国際文書」や現在検討中のブローカリング政府専門家会合(GGE)報告書等、国連の小型武器行動計画におけるフォーラム等の検討結果も踏まえる必要がある。
(1)武器貿易条約の実現には、各国の知恵の結集が必要である。我が国は、国連総会決議61/89に基づいて設置される政府専門家会合(GGE)における議論に積極的に参加する考えである。
(2)1年限りのGGEにとどまらず、専門家等による継続的な検討が必要である。常に既存のシステムをかいくぐりながら活動を続ける非合法な武器取引ネットワークに対抗し得る措置が編み出される必要がある。
(3)可能な限り多くの諸国が参加する実効的な武器貿易条約を目指すべきである。国連決議61/89を153か国が支持したことは、武器貿易条約の作成に向けた揺るぎない土台が存在することを示している。