平和構築

平成27年10月2日
(写真1)

 インタビュアー:
 国際平和協力室インターン 周防佳汀子(すほうかなこ)
 東京大学法学部3年
 (注)インタビュー実施日は平成27年9月3日

1 平和構築分野に関心をもった理由を教えてください。

 私が平和構築分野に興味を持ったきっかけは、紛争解決請負人として紹介されていた伊勢﨑賢治先生のテレビ特集を拝見したことでした。私にとって遠い異国の地の出来事であった紛争を身近にしたのはその番組で、日本人、しかも民間人が軍人や反乱軍を相手に紛争解決の道筋をつけるという仕事を知り、非常に感銘を受け、僭越ながら「私も伊勢崎さんのように平和をつくる仕事がしたい」と思い、平和構築という分野に興味を持ちました。
 もっとも、私は中学校・高校時代からボランティアの団体を立ち上げるなど、国際協力には学生のころから興味を持っていました。最初はキリスト教系の学校に通っていたことからYWCAという団体で孤児院や老人ホームに慰問に行ったり、平和を考える研究などの活動をしていたのですが、国際情勢を勉強したのち、途上国の子供たちのために何かできないかと当時住んでいた愛媛県松山市にある全ての高校生徒会に呼びかけて、ボランティア団体を立ち上げました。この団体ではフィリピンのスモーキー・マウンテンのような、厳しい環境にいる子どもたちに文具や衣服を送るため、各学校で不要になった物品を集めたり、街頭募金の活動をしたりしました。こうして、私の中で、国際協力への興味と番組で拝見した平和構築が合致して現在の仕事に至っています。

2 本事業に応募した理由を教えてください。

 先ほどお話ししたように伊勢崎先生に憧れていたので、平和構築分野を目指すに当たって、国連PKOミッションかUNDPで働きたいと思い、それまで働いていた会社を辞めて大学院に入学したのですが、たまたま国連本部のあるニューヨークの大学院に通っていたので、国連邦人職員の方にお会いしたり、勉強会に参加したりする機会がたくさんありました。その中で、この平和構築人材育成事業の立ち上げに関わっていらした外務省職員や国連邦人職員の方にお会いする機会があり、事業についてお話を伺いました。日本の民間企業経験しかなく、フィールド経験がない私には願ってもないチャンスだと思い、応募しました。

3 国内研修の中で印象に残ったものを具体的に教えてください。また、国内研修の参加者とのネットワークは今も活きていますか。

本事業の国内研修にて(横山さんは写真右上)

 国内研修で一番印象に残っているのは、いろいろな国際機関の調整を行うロールプレイです。これは研修員1人1人が、NGOや国連児童基金(UNICEF)、UNDPなどの国連機関の代表になり、1つの事業を協働でつくりあげていくという演習です。各機関に独自のマンデート(使命)が存在するため様々な意見が出て議論の収拾がつかなくなる中で、どのようにリーダーシップを発揮して多様な意見を反映させながら事業をまとめていくか、というのが1つの課題でした。
 なぜその研修が一番印象に残っているかというと、実際に国連で働くようになって各機関との連携の難しさを経験したからです。例えば国連として1つの国を支援するときに、国連とその国の政府で、重点課題を決めます。このStrategic Plan(戦略計画)は基本的には5カ年計画で、United Nations Development Assistance Framework (UNDAF) といいます。このUNDAFをもとに各国連機関がさらに細かい計画を立て事業を実施していきます。各国連機関にとって、5カ年計画草案がとても重要で、UNICEFなら子どもの保護・教育、UN Womenならジェンダーの視点を入れたいなどいろいろな主張があり、各機関が取り組みたいと思っている重点事項と政府がお願いしたいと思っている重点項目を照らし合わせて絞りこんでいくのですが、その中でも1つ1つの文言に各機関の思惑があり、もちろん1回では決まらず1年以上会議に会議を重ね、決定していきます。この作業を行うといつもコーディネーション研修の重要性を思い出します。
 また、研修員とのネットワークは活きていて、今でもSNSなどを通じてほぼすべての同期生とつながっています。私と同じように、研修後国連で働いている方も多くいて、彼らとはそれぞれ近況を報告し合ったり、仕事で行き詰まったときに相談に乗ってもらったり、新しく赴任する先にいる友人を紹介してもらったりしています。

東ティモール社会連帯省大臣(左から5番目)とネパール訪問の様子(横山さんは左から4番目)

 また、同期以外でも研修員同士は繋がっています。例えば、私はJPOとしてUNDP東ティモール事務所で働いていたのですが、そのとき担当していた平和構築の事業は、平和構築人材育成事業1期生がJPO時代に立ち上げた事業で、私が引き継ぎました。その後私が立ち上げた新しいプロジェクトをUNVとして研修していた7期生に引き継ぎました。そういう意味でもこの事業良い所は、ネットワークが広がり、期を越えた出会いがあり、同期以外の修了生とも同志のような感覚で様々な話ができ、時に支え合えることです。

4 横山さんは数ある国際機関の中でも主にUNDPでキャリアを積まれていますが、UNDPという機関を選んだ理由がありましたら教えてください。また、UNDPの平和構築における取り組みについてお聞かせください。

 最初に私がUNDPを選んだのは、UNDPで働きたかったというよりも、大学院時代に研究していたネパール内戦に関わる仕事がしたいと思っていたからです。ネパールは90年代半ばから内戦が続いていたのですが、それも終わり、和平合意のときに武装解除・動員解除・社会復帰(DDR)が取り決められ、それを担当していたのが国連PKOミッション(UNMIN)とUNDPでした。そのころは本事業での国連ミッション派遣は難しかったので、もう一つの担当機関であるUNDPで働きたいと思い、海外実務研修ではUNDPに応募しました。
 ここからお話しする内容は私の個人的な見解になりますが,UNDPの平和構築における取り組みについてお話ししますと、UNICEFは子ども、国連世界食糧計画(WFP)は緊急援助に関わる食糧配給など、国連機関はそれぞれ専門を持っていますが、UNDPはその中でも特定の分野の専門機関として定義することが難しく、他の専門機関が担当しない全ての分野をカバーしているといっても過言ではないほど幅広い活動を行っています。だからこそUNDPが幅広い解釈のある平和構築をやる意義があると思っています。
 具体的に言うと、紛争が起きたときにまず気にしなければいけないのは、紛争が起こった国で被害を受けている市民です。彼らは家を追われて、取るものも取らず避難民となって生活しなければならないことは多々ありますので、人道支援機関であるWFP、UNICEF、UNHCRなどがまず現場に入り緊急人道支援を行います。また、紛争の収拾がつかない場合は国連PKOミッションが間に入り、紛争を封じ込める役目を担います。ある程度の治安が確保されるとPKOミッションが撤退し、同時期に人道支援も徐々にではありますが打ち切られます。しかし、国の再建というのは非常に時間がかかります。政府が破壊されている場合はその国造りもUNDPがお手伝いするのですが、人材も建物もない中での国の再建は非常に難しいのです。しかし、市民は和平合意がなされればすぐに自分の生活に戻れると期待していますし新しい政府にも期待しているので、なかなか国の再建のプロセスが進まないと不安になったり緊張が高まったりして、内戦状態に戻ってしまうことがよくあります。ではなぜUNDPが率先して平和構築を行うべきかと言うと、Peacekeeping (平和維持) の期間から、徐々に治安が安定し、Peacebuilding (平和構築)、そして開発に至る全てのプロセスにおいて長期にわたって支援が出来る機関だからです。私たちは、一貫した支援を長期的に行うことで、紛争の再燃を予防しつつ、迅速かつ緻密な国づくりをお手伝いできるのです。
 なおかつ、UNDPは地方行政レベルや中央政府レベルなどの政策レベル及び草の根レベル・コミュニティベースでも支援を展開しており、トップダウンとボトムアップの両方のアプローチで、特に女性や若者、社会的弱者を含めた市民の声を出来る限り反映させる方法で平和構築を行っているのが特徴です。

5 海外実務研修先(UNDPネパール事務所)での国連ボランティアとしての活動内容を教えてください。海外実務研修を通して得られたものは何でしたか。また、ネパールでの国連ボランティアの任期を延長された理由を教えてください。

 先ほども申し上げた通り私はどうしてもUNDPネパール事務所で武装解除・動員解除・社会復帰(DDR)に取り組みたいと考えていました。そのため、海外実務研修の派遣先もUNDPネパール事務所を希望したのですが、実は一度断られました。再考をUNDPネパール事務所にお願いし、提示されたポストはオフィサーや専門家ではなく、アソシエイトというものでしたが、どうしてもその事業に関わりたかったので、役職は気にせず派遣をお願いしました。
 赴任してなぜ最初断られたのかよくわかりました。事業運営が停止していたのです。当時ネパールはマオイスト政権で、和平合意に基づく武装解除は政府軍と、マオイスト軍双方に行う予定でしたが、マオイスト政権がその武装解除にとても慎重になっていました。そのため事業は進展せず、派遣されて1-2か月は仕事らしい仕事がありませんでした。私はその時間を使い、入手できる資料の読み込み、UNDPの規則などを徹底的に勉強し、いつ事業が開始されてもすぐ動けるように準備をしていました。私のそうした様子を見ていてくれた先輩の同僚が、プロジェクトを統括する部署で一緒に働かないかと声をかけて下さり、平和構築に関する3つの事業を管理する仕事に就きました。私はこの部署に移ったことでUNDPの事業運営の仕組みや規則を学ぶ機会が与えられ、もう少し広いUNDPの平和構築の視点を身につけることができました。
 また、国連ボランティアの任期延長については、早い段階で上司が打診してくれたことが大きいです。私自身が延長を決めた理由は、これからキャリアを積んでいく上で、更に国連フィールド経験を積むことは大事だと思ったためです。

6 本事業が横山さんのキャリアに与えた影響を教えてください。

 この研修がなければ私の国連でのキャリアはなかったと思うので、非常に感謝しています。国連で働きたいと漠然と思っている方は沢山いらっしゃると思うのですが、国連で働くとなると、フィールドや国連機関での勤務経験がないと採用は難しいため、そうした経験がなかった私が今国連で働けているのは、この研修があったからです。

7 横山さんはNGOで勤務された経験がおありですが、国連機関とNGOの両方で働いた経験から見えてきた両者の違いなどがありましたら教えてください。

 一番大きな違いは直接の裨益者の違いだと思います。  NGOは基本的には直接自分たちで事業を運営するという形をとることが多く、事業もコミュニティなど草の根レベルであり、裨益者の声を直接聞いてそれをプロジェクトに反映させることができるというのが強みだと思います。
 一方、国連機関であるUNDPは、受入国政府と仕事をすることが多く、国の政府レベルでの支援が多くなります。UNDPももちろん草の根レベルでの支援も行っていますが、多くの場合が各省庁など政府を通した支援となっています。
 私は、NGOの草の根レベルの支援も国レベルの支援も両方大切で、どちらのアプローチがなくても効果的な成果は得られないと思っています。

8 現在のUNDPスーダン事務所の平和構築専門官(Peacebuilding Specialist)の仕事内容はどのようなものですか。

UNDPスーダン・ダルフール事務所にて

 私は現在、Darfur Community Peace and Stability Fundというプログラムをダルフール地域で行っています。これは各国のドナーから援助を得て1つのマルチドナー基金をつくり、それを管理・運営するという仕事です。現在の主なドナーはイギリス、スウェーデン、ノルウェー、スイス、アメリカなど欧米諸国が中心で、ダルフールで多発しているコミュニティの紛争を解決し予防する事業を行っている国連機関やNGOに資金を提供しています。
 Peacebuilding Specialistの仕事は、この基金を得たNGOや国連機関に対する平和構築事業運営に関する助言や能力構築、また各支援機関が作ったコミュニティベースの紛争解決委員会が機能しているか等の調査やそれら委員会への助言、そしてダルフール地域で平和構築事業を行っている各政府や機関などとの連携などです。
 ダルフールという地域では、まだまだ人道支援が主な事業です。毎月何千人何万人という避難民が発生している地域ですので、特に地元のNGOは食糧を配ったり、学校や病院を再建するなどの支援を行ってきていましたが、私たちの目指す、様々な民族がいるコミュニティの和合を図り、紛争を解決し予防する活動も長期的な平和を考えるととても重要です。しかし、平和構築事業は比較的新しい事業で、は地元NGOら自身の能力向上も必要とされ、物を配る、建物を作るという活動に比べ成果の見えにくい事業であるため、コミュニティとの対話方法やトレーニングの仕方、また状況分析をする方法について、この基金を受けた団体に対し研修や助言を行い、持続可能な平和への仕組み作りを支えています。

9 今後のキャリアプランをお聞かせください。

 私は今まで紛争後の国やコミュニティの再建を主な仕事としてきたのですが、現在は民間セクターの国際協力にも非常に関心があります。特に紛争後の地域では治安が安定していないなど不確定要素が多く、民間企業の投資が少ないのが現状ですが、民間が国の再建や開発に貢献できることは沢山あり、その一つが雇用の創出です。
 これは私が南スーダンで経験したことなのですが、紛争から逃れて難民キャンプで20年近く生活してきた人々の仕事能力はそれ程高くなく、教育も十分ではありません。そんな中、平和になったからといって自分の村に帰っても働く場所もなく、仕事がなかなか見つからない状況が続くと今度は働く意欲を失ってしまう人々も多くいました。雇用の機会を与えることで、彼らが自らの力で生活を安定させ、それが平和につながっていくのではないかと考えており、民間企業との連携を今後探っていければ良いと思っています。

10 平和構築分野を志す読者の方にメッセージをお願いいたします。

 平和構築分野と一言で言っても非常に意味合いが広く、紛争解決・紛争予防や人権問題、教育など多岐にわたるので、まず自分が何をしたいのか、何ができるのかを少し狭めて考える必要があると思います。
 もう1点は、私は平和構築は国連だけの仕事ではないと考えています。国連職員であれ、NGOスタッフであれ、企業の社員であれ、平和構築に携わる道はいろいろあると思います。視野を広く持って何事にも挑戦してみてください。  最後に、平和構築分野や国連で働く機会があったとしても、なかなか事業が進まないということもありますので、思い通りにいかなくても余裕を持って対処できる心を養うことも大切だと思います。


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